足を進めるにつれ、青溟剣の反応とミアズマの気配は強くなっていく。
そしてついに、その根源であろう場所へたどり着いた四人だが──
「! 待ってみんな、ちょっと隠れて!」
「えっ?」
いきなり照が引き留め、物陰に隠れるよう促された。
「どうしたの、照?」
「あそこ、よく見てみて」
「……!」
照が指を差す先。
そこにはミアズマで変異したであろう禍々しい色の花が一面に咲いており、強いミアズマの気配もそこから感じられた。
……が、照が言っているのはそこではない。
「あれって……オルフェノク?」
「うん。厄介な先客が来ちゃったみたいだねえ」
なんと花の前には、オルフェノクが一体その場に佇んでいた。
そのオルフェノクは、黒い花を見たまま動かないでいる。
「……他のオルフェノクはいないみたいだな」
「ひとまず様子見だね。少しでも、あのオルフェノクがどんな行動をして来るのか見とかないとね」
照の言う通り、ここはいったん物陰から観察するのが賢明だろう。
そうして息を殺し始め十秒も経たないうちに、オルフェノクはようやく行動を見せる。
「……! 何をするつもりなの……?」
そのオルフェノクは黒い花に向け、静かに手をかざし始める。
「……な……!!」
その瞬間だった。
オルフェノクの目の前に咲いていた黒い花が、一輪残らず朽ち果ててしまったのだ。
「ミアズマの気配が消えた……もしかしてあのオルフェノク、ミアズマを消したの?」
「みたいだねえ。でも、オルフェノクって基本的にもう一人のたっくんの仲間じゃなかった? ミアズマを消すなんて向こうにとって利にならない事を、どうして……」
「……もしかして、あのオルフェノクって味方なのかしら?」
「分からない……もう少し様子を見ないと」
ファイズ達は引き続きオルフェノクの動きを注視する。
黒い花を消したオルフェノクは、辺り一面をくまなく見回す。
「!!」
そしてそのオルフェノクは、ここにもう用はないと判断したのか──
「あ……行っちゃった」
「今のは、蝶のオルフェノクだったのか……あれ? ちょっと待てよ?」
「どうしたの?」
「……確か乾さんが、前に零号ホロウで蝶のオルフェノクを見たって言ってたような……」
あの時の乾の話によれば、真正面から遭遇したのにもかかわらず、蝶のオルフェノクは敵意を一ミリも見せずに飛び去って行ったという。
「えっと……イヌイさんって誰?」
「え? ああ……知り合いのホロウレイダーの人です。昨日も零号ホロウで同じ蝶のオルフェノクをまた見たって、今朝聞きました」
「……昨日零号ホロウにいた蝶のオルフェノクが、どうしてラマニアンホロウに?」
それに関しては、タクミも疑問に思った。
仮に同一個体なら、一晩の間に零号ホロウからラマニアンホロウに移動したという事になる。
オルフェノクなら、それも不可能ではないのだろうか。
「んー……謎がまた増えちゃったなあ。でもまあ、少なくとも異常なミアズマが白いお花を黒くしちゃうって事はこれで分かったね」
それと、浄化が可能だという事も分かった。
(…………)
ファイズは自身の手を見つめる。
もし他にも黒い花があるなら、浄化が出来る。
先ほど蝶のオルフェノクがやったように、ファイズにも同じ力が使えるはずだ。
しかし……
(……この間みたいに、また暴走したらまずい……)
ミアズマを『消した』つもりが、『吸収』していた。
それが原因で、前回は激情態で暴走してしまった。
オルフェノクの力の使い方を、タクミはまだ分かっていない。
危害が及ぶのが自分自身だけならまだいいが、タクミの場合は他の人にも危害が及ぶ。
先ほど飛び去った蝶のオルフェノクを探すと言うのも、現実的ではない。
どうするべきかと悩んでいると、瞬光が手を握る。
