ホロウの出口へ向かう道中。
「ロックスプリング、調子はどう?」
「調子がいいとは言えないけど……かと言って致命的なものであるとも言えない。今のところはそこまで急がなくても大丈夫だと思う。でも……」
「……これから起こるアクシデントを考えたら、ちょっと急いだ方がいいかもな」
「え? どういう事?」
「やっぱりタクミも気づいていたね。皆、前方に何者かが潜んでいる。気を付けて」
リンが算出した脱出ルートでは、エーテリアスもおらず距離もそこまでではない。
このまま行けば問題なくホロウを出られるだろう。
だが、それは
「……見つけたぞ」
「!!」
突然黒づくめスーツ姿の男が複数人、物陰から武装した状態で現れた。
リーダーと思しき男が前に出る。
「……お前が青溟剣の剣主、葉瞬光か。どういう事だ……? なぜもう回復しているんだ」
「……! アナタたち、何者?」
「……もしかして、私達を狙ってる?って言うか、さっき起きてた事をなんで知ってるの……?」
「…………」
黒服のリーダーは、瞬光に向けて手を差し出す。
「手荒な真似はするつもりはない。我々の要求はただ一つ。その青溟剣を、こちらに渡してもらおうか」
「青溟剣を……? これは雲嶽山のものよ! それを手にしてどうするつもり……!?」
「お前らが知ってどうする。それを持って帰らないと俺たちの任務が終わらないんだ。ご理解願おうか」
「こんなタイミングで、無理に決まってるじゃん! 澄輝坪や衛非地区がどうなってもいいの!?」
「俺たちが知るか、そんな事。顔も知らん奴より任務を遂行できるかどうか。そっちの方が大事なんでな」
罪悪感もなく、平然とそう言ってのける黒服。
周りにいる男たちもじりじりと瞬光達を追い詰めていく。
「さあ、青溟剣を渡せ。さもないと──」
[1・0・6]
「……? 何の音だ?」
唐突に響き渡る電子音。
男たちは、それがなんなのか認識する間もなく──
[Burst Mode]
「!? うわあっ!!」
いきなり飛んできたフォトンブラッド弾が、彼らの足元にまき散らされた。
思わず後退してしまう黒服たち。
どこからか飛んできたのか。
それは、
リンにおぶわれたままのタクミが、フォンブラスターで男たちに威嚇射撃をしたのだ。
「こ、このガキ……」
「帰れ変態ども……! こっちは急いでんだよ! ……姉ちゃん、今のうちだ!」
「ナイスタクミ! 皆、こっちだよ!」
「…………」
「……照さん、どうしたの? 早く行きましょ!」
「わ、分かってるよ」
一斉に走り出すリン達。
黒服たちは当然、後を追おうとするが──
「こっちくんな!!」
「くっ……!」
タクミが後ろに放ったフォンブラスターの弾に邪魔をされ、足止めを余儀なくされてしまう。
次第に小さくなっていくリン達の背中。
「……くそっ」
黒服のリーダーはそれを忌々しげに見つめる事しかできなかった。
───────────────────────
その後。
ラマニアンホロウから出た後、一行は無事に澄輝坪に戻って来た。
「……! 皆、無事だったか!」
「お兄ちゃん、ただいま!」
ロープウェイ駅で待っていたアキラが、リン達を出迎える。
「やれやれ……心配したんだぞ? もう少し遅かったら、僕もホロウに入っていたところだった」
「ごめんね。ちょっと色々あって……」
「まあ、皆無事で何よりだ。瞬光もタクミも──タクミ?」
アキラはリンにおぶわれているタクミを見て目を丸くする。
さもありなんだろう。
体の大きさがいつの間にか元に戻っていて、そのうえおぶわれたままぐったりとしていた状態だったのだから。
「……ただいま、兄ちゃん」
「……はあ。聞きたい事がまたいくつか増えたけど、ひとまず無事な事は分かったよ。とりあえず、おかえり」
「はは……」
「……ねえアキラ。師匠はもう、帰って来てるのよね?」
「ん? ああ。師匠が戻って来てくれたおかげで、澄輝坪にあった黒い花も迅速に片づける事が出来たんだ。適当観で待ってるから、早く顔を見せに行くといい」
