──少年は、ヒーローに憧れていた。
窓から小さく見えるホロウを見る度に思い浮かべる。
『スターライトナイト』のように、自身がヒーローとなり人々を助ける姿を。
そんな日を、叶わない願いと知りながらも微かに望んでいた。
『もう大丈夫だよ。僕が助けるからね』
夢の中では、ろくに動かすことのできない自身の体も、自由となる。
ホロウで勇猛果敢にエーテリアスに立ち向かい、人々を救ける。
重い体も嘘のように軽く、ホロウの中でも縦横無尽に駆け回ることができる。
今日も夢の中、
その子供は、彼に名前を聞こうとした。
しかし彼は、ヒーローは見返りを求めないと言わんばかりに、何も言わず去っていく。
『…………』
月明かりが差し込むベッドの中で、今日もそんな自己満足とも言える夢を見る。
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「! 二人とも、見て! あそこにお兄ちゃんがいる……!!」
調査を進めていく程に、数を増していく白い花。
そして座標へと進む道中、ついに瞬光は釈淵の姿を発見した。
瞬光達はすぐさま彼を追おうとしたが……
「も〜、しついこいなあ!」
「!」
遠くから聞こえる、照の声。
何事かと様子を見れば、複数体のエーテリアスに追いかけられている彼女の姿が。
「……! どうしよう、照さんがエーテリアスに……!」
「どうする? 手分けするか?」
「……いや、それはやめた方がいいかも! ここで私たちが別々に行動するのは、悪手な気がする……!」
安全のため、なるべく固まって行動した方がいいとリンは考える。
「……それなら、ひとまず照さんを助けましょ! お兄ちゃんはひとまず無事だって分かったし、またきっと見つけられるはず!」
「分かった。じゃあ早速行こう!」
瞬光達はエーテリアスに囲まれている照の元へと急いだ。
一方、エーテリアスに追われているうちに逃げ場を失った照。
後ろは壁。
「……オシゴトの邪魔をしないで欲しいなあ」
絶体絶命とも言うべき状況だったが、照は焦りを見せる事はなかった。
冷静に周りを観察し、大剣を構える。
そして襲いかかろうとしたエーテリアスに生まれた隙を見極め、反撃を繰り出そうとした……その時。
目の前のエーテリアスが、真っ二つに割れる。
「……!」
ファイズエッジのフォトンブラッドで焼け爛れたエーテリアスの断面が見える。
そして間髪入れず、今度は白い剣閃がもう一匹のエーテリアスを貫いた。
『ガァァアアアア!!』
激昂した上級エーテリアスが狙いを照からファイズへと変える。
[Exceed Charge]
ファイズは咆哮に怯むことなく、フォトンブラッドをチャージしたファイズエッジを構え、走り出す。
「ふっ! たぁっ!!」
そして『スパークルカット』でエーテリアスをバターのように一刀両断。
『Φ』のマークを浮かべ、最後のエーテリアスが消滅した。
「照さん、平気!?」
「……もしかして、ザオちゃんの事を助けに来てくれたの?」
「うん。さっき照さんがエーテリアスに襲われてるのを見て、ほっとけなかったから……」
「キミのお兄ちゃんの事は探さなくていいの?」
「実は、さっき姿だけは見つけたの。ただ、一応無事だって分かったから照の方を助けようって」
「…………」
照は複雑な表情を浮かべながら、頬をかく。
「……別に助けてもらう必要はなかったのに。まあいっか、調査を手伝ってくれるって約束だったもんね。せっかくだし、手伝ってもらおっかなあ」
照はそう言った後、瞬光たちが連れてきたロックスプリングに目を向ける。
「それで瞬光ちゃん、この子は?」
「この子はロックスプリングって言うの。故障のせいで、ここを出られないでいたみたいなの」
「初めまして、照さん。ここへ調査に来たなら、力になれると思うよ。僕はこの辺りに詳しいからね。その代わり、僕をホロウから連れ出して欲しいんだ」
