道を進んだ先。
瞬光達が繭の球体の向こう側にあった狭い道を抜けると、大広間に出た。
先程ロックスプリングといた空間よりも禍々しく、始まりの主の気配もより強く感じられる。
この空間こそ始まりの主が眠る場所だと、瞬光は直感で分かった。
そしてその空間で彼女たちを待っていた、一人の少年。
「……よく来たね、皆」
タクミと全く同じ顔をしたその人物は、極めて穏やかな様子で瞬光達を出迎えた。
「アナタの企みは終わりよ! アナタや始まりの主に、世界は好きにさせない!」
「……残念だけど、一足遅かったかな」
「タクミ」は笑みを浮かべる。
「始まりの主はもう目覚め、僕と一つになった。君たちが逆立ちしようとも、もう僕と始まりの主を分離させる事はできない」
「分離させなくとも、キミごと始まりの主を封印しちゃえばいい話だよねえ」
「各地にあった浮いてるデカい岩も黒い花も、全部消えたよ。もう思うように、あんたは力が出せないんじゃない?」
「岩? 花? ……ああ、あれか。いやあ、正直びっくりしたよ」
「まさか
「……時間、稼ぎ……!?」
焦った様子を見せることなく、「タクミ」は頷く。
まるで、全ては想定内だったと言わんばかりに。
「まあ普通はそう思うよね。ミアズマの異変は突如発生した黒い花やら巨大な岩やら。それらが原因だって。確かにあれは僕が創ったものだし、それがホロウの異変の原因の一端を担っていたのは事実だ」
「タクミ」は話を続ける。
「でも、残念。それを消したところで、焼け石に水でしかないんだ」
「どういう事……?」
「君たちが白い花でてんやわんやしてた時からすでに、僕と始まりの主の力は一つになり始めていた。異変の本当の原因は最初から最後まで、それ一つだったんだ」
巨大な岩も黒い花も、「タクミ」が始まりの主の力を得るためのカモフラージュに過ぎない。
そしてそのカモフラージュは、彼が始まりの主の力を得るのに充分な力を与えた。
岩から感じた始まりの主の気配はあくまで『残り香』。
ホロウの異変の原因となっていたその元凶は、全て彼の中にあった。
「ホント、無駄足だったよね。さっさと僕の居場所を割り出して、さっさと倒しとけばそれで良かったのに。ま、そうさせないようにデコイを作ったんだけどね」
「……!!」
「"繭"の中で、色々見させてもらったよ。君たちが奔走する姿を」
「タクミ」は穏やかな笑みを浮かべている。
そしてその表情が一瞬で、醜悪なものに変わった。
「デコイだとも知らずに青溟剣を使い五感を失った……その健気な姿もね」
「……っ、あんた……ッ!!」
リンは激昂し、「タクミ」の元まで殴りかかろうという勢いで駆け寄ろうとするが、照に止められる。
「リンちゃん、気持ちは分かるけど落ち着いて! 怒ったら、アイツの思うつぼだよ!」
「……!!」
「瞬光ちゃんも、冷静にね。怒りに支配されちゃダメ」
「……大丈夫よ、照ちゃん。ワタシは怒ったりしない」
「だってもう既に、怒ってるから。ここに来る前から、ずっと」
彼女は静かに剣を構え、「タクミ」の方を向く。
「…………」
「ワタシ、最初からアナタを許す気なんてないの。町をホロウで飲み込もうとしている事、今まで沢山の人を犠牲にした事。そして──」
「──ワタシの大事な弟弟子の、姿を騙った事」
確かな怒りと、町を救う決意。
それらを掌に込め……瞬光は、剣棺から青溟剣を抜いた。
「瞬光……」
彼女の体は光に包まれる。
髪は瞬く間に鮮やかな白色になり、かつて見たもう一人の瞬光と同じような姿に変わっていく。
「タクミ」はそれを目にした後、彼女の変化に合わせるように……自分自身の姿を変える。
顔に模様を浮かべ、体がオルフェノクのものへと変化する。
