「ラマニアンホロウに、未知のエリア?」
「まさか照、またホロウに異変が……!?」
「うーん、少し違うかなあ。せっかくだし手付き金として、もう一個の情報も教えちゃうけど──」
照曰く、タクミがホッパーオルフェノクから人間の姿に戻った時と同時に、ラマニアンホロウが約0.002パーセントほど拡張したと言う。
「もしかしたら拡張の原因が、その未知のエリアにあるんじゃないかってザオちゃんは睨んでるんだよねえ。それで、雲嶽山であるキミたちに力を貸して欲しいの」
「な、なるほど……けど、どうしてワタシも? リンはプロキシだから必要なのは分かるけど……」
「それはね、キミが青凕剣の現剣主だからだよ」
「え……?」
「ダイアちゃんから聞いたよお。その剣棺、ホロウの奥深くに入ると不思議な反応をするんだってね? 泅瓏囲に現れた白い花にも、同じような反応があったんじゃない?」
「……!!」
照は青凕剣の力と、ラマニアンホロウは決して無関係なものではないだろうと推測した。
ホロウが拡張された事と白い花も、少なからず関係性はあると考えている。
「……ワタシ達は、照さんの調査に協力すればいいのよね?」
「そうだよお。その代わり、『等価交換』としてザオちゃんが葉釈淵の正確な座標を教えてあげる!」
「……分かった。そういう事ならワタシ、行くわ!」
「瞬光、大丈夫?」
「ワタシなら大丈夫よ、リン。それに照さんがこうしてワタシに頼んできたのは、理由があるんでしょ?」
「そうだね。ザオちゃんにはラマニアンホロウと青溟剣の関係を探るってお仕事もあるから、誰かが瞬光ちゃんの代わりに行くって事はできないかなあ」
リンは照の言葉に少しの間、思い悩む。
儀玄からは『青溟剣と関わりのある危険には近づけさせるな』と念を押されているため、一つ返事で了承するのはさすがに難しい。
「……あ、今すぐ決めなくても大丈夫だからねえ。もし行く気になったら、ロープウェイの駅まで来てくれる? ザオちゃん、そこで気長に待ってるから」
「照さん」
「うん? どしたの、たっくん?」
ここで今まで黙って話を聞いていたタクミが話に入る。
「その調査って、俺も一緒に来て良いんすか?」
「……!」
「たっくんが? うーん……いち戦闘員として働くってだけなら、もう十分間に合ってるしねえ……」
照の言う通り、ここでタクミが戦力として同行する理由はない。
しかし、先ほど照が言っていた『ラマニアンホロウの拡張』に、少なからずもう一人の「タクミ」が関わっている可能性がある。
タクミとしては一刻も早く阻止しておきたかった。
子供の姿から元に戻る方法も、きっとそこにあるかもしれない。
だが問題点もある。
子供の姿になってからは、一度もホロウに入ったり、なんなら変身すらしていないタクミ。
誰も『ダメ』と言っていないだけで、入ろうとすればきっと問答無用で止められてしまうだろう。
そもそも子供の姿で今まで通り戦えるかが怪しい。
タクミもそれを承知しており、ダメ元で頼んだが……意外にも照はすぐさま却下はしなかった。
「そうだねえ……交換条件を提示するとしたら──あ。そう言えばたっくん、前に黒枝にファイズのベルトを貸した事、覚えてる?」
「覚えてますよ……あれがどうかしたんですか?」
「実はね、キミが預けてくれたファイズドライバーをもとに、今TOPSで『試作品』を開発してるんだけど……それがもうすぐ完成しそうなの」
「試作品? ってなんすか?」
「今はまだ言えないけど、もうすぐ分かると思うよお。たっくんには、そのテスターの役割をお願いしたいんだよねえ」
ファイズドライバーを元に開発されたもの。
新しい武器か何かだろうか。
詳細が分からないため不安ではあるが、この条件をのまない手はない。
「……それなら、喜んで手伝います」
「お、ありがとう~。そういう事なら、キミも調査に着いてってもいいよお。まあ『等価交換』抜きにしても、今の状況ならホロウに入った方が却って安全かもね」
彼女の言う通り、もう一人の「タクミ」がまた良からぬ事を企んでいる以上、自身の暴走のリスクや危険を最大限抑えるためには、人がいないホロウにいた方が幾分か安全だ。
「……まあ、行くかどうかはプロキシであるリンちゃんの返事次第だけどね。合理的なお返事、期待してるからねえ」
