『404』へ
ある日、福福たちと一緒に昼飯を食べていた時の事。
「……あ、そうそうタクミくん、瞬光ちゃん! お師匠さまからお話は聞きましたか?」
「え? 特に何も……どうしたの?」
「今朝、お師匠さまに教えて貰ったんですけど……なんと今年の『点灯式』、澄輝坪でやる事になったらしいんですよ!」
黄金の日に毎年必ず行われる『点灯式』。
瞬光が虚狩りになったのもあってか、その式がどうやらこの町で開催される事になったとの事。
「雲嶽山の人たちで、『華歳の灯』を術法で照らす……みたいな事をやって欲しいそうですっ! その点灯式には、『歌姫セルシー』が電撃復帰するって噂もあるんですよ!」
「『歌姫セルシー』……確かだいぶ前に引退した人だよな?」
「そうですっ! タクミくんは術法は使えないのでできませんけど……とにかく綺麗だと思うので、見て欲しいなって!」
「点灯式かあ……ワタシにできるかな……? 皆の前でやるんでしょ?」
「もちろん! 一年に一度ですし、この機会は逃せませんよっ! 二人は予定とかはない、ですよね……?」
「ワタシは特にないけど……タクミは?」
「俺は……」
点灯式は黄金の日の夜頃にやるらしい。
その時間帯は……タクミにとって外せない用事があった。
「ごめん、福姐さん。点灯式は行けないかもしんない」
「「えっ?」」
福福と瞬光から、同時に声が出る。
そして信じられないと言った表情を、同時にタクミに向けた。
「実はな。俺の友達が、六分街の『404』ってとこで初めてのオフラインライブをする事になったんだ。そのライブの日にちが、同じ黄金の日なんだよな」
「そのライブを見に、六分街に帰るって事……?」
「ああ。どうしても観に来て欲しいって、だいぶ前にそのチケットも貰ったんだ」
「「…………」」
瞬光と福福は顔を見合わせる。
嘘はついていない。
ただ本当に友達のために、そのライブに行こうとしているのだろう。
前からされていた黄金の日の『約束』。
タクミはそれを優先したに過ぎない。
それは二人も分かっているが、黄金の日は当然タクミも一緒にいるものだと微塵も疑っていなかっただけに、そのショックはかなり大きかった。
「た、タクミくん……本当に、行っちゃうんですか……? 黄金の日は、いつもより何倍も豪勢な料理が並ぶ日なんですよっ?」
「そ、そうよ! ワタシも、タクミや福姐さん達の為に、潘さんと一緒に腕を振るって御馳走しようって……」
「おい落ち着け……別に点灯式には行けないってだけで、夕食の時はちゃんと帰ってくる」
と言うのも点灯式とタクミが行く妄想エンジェルのライブは、時間帯がほぼ被っている。
宴会の途中からにはなるかもしれないが、ライブが終わり次第澄輝坪に帰るつもりだ。
「……あれ? でも、六分街と衛非地区って結構距離ありますよね? 帰って来る間に、宴会終わっちゃいますよ……?」
「それに関しても大丈夫だ。
『近道』と言うのは、言うまでもなくオルフェノクの力を使う事だ。
まず六分街から一番近い共生ホロウに入り、そこから裂け目を使いラマニアンホロウへ直接移動。
そのままラマニアンホロウから出れば、十五分もかからずに澄輝坪へと帰ることができる。
オルフェノクにしかできない『近道』である。
「だから黄金の日は、ちゃんと福姐さん達と一緒にご馳走を食べられるはずだ」
「そ、それなら……良かった」
胸を撫で下ろす瞬光と福福。
タクミの言う通り、余程の事がない限りは、黄金の日の夜は適当観で過ごす事が出来るだろう。
……黄金の日間近に限って、厄介事などが舞い込んだりしない限りは。
「あ、いた。タクミ!」
昼食後、部屋で過ごしているとリンが入って来た。
「姉ちゃん。どうしたんだ?」
「いきなりで悪いけど、すぐに支度してくれない? 今から六分街に戻るから」
「え? なんか用事あるのか?」
「えっとね……実はさっき、大事な依頼が来ちゃって。すぐに戻らないといけないの」
既に外出の準備をしていたリンはタクミにそう言う。
「……分かった。それって今日中に終わるやつか?」
「んー、多分──」
「多分?」
「多分、無理かも!」
「…………」
……適当観に残るよりかは、依頼を手伝った方が早く終わるかもしれない。
黄金の日までには間に合えばいいなと、タクミは淡く儚い期待を抱いた。
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六分街に帰る途中、タクミはアキラから依頼の詳細を聞いた。
どうやら明日の夜、ジェーンがビデオ屋へ来る予定らしい。
と言っても別にビデオを借りるわけではなく、あるものをパエトーンに渡すためだとか。
あるものが何かなのは聞かされていないが、とにかく治安局側は一刻も早くパエトーンと協力関係を取り付けたいとの事。
「……何の為に?」
「詳しい事はジェーンさんも聞かされてないと言っていた。タクミは、ここ最近で起きている知能構造体の暴走事件の事は知っているかい?」
「暴走事件……ニュースでちらっと見たな」
「ジェーンさん曰く、依頼人はとある違法な『AI』と、その事件に関連性があるのではと疑っているらしい」
「違法AIってのは……もしかして」
「うん。多分、ロックスプリングの中から検出された、高知能データ体の事なんじゃないかって思ってる。断言はできないけどね」
タクミはその『高知能データ体』と話をしたわけでも会ったわけでもないが、リンから以前その話を聞き、存在だけは知っていた。
ローカストオルフェノクを撃破し、ロックスプリングが息絶えた後……彼の行方はつかめないでいたのだ。
六分街に到着し、Random Playへ帰って来た三人。
道着からいつもの服へと着替え、ジェーンの到着を待つ。
と言っても来るのは明日の夜なので、それまでやる事はない。
だが依頼が依頼なため、不測の事態はいつ起きてもおかしくない。
ビデオ屋で待機するのが最善だろう。
そう思い、部屋で休んでいたその時。
「タクミ、ちょっといい?」
「?」
部屋のドアからリンが顔を出す。
「トワちゃんからお願いされて、今からビデオを届けに行くんだけど……一緒に行く?」
「いいけど、どこに行くんだ?」
「すぐそこだよ」
「ライブハウスの『404』ってとこ!」
「…………」
その名前を聞き、タクミの思考が一時停止する。
『404』はまさに、妄想エンジェルのライブが行われる場所。
訳あって、彼女たちに素顔を見せられない状況のタクミは、考えを巡らせる。
「……タクミ? どうしたの?」
(……今日は黄金の日じゃないし、三人と鉢合わせる可能性は低い──いやでも、リハーサルしてる可能性だってあるよな)
「ちょっとタクミ? 聞いてるの?」
(けど、ビデオ届け行くだけなら問題ないか? 長居しなければ……でももしもの事もあるし、ここは留守番しとくのが安牌か……?)
