ファイズドライバーが『虚狩る戎具』の一つ。
その事実をロックスプリングから聞いた瞬光たちは、衝撃に言葉を失った。
「……それは本当なの? ロックスプリング」
「本当さ。実際に百年前……初代虚狩りの中には、ファイズドライバーを使い戦う、『先代』のファイズがいたんだ」
「初代虚狩りの中に……? でもそんな話、ザオちゃん今まで聞いたことがないよ?」
「無理もないと思う。なぜならファイズという存在は──」
「──百年前に一度、歴史の闇に葬られてしまったからだ」
「! 歴史の、闇に……」
「ファイズに関する全てが、皆の記憶から消えていった。先代の変身者の存在も名前も全て忘れ去られ、二度と思い出される事はなくなった」
同じ初代虚狩りの仲間の記憶からも、その存在は綺麗さっぱり消し去られた。
なぜそうなったのか、何が原因なのかも……誰ももう分からない。
「ただ前にも話した通り、僕の記憶モジュールの中に辛うじて、『ファイズがいた』という記録だけは残っていた。それでも、誰が変身していたのかまでは分からない」
「ま……待って。もしファイズドライバーが、『虚狩る戎具』の一つなら……!」
「……そうだね。詳細は分からないけど、青溟剣と同じく、ファイズドライバーにも重い代償が付いているはずだ」
瞬光たちは青ざめ、ネクストファイズの方を見る。
その反応も無理はないだろう。
皆が、あるいは本人ですら知らぬ間に、重い代償をその身に受けていたのかもしれないのだ。
だがその懸念を、ロックスプリングは否定する。
「安心してくれ。『今』のファイズドライバーは、代償が完全に抑えられている。少なくとも今、タクミが何かしらの代償を背負っている事はない」
「……!」
「ただ、同時に本来の力もしっかり抑えられているけどね。今のファイズドライバーが引き出す力では、本来のファイズの力とは月とスッポン程の差がある」
「だから引き出すんだ。ファイズの本当の力を……始まりの主の手で」
「!!」
穏やかだったロックスプリングの表情が一転、邪悪なものへと変貌する。
彼の言葉を聞いたネクストファイズは……以前対峙した、イゾルデの言葉を思い出した。
『そのベルトは、戦うためのものではない。始まりの主が降り立つ
『君はベルトの本来の力を発揮していない。君の手には余る代物だ。だが、それを渡しさえすれば……そのベルトは役目を果たすことができる』
(イゾルデ大佐が言ってたのは……そういう事だったのか)
「さあタクミ。『王』となり、あのお方の元までベルトを持ってくるんだ。君なら容易い事だろう」
「……断る」
「どうしてだい? オルフェノクだけの世界を作れば、人類がホロウに悩まされることもなくなるのに」
「今の世界を全部壊してまでそうするつもりはないって言ってるんだよ。ロックスプリング、お前は人類を守る事が使命なんだろ? なんでその人類を滅ぼそうとしてんだ」
「滅ぼしたいわけじゃない。僕は『人類』を、正しい方向に導きたいだけだ。そうする事で、僕は本当の意味で『守る』事が出来る」
「!!」
その時、ロックスプリングの頭上から巨大な影が飛来してくる。
それはロックスプリングの、戦闘用巨大ロボだった。
彼はそのまま、ロボへと乗り込み操縦を開始する。
「君たちが、それでも従わないと言うのなら……仕方がない。僕は文字通り死力を尽くし、君たちを止めよう」
「ロックスプリング……!」
「瞬姐さん、二人と一緒に始まりの主のとこに行け! 時間稼ぎはさせない!」
「え……!?」
ネクストファイズはファイズブラスターを構える。
「俺はこいつと『話し合い』をする! だからやるべき事をやってこい!」
「ま、待ってよ! 一人で相手するつもり!?」
「ここで時間を無駄にしてる場合じゃないだろ! いいから行け!」
「で、でも……!」
「二人とも、たっくんの言う通りだよ。手遅れになる前に、始まりの主を止めなきゃ」
「……っ」
二人はしぶしぶ了承し、奥の方へと走っていく。
ロックスプリングがそれを止めようとしたが、ネクストファイズがそれを阻止した。
「……ロックスプリング。お前がそうまでして、世界を変えたがる理由はなんだ。なんでそんなに、この世界を恨んでるんだ」
「……知ってしまったからさ。人間が、どれ程までに醜い存在なのかを」
かつてのロックスプリングも、他のボンプと同じく純粋に『人類を守る』事を使命とし、生きがいとしてきた。
だが、ある災害があった日……その認識は変わった。
「僕が仕えていたご主人は……子連れの女性から救援物資を奪うために、僕に女性を撃てと命令した。当然、コアの禁令だったから、僕は命令に従えなかった」
『非武装の人間に銃口を向けてはいけない』という、コアの禁令がロックスプリングを止める。
