「ファイズドライバー……NEXT……」
「その名の通り、『ネクストファイズ』へ変身するためのファイズドライバー後継バージョンです! こちらをどうぞ!」
そう言ってダイアリンが渡してきたのは、『ファイズフォン20Plus』。
従来のファイズフォンはガラケーだったが、なんと20Plusはスマホになっていた。
……よく見ると、TOPSのロゴが付いている。
「型式番号TP-555P20。まだ試作品というだけあって機能の全てが使える訳じゃないですけど……それでも楽々オルフェノクをぶっ飛ばせるほどのスペックはありますよ!」
「なるほど……ちなみになんすけど、なんで『20』なんですか?」
「え? あー……なんか命名する時に、おぼろげながら浮かんできたんですよね、『20』という数字が」
「どういう事?」
「まあまあ、細かいこたいいじゃないですか! そんな訳で、ファイズドライバーをお貸ししますが、くれぐれも扱いは慎重にお願いします!」
半ば強引に話を打ち切られてしまった。
とにかく、これを使えば今までのファイズ以上のスペックを引き出せる『ネクストファイズ』に変身できるらしい。
どんなアプリがあるのか、起動して確かめようとしたところ。
「タクミくん」
「! 釈淵さん」
先ほどまで儀玄と瞬光と話をしていた釈淵がタクミの元へ来た。
「お体に異常はありませんか?」
「俺なら大丈夫です。一晩寝て完全に回復しましたから。……それより」
「……儀玄師匠となら、あの後改めて話をしたところです。あの時はああ言いましたが……少なくともあの剣棺がなければ、瞬光の身はさらに危険な目に遭っていた」
儀玄が作り出した剣棺は、しっかり機能はしていたのだろう。
だが始まりの主が目覚めた事により、徐々に効力を失っていった。
「……彼女は自身の姉を青溟剣により喪い、剣棺を作る事で封じ込め視界に入れないようにしてきた。陸衡舟は、その隙を狙ったのでしょう」
陸がしでかした事については、現在儀玄が責任を持って調査を進めているとの事。
釈淵の眼には先程のような憎しみはないが、それでも確かな怒りの感情が込められていた。
「彼女を責めることはしませんが……だからと言って陸衡舟や彼の企みに加担した弟子たち、そして彼らによって築き上げられてきた『栄光』を……僕は決して、許しはしないでしょう」
釈淵は近くにいる儀玄と瞬光の姿を見る。
「……釈淵さん」
「それと、もう一つ。貴方に話しておかなければならないことがあります。もう一人の貴方についてです」
「!!」
今回の異変の元凶は、間違いなく始まりの主によるもの。
そしてその始まりの主ともう一人の「タクミ」は決して無関係ではない。
一時期彼と共に行動していた釈淵は、「タクミ」から本当の目的を聞きだす事こそ出来はしなかったが……彼が今までした事の真相を知る事は出来た。
あの時起きたホロウ災害。
初めてファイズに変身した日の事。
その事実を聞いたタクミは、衝撃を隠す事が出来なかった。
「……あのホロウ災害は、アイツが引き起こしたものなのか……? オルフェノクは、そんな事まで……」
「これがオルフェノクの能力なのか、彼自身が固有するものなのかは……まだ分かりません。少なくともラマニアンホロウの拡張スピードを見るに、彼が無関係でない事は確かです」
このホロウの異変も、彼の目的のための通過点に過ぎないのかもしれない。
「……今回の異変の詳細については、市長さんからお話しするそうです。僕達も行きましょう」
「……はい」
釈淵の後を着いて行くタクミ。
(あの野郎……何が目的なんだ……?)