リンの声も届かず、ひたすら考えにふける。
(……あの方法が通用するか、確かめとくか)
あの方法。
ファンクラブリーダーであるコサンから貰った、あのお面を被れば……タクミである事は気づかれないかもしれない。
「……姉ちゃん」
「……? 何?」
「ちょっと、話しときたいことがあるんだけどさ」
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BOX GALAXYの向かいにある、ライブハウス404。
いつの間にか営業が再開されていたその店に、リン達は向かう。
地下への階段を降りるとそこは、『まさに』と言った感じの独特な雰囲気で満ちる場所だった。
ライブハウスは行ったことはないが、なんか凄そうな場所なのは分かった。
ビデオを受付のエイミーに届けた後、リンたちはさらに階段を降り、バーがあるエリアまで来る。
「ここがバーで、ドアの先がライブステージか」
「なんかホントに別世界って感じだね……!」
「……姉ちゃん、兄ちゃん」
「うん?」
「さっきの話、頼んだからな」
「……う、うん、もちろん。任せといて……」
「なんか笑いそうになってねえか」
ここに来る前、タクミは自身の正体がバレないよう口裏を合わせるようにリンとアキラに頼んだ。
「タクミ。本当に
「それは分かんないけど、何もしないで行くよりかはマシだろ。これは兄ちゃんたちのためでもあるんだぞ」
「分かってはいるけれど……」
ちなみにその時の話で分かった事だが、リンは妄想エンジェルの三人とはすでに顔見知りだったらしい。
幸い、これまでリンの口からタクミの話は出てこなかったらしいが、これからどうなるか。
「千夏たち、本当にいるのかな? まだライブの時間じゃないから、誰もいないんじゃない?」
リンがそう言った直後だった。
『──鼓動のリズム♪』
「……?」
スタッフルームから、歌声が聞こえた。
『足取りは軽く♪』
『~~~~~!!』
「……この声って、羽?」
「……というか歌声以外に、何か叫び声が──」
「やめろっちゅーねん羽!!」
次に聞こえてきたのは、千夏の叫び声と、スタッフルームの扉が勢いよく開かれる音。
そしてその扉から、譜面を持って逃げながら歌う羽と、顔を真っ赤にしながら彼女を追いかける千夏が飛び出してくる。
……そして後から、あわあわと二人を止めようとするアリアが出てきた。
「羽! いい加減歌うのやめえや! はよ返しい!」
「いーじゃん! この歌、誰にも聞かせないでいつ聞かせるの? 分かれ道でも~♪」
「だーかーらーやめろ言うてんねんこのドアホ!!」
「ちなっちゃん! 羽ちゃん! お、落ち着いて……!」
やがて譜面を取り返そうと、二人の追いかけっこは取っ組み合いへと発展。
もはやリン達が止める余地もなく、両者ヒートアップしていく。
そして長きにわたる大乱闘の末。
「ほんまええ加減にせ──あっ!」
「あっ」
「あっ」
勢いあまり、羽の手から譜面が投げ出された。
ヒラヒラと空中を流れ、譜面は偶然にもタクミの手に渡る。
アリアは慌てて、彼の元へ駆け寄る。
「…………」
「ごめんね! みっともないとこ見せ……て……」
「…………」
タクミから譜面を受け取ったアリアは、彼の顔を見て固まる。
先ほどまで取っ組み合いをしていた千夏と羽も、彼の顔を見て目を丸くし。
「天使ちゃんたち。探していたレコードが──あら?」
スタッフルームから出てきた、緑髪のシリオンの女性までもが、タクミの顔を見て驚いた。
だが、それも無理はないだろう。
「……えっと、そっちが店長さんで……キミは?」
「……」
「せっ……拙者はモーソー族が一員、『シンザン』でござる」
「え? 新参?」
「くっ……ふふっ……!!」
「り、リン!」
その少年は、青色の帽子にバブルちゃんのお面を被った『モーソー族』スタイルのうえ、変な喋り方をする不審者ギリギリの人物だったのだから。
リンが吹き出すのも無理はないだろう。