テラーラプトルを倒した後、リン達は黒い花が群生しているエリアへとたどり着く。
すると瞬光の剣棺が再び共鳴しだした。
「……見つけたわ」
瞬光が指を差す先にある、一輪の大きな黒い花。
「あの花だけ、他とは違うミアズマの気配を感じる。まるでここら一帯の『心臓』みたいに……」
「こいつを浄化すれば、周りの花も消えるって事か?」
「うん。……皆は、下がってて」
「瞬光、大丈夫? 疲れてるなら、無理はしないで!」
「大丈夫……だってこれは、ワタシがやるべき事なんだから」
瞬光はまるで自分に言い聞かせるようにそう口にした後、剣を掲げる。
「……この血を、以て──待ちなさい。命を投げ出すつもり?」
「!」
突如、瞬光の口調が切り替わる。
それを認識する間もなく、瞬光の髪はあっという間に白くなっていく。
不安がにじみ出ていた表情も鳴りを潜め、白い瞬光はより高く、剣を掲げた。
「この血を以て、魂を契る……散れ!」
そう唱え、剣で一閃。
目の前の黒い花は、うめき声にも近い音を立てながら、溶けるように消えていった。
「……!!」
それと同時に、周りの花も一斉に消滅していく。
瞬光の言った通り、『心臓』となる花を消せばおのずと周りの花も消えるようだ。
「やっぱりその剣が、異変解決のカギになるみたいだねえ」
「……ふう」
瞬光は剣を収め、力が抜けたかのようにゆっくりと座り込む。
「瞬姐さん!」
瞬光の元へ、ファイズが慌てて駆け寄る。
彼女はそれをいい事に──
「よいしょ……っと」
「うわっ……!?」
遠慮など知ったものかと言わんばかりに、ファイズの体にもたれかかって来た。
反射的に落っこちないように支えるファイズ。
「……大丈夫か?」
「大丈夫に……見える? 凄く疲れちゃったから、しばらくはこのままでいさせて……」
「寄りかかるなら俺より姉ちゃんの方がいいんじゃないのか? 装甲とかが硬いだろ」
「……もう、ニブチンね。アタシはアナタがいいの」
そう言いながら、白い瞬光は全力でファイズの体で休息をとる。
「……やっぱり、『この方法』でも何事もないってわけじゃなさそうだね」
「そうね。けど前にも言った通り、この子がやるよりかはずっとマシなの。ホントはこんな事、したくないんだけど」
瞬光は物憂げにため息を吐く。
「この子があまりにも本気だから、アタシがこうやって出てこざるを得ないの。アタシとこの子は一蓮托生……もし何かあったら、可愛い可愛い後輩クンに、二度と会えなくなっちゃうもの」
「…………」
「とは言え、アタシがこうして力を使うのにも限界があるの。……たっくん、前に言った事忘れないでよね?」
その言葉を最後に、白い瞬光は目を閉じ、姿を消した。
そうして元に戻った瞬光は、ゆっくり目を開ける。
その様子は、完全に回復した……とは言えないものだった。
「瞬光、やっぱり体の負担が……他の方法を考えてみる?」
「ううん、大丈夫……まだ疲れが取れてないってだけだから。それに……青溟剣が、このエリアの『何か』と共鳴してるみたいなの」
「共鳴?」
「うん。照さんが言ったように、ラマニアンホロウの異変が青溟剣と何か関係があるなら……これは剣主であるワタシの使命。……ワタシは、もう逃げたくないの」
「…………」
その言葉に、ファイズは何の言葉も返す事が出来なかった。
そんな彼の頭に、瞬光の手が優しく添えられる。
「……ふふっ。顔は見えないのに、やっぱりアナタって分かりやすいのね。何も言わないけど、心配されてるのは凄く伝わってくるわよ?」
「…………」
「ごめんね。アナタに信じてもらうには、まだまだワタシは不甲斐ないみたい」
「……違う。瞬姐さんを信じてない訳じゃないんだ。俺は……自分を、信じ切れていないだけだ」
タクミは『瞬光を信じる』と、心にそう決めたはずだった。
皆の為に戦う彼女の意思を尊重すると。
しかし、今になってその自分の決断は正しかったのかと……タクミは自分を疑い始めた。
「……ひでえ話だ。瞬姐さんは俺をずっと迷わず信じてくれてるってのに」
「…………ねえ、タクミは覚えてる? 一緒に過ごした日の事」
共に景色を見て、ケーキを作ったり食べたり。
映画を観たり、皆に料理を振る舞ったり。