やがて、儀玄を始めとした雲嶽山の面々、そして他の陣営のメンバーたちも集まる。
市長が通話越しに話を始める。
『諸君、集まっていただき感謝する。アキラ君からすでに聞いたとは思うが……現在、ラマニアンホロウは他に類を見ない速度で拡張を続けている』
拡張を止めるには、根源をいち早く見つけ速やかに排除しなければならない。
『現時点の調査で、その元凶がホロウ最深部に潜む始まりの主の力である事が分かった』
「それを封じれば、ホロウの拡張を遅らせられるって事ですね」
「ああ。リン君の言う通り、それが最優先事項だ。そしてそれと同時に、衛非地区の住民たちが避難する時間も稼がねばならない。これに関しては、既に支援部隊を向かわせているが……到着には時間を要する」
被害を抑えるためには、避難誘導をしつつ、元凶をなるべく早く取り除くに限る、という事だ。
「ミアズマが集中している座標は、既に調べてある。そこに行って黒い花を排除しなければならない」
場所は五つ。
一つ目はイゾルデと戦った穢安の灯台の近く。
二つ目はワンダリングハンターと出くわし、タクミがオルフェノクとなった試験場跡。
三つめはかつて瞬光がいた鉱区跡地。
そして四つ目は、『始まりの主』の力が眠っているラマニアンホロウの最深部だ。
「五つ……? 兄ちゃん、前に聞いたときは四つじゃなかったか?」
「ああ……以前まではそうだった。けど、さっき新たにミアズマが集中している五つ目の場所がある事が発覚した」
「場所は?」
「それが……正確な座標が分からないんだ。というか、かなりの頻度でその座標がコロコロと変わってしまっている」
「その異常なミアズマの場所が、移動してるって事? なんで……?」
「五つ目の場所が、零号ホロウにあるからよ」
「え?」
声がした方を振り向けば、フードを被り、仮面をつけた少女がこちらに向かって歩いてきた。
タクミはその姿に見覚えがある。
鉱区跡地でこちらを見ていた、フードの少女だ。
そして彼女の声は、さらに聞き覚えがあるものだった。
『……? 君は何者だ?』
「現時点では、信用に値する貴方たちの友人よ。敵じゃないから、安心して」
「その声……アナタもしかして、蝶のオルフェノクさん……?」
「なんだと? お前もしかして、零号ホロウでも見た奴か……零号ホロウにあるってどういう事だ」
「言葉通りよ、乾巧。もう一人の『タクミ』は……零号ホロウとラマニアンホロウを繋ぐ裂け目を作って、その場所から密かにミアズマを活性化させていたの」
少女曰く、オルフェノクには作為的に裂け目を作り出し、異なるホロウを自在に行き来できる能力があるらしい。
それだけでも驚くべき事だが、その能力を使い、「タクミ」は零号ホロウからラマニアンホロウへ黒い花を使い、異常なミアズマを送り出していた。
仮に他のエリアの黒い花がなくなっても、零号ホロウを隠れ蓑にすればラマニアンホロウの異変が消える事はない。
「いわゆる隠しエリアって奴ね。裂け目の場所は、仮に座標が割れてもすぐに裂け目の場所を変えればいいだけ」
「なるほど……僕達が見つけた座標は、あくまでミアズマが漏れ出す裂け目の位置だったに過ぎないという訳か。どうりで頻繁に座標が変わるはずだ……」
「だが私達が零号ホロウで調査をした時は、黒い花がある場所は見つからなかった」
「そりゃあ見つからないようにしてるから当然でしょ? その場所はなんたって、零号ホロウの未踏エリアだもの」
「……なんでお前がそれを知ってるんだ?」
「零号ホロウで私と会ったでしょう? あの時、私は調べてたの。ミアズマが集中している、隠されたもう一つの箇所を」
オルフェノクにとって、ホロウは庭同然。
どれだけエーテル活性の高い場所でもオルフェノクはその影響を受けない。
故に、どれだけ深い場所でも調査に向かえるという訳だ。
『なるほど……君の言っている事は理解できた。だが、なぜそれを私達に教える? 君がオルフェノクという事は、もう一人のタクミ君が生み出したオルフェノク……つまり、彼の仲間という事だろう』
「まあそうね。新エリー都にいる全てのオルフェノクが、アイツによって生み出されたもの。けど……私だけは違うわ」
『?』
「私も、『生み出された』オルフェノクであることに変わりはない。でも……私を『生み出した』のは、アイツじゃない」
『ならば……君を作り出したのは誰だ?』
「……今言うのは、混乱させるだけだからやめておくわ。ただ、前に葉瞬光達に話した通り、敵じゃないって事は言っとく」
『…………』
フードの少女に、疑いの視線が向けられる。
やはり見ず知らずの怪しい人物をすぐに信じろと言うのは、無理があるだろう。
だが、今まで彼女が危害を加えてこなかったことも、事実としてある。
それに彼女が黒い花を消滅させていたのを、瞬光達は目撃していたのだ。
「……まあいい。お前さんが何者かは、この際置いておく。それよりも、お前さんはその『五つ目の場所』の正確な場所を知っている……という事で良いんだな?」
「ええ。なんなら、ラマニアンホロウから裂け目で直接その場所へ向かうこともできるし、そこにある黒い花を消すこともできる。どう、市長さん?」
『…………分かった。ここは、君の言う事を信じよう』
長い沈黙の末、市長はフードの少女を戦力として迎え入れる事にした。
『話を戻そう。五つのエリアの黒い花を処理するべく、この場にいる人間でそれぞれ手分けをする必要がある』
「ああ。他の場所はともかく、最深部エリアの『始まりの主』の力を封じる人選についてだが……」