茶色い身体に、黒いマフラー。
そしてバッタのような顔。
タクミが変身するホッパーオルフェノクとはまた違う──『ローカストオルフェノク』へと、姿を変えた。
「……ひどいなあ、葉瞬光。僕も本物のタクミなのに」
「アナタはタクミじゃないわ。本物はワタシが知る……あのタクミだけ」
青溟の力により生み出された無数の剣。
その切っ先が、ローカストオルフェノクへ向けられる。
そして。
「雲嶽山、葉瞬光。この剣を以て──邪崇を討ち払う!」
まるで雨のように、一気に降りかかった。
「……!!」
その剣の雨は、瞬く間にローカストオルフェノクの体を串刺しにする。
体から青い炎が噴き出し、彼は瞬く間に灰と化した。
「…………」
その直後、瞬光は青溟剣を虚空へ向ける。
「身代わりなんて卑怯な真似、ワタシにはお見通しよ」
「へえ……ま、そりゃ不自然だって思うか」
剣を向けた先。
裂け目が現れ、先程消えたはずのローカストオルフェノクが姿を現した。
「……さっきのは偽物?」
「いや、本物だよ。さすがの僕でも、完全に覚醒しきってない状態だと青溟剣の剣主サマには勝てっこない」
「──でもそれは一体だけなら、の話さ」
「!!」
彼がそう言った瞬間。
彼の後ろから無数の裂け目が現れる。
……その裂け目から
一体だけではない。
五体、十体、五十体、百体。
広い空間を覆いつくさん程の『ローカストオルフェノク』が、姿を現した。
「まさか……分身!?」
「ご名答。いわゆる人海戦術ってやつ。まあ、軽く百数十体はいれば、なんとかなるんじゃないかな。剣主を殺せば、あとは野となれ山となれってね」
「…………」
「──いかにも、お前らしいやり方だな」
「!」
その時。
背後から聞こえてきた声に、瞬光たちは反射的に振り向いた。
通路の暗がりから、黄色い複眼と赤いフォトンストリームが光る。
ファイズブラスターを担ぎながら、ネクストファイズが瞬光達の元へやって来た。
「……タクミ!」
「あー……君も来たんだね」
「久しぶりだな、自称俺。しばらく見ないうちに、陰険な偽者らしい風格が出てきたじゃねえか」
「…………」
ローカストオルフェノクはネクストファイズの挑発には何も答えない。
「タクミ、ロックスプリングは? 戦いは終わったの?」
「戦いじゃない。言っただろ、"話し合い"をするって。それも終わったし、後は──」
ネクストファイズは瞬光の隣に立ち、ファイズブラスターを構える。
照も身の丈に合わない巨大な剣を背負い、反対側の隣に立つ。
「あの野郎をぶっ飛ばして、全部おしまいだ」
「そうそう。オシゴト終わったら、ザオちゃんごちそうでも食べたいなあ。いいでしょ?」
「タクミ……照ちゃん……」
瞬光はタクミと照を見た後、後ろにいるリンを見る。
リンも瞬光たちに全てを託すように、強く頷いた。
「……うん! 皆がいるなら……ワタシ、負けない!」
青溟剣を再び握り直し、戦闘態勢に入る。
他の二人も武器を構え、ローカストオルフェノクへと向き直った。
「……なんとも、胸が熱くなるね。もし僕が倒せるラスボスなら、ここから力を合わせて勝つって言う王道展開だったのにね」
ローカストオルフェノクの分身体も、戦闘態勢へと入る。
その瞬間、ただでさえ濃かったミアズマの瘴気がより濃いものとなる。
「忘れないで欲しいな。今の僕には始まりの主の力もあるって事。申し訳ないけど……君たちじゃ、何もできないよ」
中心に佇む、ローカストオルフェノクは静かに腕を上げる。
「じゃあ、さようなら」
彼のその言葉を皮切りに、百数十体のローカストオルフェノクが一斉に三人に向け襲いかかる。
まさにイナゴのように獲物を喰い尽くそうと、その牙を剥いた。