その言葉を最後に、照は適当観を後にした。
「……タクミ、本当に大丈夫なの? また暴走なんてしちゃったら……」
「ここにいても、どの道暴走は止められない。だからこそ澄輝坪に被害が及ばないようにホロウに行くんだ。万が一暴走した時は、無理に戦わなくていい。そのまま逃げろ」
「……暴走しない方法って、ないの? 私は、タクミだって置いて行きたくないもん……」
「それは乾さんにも聞いたけど……分からない。でもまあ……そうだな。前回みたいにアイツに出くわしたら、俺が一人で突っ走らないように止めてくれるか?」
「……うん」
前回暴走したのは、『陣』に吸収されるはずだったミアズマを大量に吸収してしまった事が原因の一つとしてある。
なのでオルフェノクの力を使おうとしない限りは、暴走する危険性も抑えられるはずだろう。
「瞬光の方は……本当に行くつもりなの? 皆を助けたいって気持ちは十分分かるけど、青溟剣のリスクはどうしたって無視できないから」
「うん……分かってるわ。まだ青溟剣には、明らかになってない事が多すぎるもの。……それでもワタシ、せっかくやって来たチャンスを、逃したくない……!」
釈淵は、誰にも言わず一人で姿をくらまし、今もなお目的の為に突き進んでいる。
雲嶽山の人達も、彼を見つけるために全力を注いでくれている。
「だからワタシ、皆がくれた優しさや愛情を、この手で返したい! 皆が守ってくれたように、ワタシも皆を守りたいの!」
「……瞬光がそう決めたなら、私は何も言わないよ。はい二人とも、小指出して」
「「?」」
言われるがままに小指を出す瞬光とタクミ。
リンは自身の小指を二人の指に重ねる。
「いい? どんな事があっても、必ず自分の安全を優先する事! そしてどんな事があっても、独りじゃない事を忘れない事!」
「……姉ちゃん」
「瞬光には私とタクミがいるし、タクミには瞬光と私がいる! そして私にも瞬光とタクミがいるの! どんな時があっても、皆独りじゃないんだからね」
「……うん! 約束!」
指きりで、固い約束を交わす三人。
重ねられた指の温もりからは、孤独ではない事……そしてその約束の重さをしかと感じた。
───────────────────────
そして十分後。
調査に同行する事を決めた三人は、照と一緒にラマニアンホロウへと入った。
「三人とも、ありがとうね。キミたちなら来てくれるって信じてたよお」
「……ねえ、照さん」
「うん?」
「照さんって、TOPSの人なんでしょ? ホロウの拡張を調査したいって話だったけど……それって澄輝坪の人達に危害が及ばないようにするって事よね?」
「あ……もしかして、らしくないなって思ったり?」
「う、うん……」
それはタクミとリンも思っていた。
利益を重視するTOPSなら、ポーセルメックスの件のように澄輝坪の市民の安全など気にはかけないはずだ。
「まあ、TOPSならそうだろうけど……ザオちゃんはTOPSはTOPSでも『クランプスの黒枝』所属のヒトだから。かいつまんで言うと、これも『等価交換』なの」
「……えっと、つまり」
「TOPSは澄輝坪から色々と施してもらってるからねえ。だからザオちゃん達の方も、お返しに澄輝坪を守る『責任』ってものがあるの」
「……そうなのね」
「さて、お話はこれくらいにして……そう言えばたっくんは、今の姿でもファイズには変身出来るの?」
「やってみます」
タクミはベルト部分を調整したファイズドライバーを装着する。
[5・5・5][Standing By…]
サイズが大きくて片手じゃボタンを押せなかったので、左手でファイズフォンを持ち、右手でコードを入力する。
なぜか生暖かい視線を感じる。
「……変身!」
[Complete]
タクミは右手で高くファイズフォンを掲げ、そのままバックルにセット。
いつも通り、タクミの体は赤い光に包まれ──
「…………」
「ちゃんと変身できてるみたいだねえ」
「でも……ち、ちっちゃい……」
名付けるなら「ミニファイズ」、だろうか。
身長は変身前より高くなっているが、それでも140センチ相当。
「……かわいい……」
姉弟子の方から聞き捨てならない小声の感想が聞こえてきたが、寛大な心で聞かなかったふりをする。
(……早く元に戻る方法を見つけないとな)
ファイズはより固く、そう決意したのだった。