「……私達のやるべき事は、これで終わった訳ね」
「ああ」
ホースオルフェノクを撃破したファイズ達は、バタフライオルフェノクがいる場所まで戻って来た。
「さっき確認したけど、ここの黒い花は一つ残らず片付けたわ。後は──」
バタフライオルフェノクは上の方を見やる。
零号ホロウの赤い空。そこでに浮かんでいるのは謎の球体が埋め込まれた謎の巨大な岩。
タクミは、以前これが鉱区跡地でも見た事のあるものだという事を思い出した。
「……あの岩、ミアズマが漏れ出してる……?」
「じゃあ始まりの主由来のものって感じか……壊しとくか?」
「そうね。放っといても良い事はなさそう」
ネクストファイズはフォトンバスターモードのファイズブラスターを構え、狙いを巨大な岩へと定める。
そして──
「ふっ!!」
フォアグリップを引き、引き金に指をかけ、数発。
フォトンバスター弾を、岩目掛けて発射した。
「!」
轟音を立て、重力に逆らっていた岩が次第に崩れ落ち始める。
岩の中から高濃度のミアズマが溢れ出し、霧散していく。
やがて、浮いていた巨大な岩は完全に消滅する。
その瞬間、辺りにあったミアズマの気配がぐんと弱まるのを感じた。
「……やっぱり、ぶっ壊して正解だったみたいですね」
「これで俺達の任務は終わりだ。さっさと澄輝坪に戻るぞ」
「…………」
「……? どうした、タクミ」
「あ、いや……なんでもないっス……」
「……今、貴方の考えてる事を当ててあげる。葉瞬光たちの元に行くつもりでしょう?」
「!!」
『なぜそれを!?』と言った様子で、ネクストファイズはバタフライオルフェノクを見る。
そのリアクションと言い考えている事と言い、恐らくある程度親しい仲ならすぐに分かるだろう。
「行ってくればいいじゃない。貴方もオルフェノクなんだから、裂け目を作って移動する事はできるはずよ」
「…………」
「ほら、早く行ってきなさい。ラマニアンホロウまでなら送ってあげるから」
「……ありがとう」
バタフライオルフェノクはエーテルの裂け目を作り出す。
感覚がマヒしそうになるが、やはりとんでもない事をやってのけている。
「そう言えば、ずっとお前に聞きたかったことがあるんだけどさ」
「何?」
「お前の声、どっかで聞いたことがあるような気がするんだ。前に会った事が──」
「はいどーん」
「うわあっ!?」
最後まで喋る事すら許さずに、バタフライオルフェノクはネクストファイズを裂け目の中に突き飛ばした。
そのまま閉じられる裂け目。
「……じゃ、帰りましょう」
「……」
歩いていくバタフライオルフェノクに冷めた目を向けながら、乾も後に続いた。
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一方その頃、鉱区にて。
戦いの末、ようやくオルフェノクを全て退ける事に成功した瞬光達。
「二人とも、怪我はない?」
「ワタシは大丈夫……照ちゃんは?」
「ザオちゃんも大丈夫だよお。とは言え、さすがにちょっと疲れちゃったね」
「体力を摩耗させ、その隙を叩くのが『始まりの主』の考えなのかもしれない」
「だろうねえ。ま、ザオちゃんはそうなるほど弱っちくはないもんね」
と、その時。
アキラ、儀玄から連絡が入る。
『三人とも、大事はないか?』
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。瞬光達がオルフェノクを全部倒したから!」
『そうか……なら良かった。他のチームも、ちょうど今オルフェノクの討滅が完了したと連絡があった。黒い花があるエリアに到着したそうだ』
現在はその浄化と、ミアズマの影響により湧き出たエーテリアスの対処に向かっている。
瞬光達の周りにも、黒い花が密集している。
青溟剣を使えば一掃する事はできるが……目下、それよりも大事な任務がある。
瞬光は、近くにある坑道の入り口を見る。
「……あの入り口の先に、始まりの主がいる。青溟剣の力は、始まりの主を封印する時に使うのがいいかも」
『……ああ。少なくとも、今無暗に剣を振るう必要はない。無益な戦いは避けるようにしろ。無事を祈っているぞ』
「ありがとう、師匠。そう言えばアキラ、タクミ達のほうはどう? 連絡はついた?」
『……まだだ。きっと黒い花の処理の最中で──おや?』
「……? お兄ちゃん?」
リンがどうしたのかと聞こうとした、その時。
「──この世の微々たる悲鳴に、傾聴せよ」
突如、坑道の入り口から溢れんばかりの禍々しい光が輝きだした。