「……それなら、ワタシが行きます!」
迷わず、瞬光は名乗り出る。
その瞳には依然として、迷いも恐怖もない。
「……瞬光」
「青溟剣とラマニアンホロウには、深いつながりがあります。だから青溟剣の剣主として、ワタシが行かないと……!」
『……やはり始まりの主の力を封印する役目は、彼女を置いて他にいないだろう。だが瞬光君も知っての通り、青溟剣の力には決して軽くない代償が伴う……本当に、いいのかね?』
「はい。何が起きても、覚悟はできてます」
栄光のための『生贄』ではなく、皆を守る『英雄』として。
瞬光は、自ら戦地に足を踏み入れる決断をした。
『……分かった。君がそう言うのなら、私は何も言わない。儀玄君も、異論はないかね』
「……私は」
儀玄は目を伏せ、少しの間沈黙する。
その表情には、自戒、悲しみ、後悔……様々な感情が入り組んでいる。
やがて──
「……私からも、異論はない。瞬光の意思を……尊重しよう」
「師匠……ありがとう」
「安心して! 瞬光は私がプロキシとして、しっかり連れ帰って見せるから!」
「ザオちゃんもいるよお。……仲間、だからね。連携はバッチリだと思うなあ」
「僕もお供させてもらおう。ラマニアンホロウの内部については、それなりに熟知している」
「……ああ。お前さん達を、信じよう」
リン、照、ロックスプリングも、瞬光の仲間として同行を名乗り出る。
『皆、感謝する。これから異変の解決にあたり、六つのチームに分けて行動する』
黒い花を処理できるのは儀玄、福福、潘、瞬光ら雲嶽山のメンバー。
そして無尾を扱う雅と、オルフェノクであるフードの少女。
彼女たちが各チームにつく事になる。
H.D.Dのアップグレードにより、リンを介して各チーム全員がホロウの外へ連絡が取れるようになったので、何かあった時の対策も抜かりない。
接続の安定のため、アキラはH.D.Dの通信のサポートを行う。
そして六つのチームだが……儀玄と釈淵、そして弟子たちは澄輝坪で黒い花の処理と避難誘導。
穢安の灯台エリアはオボルス小隊と福福。
試験場跡エリアは怪啖屋と潘。
鉱区跡地エリアには黒枝と雅。
そして最深部エリアでは……先ほど名乗り出たリン達が向かう事になる。
そして六つ目のチーム、零号ホロウへは……タクミ、乾、そしてフードの少女が向かう事になった。
「タクミ……この女、本当に信用できんのか?」
「……多分」
「そんなに信じられないなら、怪しい動きが見えた瞬間に殺してもらってもいいわよ。私自身、そんなに強くないし」
「…………」
そこまで言うのなら、ひとまずは信じるしかないだろう。
一体何者なのか、何が目的なのかは、あとでゆっくり聞くことにする。
「…………」
タクミは準備を進めている瞬光たちを見る。
今回は別行動となっているが、リン達ならきっと無事に帰って来れるだろう。
それに何かあっても、裂け目を使ってすっ飛んでいけば良い。
ふと、瞬光と目が合う。
──ワタシは大丈夫!
サムズアップと笑顔とともに、そんな彼女のアイコンタクトを受け取った。
タクミは安堵する。
この調子なら、大丈夫だろう。
「これより先は、各自の判断に委ねる! 皆、必ず無事に帰ってこい!」
儀玄のその一声で、五つのチームはラマニアンホロウへと向かって行った。
───────────────────────
ラマニアンホロウの入り口付近。
「それじゃ、零号ホロウに行くわよ。早く変身しちゃいなさい」
「分かってるよ」
タクミはダイアリンから渡されたファイズフォンとベルトを取り出す。
ファイズドライバーNEXTを装着し、端末を起動。
変身アプリのアイコンをタップする。
画面に表示されたテンキーに、変身コードを入力していく。
[5・5・5][Standing By…]
「……変身!」
タクミは新型ファイズフォンを、ベルトのバックルへとセットする。
[Complete]
「……!」
システム音声と同時に、ケータイ部分から細やかなフォトンブラッドの線が出現し、タクミの全身に、まるで血液のように巡っていく。
やがてその身体は赤い光につつまれ──タクミは、『ネクストファイズ』へと変身した。
大まかな部分はファイズそのものだが……胸部装甲は「Φ」の形となっており、肩にはアーマーが付いている。
さらに頭部にはバイザーが付いており、あらゆる細かい部分がファイズとは全く異なっていた。
「……これが」
「それが新しいファイズってやつか。前のとはずいぶん違うな」
「でもなんか、凄そうっすよ……! あ、そうだ」
タクミは何かを思い出したのか、懐からとあるものを取り出す。
その『とあるもの』を見て、乾は目を丸くした。
「……! お前それ……」
「乾さん、前は
「…………」
乾はタクミから
……彼は顔に、思わず笑みを浮かべた。
「……そうか。まさか、またコイツを使う日が来るなんてな」
乾は受け取った
錠剤型の『変身一発』を飲み……ガラケー型のデバイスを開く。
「お前の言う通りだ、タクミ。俺はやっぱり、こっちの方がずっとやりやすい」
[5・5・5][Standing By…]
流れるように変身コードを入力し、乾は閉じたデバイスを右手に握りしめ、高く掲げる。
そして──
「変身っ!」
それを勢いよく、バックルへセットした。
[Complete]
瞬く間に、彼の体はフォトンブラッドの赤いフォトンストリームと光に包まれる。
やがて、誰もが見慣れたものへと姿が変わる。
乾は──ファイズへと変身した。