雨上がりに、きれいな虹を見た事もあった。
「ワタシね、この街が……澄輝坪が好き。皆と過ごす、この日常が大好き」
「……」
「瞬光……」
「だからワタシ……そんな日常を守りたいの。少なくとも、やれるだけの事はやってみたい」
そう言葉にする瞬光の意思は、まぎれもなく本物だった。
使命感でも、義務でもない。心から守りたいと言う『決意』。
「それにもう分かったの。ワタシは独りじゃないって……この先何があっても、振り返れば皆がいる。それが分かってるから。そうでしょ?」
「…………」
ファイズはしばらく俯いたあと、また瞬光の方を見る。
「……信じるとか信じないとか、そんなんで迷ってる暇なんてなかったな。瞬姐さんがそう言うなら、俺は黙って隣に立つだけだ」
「うん! ワタシ、信じてる! きっとそばに居てくれるって」
彼女はもう戦うと決めたのだから、こちらも安心して背中を預けられる、そんな頼れる弟弟子でなければならない。
ファイズも、そう強く決意した。
「……ザオちゃんは瞬光ちゃん達が眩しく見えるよ。それじゃ、探索を再開しよっか。ロックスプリング、ここ辺りには何かある?」
「僕のメモリが正しければ、この近くの工場内部に、より大きなミアズマがあるはずだ。もしかしたら、コアもそこにあるのかもしれない」
「それじゃあ行こっか。瞬光、立てる?」
「うん、もう大丈夫よ。ありがとう」
次の目的地は工場内部。
いざ出発しようとしたその時、イアス越しから連絡が来た。
『リン、聞こえるかい? 緊急の連絡だ』
「お兄ちゃん!」
『今、弟子たちが総動員して、ようやく澄輝坪の黒い花をすべて浄化する事が出来た。……けれど、ホロウの拡大は、まだ止まっていない。そちらはどうだい?』
今のアキラの言葉で、リン達はほぼほぼ確信した。
「今、工場に行くところだよ。もしかしたら、異変の元凶もそこにあるのかも!」
『分かった。くれぐれも気を付けてくれ。……それと、タクミと瞬光の方はまだ大丈夫かい?』
「ワタシ達なら大丈夫よ、アキラ! 安心して、すぐに解決して、一緒に帰って来るから!」
『……そうか。それなら、信じて待っているからね。幸運を祈っている』
その言葉を最後に、通信は切れる。
一行は顔を見合せ頷いたあと、引き続き目的地へと足を進めた。
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工場の内部に入ったリン達。
そこで彼女たちは、驚くべきものを目にした。
『この力……懐かしさを感じるわ。まるで、妖刀無尾のような──』
「あれは……」
「カローレ先生……!?」
ミアズマで形作られたカローレの幻が、再びリン達の前に姿を現したのだ。
『……雲嶽山の青溟剣、ね。その"代償"も、解決できる術があるかもしれないわ』
「……! 今、青溟剣って……」
「今の話を聞く限り、青溟剣について知識があるようだね……追いかけてみる?」
「そうしよう。なんか青溟剣の代償を抑える、みたいな事も話してたし……確かめてみる価値はあるはず。ロックスプリング、ここの案内はお願いしていい?」
「もちろん。ただ内部は少なからず複雑なつくりだからね。ミアズマには気を付けながら行こう」
ミアズマの濃度も、次第に強さを増していく。
一行は最大限警戒をしながら、カローレの幻を追いかけていく。
そうしてカローレの幻を追いかけて行くうちに、いくつか分かったことがある。
雅が扱う妖刀『無尾』、そして青溟剣は『戎具』と呼ばれている事。
その『戎具』には重い代償……そして触れられざる邪悪な秘密があると言う事。
そしてカローレは、その代償を最小限に抑える方法を探すため、危険を冒していたという事。
幻の話を聞いたリンは思慮にふける。
(……間違いなく、先生は青溟剣の代償を克服する方法を知ってる。けど、先生はどうしてそんな事を……青溟剣の秘密……先生は、何を知って……)
「姉ちゃん!」
「っ、な……なに?」
「気を付けろ。いつの間にか、『コア』の場所までたどり着いたみたいだ」
「!!」
幻を追いかけていくうちに、黒い花が群生しているエリアに到着したようだ。
そこは広い部屋で、奥に『心臓』らしき花が咲いている。
