他のチームと同様、ラマニアンホロウへと入った瞬光たち。
ホロウの地形情報に詳しいロックスプリングとプロキシであるリンが算出するルートに従い、目的地まで進んでいく。
程なくして、一行はとある場所にたどり着いた。
宙に浮かぶ、巨大な岩。
その中には、繭のような球体が埋め込まれている。
「……この岩、どこかで見たような──あっ!」
リン達は岩を見た瞬間、それがすぐに何なのかを思い出した。
以前鉱区跡地に訪れた際に、遠くから見えた巨大な岩。
それが、ラマニアンホロウ深部の鉱区にも存在していたのだ。
「この岩から、強大な力を感じる……最初見た時、これが何か分からなかったけど……」
「うん。十中八九、始まりの主と関係あるやつみたいだねえ」
「待って、これ……柚葉達が向かってる場所でも見た事ある……!」
試験場跡、穢安の灯台、試験場跡。
いずれの場所でも、リンは同じような岩が浮かんでいるのを見た記憶がある。
もしこの岩に始まりの主の力が流れているのだとしたら、放ってはおけない。
リンはアキラに通信を繋ぎ、浮かんでいる岩についてを伝える。
『──分かった。すぐに他の皆にも伝えておくよ』
「お願いね、お兄ちゃん。そう言えば、そっちの首尾はどう?」
『師匠や弟子たちのおかげで、黒い花の浄化は進んでいる。住民たちの避難誘導も、今の所スムーズに行えているみたいだ。……ただ』
「?」
『やはり……と言うべきか。タクミ達と通信が繋がらなくなった』
「……!!」
他のチームはH.D.Dを使ったリンとの通信を介し、ホロウ外のアキラと通信ができるようになっている。
だが、タクミ達が零号ホロウに入った事で、ラマニアンホロウにいるリンと通信が繋がらなくなってしまった。
一応想定していた事態ではあるが、やはりリン達からしたら心配で仕方がなかった。
「でももし何かあっても、蝶のオルフェノクさんがいるからすぐにホロウから出れるのよね?」
『ああ。ホロウの出口に通ずる裂け目を作って脱出ができるから、少なくとも手段がないわけじゃない』
「……前から思ってたんだけどオルフェノクって、ホロウに関してちょっといろいろチート過ぎじゃないかなあ。なんなの、『裂け目を作れる』って」
「あはは……確かに、プロキシいらずだよねぇ」
とは言え彼女曰く、裂け目を通った先は大まかな座標でしか指定できないらしい。
それでも侵蝕を受けなかったり、ホロウ内を自在に動けるというだけで至れり尽くせりというものではあるのだが。
「……ホロウを克服し、エーテルを意のままに操れる……長年ホロウの問題と向き合ってきた、人類の理想の進化形態と言えるかもしれないね」
「オルフェノクになる事が、『今』の人類にとって良い事なのかは分かんないけどねえ」
『まあとにかく、タクミ達の方は僕からも気を配っておく。リン達は引き続き、任務にあたってくれ』
「うん、分かった!」
通信を切り、目的地まで向かおうとした、その時。
「見つけたぞ、葉瞬光」
「!! アナタ達……!」
以前も見た、黒ずくめのスーツの男たち。
こちらを待ち伏せしていたようで、瞬光たちの行く手に立ちふさがるように現れる。
「さあ、とっとと青溟剣を渡してもらおうか」
「嫌よ! 前にも言ったけど、アナタ達に扱える代物じゃないのよ!」
「扱える扱えないはどうでもいい。俺たちはただ任務を遂行するだけだ」
「…………」
「……? 照ちゃん?」
照は静かに瞬光達の前に出る。
「悪いけど、手ぶらで帰ってもらえないかな? 今キミたちに渡すものはないの」
「……はっ。手柄の横取り、と言う訳か?」
「横取り?」
「そのウサギ女から何も聞いてないのか? ソイツは俺達と同じTOPSの人間。同じく『青溟剣の奪取』の命令を受けていた、お前らの敵だ」
「……! 照ちゃん、それ本当?」
「……うん、本当だよお。そもそも最初キミに会いに来たのは、それが理由だったんだよね。……ごめんね、今まで黙ってて」
TOPSの上層部から青溟剣を瞬光から奪うよう命令を受けた照。
当初照は、機会を見計らい速やかに彼女の青溟剣を持ち帰るはずだった。
しかし。
「オジサンたち。ザオちゃんは今回の命令には従うつもりはないよ」
「……ほう? 上層部に楯突くと、そう言いたいんだな。忠告しておくが、例えお前のような人間でも、上に逆らえば待っているのは破滅のみだ」
「だから何? たかが任務のために、ザオちゃんは友達も澄輝坪も、見捨てたりなんかしないから」
「……照ちゃん」
「馬鹿な奴だ。あの『常勝不敗』の裁決官が、情に流されるとは」
スーツの男たちは、じりじりと近づく。
「まあいい。お前がTOPSに逆らったとしても、それによって上層部が割を食ったとしても……今となってはどうでもいい事だ」
「……? どういう事?」
