目を覚ました瞬光は、真っ先にオルフェノクの顔が視界に入る。
それがタクミだと、彼女は一目で分かった。
「……タクミ」
「大丈夫だ、瞬姐さん。皆ここにいる」
その声に、思わず顔がほころぶ。
次にリンと照、ロックスプリングの顔が見える。
「……うん。体温諸々、正常のようだね」
「意外と早いお目覚めだったねえ。体は平気?」
「瞬光! 私の声、聞こえる?」
「皆……ごめんね、また迷惑かけちゃって……」
「……まさか本当に目覚めさせちゃうとは思わなかったわ」
「……!? えっ……!?」
ふと耳に入った聞き慣れない声に面食らう瞬光。
そして傍に立っていたバタフライオルフェノクに目をやる。
「あ、アナタは……!」
「この人はタクミと瞬光が目覚めるのに手助けをしてくれたの。素性は分かんないけど、多分悪い人じゃないと思うよ」
「そ、そうだったのね……ありがとう、オルフェノクさん」
「……手助けって言う程大それた事はしてないわよ。私は彼が力尽きないようにしてあげただけだし。まあ、いきなりタクミが元の大きさに戻ったのは少しびっくりしたけど」
「ん?」
そう言われて、タクミはようやく気付いた。
「……あ」
今まで少年体型だった自身の体が元に戻っている事に。
「……いつの間に。なんでだ……?」
「さあね……ただ、そもそも貴方が小さくなってしまったのは、『オルフェノクのエネルギー』をもう一人の貴方に奪われたからだと思うの」
そして今、バタフライオルフェノクが供給したエネルギーと、活性化した体内の『始まりの主』のエネルギーがホッパーオルフェノクのエネルギーの足りない分を補った。
その影響で、タクミは元の体に戻ったのだとバタフライオルフェノクは推測した。
「……俺が小さくなってたのってエネルギー不足だったからなのか? 何そのトンチキシステム」
「私に聞かれても分からないわよ。私だってそんな性質聞いたこともないもの」
「でも、元通りになって良かったわねタクミ。……ちょっと寂しいけど」
「聞こえてるぜ瞬姐さん」
「まあとにかく、私はもうやる事はやったから。……それと」
「葉釈淵。あんた何黙って帰ろうとしてんのよ」
「……っ」
「!? お兄ちゃん!?」
そのまま立ち去ろうとしていた釈淵の背中を見て、瞬光は大声を上げた。
「……瞬光が無事に目覚められたのを見届けた。これ以上ここに僕がいる理由は──」
「兄としての不器用さがカンストしてんじゃないの、貴方。せめて挨拶くらいしなさいよ」
「……どうしてここに釈淵さんが?」
「おっと。まだ説明してなかったわね」
バタフライオルフェノクはここに釈淵がいる理由、そして瞬光が目覚めることが出来た理由を瞬光とタクミに簡潔に説明した。
「……そんな事が」
「お兄ちゃん? また黙っていなくなろうとして……ワタシに、何か言う事あるでしょ?」
「……すまなかった瞬光。けれど、これまで君に何も伝えなかったのは本意ではなかったんだ。まだ伝えてはいけないこともある……」
「……まだ適当観に帰るつもりはないのかい?」
「ええ。まだ僕にはやるべき事があります。色々聞きたい事はあるでしょうが……その時になったら、一つずつ説明させてください」
「……分かった。信じてるからね、お兄ちゃんの事」
渋々、本当に渋々と言った感じで瞬光は了承する。
このような反応になるのも、無理もないだろう。
「それとタクミくん。少しお聞きしたいのですが……『始まりの主の力を使って瞬光を助け出す』という方法を、どのようにして見つけ出したのですか?」
「……それは……」
ホッパーオルフェノクは触覚をペコリと曲げて考えに耽る。
タクミ自身、その方法を知っていたわけではない。
「……前にオルフェノクの力が暴走した時、夢の中で白い瞬姐さんに会ったんです」
もし釈淵が言っていた『始まりの主の力』がその時もあったのなら、それが原因で瞬光の中にいた彼女がタクミの意識の中に入り込む事が出来たのだろう。
もしかしたら逆パターンで応用できるのではと思い、タクミはそれを実践したわけだ。
「その始まりの主の力は、今もたっくんの中にあるの?」
「多分。けど、ここに来る前に感じてた体の異変は起こって…………な…………」
「!?」
喋っている途中で、ホッパーオルフェノクはいきなりぶっ倒れた。
周りにいるリン達はもちろん、本人ですら何が起こったのか分からなかった。
