「へえ~。店長さんのお友達なんだ」
「まさしく。そして店長氏の弟であるタクミ氏の弟の親友でもありまする」
ほとぼりが冷めた後、タクミ……もとい『シンザン』は、彼女たちに自己紹介をした。
タクミがアキラとリンの弟である事が知られるのは問題ない。それに関しては近所である以上、遅かれ早かれ知られるだろう。
問題は今、シンザンの正体がバレてしまう事である。
今のところ、バレてはいないようだ。多分。
「あ! タクミくんが言ってた友達って、あなたの事だったんだね!」
「そ、その通りでござる。彼から託されたライブのチケットも、ここに」
「あ、うちらがあげたチケットやん。ホンマにタクミの友達やんな」
ちなみに今話している途中で、早速タクミは後悔し始めている。
ファンクラブのモーソー族ボンプの一匹が使っていたいわゆる『オタク口調』。
タクミである事を悟られないため、とっさにその喋り方を真似してみたが、失敗だった気がする。
オタク口調はこれで合っているのだろうか。
フィーリングなので分からない。
「にしても……なんか、変な喋り方やな」
もう怪しまれている。
「し、失礼。拙者これが通常運転でして……お気になさらず」
「あらあら……面白い子がファンにいたものね」
「あ、セシリア先生!」
緑髪の魚類のシリオンの女性が微笑む。
名はセシリアと言うらしく、妄想エンジェルのマネージャー、ボイトレの講師、そしてここ『404』ライブハウスのオーナーを兼務している。
「貴方達が、天使ちゃんたちが言っていた店長さん達ね」
「あ、そうです。初めまして」
その姿を見て、アキラとリンは強い既視感を覚えていた。
「……ねえ、お兄ちゃん。この人、あの『セルシー』様に似てない……?」
「僕も思ったけど……もし本当にそうだとしたら、今頃このライブハウスは大騒ぎになっているはずだ。きっと他人の空似じゃないかな……」
小声で話しながら、二人はセシリアを見る。
にこりと微笑んできたので、二人も微笑み返した。
「店長さんたち。さっきはみっともないとこ見せちゃってごめんね? このままだとボクのリーダーとしての沽券に関わるし、何かお詫びしないといけないよね~」
「せ、せやせや! うちらがしてあげられるお詫びって言ったら……やっぱ、あれしかあらへんよな!」
「うんうん! 特別に、二人にもプレゼントするね! 黄金の日特別ライブのチケット!」
若干演技じみた喋り方をした後、羽はアキラとリンにタクミに渡したものと同じチケットを手渡した。
「え? いいの、タダで貰って」
「いいのいいの! こっちの不手際だしね! ただこれ、す~っごく『入手困難』だから……他の人には内緒でね?」
「本当? 妄想エンジェルってそんなに大物なんだね……じゃあ、お言葉に甘えて……」
「おいおいリン。今日頼まれた『あの件』はどうするつもりなんだい?」
「あっ」
そう。
そもそも例の依頼のせいで、ライブまでには間に合わない可能性も十分あるのだ。
だからと言って、依頼を後回しにするわけにもいかない。
「……あれ、店長さん……もしかして、用事とかあったり?」
「え!? そ、それほんまなん……?」
「だ、大丈夫だよ……その用事が凄く順調に終われば、きっと間に合うから! だから有難く受け取っとくね!」
しかし断るのも罪悪感で押しつぶされそうになるので、リンとアキラは一応チケットを受け取る事にした。
「ふふっ……『入手困難』な未来に向けて、一歩前進したじゃない」
「入手困難な未来? やっぱり、今は別に困難じゃなかったの?」
「あ……バレちゃった?」
「最初っからバレとったやろ……誰が聞いても嘘って分かるわ。なあアリアちゃ……アリアちゃん?」
先ほどからずっと会話に参加していなかったアリアの方を見る。
「…………」
「は、はは……アリアちゃん、そんなに見つめられたら、拙者の体に穴が空いてしまいますぞ……」
なぜかアリアは、シンザンの顔を凝視していた。
シンザンはまるで蛇に睨まれた蛙のように、一歩も動く事が出来なかった。
別に睨まれている訳ではいないのだが。
「……アリア? どうしたの?」
「あっ……ご、ごめんね! シンザンくん、どこかで会ったような気がしてたから……もう少しで思い出せそうなんだけど……」
「きっ、気のせいでござるよ! アリアちゃんと拙者は初対面でござるから、一度でも会ったなら覚えているはずですぞ!」
「そ、そう? ……あ、ならお面を外して貰ってもいいかな? お顔を見たら思い出せるかも!」