「俺は言ったな。ここへは『青溟剣を奪取しろ』と言う命令で来ていると」
「これは
「!!」
その瞬間。
リーダーの男の顔に、見覚えのある模様が浮かぶ。
彼だけではない。
周りにいた部下たち全員が、同じように顔に模様を浮かびあがらせた。
彼らは瞬く間に、その姿を変えていく。
「……!? まさか、オルフェノク……TOPSの人間じゃなかったの!?」
「いつの間にか、もう一人のたっくんにオルフェノクにされてたみたいだね……!」
即座に戦闘態勢に入る瞬光と照。
取り囲んでいたスーツの男たちは、一人残らずオルフェノクへと姿を変えた。
同時刻。
航空宇宙試験場跡にて。
「ほ……本当に来てしまったのだわ……」
黒い花の処理に向かっていた柚葉達の前に、突如現れた巨大な裂け目。
そこから、十数体のオルフェノクが姿を現した。
偶然遭遇したわけではない。
この邂逅が仕組まれたものである事は、誰の目から見ても明らかだった。
「チッ……あのいけ好かねえニセモンの事だ、どっかで横槍入れてくんだろとは思ってたけどよ……」
「どうやらおれ達は待ち伏せされてたみたいだな……ここは戦うしかないって事か」
四方から現れる裂け目からオルフェノクが次々と出現し、柚葉達を取り囲む。
「ふんだ! あたしのトラキアンの方がずーっと強いもんね!」
「ここで足を止める訳には行かないわ。手早く粉砕しないとね」
「よーし! 怪啖屋の底力ってやつ、見せちゃお!」
柚葉達は臆することなく、オルフェノクへ立ち向かっていく。
さらに時を同じくして、穢安の灯台付近。
「隊長……! 前方から、オルフェノクの少数部隊が向かってくるであります……!!」
「前方だけじゃないわ。また新しい個体が後方から出現した」
オボルス小隊のところにも、同じくオルフェノクの襲撃が。
「ワラワラ出てくるね~。アリさんみたい」
「数はおおよそ二十体前後でしょうか。私達で対処できる数ですね」
『ミアズマ兵士』よりも個体の戦闘能力が高く、一体倒すだけでもそれなりの戦力が必要になるだろう。
「あそこにいるのって、虎のオルフェノクですよね! 何てことないです、あたしの方がずっと怖いですよっ!」
『これしきで我々の足を止められるものか! 総員、戦闘開始だ!』
鉱区跡地にて。
雅達の元にも、同じようにオルフェノクの魔の手が襲い掛かった。
「なんと禍々しき気配よ。これもあの者が操る力の一端だと言うのか……」
「こう言う邪魔立てがいっちばん嫌なんですよねぇ。さっさとホロウを元に戻して帰りたいんですけど!」
「……何者であろうと、何体来ようと、関係はない」
雅は攻撃を仕掛けてきたオルフェノクを無尾で一刀両断する。
「立ちはだかるのならば、この刀で斬るのみだ」
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一方その頃。
零号ホロウの深部へと突入したタクミ達は、他のチームより一足早く黒い花の密集する地点へと到着していた。
気味の悪い事に、これまでエーテリアスやオルフェノクと出くわす事はなかった。
「……タクミ、通信は無理そうか?」
「……駄目っすね。いくらH.D.Dでも、零号ホロウとラマニアンホロウとで通信するのはやっぱ無理だったか……」
何度か接続を試みたが、アキラに繋ぐことはできなかった。
「もしダメなら、一回ホロウの外に出ればいいわよ。またすぐここに戻ってくればいいわけだし」
「……オルフェノクからじゃねえと聞けない提案だな」
それよりも今は、この黒い花を浄化しなければならない。
バタフライオルフェノクのエーテルを操る力で、花を消滅させられるはずだ。
……と、その時だった。
「?」
ファイズ達の前方に、人影が見える。
後ろを向いており、遠くから見ただけでは誰か分からない。
零号ホロウの、それも未踏の地に調査員などいるわけがない。
三人は警戒態勢に入る。
「…………」
やがてその人影は、こちらを振り向いた。
「……!! サラ……!」
ネクストファイズはその顔を見て、思わずつぶやく。
かつてもう一人の「タクミ」に殺害されたはずの彼女が、どういう訳かここにいた。
「……貴女、アイツに殺されたって聞いたけど」
「…………お前、まさか」
「……」
サラは一言も言葉を発さない。
だが、乾の言葉に応えるように──
顔に、模様が浮かび上がった。
「……!!」
サラの体は白い光とともに、瞬く間に変化していき……オルフェノクへと姿を変えていく。
それを見て……乾は絶句した。
「……お前は」
頭頂部から後頭部にかけて生えるたてがみ。
額から生える一本のツノ。
全身を覆う鎧。
そして、その両手に携えているのは……盾と剣。
『ホースオルフェノク』が、その姿を現した。