ホッパーオルフェノクから奔出するエネルギー。
それは記憶違いでなければ、『始まりの主』のものだった。
(どうしてタクミがそんな力を……いや、それよりも……!)
エネルギーは白い光とともにホッパーオルフェノクと瞬光を包み、やがてその姿は見えなくなっていく。
やがてエネルギーと光は鳴りを潜め、隠れていた二人の姿が再び現れる。
しかし……
「……! タクミ!!」
光の中にいたホッパーオルフェノクは、瞬光と同じく意識を失っているのか、座ったまま頭部がだらんと力なく垂れ下がっていた。
「タクミまで……早く、助けなきゃ……!」
青ざめたリンが、二人の元に行こうとした……その時だった。
「待ちなさい」
「!」
毅然とした女性の一声で、その動きが止まる。
「……!」
声とともに、後ろから足音が聞こえる。
振り返ったリンと照はその声の主の姿を目にし……驚愕をあらわにする。
「……キミは……」
リン達の前に姿を現したのは、なんと無人区域でも姿を見せたバタフライオルフェノクだった。
「どうやら、私の事は知ってるみたいね……じゃあ自己紹介は省いて、忠告しとくわ。下手に彼に近づいてはダメ。二人は無事じゃ済まなくなるわよ」
「……どうしてそれが分かるの? あんたは何が目的?」
「少なくとも『アイツら』の味方ではないって事だけは言っておくわ。あの二人は今デリケートかつ不安定な状態にあるの。だから助けようとは思わないで」
「……キミの素性も何も知らないのにいきなりそんな事を言われても、『はい分かりました』なんて言えないよ」
「……はぁ。そう来ると思ったわ」
バタフライオルフェノクは『案の定』と言った風にため息を吐く。
その後、唐突に指をパチンと鳴らす。
「!!」
それと同時に、エーテルの裂け目がどこからともなく出現した。
「……やっぱり、ここは
「……え?」
バタフライオルフェノクの声に呼応するかのように……裂け目から何者かが出てくる。
「……リンさん、安心してください。彼女は敵ではありません」
「釈淵……さん!?」
裂け目から出てきたのは、姿をくらましていた釈淵だった。
釈淵はホッパーオルフェノクに抱えられたまま動かない瞬光の方を見た後、静かに目を伏せる。
「……やはり、こうなりましたか」
「……ごめん、釈淵さん。私たちがしっかり見ていれば、こんな事には……」
「ご自分を責めないでください。仮に止めたとしても、きっとこの子は無理にでも青溟剣の力を使おうとしたでしょう」
「…………」
「僕も、いずれその時が来るのだろうと覚悟はしていました。しかし……まさか今、"その時"が来てしまうとは思ってもみませんでした」
「……キミたちはどうしてここに?」
「貴方たちと同じです。ホロウ拡大を阻止するため、僕達は黒い花の浄化にあたっていたのです」
釈淵とバタフライオルフェノクも、異常なミアズマの存在を感じ取った後、ラマニアンホロウの無人区域で原因である黒い花を探し、浄化していた。
効率のため、二人はそれぞれ別の場所で行動をしていた。
「このエリアにいるエーテリアスを片付けた直後に、貴方たちが来たの。とっさに隠れて様子を見ていたら……まさかこんな事になるなんてね」
「私達より先に、ここに来てたんだね……でも、私達と目的が同じならどうして……」
「……疑念は理解できます。ですが今は、この状況について説明しなければなりません。タクミくんと瞬光が、どういう状態なのか」
釈淵はこれまで、瞬光と青溟剣の繋がりを絶つ方法を探るために、あらゆる文献などを調べ模索してきた。
繋がりを絶てなくても、せめて代償を抑える方法があれば……と探し続けた末、とある一つの事実に辿り着いた。
「代償を抑えるその方法……その鍵は青溟剣自身にではなく、『始まりの主』の存在にありました。簡潔に言ってしまえば……青溟剣と始まりの主の力は、同質のものだったのです」
「始まりの主と、同質……」
「そしてその文献が正しければ、『始まりの主』のエネルギーを使えば、再び瞬光が外の世界を感じられるようにしてあげる事が出来る」
始まりの主のエネルギー、そして強靭な精神を持つ『導き手』がいれば、青溟剣の使い手である瞬光の深層意識の中に行く事が出来ると言う。
「……!! まさか、タクミは……!」