「……っ!? この光は……!!」
瞬光たちはその光を見て、すぐにそれが始まりの主によるものだと理解した。
そしてその光の下には、小さな影が一つ。
『始まりの主』の封印を解き放った、一匹のボンプがいた。
「始まりの主よ、永久の眠りより目を覚まし……穢れし人の世に顕現せよ……!」
「ろ、ロックスプリング……!? 何をしてるの!?」
「決まっているだろう。あのお方を、目覚めさせた……ついに、この時が来たんだ」
悪びれる事もなく、ロックスプリングはそう言う。
その表情は今までとは違う、冷酷で残忍な雰囲気を感じさせた。
「……っ、キミ、自分が何やってるのか……分かってるの……!?」
「ここにいる誰よりも理解しているよ。僕の目的は、最初からこうする事だったんだから」
「目的って……始まりの主が復活したら、新エリー都が無事じゃ済まないんだよ!?」
「怖がらなくていい。『救済』の過程において、これは必要な事なんだ。あのお方は、全人類に平等な幸福を与えてくださる」
無人区域で、ロックスプリングと瞬光たちは偶然出会ったわけではない。
始まりの主を目覚めさせるために、瞬光たちを利用したのだ。
先程ここで行われたオルフェノクとの戦闘。
そこで発揮された瞬光自身の力と青溟剣の力。
それが始まりの主を目覚めさせる引き金として利用されたのだ。
「あのお方が復活された暁には……君たちは二度と、悪意に苦しむ事はない。なぜなら──そんなんどうでもいいからさ、コイツらぶっ殺したほうが良くないか?』
「!!」
突如、ロックスプリングの声と人格が別人レベルに変わる。
『だってそうだろ? 不確定要素の下等生物なんか生かしといて何の得が──うるさい……!」
「ロックスプリング……どうしたの? まさか、何かに乗っ取られて……」
『乗っ取った? まっさか~! 僕たちは気の置けないパートナーさ!』
ロックスプリングから、聞き覚えのない男性の声が聞こえてくる。
陽気なその声からは、得体のしれない不気味さが垣間見える。
『警告! 対象のデータ内部から、独立した高知能データ体を検出。当該コア構造は、"規約"内の特定データソースと高い類似性を示しています』
「……! それってもしかして、Fairyと同じ……」
『……Fairy、だって? へえ……まさかここで同類に出会──今は、君が現れる時じゃない」
またいきなり声が変わり、元のロックスプリングに戻る。
……だが、その冷たいまなざしは変わっていない。
「ロックスプリング……どうしてこんな事を……」
「……君たちは気づいていないんだ。この世界は、取り返しのつかないほどに腐ってしまった事を」
醜い争いを起こし、利益の為に他者を傷つける。
他者を犠牲にし、のうのうと生きる人間がいる。
「君たち三人も、その犠牲者だ。一人は他人の都合で望まずして青溟剣の剣主となり、責任と苦しみに苛まれる人生を送る羽目になった」
「……っ!」
「一人は他者にただ利用され捨てられ、挙句に歪んだ価値観を植え付けられてしまった」
「…………」
「一人は恩師が無実の罪を着せられたうえに、自分まで不名誉な肩書を背負う事になってしまった」
「……! あんた、先生の事を……」
「君たちの事情は、多少なりとも知っている。だからこそ、君たちが受けた仕打ちに心底腹が立つんだ」
ロックスプリングに敵意はなく、同情とも言える視線を向ける。
本心から『可哀そう』と思うような、そんな心情が込められていた。
「いずれタクミも、その悪意の洗礼を受ける羽目になる。人ならざる者として排斥され、孤独になる運命が待ち受けているだろう」
「……! そんな事にはならない! タクミには、ワタシ達がいるもの!」
「そうだよ! 絶対独りにはさせないんだから!」
「君たちはそうだろうね。だが、それ以外は? この新エリー都に生きる不特定多数の市民たちの中には、彼を受け入れず排除しようとする者も出てくるだろう。君たちの『愛』はその『悪意』に勝てると、本気で言えるのかい?」
ロックスプリングは確信していた。
いずれ、タクミがオルフェノクだと知られた時。
悪意ある有象無象によって、彼のすべてが脅かされる。
最後には……誰も巻き込まない為に自ら孤独を選び、ホロウの奥に一人消えていくのだと。
「このままでは、全員不幸になる……けど、そうならない方法がある。君たちもタクミも、平等に救われる一つの方法──」
「──始まりの主の力で、人類のすべてがオルフェノクになる事だ」