[5・5・5][Standing by…]
「……変身」
[Complete]
赤い光に包まれ、ファイズに変身するタクミ。
場所はラマニアンホロウの入り口前。
タクミ達は照、ロックスプリングと一緒に改めて作戦の最終確認をしていた。
ホロウに入り、いち早くラマニアンホロウの異変の元凶を止めなければならない。
その解決のカギとなるのは、やはり瞬光と青溟剣の存在。
気は進まないが、青凕剣の力も使わせざるを得ないのかもしれない。
願わくば瞬光に何もない事を……と、そう祈るばかりだ。
そしてもう一つ。
「……ねえたっくん。ホントに一緒に来て良かったの? 今からでも適当観に戻っていいんだよ?」
「暴走した時のリスクはなるべく小さい方がいい。来て良かったってよりは、来るべきだったって感じです」
「……」
本当は三人を巻き込む事もしたくない。
そのため、頃合いを見て一人でホロウに行くつもりだったが、きっと瞬光もリンも認めようとはしないだろう。
「異変をなんとかすれば、きっと暴走もしなくなるはずよ! 早く行きましょ!」
「分かった。瞬姐さんも、体にはちゃんと気を配ってくれよ。……それと」
「?」
「……いや、なんでもない。早く行こう」
近いうちに訪れる未来だったとしても、余計な心配をかけさせてはいけない。
ファイズは言おうとしたことを胸の内にしまっておいた。
状況は一刻を争う。
ホロウの無人区域エリアに入り、急いで先に進もうとしたその時。
「……!」
「…………っ!?」
「な、なに……これ……」
「?」
リン、瞬光、照の三人が、突如足を止める。
何かおぞましいものを見たかのような、そんな表情をしている。
「この球体は……?」
「球体? 見えてるの、ザオちゃんだけじゃなかったんだ」
「凄く、不気味ね……」
「……? なんだ? 三人とも、何が見えてるんだ?」
「え? タクミには見えてないの?」
「見えてないぞ……ここに何かあるのか?」
どうやら三人にしか見えない何かが見えているらしい。
ロックスプリングは戸惑いながらも、一つの結論にたどり着く。
「……三人は恐らく、ミアズマによる集団幻覚が見えているんだろう。僕はボンプだから、何も見えないけど」
「……そういう事か」
タクミは侵蝕を受けないオルフェノクであるため、ロックスプリングと同じく幻覚が見えなかったのだろう。
辺りを見回すが、球体らしきものはやはり見えない。
そして少しすると。
「……ねえ、何か聞こえない?」
「ワタシにも聞こえる……! 何かすごく、聞き慣れた声が……」
「これは……多分ザオちゃん達の声だねえ」
「それってもしかして」
「うん。前に鉱区跡地でダイアちゃんと盤岳先生が聞いたって言うのと同じやつかも。……確かに、タチの悪い幻聴だね」
「自分の声? 私には、タクミの声が聞こえたんだけど……」
「は? 俺の?」
いきなり自分の名前が出てきてファイズは思わず面喰らってしまう。
ノイズがかかり、何を言っているかまでは聞き取れなかったらしいが。
「んー……それはもしかしたら、ここにいるたっくんじゃなくて──」
「……もう一人の、方……」
「可能性はかなり高いよお。それにラマニアンホロウとキミには、何か深いつながりがあるのかもしれないよ。先生の幻も、ここで見た訳だったし」
その声は、相変わらずタクミとロックスプリングには聞こえない。
リンにもう一人の「タクミ」の声が聞こえた……という事は、やはりこのミアズマの異変と彼……もとい『始まりの主』は無関係ではないのだろう。
瞬光は不安そうに、リンは怪訝そうに、照は不愉快そうに、それぞれ違う表情を浮かべていた。
やがて。
「……やっと収まったねえ」
「二人とも、どんな事を言われたんだ?」
「心の弱いとこや傷を的確に突いてくる、って感じかなあ。まあこんなの、ザオちゃんには効かないけどね」
「…………」
「……瞬姐さん? どうしたんだ」
「だ、大丈夫! ちょっとクラッときただけだから……多分、さっきの幻覚のせいよね」
このエリアのミアズマは、以前とは比べ物にならないほど高濃度。
ホロウの拡大が進んでいるのも頷けるほどだった。
ともかく、先を急がねばならない。
足を進めていた、その時──