だが男は自分が生き残るため、ただそれだけの為に……目の前の命を滅ぼせと、残酷な命令を下した。
挙句の果てには、女性から無理やり物資を奪い取ろうと暴力を振るった。
「僕が今まで仕えてきた人間は、己が身可愛さに平気で人を切り捨て、傷つけるような生き物だと……その時知ったよ」
そしてロックスプリングは、禁令を無視し……女性に向けてではなく、自身が仕えていた主人を撃ち抜き殺害した。
「……これで分かっただろう。今の人類は、これほどまでに醜い。このままでは、この世界はより一層悪くなるばかりだ」
拳を強く握りしめ、ロックスプリングは話を続ける。
「だからこそ、人類を統治する始まりの主の存在が必要なんだ。もう誰かの都合で、誰かが犠牲にならなくて済む。……だから、そこをどいて欲しい」
「……お前の言い分は分かったよ。お前には、お前の考えがある。でも……それは俺達も同じだ」
ネクストファイズは俯いた後、ロックスプリングの方を見る。
「確かにこの世界は過酷で、生きていくだけでも大変だ。お前の言う醜い部分だって沢山ある。誰だって、不幸になんかなりたくない」
「……それなら、なぜ」
「今まで、見てきたんだ。生き辛い世界で、人の醜い部分を目の当たりにして、望んでもねえ不幸がやって来て……それでも生き続ける人たちを」
「…………」
「そんな人たちの生き様を、今までしてきた選択を……なかった事にはしたくない」
ロックスプリングと同じような目に遭い、裏切られた人も、この世界にはいるのだろう。
未来が見えず、生きる事に耐えられなかった人も……中にはいるはずだ。
それ程までに、この世界は辛いものだと、タクミも分かっている。
「けどな、そんな世界でも……きっと光があると信じて暗闇の中を突き進む人間もいるんだ。瞬姐さんたちみたいにな」
「……先の視えない未来に、あえて身を委ねると? 理解できない……僕には、そんな事できやしない……」
「俺だって、昔はできないって思ってたよ。お前が考えてた事も……本当は分からないわけじゃないんだ」
この世界での歩き方など、あの時病に臥せていたタクミは知らなかった。
しかし。
「俺はその歩き方を、大切な人達に教えてもらった。先の視えない道だろうと、大切な誰かと一緒いれば……がむしゃらにでも歩く事が出来る」
「…………」
ロックスプリングはネクストファイズの言葉を聞き、俯く。
「……綺麗事だ。僕にはそんな存在、一度だっていなかった」
「ああ。だからお前は、不運にも歩き方が分からなかった。道を間違えても、正してくれる奴がいなかった」
もしタクミにそんな存在がいなければ……きっとロックスプリングと同じ、もしくはそれ以上に歪な道を歩む事になっていただろう。
だがそんな存在がいたからこそ、タクミは道を間違えずに済んだ。
「……君は怖くないのか? オルフェノクを受け入れない人が、いつか君を傷つけるかもしれないのに」
「受け入れてくれる人がいる。だから、怖くないんだ。おかげさまでな」
過酷なこの世界だからこそ、支え合い、共に生きていく。
それこそがロックスプリングが守るべき、人類の姿。
「多分、口で言うだけじゃ分かんないよな。お前も俺達と一緒に来たら分かる。人類は……この世界はまだ、捨てたもんじゃないってな」
「…………」
戦闘態勢になっていた戦闘ロボは、ゆっくり両手を下ろす。
「……ミス・サンブリンガー」
そしてロックスプリングは、静かにその名を口にする。
闇を目の当たりにしようとも、光を目指し突き進む、人類の強さ。
ロックスプリングはロボから降り、静かにネクストファイズの元まで歩く。
「……信じても、いいのかい?」
「ああ」
「……僕は──ッ!!」
突然の出来事だった。
ロックスプリングの体が突然硬直し、その場に倒れ伏せてしまう。
ネクストファイズは駆け寄り、その小さな体を支える。
「ロックスプリング!」
「……ごめん。僕に残された時間は、そう多くはないみたいだ。元より僕は壊れかけのボンプだったんだ。近いうち、こうなる事は分かっていた」
「……!」
「……あと少しで全ての機能が停止し、僕の命は尽きる。そうなる前に、頼みたいことがある」
ロックスプリングは、ネクストファイズの指を握る。
「証明して欲しいんだ。僕が守りたかった人類は、力に満ちた存在であると。始まりの主に頼らずとも、運命を切り拓く事が出来るという事を」
「……分かった。なら、見ててくれ」
「…………ありがとう」
ネクストファイズは、今にも壊れそうなロックスプリングを静かに地面に横たわらせる。
そして、そのまま瞬光達が向かった場所へと走って行った。
周りに聖人しかいなくて闇堕ち出来ない系主人公