「マスター、大型機械の放送信号を探知しました」
ホロウの中でグレーテルからの信号を受信。確認をするべく、一行はプロキシのガイドのもと、グレーテルがいる場所へ急行する事にした。
「はぁ……それにしても、論理コアを更新すればもっと出来る子になってくれると信じていたのに……それがまさか、家出してしまうなんて……」
「お前がしつこく更新しようとしたからだろ。パソコンの自動更新ばりにうぜえからな、それ」
「……君も変わったね、そんな事を言うようになって。あーあ、小さい頃はあんなに可愛かったのに」
グレースがため息混じりにそんな事を言う。
「うーん……子供が大きくなる過程で、急に反抗的になるのはよくある事だろ?デモリッシャーにも、ついにその時が来たと言うだけじゃ……」
「そうそう!ウチの弟にだって一時期そういう時があったんだから、気にする事はないよ!」
「……ちょっと待て、今その話は関係な──」
「そんなのダメだよ!」
ベンの言葉を、グレースは強く否定する。
「……え?」
「私の可愛い可愛い子供達が、やりたい放題の反抗期モンスターになるなんて、絶対ダメだ!」
グレースは知能機械たちを『子供達』呼ばわりするほど、溺愛している。彼女はそんな『子供達』が反抗期になり自らの元を離れていくのが恐ろしいのだろう。
「深夜に暴走族の集会に行ったり、わざと機体に傷を作ったり、剥がせない巨大ステッカーを貼ったり、違法混合エーテル燃料に手を出したりしようものなら──」
「……大袈裟だろグレースさん」
「そんな事はない!君だって自分のバイクがそうなったら嫌だろう!?悲しいだろう!?」
「それ改造した前提での話じゃねぇか!!別に俺のバイクは反抗期モンスターになったりはしねぇよ!」
「ていうかやけに解像度の高い妄想だね……」
「マスター、目標地点付近に到達しました。Ⅲ型デモリッシャー『グレーテル』はすぐ近くにいます」
「あ、皆!目的地に着いたよ!」
プロキシが皆に目的地に到着したことを伝える。しかし、グレーテルの姿が見当たらない。
「……? デモリッシャーはどこに──」
『それ以上来ないで!!ここはあたし達の秘密の花園なの!』
不意にどこからか少女の声……らしきものが聞こえた。
「女の子の声……って、あそこだ!!」
ベンが指を指した方向。建設途中の白いビルの上に、件のデモリッシャー、グレーテルが佇んでいた。
『分かってるわよ!真白クンとの仲を引き裂く気でしょ?』
「わあ……!デモリッシャー、会わないうちにいっぱしの乙女になって……!」
「グレース……おい、落ち着け──だが、『真白クン』とは?白いのか?」
と、ここでベンが気づく。彼女の言う『真白クン』が誰なのか。
「まさかあの作りかけのビルが……!?」
『作りかけですって……!?』
ベンの言葉にグレーテルは憤り、こちらに向かって飛び降り、豪快な音ともに着地する。
『あたしね、真白クンと一生を添い遂げるの──だから今の、取り消しなさいよ!!!』
「っファイズ!!」
「任せろ」
手首をスナップさせ、ファイズは戦闘態勢に入った。
『あたしと真白クンの仲を引き裂く気なら……まずはアンタを引き裂いてやるわ!!!』
取り付けられた大きなチェーンソーの駆動音が鳴り響く。
間違いなく強敵だが、今回に限っては別に倒す必要はない。むしろエーテリアスと違って言葉が通じる分、説得だって可能なはずだ。
ダメ元ではあるが、説得してみる。
「おいデモリッシャー!その真白クンとやらと愛を育むのは構わねぇが、やる事をやってからにしろ!」
『嫌よ!』
「ワガママ言うな!お前には大事な使命があんだろうが!」
『誰かに敷かれたレールの上で生きるなんてゴメンだわ!私は真白クンと一緒に愛の道を往くの!』
そう言いながら、グレーテルはその大きなチェーンソーでファイズに斬りかかってきた。
「くっ!」
ファイズは後ろに飛んでその攻撃を避ける……が、息付く間もなく次の攻撃が来る。足で踏み潰そうとするが、ファイズは辛うじて受け止める。
「……っ!ハァッ!」
受け止めた足を力を込めて押し返し、そのまま蹴りを放ってグレーテルをひっくり返す。しかし勢いは止まらず、体制を立て直したグレーテルはファイズへと突撃する。
「……! 重機が持っていいスピードじゃねぇだろ……!」
「デモリッシャー、恋人を守るためにこんな……!」
「言ってる場合か!早く助太刀するぞ!」
「待て社長!周りにエーテリアスが集まってきている!きっと戦いの音を聞きつけたんだ!」
「何……!?」
ベンの言う通り、周りにはエーテリアスが集まって来ており、『真白クン』の中にもエーテリアスの群れがいた。
『やだっ!真白クンから降りてよ!ばっちい手で彼に触らないで!』
それを見たグレーテルは血相(?)を変え、ファイズへの攻撃をやめて『真白クン』の元へ行く。
『あっち行ってよぉ!これ以上失礼な事をされたらあたし、あたし──』
「……?」
『メッタ切りにしてやっからなァ!カビの生えたカス共がァァアアアア!!!』
「き、急に豹変しやがった!」
先程の乙女な性格から一転、ヤーさんでも使わないような汚い言葉遣いでブチギレるグレーテル。巨大なチェーンソーを振り回し、エーテリアスを蹴散らす。
「驚いた、これが恋する乙女のパワーってやつ?」
「1.4トンのチェーンソーぶん回して、エーテルと電気のハイブリッドで動く乙女がどこにいんだよ!」
「──って、待ってくれデモリッシャーさん!そっちは……!」
ドゴォォォオン!!
怒りで周りが見えなくなっていたグレーテルは、チェーンソーでビルの支柱を破壊してしまった。それによりビルが大きな音を立てて崩れていく。
その音でグレーテルは我に返る。
『ご、ごめんね真白クン!あたしってば取り乱しちゃって……!』
しかしグレーテルが壊した支柱はまさしく『真白クン』のものであり、破壊されたことで彼は見るも無惨な姿となってしまった。
『真白クゥーーーーンッ!!しっかりして真白クン!!』
瓦礫となってしまった『真白クン』の姿に絶望するグレーテル。
『そんな、真白クン……全部あたしのせいだ……』
意気消沈するグレーテルに、グレースは歩み寄る。
「自分を責める必要はないさ。むしろ、私は君におめでとうと言いたいくらいだよ!」
『え……?』
「お……おいグレース!自分が今何を言ってるか、ちゃんと分かってるのか?」
「しまった……!グレースはメカには強いが、恋愛経験ゼロのド素人なんだ!」
グレーテルがグレースに問いかける。
『どういうこと……?』
「顔を上げて、周りを見てご覧。真白クンが君を抱きしめてるよ!」
『……!』
「これは建物にとって、一生に一度しかかわせない抱擁さ。彼は君にそれを捧げたうえ、エーテリアスからも守ってくれた。素敵な恋人じゃないか。君はビルを見る目があるね」
グレーテルの周りを白い瓦礫が囲んでいる。まるで、彼女を抱きしめるように。
「ほら、皆で一緒に帰ろう?皆で力を合わせて、新たな土地に真白クンを建て直そう」
『……っ!う゛ん゛!あだぢ、一緒に帰る!!』
夕暮れ時のホロウに、一つの大きな泣き声が響き渡った。