ロックスプリングは、始まりの主のもたらす世界でオルフェノクだけの世界が作り出されることを望んでいた。
「人類はより良い方向へと進化すべきだ。自由意思を持たない、オルフェノクだけの世界にしてしまえば……より素晴らしいものとなる」
「自由意志を持たない……? 私達に、人形にでもなれって言うの?」
「この世界に根差す『悪意』や『穢れ』は……人の意思あってのもの。それがあるから争いは絶えず、いつまでも平穏が訪れないんだ」
意思がなければ争いや衝突は生まれない。
永遠の平穏と安寧を手に入れる事が出来ると、ロックスプリングは考えている。
「この方法を教えてくれた、もう一人のタクミには感謝しないといけないね」
「! やっぱり、アイツとも繋がってたんだ……」
ロックスプリングはリン達と出会うずっと前に、ホロウの無人区域で「タクミ」と出会っていた。
「ホロウを克服し、揺るぎない平穏な世界に作り直す。この『計画』を持って、僕は使命を果たす。ミス・サンブリンガーより与えられた、『人類を守る』使命を」
「っ……駄目だよ、ロックスプリング! あんたは利用されてるだけなの!」
「うんうん。少なくとも偽者たっくんは、世界を支配するつもりだって聞いたし。キミの言う『永遠の平穏』って言うのは、実現しないんじゃないかなあ」
「……僕と彼の目的は確かに違うかもしれない。けどあの方のお力に縋る以上、最終的に行きつく先は同じだ」
それ程までに、始まりの主の力は強大なもの。
協力者を出し抜き、その力を利用する事は、いくら「タクミ」でも不可能だとロックスプリングは断言した。
「すべては始まりの主の意思のままに。永遠の平穏が約束された、素晴らしい世界を実現しよう」
「……その世界は、本当にアナタにとっていいものなの?」
「どういう事かな?」
「確かに、この世界にはアナタの言う醜い部分もあるかもしれない。けど、そうじゃない部分だってある」
「…………」
「この世界は、アナタが思ってるよりも……腐ったものじゃないと思うの。だってワタシはこの世界で、暖かいものを沢山見てきた」
辛い過去を振り切れず、先の見えない今を生き、暗闇のような未来を憂う。
失うものを数え続ける、そんな夜を過ごした日もあった。
だがそれを生き抜いた先に、数え切れないほどの『愛』と『暖かさ』がある事を知った。
「アナタにも、きっと辛い事があって……それからずっと、ホロウで独りぼっちで歩いてきた。でも、これからはワタシ達がいるわ! ワタシが『愛』を皆に教えてもらったように、アナタにも──」
「……詭弁だ」
「え?」
「あまりに都合のいい、腹立たしい詭弁だ。君は味わった事はあるのか? その『愛』を教えてもらった人間の『悪意』を目の当たりにした、僕の気持ちが……!」
「…………!」
ここでロックスプリングは、初めて怒りの表情を見せる。
そこからすぐに我に返り、いつもの穏やかな表情に戻る。
「思い出してくれ。君を受け入れ、『愛』を教えてくれた雲嶽山の人間の一部は……その実、青溟剣の犠牲になる生贄の選定のために動いていたに過ぎなかった」
「……」
「それこそが滅ぼすべき『悪意』だ。誰かの都合の為に、誰かが犠牲になるこの世界を……僕は良しとしない……!」
「! ロックスプリング……!」
ロックスプリングはそのまま坑道の奥──始まりの主が眠っている場所へと走っていった。
すぐさま追おうとした、その時。
『グォオオオオオ!!』
「……!!」
背後から轟く、エーテリアスの悲鳴。
振り返れば……上空に浮かぶ巨大な岩から、無数のエーテリアスが生み出されていく光景が。
「……岩から、エーテリアスが……!」
『リン! 緊急事態だ!』
通信が一時的に途切れていたアキラから、再び連絡が入る。
『たった今、ラマニアンホロウの活性値が急激に跳ね上がった! 拡大速度も、爆発的に上がっている……!』
「お兄ちゃん! こっちも、沢山のエーテリアスが……!」
『なんだって……! やはりラマニアンホロウの異常とあの岩は、関係が……』
「こっちに来るよ! リンちゃん、下がってて!」
エーテリアスの群れは、瞬光たちを視認すると目にも留まらぬ速さで襲い掛かった。
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同時刻、試験場跡にて。
巨大な岩が浮いているエリアまで辿り着いた柚葉達は、瞬光たちと同じくエーテリアスとの乱戦を強いられていた。
「もうお代わりは良いって! しつこ過ぎるでしょ……!」
「野郎……キリがねえじゃねえか……!」
一体一体の強さは大した事はなくとも、長期的な戦いを二度に渡って強いられれば、体力の限界も近くなってくる。
終わりの見えない戦いで、体力切れを狙う。
それが『向こう側』の狙いなのだろう。
「……!!」
エーテリアスを数体倒したその時。
虚空から裂け目が出現。
(……まさか、エーテリアスに加えて、またオルフェノクが……さすがに、ちょっとマズいかも……?)