「あーーそれは困りまする!! 俺、じゃなくて拙者その……えっと……恥ずかしがり! 恥ずかしがり屋だから! 素顔を見られるのは抵抗があるんでござるよ!!」
冷や汗が止まらない。
シンザンはお面越しにリンを見るが、リンは笑いをこらえている。
笑ってないで助けて欲しい。
……と、ここで見かねたアキラが助け舟を出す。
「コホン……ええと、話を戻すけど……つまり、君達のライブのチケットはそこまで売れていない状況、と言う事なのかい?」
「あ、うん。恥ずかしながらね。前に話した事があると思うけど、ボクたちはまだ駆け出しで、以前まではネット上でしか活動してなかったんだ」
そんな彼女たちが黄金の日に特別ライブを『404』で開催する事になったのだが……チケットはまだ完売していない状況。
「もしこのチケットが完売すれば、資金繰りにももうちょっと余裕ができるんだけどね……」
「はあ……それに、仮に完売して無事に本番を迎えても、そこでドジやったら終わりや。そうなったらうちらは……うう……」
「ちょっとちなっちゃん、もう負け犬ムードに入るの? せっかく新曲ができたんだし、店長さん達にも聴かせてあげようよ!」
「なっ!?」
ネガティブ状態で項垂れていた千夏が思い切り顔を上げる。
「おや、新曲と言うのは……さっき羽が歌っていた歌の事かい?」
「そだよん! 良ければ店長さんたちからも意見が欲しいなって!」
「意見……音楽には疎いけど、千夏が作った曲は聴いてみたいかも!」
「で、でもまだまだ未完やし……」
「聞かせてあげようよ、ちなつちゃん! その未完の状態でも、とってもいい歌だったと思うよ!」
確かに、メロディーや歌詞は他の曲と同じように妄想エンジェルらしさがその一端からだけでも感じられた。
少し自信が出てきた千夏は、照れ臭そうに笑う。
「そ、それなら……準備するから待っててもらってもええ? セシリア先生にも見てもらいたいパートもあったし……」
そう言った後、千夏はスタッフルームへと戻って行った。
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ライブステージまで案内された三人。
千夏とセシリアの打ち合わせが終わった後、いよいよ曲のお披露目が始まる。
「ンナ!(シンザンよ! 我々モーソー族の出番だ!!)」
「コサン先輩……」
「ンナナ、ワタンナ!(僕に続くんだ! 一緒にちなっちゃん達を応援しよう!)」
「…………あっ、俺も踊る感じすかこれ!?」
ペンライトをコサンから渡されるシンザン。
『オタ芸』はやった事がない。
だがやるしかないだろう。
「…………」
ステージ上では三人がスタンバイしている。
シンザンはペンライトを両手で握りしめ、曲が流れ始めるのを待った。
そして四十秒ほどの曲が終わり、ステージ上にセシリアたちの拍手が響き渡った。
「みんな、応援おおきに! えっと……シンザンさんも、どうもおおきに!」
「なんてことないでござる」
予想に反してアップテンポという訳でもなかったため、激しい動きは必要なかった。
ペンライトを振るだけで良かったので、リン達と一緒に息を合わせ三人を応援した。
「うーん……」
「千夏、まだ何かある……って感じね?」
「あ、えーと……一回通してみて分かったんやけど、この曲……まだ何か足りへん気がして」
「足りない部分か……多分、一つだけじゃないよね……」
三人とも思うところがあったのか、それぞれ悩み始める。
「ひとまず、ちょっと休憩しよっか。休みながら考えたら、何か分かってくるかもだし!」
「そうだね。店長さんたち、聞いてくれてありがとう!」
そうして休憩時間に入ったが、三人は集まって何かを話すわけでもなく、それぞれが一人で考えにふけっている状態だった。
「……あの天使ちゃんたちが、バラバラになって考え事だなんて……よっぽど深刻な事なのね」
「私たち、何かできたりするかな……」
「それなら、あの子たちの話を聞いてあげてくれないかしら? 私から言うと、なんというか『指導』のようになってしまうし……」
「でも、私たちじゃ音楽のアドバイスは……」
「アドバイスじゃなくてもいいの。一人で考えるよりは、誰か話を聞いてくれた方が色々考えも整理しやすくなると思うわ」
「なるほど……分かった、任せて!」
リン達は彼女たちの助けになるため、話を聞きに行く事にした。
セシリアの言う通り、何かしら助けにはなるだろう。