「大丈夫よ、タクミ。アナタが力を使う必要なんてないわ」
「瞬姐さん? どういう事だ?」
「もしまた黒い花を見かけたら、ワタシが青溟剣で──」
「ダメよ」
「え? ……おわあ!?」
瞬光の声色がいきなり変わった……と思ったのもつかの間。
彼女は、昨夜タクミが会った白い同一人物へと姿が変わっていた。
「はあ……この子ったら、また青溟剣の力を使おうとしちゃって」
「……! 昨日の夜に会った……」
「もしかして、これが例の白い瞬光? なんか、随分と不敵な感じだね……」
「あら、初めましてなのに随分なご挨拶じゃない、後輩ちゃん? たっくんも、覚えててくれて嬉しいわ」
白い瞬光は妖艶な笑みを浮かべる。
……しかしその直後、なぜか不満そうな表情に変わった。
「……はあ? ダメよ。前に言ったわよね、これ以上青溟剣に触ろうもんなら、タダじゃ済まないって。ダメなものはダメなの」
「……?」
「…………はあ、もう分かったわよ。ただ、使うとしてもそれっきりにしておきなさいよね」
「瞬姐さん、誰と話してるんだ? もしかして、もう一人の……」
「ええ、そうよ。この子が強く思ってる事は、アタシにも伝わるのよね。この子ったら本当に……」
白い瞬光は呆れ果てた様子でそう言う。
「もし今後、青溟剣の力を使うってなったら、アタシが出てくるわ」
「え? 大丈夫なの……?」
「この子がやるよりかはずっと安全よ。もっとも、アタシ自身は力を使いたいとは思わないけど」
「……でも瞬姐さん、無理はしないでくれよ」
「ありがと。……そんな事より」
「?」
白い瞬光はファイズに顔をぐっと近づける。
距離感とは何ぞやと言わんばかりの行動に、ファイズは少しひるんでしまう。
「せっかく仲良くなれたんだもの。『瞬姐さん』なんて、呼び方がこの子と同じじゃ味気ないわ」
「え……? じゃあなんて呼んで欲しいんだ?」
「そうねえ……じゃあ、瞬光お姉ちゃ──ダメええええ!!」
「!?!?」
いきなり声色と姿が元の瞬光へと戻る。
顔を真っ赤にした瞬光は、息を切らしている。
「はあ……はあ……タクミ……」
「な、なんだ」
「さっき、あの子が言った事は……わすれて……」
「お、おう……」
確かに白い瞬光が提示した呼び方は、さすがにタクミも気恥ずかしさが勝ってしまう。
どうしてもと言われたら断れないかもしれないが。
「えっと……何が起こったのかよく分かんないけど……黒い花に関しては、なるべく青溟剣の力を使わない方法で行こう? きっと他にも、浄化する方法はあるはずだから」
「う、うん……分かってるわ。あくまで最終手段、よね?」
「そうそう。分かってるならいいの」
一度適当観に戻り、黒い花について対策を練る必要があるかもしれない。
「それにしても、キミにはもう一つの顔があるんだねえ。それって青溟剣の影響だったりする?」
「それは、ワタシにも分からない……ワタシ自身の問題かもしれないし……」
「……ん? 瞬姐さん、やっぱり白い方の瞬姐さんの事は知ってたのか?」
昨夜瞬光にその事を聞いても、知らないといわれた気がする。
「あ……ご、ごめんなさい! 実は、いるのは分かってたの……ただあの子、昨日アナタに変な事してたから……気まずくて、知らないふりしちゃった……」
「へ、変な事? って何?」
「……? いや、別に変な事はしてないぞ。ちょっと話を聞いただけだからな。ただ最後に、なんか服の見た目はどうとか──」
「姉弟子タックルーーっ!!」
「ぐわーーーっ」
急に瞬光にタックルされるファイズ。
痛くはないが、予想以上に吹っ飛んで驚いた。
「……ねえ、瞬光ちゃん。すっごく不躾な質問していい?」
「な……なに?」
「さっきから思ってたけど、キミとたっくんって思った以上にただれたカンケーだったりする?」
「ちちち違うわよ!?」