「う、うん」
顔を若干引きつらせながら、瞬光は返事をする。
これから儀玄に叱られるであろう事が分かっているからだろう。
「あ、そうだお兄ちゃん! ロックスプリングをまたエンゾウさんとこに連れてかなきゃ! また変なエラー吐いてるみたいなの!」
「エンゾウさんか……明日には六分街に帰ると言っていたし、早めに行かないとな」
「二人ともありがとう。迷惑をかけるよ」
「瞬光、タクミの事お願いしていい?」
「あ、うん、もちろん!」
リンは動けないタクミを瞬光に預けた後、アキラとロックスプリングと一緒にその場を後にした。
「タクミ、落ちないようにしっかり掴まってね」
「ああ……ありがとう」
瞬光におぶられたタクミは、背中に彼女のもふもふの尻尾の感触を感じる。
暖かくて心地がいいが、セクハラになるので言わない。
「それじゃあ、ワタシ達も帰らなきゃね」
「そうだな」
「照さん、今日は本当に色々とありがとう! また今度、お礼させてね!」
「…………」
「……照さん?」
照は黙り込んだまま、返事もせずに俯いていた。
あの黒服たちに会ってから、どことなく様子がおかしい気がする。
……しばらくして、ようやく照は口を開く。
「……キミたちはさ。ザオちゃんの事、どれくらい信用してるの?」
「え? いきなりどうしたの?」
「正直に答えて欲しいな。適当観を訪ねてきたあの時から、ザオちゃんを少しでも『怪しい』とかは思った事はなかった?」
「……」
タクミと瞬光は顔を見合わせる。
「……最初の最初は、確かにそう思ったけど……今では、照さんの事は大事な仲間って思ってるわ。ね、タクミ」
「ああ。それになんだかんだ『黒枝』は色々と協力してくれてるしな」
照の表情は晴れない。
彼女は瞬光たちの行動原理が、まだよく分かっていなかった。
「……初めて一緒にホロウに入った時、ザオちゃんがエーテリアスに追いかけられてた時あったよね。そんな時にキミたちは迷わず助けに来てくれてたけど……その時から、もう『大事な仲間』って思ってたの?」
「……? 仮にそう思ってなくても、襲われてたら助けるのが当たり前でしょ?」
「それが罠だったとしても?」
「照さんは、そんな事しないでしょ?」
「……そういうとこなんだって。ザオちゃんがよく分かんないのは」
そう言う彼女が二人に向ける視線には、複雑な心境が込められている。
「もし逆の立場なら、ザオちゃんは間違いなく助けたりなんかしないよ。助ける価値があるか、それによってもたらされる利益はあるか。それがあるって分かって、初めてザオちゃんは助けに行くの」
「…………」
「そういう『ルール』が、どんな関係にもある。皆、なんとなくそれを分かったうえで生きてると思うんだあ」
「……確かに、それもあると思うわ」
照の言う事にも、一理あるだろう。
世の中には利用する、利用される程度の関係もごまんとある。
しかし。
「何も世の中、価値と利益だけが人の関係って訳じゃないと思うわ。そういうのを気にせずに、お互い助け合えるような……ワタシ、そんな『愛情』を皆から教えてもらったの」
「……愛情、かあ」
今まで照は、生きていくためには自身が『価値ある人間』であることを証明する事が……それだけが全てだと、そう信じながら生きてきた。
「……ザオちゃんとキミたちの間にも、そういうのがあるって事?」
「そう! ワタシとっくに、照さんがいい人だって分かってるもの!」
「……ふうん。ザオちゃん、キミ達のことが羨ましいよ」
照は瞬光から目を逸らすが……再び目を合わせ、いつもの笑みを浮かべた。
「まあいいや。それより二人とも、そろそろその『照さん』ってのやめたら? もうそこまで短い付き合いでもない訳だし。ちゃん付けでいいよお」
「……! うん、照ちゃん!」
「ふふん。ほら、たっくんも」
「照さんちゃん」
「ザオちゃんにほっぺむにむに攻撃をお見舞いされたいのかなあ?」
「すみませんでした」