「そうです。今まさに、タクミくんがその『導き手』の役割を果たしている最中なのです」
タクミは気絶したわけではなく、始まりの主のエネルギーを使い、瞬光の意識の中に入って行ったのだ。
「……仕組みは分かったけど、どうして『始まりの主』のエネルギーをたっくんが使えるようになってたの?」
「リンさんは目撃したかと思われますが……タクミくんは以前、オルフェノクの力が暴走し、凶暴化したことがありました。その原因は他でもない、『始まりの主』の力です」
釈淵はあの時、陣法などを駆使しなんとかタクミを救出しようとした。
その時に、彼の内部に『始まりの主』のエネルギーがある事を悟った。
「あの時は持てる限りの力を尽くし、なんとかそのエネルギーを沈静化させる事に成功しましたが……どうやらこの異変をきっかけに、再び活性化し始めてしまったようです」
「沈静化? 消したんじゃなくて?」
「あれを『消す』には、それこそ青溟剣の力が必要になることでしょう。そして彼に『始まりの主』の力が残っていたことが、この状況においてはむしろプラスとなりました」
暴走しかねないほどの『始まりの主』のエネルギーが、今瞬光を助けるために使われている。
現時点では、二人の状態に異常はない。
このままいけば、瞬光を目覚めさせられるかもしれない。
「どのようにしてタクミくんが瞬光を助ける方法を知るに至ったのか、定かではありませんが……今は、彼にすべてを託すしかありません」
「……私達に出来る事は?」
「ありません。と言うのも、二人を渦巻くエネルギーは非常に不安定になっています。先程彼女が言っていたように、僕達は手出しはせず、見守るほかありません」
「…………分かった」
タクミを信じ、リンは照達と一緒に待つ事にした。
……その時、バタフライオルフェノクがホッパーオルフェノクのそばまで近寄る。
「……? 待って、何をする気……!?」
「保険よ。この子が充電切れしないための……ね」
そう言いながら、バタフライオルフェノクは背中から数本の触手を出し……それをホッパーオルフェノクの体に突き刺した。
「っ!!」
「慌てないで。今、彼にエネルギーを送ってるから」
「エネルギー……?」
「小さいままの彼の体じゃ、仮に葉瞬光を助け出してもエネルギー切れで力尽きるかもしれない。だからそうならないようにするの」
「……リンさん。疑う気持ちは理解できますが……ここは彼女を信じましょう。今の僕の立場で言う事ではありませんが」
「……分かったよ。けど、何か余計なことをしたら承知しないからね!」
「はいはい」
バタフライオルフェノクは引き続きエネルギーを送っていく。
彼女がタクミに送る視線には……何か含みがあるようにリンは思えた。
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強い頭痛と共に、タクミの意識は暗い空間の中へと放り出される。
「……」
すぐ近くにあったのは、底の見えない穴。
「…………」
「!!」
そしてその穴の前に立つ、瞬光の姿。
止める間もなく、彼女は穴に吸い込まれていく。
「瞬姐さんっ!!」
タクミは迷わず、瞬光が落ちた穴に飛び込んだ。
「今……助けるっ……!!」
タクミは自身が落ちていく状況を気にも留めず、必死に瞬光に向けて手を伸ばす。
やがて──
「掴んだ!!」
瞬光の体を受け止め、その両手で抱える。
その直後だった。
(……っ)
体に異変が起きる。
(……視界が、ぼやける……)
視覚だけではない。
耳の方も、次第に音を拾う力をなくしていく。
感じていた体温もなくなり、次第に冷たくなっていく。
全身の血を抜かれたような、そんな冷たさを感じた。
『五感』が鈍っていく中で、タクミはまるで海の中に放り出されたような感覚に陥る。
この現象が何なのか、タクミは直感で理解した。
(これが……青溟剣の代償……? 暗くて、冷たい……)
持っていた全てが奪われていくような感覚に、本能的に恐怖を感じた。
(瞬姐さんはこんな恐怖と、ずっと一人で戦ってきたのか……)
落ちていく最中、未だ『底』は見えない。
「……大丈夫だ。今は、俺がいる……!!」
タクミは瞬光を抱え、果てしない暗闇へと沈んでいった。