ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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記憶

 

 

 

 

 

白い瞬光は近くの縁側に座り込み、タクミを見る。

 

 

「……とにかく、アタシが言っている事は本気だから。青溟剣にも雲嶽山にも、アタシの運命を決めさせたりはしない」

 

「…………」

 

「さて、話したい事はこれくらいね。協力してくれるお礼に、アナタが聞きたい事ひとつ、なんでも答えてあげる」

 

「聞きたい事……あ、そうだ! ずっと聞きたかったんだけど……俺がオルフェノクの暴走で意識を失ってた時、なんで夢の中に白い瞬姐さんが出てきたんだ?」

 

「……ああ、それね……」

 

 

瞬光はタクミの質問に少しの間考え込む。

 

 

「……実を言うと、アタシにもそれは分からないの」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。あの時、アタシとアナタが会えたのは全くの偶然。偶然、()()()を見つけたのよね。アナタの精神に入り込む入り口を」

 

「入り口……」

 

 

何かしらの要因で、瞬光とタクミの精神が繋がったと言う事だろうか。

 

言語化してもピンとこない。

 

 

「……満足のいく答えじゃなくてごめんなさいね。他に聞きたい事あったら答えるけど?」

 

「他は……ないな」

 

「そう? ……じゃあそろそろ時間だし、アタシはもう行くわ。また今度ね、たっくん」

 

「ああ……」

 

 

白い瞬光は姿を消す。

 

そして瞬く間に、元の彼女の姿へと戻った。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、元に戻った瞬光は『やる事がある』と言い、そのままキッチンへと行った。

 

タクミはもう流石に疲れてしまったので、部屋に戻り寝る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえアナタ、何を観てるの?」

 

「……え?」

 

 

沈む意識の中。

 

タクミはとある少女の声で、目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 

タクミがいるのは寝る前と同じ、ベッドの上。

 

しかし辺りを見渡せば、そこはいつもの部屋ではない、見慣れない場所だった。

 

 

 

(いや……違う)

 

 

見慣れない部屋ではない。

 

これは()()()()()()()()まで、毎日のように見ていた景色。

 

 

閉め切った薄水色のカーテン。固いマットレス。

 

洗いたてのシーツ。小さなテレビ。

 

 

疑念が、確信に変わる。

 

 

(間違いない……ここは、俺が旧都陥落前にいた病院……! なんで、こんなとこに……)

 

 

それにどういう訳か、今のタクミの体は更に小さくなってしまっている。

 

前までは十歳ほどだったのが、今は……五歳ほどだろうか。

 

病衣を纏い、体は非常に痩せこけていた。

 

 

「ねえ、どうしたの?」

 

「!」

 

 

再び聞こえた少女の声で、我に返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……瞬姐さん?)

 

 

声の主は、栗色の髪をした幼いシリオンの少女。

 

彼女から、瞬光の面影を感じる。

 

 

 

その姿はどうしたのかと聞こうとしたが……口が上手く動かない。

 

それどころか、指すらまともに動かす事が出来なかった。

 

 

 

「……お姉ちゃんは、誰?」

 

 

タクミの意思に反し、勝手に口が動く。

 

その質問に、少女が答える。

 

 

「ワタシは、葉瞬光よ。アナタは?」

 

「僕は……タクミ」

 

「タクミ、ね。覚えておく! ねえタクミ、今観てる映画ってなあに?」

 

 

小さなテレビの液晶画面に映っている映像。

 

それはタクミが入院中、毎日のように観ていたもの。

 

 

「……『怪獣と少女』、だよ」

 

「ふうん。それって面白い?」

 

「…………分かんない」

 

「分からないのに、ずっと観てるの?」

 

「だってこの部屋には、この映画しかないし……」

 

「…………」

 

 

液晶から聞こえる、怪物と少女のやり取り。

 

二人は会話もせず、しばらく映画に没頭する。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

そして何度観たかも分からないエンドロールが流れ始める。

 

 

「……観たの最後だけだったけど、ワタシこの映画、結構好きかも。ちょっともやっとするとこはあったけど」

 

「もやっとする所?」

 

 

瞬光はテレビの画面を見ながらタクミに話す。

 

 

「怪獣さんは……あの女の子以外にも、色んな人と会ってたよね。怖がられるかもって分かってるのに、どうしてかなあって」

 

「それは……」

 

 

タクミは言葉に詰まる。

 

 

「……それは怪獣さんが、そうしなきゃいけないって思ったからだよ。勇気を出して、結局怪獣さんは色んな人と仲良くなれた」

 

「…………そうなんだ」

 

「僕も……怖い事をしなくちゃいけない時は、そうしたいって思ってる」

 

「…………」

 

 

話しているうちにエンドロールが終わり、画面は真っ暗になった。

 

 

「そう言えば、あなたはなんでここに来たの? ここって知らない人は入っちゃダメなんじゃなかった?」

 

「あ……ご、ごめんね。なんか、凄く良い匂いがして……こっそり入ってきちゃったの。いけない事なのは分かってるけど……どうしても気になって」

 

「良い匂いって……もしかしてこれ?」

 