「タクミ!! 大丈夫!? しっかりして!」
「……う……」
「う?」
「動けない……指一本、動かせない……」
体力切れ、と言った感じではない。
喋る元気こそあるが、体は一ミリも動かす事が出来なかった。
「……やっぱり、こうなったわね」
「どういう、事だ……?」
「貴方はさっき、葉瞬光を助け出すために惜しみなく始まりの主の力を使ったの。これはその反動よ。むしろ動けないだけで済んで良かったって思うべきだわ」
「……これずっと、このままか……?」
「しばらく休んでれば治るんじゃない? 危ない目にあいたくなければ、とっととホロウを出る事ね」
「……うん、そうした方がいいね。これ以上ここにいる理由もないし、早く澄輝坪に帰んないと!」
先ほど儀玄が澄輝坪に帰って来たとの連絡をアキラから受けた。
早い所、無事な姿を見せるべきだろう。
「……待ってくれ、姉ちゃん」
「?」
「帰る前にあれ、出してくんない? 持って来てただろ?」
「……? あ、もしかしてこれの事?」
リンはあらかじめ持って来てたナップサックから、何かを取り出す。
それは、タクミが以前まで着ていた道着だった。
「それってタクミの……持って来てたの?」
「ああ。いつ体が元に戻っても大丈夫なようにな……」
「……あれ、もしかしてたっくん今大変な事になってる?」
「…………」
そう。
タクミは無事に元の大きさに戻ったわけだが……着ていた服まで元に戻ったわけではない。
つまり、子どもサイズの服を着ている状態なのだ。
今はオルフェノクの姿なので不思議と大丈夫だが……人間の姿に戻った途端、大惨事が起こるだろう。
「だから頃合いを見て着替えてしまおうって思ったんだけどさ……もう疲れちゃって全然動けなくてェ……釈淵さん悪いんすけど、ちょっと手伝ってもらっても……?」
「……分かりました。では、そこの物陰で着替えましょう」
釈淵は、動けないホッパーオルフェノクを担ぎ、そのまま大きなコンテナの後ろに隠れる。
女性陣は同情の目を向ける事しかできなかった。
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その後。
『僕の事は、適当観の皆には伏せておくようお願いします』
そう言った後、釈淵はバタフライオルフェノクと共に姿を消した。
異変も収まり、タクミも無事に道着に着替えたので、後は帰るだけだ。
「にしても釈淵さん、何をするつもりなんだ……?」
「分からない……けど、今はあの二人を信じるしかないね」
「……どうかなあ。葉釈淵はともかく、あのオルフェノクはザオちゃん、ちょっと信用できないかなあ」
「でも、ワタシ達を助けてくれたのは事実よ? 黒い花も浄化してくれてたし……きっと、悪い人ではないと思うの」
「……キミたちってさ」
「ん? 何?」
「……ううん、なんでもない」
何か聞こうとしたようだが、その前に照は口を閉ざす。
その時だった。
「……コアシステム、異常……」
「! いけない、またロックスプリングが……!」
ロックスプリングが、またしても奇妙なエラーを吐き出している。
どうやら機能に異常が起きているようだ。
「う……すまない。頑張って抑えようとはしていたけど……」
「気にしないで。また骨董屋さんとエンゾウさんのとこに持って行ってあげる!」
「ありがとう。助かるよ……」
「じゃあ、今度こそ行こっか。よいしょ……っと」
「うおっと?」
リンは動けない状態のタクミを背中に担ぎ、おんぶをし始めた。
「瞬光と照はエーテリアスが来たら対処をお願い! 私はタクミを運ぶから!」
「分かったわ!」
「タクミはもし体に異常が起こったら、すぐに言う事! いい?」
「……分かった。けど、大丈夫か?」
「私も雲嶽山に入って少しは鍛えたんだよ。今くらいはお姉ちゃんに任せなさい! ね?」
「…………」
タクミはそう言いながら歩くリンの顔を見た後、「ならば遠慮なく」と言わんばかりに全力で体をその背中に預ける。
リンの方も、タクミを落とさないようしっかり担ぎ上げる。
「……なんかこうしてると、昔を思い出すね」
「昔? いつの話だ?」
「タクミは覚えてない? 初めてお化け屋敷に行った時──」
「もういいよ言わなくていいよ」
「なになに? 詳しく聞かせて!」
「聞かなくていいよ」
「タクミは腰が抜けちゃってその時私が──」
「言わなくていいよーーー!!」