「こんなとこにボンプちゃんが一人でいたの? よく生きてこられたね?」
「僕は一般的なボンプより、戦闘に関する資質が優れているからね。壊れかけで記憶も朧げだとは言え、コアとなるコードにはあらゆる戦いの記録が刻まれている」
「なるほどねえ……」
照は何か引っかかる事があったのか、少しの間考え込む。
「……ま、土地勘があるコがいるのは助かるし、同行をお断りする理由もないねえ」
「ありがとう、恩に着るよ」
「それじゃ、オシゴトの話に戻るけど……このあたりを調べてたんだけど、案の定異常なミアズマがたくさんあったの。不自然なくらいにね」
「照さんも見たの? 実はワタシたちも、白い花と一緒にそのミアズマを見たの。さっきのエーテリアスも、そのミアズマを纏ってたみたいだし……青溟剣も、少しだけど反応してた」
この異常なミアズマがホロウの拡張の原因の一端を担っているのは間違いないだろう。
しかしそのミアズマは実体がないため、単純に術法などで浄化させることは難しい。
「白い花と一緒に、ねえ。その白い花ってさ、そのミアズマが付着する性質があるみたいだね?」
「! そう、ロックスプリングもさっき言ってたの。『異常なミアズマは白い花を変異させる』って」
「変異……じゃあ、その変異したお花を探したほうがよさそうだねえ」
「それにしても、異常なミアズマ然り白い花然り、これもすべて『始まりの主』って奴の仕業なのか……?」
「なんだって! って言いたいとこだけど……断定するにはまだ証拠が不十分かなあ」
ひとまず、照が言ったように『ミアズマが付着した白い花』を探す事にしたリン達。
その時だった。
『マスター。付近に異常なエーテル波動信号を検出しました』
「え? 信号?」
「どうしたの?」
「向こうの方に強いミアズマの信号があるみたい……行ってみよう」
Fairyが示した座標の場所へ向かう一行。
そこにあったのは……
「あれは……カローレ先生!?」
「うん? 知り合い?」
「兄ちゃんと姉ちゃんが昔、世話になったって人です。にしても、なんでこんなとこに……?」
以前にも見た、カローレの幻。
映像記録のように、彼女は一人喋り始める。
『……なるほど。あのお方に降臨して欲しいのね』
誰かと会話をしているようだが、相手の姿は分からない。
『計画が成功し次第、私もあのお方に謁見する。この機会を逃す手はないわ』
「先生……? 誰と、喋って……」
リンは問いかけるが、当然返事は返ってこない。
『この両手が血に染まろうとも……私は必ず……』
「…………」
その言葉を最後に、カローレの幻は姿を消した。
「……カローレ先生は、何を話してたの……? 先生は、ここに来てたって事だよね……?」
「ミアズマの性質から察するに、そう考えて間違いないだろうね。それと彼女が言っていた『あのお方』と言うのは、もしかして……」
「十中八九『始まりの主』、みたいだねえ」
「…………」
幻を見る限り、カローレはその『始まりの主』を降臨させようとしているように見えた。
やはり、この異常なミアズマは讃頌会と『始まりの主』が絡んでいたようだ。
「キミの先生は、もしかして……」
「ううん、違う……! 先生に限って、そんなことするわけない……!」
「リンの言う通りよ! きっと誰かが偽物の幻を作り出したんだわ!」
「……そうやって信じすぎない方が身のためなんだけどなあ」
照がボソリと呟いた言葉が、ファイズにのみ聞こえたが……ファイズは聞かなかった事にした。
「とにかくこののミアズマも、ダイアちゃん達が見たっていう『引き潮』も、全部始まりの主が目覚める前兆なのかも。手遅れになる前に、例の花を探しに行こ」
「うん、そうね。青凕剣の反応も次第に強くなってるし、ミアズマの気配も濃い……もしかしたら、すぐ近くにあるのかも」
「……姉ちゃん、行けるか?」
「……うん、大丈夫。ありがとう」
後ろ髪を引かれるような思いでカローレの幻の元を離れ、一行は先を急いだ。