 

タクミは、とあるものを取り出す。

 

 

「わあ……これ何?」

 

「金木犀のケーキ、だって。今日お兄ちゃんとお姉ちゃんがお見舞いに来た時にくれたの」

 

「……キンモクセー? って何?」

 

「分かんない。けど、その良い匂いは金木犀の香りなんだって」

 

「…………」

 

「……食べてみる?」

 

「え! い、いいよ……アナタのものでしょ?」

 

「大丈夫だよ、一口くらい」

 

 

タクミは付属のフォークを使って一切れ、ケーキを瞬光に差し出す。

 

彼女は戸惑いながらも、その一切れを口に入れた。

 

 

「……美味しい?」

 

「……! うん、すっごく美味しい! こんな美味しいものがあったなんて……!」

 

 

完全に気に入ってしまった様子だった。

 

その時、病室の外から少年の声が聞こえてくる。

 

 

「あ、お兄ちゃんが呼んでる……もう行かなきゃ! ねえ今日の事、他の人には内緒にしててくれる?」

 

「うん、分かったよ」

 

「ありがとうね! ……タクミ、ケーキごちそうさま! またね!」

 

「……うん、またね。瞬光お姉ちゃん」

 

「……っ、えへへ!」

 

 

最後に嬉しそうな顔を見せ、瞬光はこっそり病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、目の前の景色がぼやけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!」

 

 

タクミは再び、目を覚ました。

 

見慣れた天井。

 

 

(いつもの部屋だ……さっきのは、夢だったのか……)

 

 

やけにリアリティのある夢だった。

 

恐らく幼い頃の夢なのだろうが……なぜ、その夢に瞬光が出てきたのだろうか。

 

 

しばらく考えるが……幼いころの記憶は、とうにかすれてしまっている。

 

 

(ただの夢だったのか……? それとも──)

 

「タクミ! まだ起きてる?」

 

「! ああ、起きてるよ」

 

 

思考を遮ったのは、ノックの音と瞬光の声。

 

タクミの返事を聞いた瞬光は扉を開けた。

 

 

 

部屋に入ってきた瞬光はケーキが乗った皿を片手に持っており、その額にはなぜか汗が浮かんでいる。

 

 

「ごめんね、こんな夜遅くに……この間の約束覚えてる? 金木犀のケーキを作ってみたんだけど……味見して欲しいの」

 

「……金木犀のケーキなら、昼間一緒に食べただろ。瞬姐さんが作ったやつを」

 

「えっ……!?」

 

 

心臓がドクン、と高鳴るような音。

 

瞬光は冷や汗を流し始める。

 

 

「ご……ごめん、あの時の話、じゃなくて……! 今日、良い改良レシピを思いついたから、それで……」

 

「……瞬姐さん。もしかして、昼間の事を忘れたのか?」

 

「う……」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、目を逸らす瞬光。

 

 

 

「……うん。いくつか、忘れちゃってる事があるみたい……」

 

「いつからだ? 少なくとも俺達が会ってからは、一度も青凕剣を使ってはいないはずだぞ……」

 

「……実は、そのワタシ達が会うずっと前から、兆候はあったの」

 

 

そのため瞬光は、日々のタクミ達との思い出を忘れないよう、日記帳にあった事全てを綴っていたと言う。

 

 

「本当にごめんなさい。これ以上ワタシの事で、迷惑をかけたくなくて……」

 

「……師匠達には話したのか?」

 

「……ううん、まだ。もちろん、このまま内緒にするつもりはないけど……少し、時間が欲しいの。今は師匠も帰ってきてないし、ホロウの異変のこともあるから……」

 

「……そのゴタゴタが片付いたら、ちゃんと話すんだな?」

 

「うん、その時が来たら、ワタシから全部話すわ。約束する!」

 

「分かった。じゃあ、言う時になったら俺に声をかけてくれ。俺も一緒にいるから」

 

「……うん、ありがとう」

 

 

先程まで曇っていた瞬光の表情が少しだけ明るさを取り戻す。

 

 

「……本当にごめんね。迷惑をかけないって言っておきながら、結局またアナタに負担をかけちゃって……」

 

「何回も謝んなくていいよ。他の人にはアレだけど、俺になら別にいくらでも迷惑かけていいから」

 

「……もう。そんな優しくされたら、余計甘えちゃうじゃないのよ。ワタシ、姉弟子なのに……」

 

 

瞬光は微かに笑みを浮かべる。

 

 

「ねえ、タクミ」

 

「うん?」

 

「えっと……実はね──」

 

 

彼女が次の言葉を言おうとした、その時。

 

 

 

 

 

 

「──! ──!!」

 

 

「……え?」

 

 

部屋の外から、何か騒いでいるような声が聞こえる。

 

声を聞いた二人は顔を見合わせた後……急いで外へ出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!!」

 

「……何、これ……!」

 

 

 

扉を開けてすぐ、目にしたその光景。

 

一面に広がる、赤い空。

 

そしてホロウの無人区域で見た、変異した黒い花が……適当観の中庭に数輪、咲いていた。

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