ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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ただいま

 

 

 

 

 

照と別れた後、瞬光達は適当観へと戻る事にした。

 

ふと空を見上げると、真上に丸い月が浮かんでいるのが見える。

 

 

「……綺麗。こんなにはっきり月が見えたの、初めてかも……」

 

「…………」

 

「アナタやリン達がいてくれたおかげで、またこうして景色を楽しむ事ができた。皆には、感謝してもしきれないわ」

 

「…………」

 

「……タクミ?」

 

 

先程から返事の一つもしないタクミを不思議に思い、瞬光はおぶっている彼の顔を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

瞬光は思わず声を上げる。

 

彼の瞼は閉じており……その体は、最早微動だにしていない。

 

まるでラグドール人形のように力なく彼女の体にもたれかかっている。

 

 

心臓が跳ねる。

 

一瞬で血の気が引くような感覚に襲われる。

 

 

「……タクミ? 嘘、よね?」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぐう」

 

(あっ寝てるだけだった……!!)

 

 

気持ちよさそうに寝息を立てるタクミ。

 

どうやら照と別れた後、力尽きて眠ってしまったようだった。

 

 

(お、脅かさないでよもう……!)

 

 

生きた心地がしなかった。

 

思わず頬を指でつつきたくなったが、我慢する。

 

ここでタクミを責めるのは酷というものだろう。

 

 

(今日、色々あったものね……もう深夜の二時だし……)

 

 

思えば、今日はあまりにも濃すぎる一日だった。

 

まだ照と瞬光が初めて出会ってから、実はまだ一日も経っていない。

 

 

(朝に照ちゃんが訪ねて来て、お昼にホロウに入って調査して……夕方にタクミとケーキを食べて……その後、夜に黒い花の異変が起きたのよね)

 

 

最後にはタクミは、瞬光を助け出すため『始まりの主』の力まで使ったのだ。

 

今日一日で彼が消費したエネルギーは甚大なものとなった。

 

タクミが死んだように眠るのも仕方がないと言えるだろう。

 

 

(……本当に、迷惑ばっかりかけちゃったなあ)

 

 

時折、タクミの寝顔を見ながら、瞬光は適当観まで歩く。

 

 

(……あ)

 

 

瞬光はタクミの髪に埃が付いている事に気がつき、起こさないようにそっと手で払いのける。

 

その後、彼の白い髪の毛を優しく撫でる。

 

 

(埃が見える程……視覚も鮮明になってる。ううん、それだけじゃない……町の音も、匂いも……全部はっきり聞こえる)

 

 

背中に感じる彼の体温も、手のひらに感じる髪の毛のさらりとした感触も、全部鮮明に感じる事が出来た。

 

 

「……本当にありがとう。アナタがあの時来てくれなかったら、ワタシ……」

 

 

瞬光は再び前を向き、歩き出す。

 

これから何があっても、お互いを信じあう限り、暗闇の中でも立っていられる。

 

彼女は、そう確信した。

 

 

「……タクミ」

 

 

何度も呼んだ、彼の名前をまた口にする。

 

そして……誰にも分からないような小さな声で──

 

 

 

 

 

 

 

 

「───」

 

 

 

何かを、呟いた。

 

 

 

その直後、瞬光の顔はみるみるうちに赤くなる。

 

 

「い……今の、聞こえてないわよね……?」

 

 

眠っているタクミの表情に変化はない。

 

彼女の声が聞こえないほど、爆睡しているのだろう。

 

 

「は、早く帰らなきゃ……」

 

 

瞬光は片手でぱたぱたと自身の顔を仰ぎながら、適当観の正門を開く。

 

 

 

 

 

中で待っていた儀玄達は、瞬光の顔を見るなり彼女のもとへ駆け寄る。

 

 

「瞬光! お前さん……」

 

「うん、ワタシよ! 遅くなってごめんなさい」

 

「…………っ!」

 

「?」

 

 

瞬光が帰って来たと言うのに、儀玄の顔は晴れない。

 

それどころかどんどん表情が暗くなっていく。

 

 

福福の表情はその中でも一際絶望したような顔をしていた。

 

 

「……み、皆? どうしたのよ?」

 

「……そうか。やはり……こうなってしまったか。私がもっと早くここに着いていれば……」

 

「え? な、なに? 何が?」

 

「……う、ううっ……! タクミくん……なんでぇ……!」

 

「瞬光……お前さんだけでも、無事に帰って来てくれて良かった。タクミを守れなかったのは……師である私の責任──」

 

「ちょちょちょっと待って! タクミは生きてるから! そう見えるかもだけど、寝てるだけだから!」

 

「……なに?」

 

 

どうやら瞬光の背中で爆睡をかましているタクミを見て、皆盛大に勘違いをしてしまったらしい。

 