『──侵入者を発見。戦闘モジュールを起動』
「え……!? な、何!?」
唸り声のようなシステム音声とともに、巨大な何かがこちらに急接近してくる。
『直ちに排除いたします』
それはミアズマに侵された、巨大なセキュリティメカ……テラーラプトルだった。
「まずい、見つかってしまった……! あれはこの辺りのエリアに配置されている、遠距離射撃型のセキュリティメカだ!」
「……黒い花が向こう側にあるけど……あそこに行くには、先にコレを片付けた方が良さそうだねえ」
「リン、下がってて。ここはワタシ達が……って、タクミ?」
「…………」
剣を構える瞬光達の前に、ファイズが出る。
「……たっくん?」
「……俺に、やらせてくれ」
「え? ……なんで?」
戸惑う照たち。
それを他所に、ファイズは銃口を構えるメカの前に立ち、アクセルメモリを取り出す。
[Complete]
[Ready]
そのままアクセルフォームへ変身し、続けてファイズショットを右拳に装着し──
[Start Up]
「ふっ!!」
そのまま目にも留まらぬ速さで、メカへと突撃した。
テラーラプトルはターゲットをファイズに設定し、攻撃を仕掛けてくるファイズから距離を離しつつ、砲撃で撃ち落とそうとするが……
「ハアッ!!」
もちろんファイズはそんな隙など与えず、小さい体を駆使し懐に潜り込む。
そしてファイズショットの一撃でメカのアームを吹き飛ばした。
「オラアッ!!」
間髪入れずに、脚部、腕部、頭部……テラーラプトルのあらゆる部位を容赦なく破壊していく。
その時点で既にテラーラプトルは動かなくなっていたのだが……それでもファイズは攻撃を止めなかった。
「たっくん! もうソレ壊れてるよ!」
「た、タクミ! どうしちゃったの!?」
瞬光や照の声にも耳を貸さず、ファイズはテラーラプトルを力の限り破壊しようとする。
もはや闘いとも呼べない、一方的な蹂躙。
「壊れろ……っ!!」
[Three, Two, One──]
テラーラプトルは最早原型も留めないほどにぐしゃぐしゃになっている。
それでもなお、アクセルフォームのカウントダウンギリギリまで、拳を振る事をやめなかった。
[Timeout][Reformation]
「…………」
十秒が経過し、通常形態へ戻るファイズは、振るっていた拳をようやく止める。
「!! タクミ!」
それと同時に、ファイズは膝をついた。
「はあっ、はあっ……!」
「タクミ、大丈夫!?」
「もう、なんでそんな状態なのに戦おうとしたの!? 気分が悪いなら、無理はしないで!」
「気分が、悪い……? それは、違うぞ……姉ちゃん」
息を切らしながら、ファイズはリンを見る。
「むしろ……
「……!!」
ファイズは何かを『抑える』かのように、フラフラと立ち上がる。
「だからさっきは、思いっきり暴れてみたけど……焼け石に水だったな」
「……タクミ? どこ行くの……?」
「……もう少し持ちこたえられるかと思ったけど、そろそろ……限界かもしれない。だから──」
「っ、ダメ!!」
瞬光はファイズの手を強く握る。
「絶対に、アナタを独りになんかさせない……! これだけは、譲れないわ……!!」
「……でも、俺は」
「福姐さんと約束したもの……必ずみんな無事で帰って来るって。それに、リンとも三人で誓ったでしょ? ワタシ達は独りじゃないって……!」
「瞬光の言う通りだよ。タクミの誰も傷つけたくないって気持ちは分かる。……けど私も瞬光も、それで離れ離れになる事の方が何百倍も嫌!」
「…………」
ファイズは二人の言葉を聞き、しばらく俯く。
「んー……まあ二人の言う通りかもね。仮に暴走しちゃったとして、それで最初から何もかもを諦めるのは、ザオちゃん合理的じゃないと思うなあ。そ~れ~に~」
「……?」
「
「……そうっすね。ちょっと自惚れてました」
ファイズは顔を上げる。
瞬光に握られていた手で、彼女の手を握り返す。
「……悪い、ちょっとネガティブになりすぎた。こういう時こそ、皆の事を信じるべきなんだよな」
「うん! アナタには頼れる姉弟子がいるんだから、心配しないで!」
「ああ、頼りにしてる。先を急ごうか」
一行は引き続き先へ進んだ。