「うん、この嫌~な気配からして、ここが異変の元凶が起きてる場所で間違いなさそうだねえ」
「……ん? なんだ、アレ」
ファイズは部屋の奥に、何かがある事に気が付く。
そこには部屋の主らしき巨大なエーテリアスが、ボロボロの状態で力なく横たわっている。
そのエーテリアスは近寄る間もなく、跡形もなく消滅してしまった。
一瞬の出来事に、リン達は戸惑う。
「……今のエーテリアスが『コア』?」
「ミアズマの感じからして、それっぽい……でも出会うなり消えちゃった」
「自滅、って感じでもなさそうだねえ。もしかしてザオちゃん達が来る直前に誰かが……って、瞬光ちゃん?」
「…………」
瞬光は部屋に入り、黒い花を見渡す。
「……大丈夫」
何かを呟いた後、彼女は先ほどと同じように……剣を掲げ始めた。
「! 瞬光待って、もう少し休んだ方が……」
「異変は、まだ収まってないもの。これ以上休んでいられないわ……ワタシがやらなくちゃ」
「……瞬姐さん」
決意をその瞳に宿し……青溟剣の解放とともに、髪が再び白色に変わる。
瞬光はファイズを一瞥したあと、花の方へ向き直る。
「…………この血を以て、魂を契る」
「──散れ!」
白い輝きを放つ、その一閃。
先ほどと同じく、その輝きにより黒い花が一つ残らず消滅していく。
「…………く……っ」
「っ!! 瞬姐さん!!」
完全に消滅しきったと同時に……瞬光は力尽きたように倒れる。
地面に着く前に、ファイズが間一髪で受け止めた。
リン達も彼に続いて瞬光の元に駆け寄る。
「瞬光! しっかりして!!」
「……本当にこの子も、人遣いが、荒いわね……でも──」
瞬光は震える手で、ファイズの頬に手を添える。
今にも消えてしまいそうな、弱弱しい笑みを見せる。
「……アナタとこの子の日々を守れるなら……悪くないのかもしれないわね」
「…………!」
彼女の瞳に映るのは、後悔か、安堵か……それとも、未練か。
「…………」
その言葉を最後に、瞬光は再び元の姿に戻った。
しかし。
「……瞬光ちゃん、平気?」
「…………」
「……瞬光? なんで、返事をしないの?」
「…………!!」
彼女を抱えていたファイズは、理解した。
たった今青溟剣が彼女にもたらした、重い代償を。
肌は冷たく、その瞳は先ほどまでの光はない。
その姿は、まるで生気を失った人形のようだった。
「な……なんで!? さ、さっきまでなんとか耐えられてたのに……!」
「……この子、青溟剣の侵蝕が……取り返しのつかないとこまで言ってた事を、黙ってたんだね」
「しゅ、瞬光! 私の顔は見える!?」
「…………」
いくら呼び掛けても、手を振ってみても、瞬光は反応を示さない。
視覚も、機能していないようだ。
リンは涙目になりながらも、瞬光に必死で呼びかける。
「だ、ダメだよ……! こんな、急にお別れなんて……瞬光、返事をして! 私たちはまだ……!」
「……ここまで来たら、もう手遅れかも。ザオちゃん達の声も、もう聞こえないんじゃないかな」
「……瞬姐さん」
ファイズは腕の中で動かなくなった瞬光をしばらく見つめる。
やがて、決心をしたように顔を上げた。
「……いや、まだだ!」
「……っ、え……?」
ファイズはおもむろにファイズフォンを取り出し、通話終了ボタンを押す。
赤い光とともに変身が解除され、続けてタクミは装着していたファイズドライバーを取り外す。
「……タクミ? 何、してるの?」
「まだ諦める時じゃねえって言ってんだ。成功するかどうかは分からないけど、やるしかない!」
「な、何を言って──」
リンが真意を問おうとする間もなく、その変化は訪れた。
「──変身!」
顔に模様が現れる。
タクミの体は変化し、瞬く間にホッパーオルフェノクへと姿を変えた。
そしてその刹那。
「……っ!?」
ホッパーオルフェノクの内部から、莫大なエネルギーが放出されていく。
そのエネルギーの光は次第に大きくなり、やがてホッパーオルフェノクと瞬光を包み込んでいく。
(……なに、これ……タクミの中から……)
リンはそのエネルギーに、既視感を覚えた。
かつて、タクミが暴走した時に感じた、あの雰囲気。
(まさか……これ……)
(──『始まりの主』の、エネルギー……!?)