福福は涙をぽろぽろと零しながら瞬光に近づく。

 

 

「た、タクミくん……寝てるだけなんですか?」

 

「そうよ、怪我だってしてないし! だから泣き止んで福姐さん、ねっ?」

 

「よ……よかったあああああ……!!」

 

 

泣き止むどころかさらに泣き出してしまった。

 

潘も安堵の表情を浮かべる。

 

 

「ってこたあ、全員無事に帰って来たって事だな! 皆帰って来るのが遅かったから、もしやと思ってしまったじゃないか」

 

「ごめんね、皆……心配かけちゃって」

 

「して、何があった? ホロウの中の異変は無事に片付けたようだが……」

 

「えっと……実はね」

 

 

瞬光はこれまでにホロウで起きた事を、釈淵に関する事を除き、包み隠さずすべて話した。

 

 

「……青溟剣を抜いた、だと……!? お前さん、体の方は大丈夫なのか……!?」

 

「うん、タクミのおかげでもう平気だから! なんなら、テストをしてみてもいいわよ!」

 

「…………」

 

 

儀玄は瞬光の体に異常がないかを確認する。

 

その後に覚えている事に関してテストを行い、彼女が全て答えたところで、儀玄はようやく安堵の表情を浮かべた。

 

 

「はあ……言いたい事は色々あるが、結果オーライという事にしておいてやる。……にしても」

 

 

儀玄は視線を瞬光から寝ているタクミに移す。

 

 

「子供の姿になってしまったと聞いたが……いつの間にか元に戻っていたようだな」

 

「あ、ホントですね……! ホロウに入るまでは小さいままだったんですけど……」

 

「それに関しては……ワタシが目を覚ましたころには、もう元に戻ってたの。そうなった原理も……よく分からなかったわ」

 

「そうか。……まあ、大事がなくて何よりだ」

 

 

そう言った後、何か言いたげな顔をする儀玄。

 

 

「……あれ、師匠? ちょっと残念がってる? もしかして一目見たかったとか……」

 

「阿保、そんな訳あるか。師として、弟子の体に異変がないに越した事はない」

 

「でも小さいタクミくん、とっても可愛かったですよねっ! あ、今ももちろん可愛いですけど!」

 

 

『可愛くねえよ!』……と、本人が起きていたらそうツッコんでいた事だろう。

 

 

「確かに! また小さくなれないかな?」

 

 

『なれるわけねえだろ!』……と、本人が起きていたらそうツッコんでいた事だろう。

 

 

「あ……そういえば師匠、帰って来るまでずっと連絡が取れなかったみたいだけど……何かあったの?」

 

「ああ。本当はもっと早めに到着するつもりだったんだが……近道を通る最中、何者かに足止めを食らってな」

 

「足止め……!? 師匠が……?」

 

「なかなかの強者だった。『強い』という事意外何も分からなかったがな」

 

 

 

儀玄はその肩書きこそないものの、その実力は星見雅ら『虚狩り』に勝るとも劣らない。

 

そんな彼女を足止めできる存在がいるというのだろうか。

 

 

「この件はメイフラワーとも話を進め、調査していく。それよりも瞬光、今日は色々あったようだし、部屋で休め。タクミは私が運んでおこう」

 

「うん、ありがとう……師匠」

 

 

彼女の言う通り、瞬光にも決して小さくない疲れが溜まっている。

 

おぶっていたタクミを儀玄に預け、瞬光は部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝。

 

タクミは目を覚まし、欠伸をしながら伸びをする。

 

 

(……? なんで俺部屋に──ああそっか……適当観に着く前に、寝ちゃってたのか……)

 

 

という事は、誰かが部屋に運んでくれたのだろう。

 

雲嶽山の人間か、それ以外の人間なのかは分からない。

 

あれから面白いくらい爆睡したおかげで、しっかり体を動かせるようになった。

 

 

(……?)

 

 

その時ふと、自身の服の胸元に何かが付いている事に気が付いた。

 

 

(……白い、髪の毛? 俺のやつかな──いや、なんか長くね? 俺のじゃないな)

 

 

運んでくれた人の髪の毛が付いてしまったのだろうが、だとしてもこんな風に胸元に髪の毛など付くだろうか。

 

まだ覚醒しきっていない脳で、誰の髪の毛なのかぼんやり考えていると。

 

 

「タクミ! 起きてる?」

 

 

ドアが開き、部屋に瞬光が入ってきた。

 

 

「瞬姐さん、どうした? また何かあったのか?」

 

「うん、今さっきね──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんから、連絡が来たの!」

 

「……!」

 

 

瞬光はスマホの『ノックノック』のメッセージ画面を見せる。

 

そこには──

 

 

 

『瞬光。君とタクミくんに、話しておきたいことがある』

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