今闘っているエーテリアスの十五倍ほどは強いオルフェノクが、再び来る。
せめて背後は取られまいと、一行は神経を研ぎ澄ませ奇襲を警戒した。
やがて裂け目から飛び出たのは──
[Exceed Charge]
「……え?」
───フォトンブラッドエネルギーによる、赤い衝撃波だった。
衝撃波により、複数体のエーテリアスが動きが封じられる。
その直後、裂け目から人影が飛び出し──
「たああっ!!」
ファイズエッジを持ったネクストファイズの『スパークルカット』が、エーテリアスを一網打尽にした。
「た、タクミ……!? なんでここに……」
柚葉の声に応えることはなく、続けてネクストファイズはリュシアがちょうど召還していたファールバウティの上に飛び乗る。
「おわあ!?」
驚くリュシアをよそに、ファイズフォン20の液晶画面のアイコンをタップ。
[Faiz Shot, Materialize]
[Exceed Charge]
ファイズショットを装備した後、間髪入れずに『Φ』アイコンをタップし、二度目のエクシードチャージ。
ファールバウティを高台に、大きく飛び上がり──
「おらあっ!!」
周囲のエーテリアスの群れがいる地面目掛け、渾身の力で『グラウンドインパクト』を炸裂させた。
フォトンブラッドの衝撃波と地震により、エーテリアス達は派手に吹き飛ばされる。
残っていたエーテリアスも真斗達の手で倒され、ひとまずエーテリアスの波を抑えることはできた。
「…………」
「タクミ!」
武器を納めたネクストファイズの元に、柚葉達が駆け寄って来た。
「柚葉、それに皆……」
「びっくりしたよ〜、いきなり出てきて暴れだすんだもん。まさかタクミにサプライズされる日が来るなんてね?」
「いや、サプライズのつもりはなかったんだけど……」
「タクミ、なんでここに? 零号ホロウに行ったって聞いたけど」
「……つーかお前、そもそも一人でどうやってここに来たんだよ」
「あー……その、簡単に説明すると」
バタフライオルフェノクによってラマニアンホロウに送り返されたタクミ。
見様見真似で、彼女がやっていたように裂け目の移動を使い、ここまで来た。
……いや、来てしまったと言うべきか。
と言うのもタクミは本来、リン達の元に行くつもりだったのだが……裂け目の先の座標がなかなか思い通りにならず、何度か試行した末にここに辿り着いたのだ。
「じゃあ、わたし達の所に来たのは偶然って事かしら?」
「そういう事になるっす……多分」
「ま、タクミのおかげで一時的にだが余裕が出てきた。ありがとさん」
「……その、お礼は大丈夫です。本当に偶然来ただけっすから」
たまたま柚葉達がいる場所に来てそのまま暴れただけなので、お礼を言われるのはむずがゆい。
「話には聞いてたけど、オルフェノクってホントエーテルに関する事ならなんでもできるんだねえ。ねえ、あたしの力と合わせれば、あのニネヴェも作れるんじゃない!?」
「作ってどうするんだよ」
「……なんてこと」
「? アリス?」
アリスがネクストファイズの方を見てつぶやく。
「タクミ……どうして、どうして胸部だけがアシンメトリーなの……!?」
「知るか! 俺に聞くな俺に! てかそれより!」
ネクストファイズは浮いている巨大な岩を指差す。
「あれ、早めにぶっ壊した方がいい! 零号ホロウにもあったけど、あれを壊したらホロウの拡大も少しは抑えられるはずだ!」
「ぶっ壊した方がいいものだっつーのはここに来る前にアキラくんから聞いたけど──って、おいマジかよ……!」
そう言った傍から、再び岩から無数のエーテリアスが湧き出てきた。
「さて、休憩タイムは終わりだね……タクミ! アイツらは柚葉達が相手するから、その隙に貴方があれを壊しちゃって!」
「……! 分かった!」
[Faiz Blaster, Materialize]
間もなくして、再びエーテリアスとの戦闘が始まる。
[1・0・3][Blaster Mode]
ネクストファイズはファイズブラスターを装備し、フォトンバスターモードに切り替えた後、構える。
銃口をミアズマが漏れ出す岩の方へと向け、引き金を引く。
「はあっ!!」
銃口からフォトンバスター弾を連射し、岩を破壊。
零号ホロウの時と同じように、完全に消滅した。
「よし、壊したぞ!」
「ありがと! 後は……っ、柚葉達に任せて、リンちゃんのとこに行ってあげて!」
傘で攻撃をいなしながら、柚葉はタクミに伝える。
「あと分かってるとは思うけど、ぜーったい無茶はしないでね!」
「分かってる!」
「じゃないと今までの比じゃないくらいのレベルのいたずらしちゃうからね!」
「勘弁してくれ!!」
半ば懇願するように叫んだあと、ネクストファイズは能力で裂け目を作り出す。
そのまま中へ飛び込み、試験場跡から姿を消した。