「アリアちゃん」
「あ、シンザンくん!」
シンザンはステージの隅で一人悩んでいるアリアの元へと来た。
「さっきの曲、どうだった? あの新曲、ちなつちゃんが『黄金の日』のために書き下ろしたものだったの!」
「未完にも関わらず、イントロだけで聴く人を引き込ませるような魅力を感じたでござる。さすがはちなっちゃんでござるな」
「そうでしょ! ただ、せっかく公演の大トリを飾るわけだし、もうちょっとブラッシュアップできないかなって。シンザンくんも、良かったら一緒に考えてくれる?」
「拙者で良ければ、もちろん喜んで」
「ありがとう! 早速聞きたいんだけど……」
「シンザンくんはあの曲から、どれくらい『らしさ』を感じたかな?」
「…………」
彼女のこの質問の仕方からして……アリア自身、答えには半分ほど辿り着いているのだろう。
シンザンは、思った事を率直に伝えた。
「……ちなっちゃんの曲からは、何か『ためらい』のようなものを感じたでござる」
「ためらい……」
「あ、もちろん『手を抜いた』とか『妥協したとか』そういうものではないでござるよ? ただ、以前のものと比べると、アリアちゃんの言う『らしさ』と言うのが、少々抑えめになっているような気がしましたな」
タクミは妄想エンジェルの三人と知り合って以降、動画配信サービスなどで彼女たちが出した曲をしょっちゅう聴いたりしていた。
その曲はどれも、お茶目かつ奇想天外、そして夢見心地な……言語化が少々難しいが、要するに『妄想エンジェル』らしさが全開なものばかりだった。
「黄金の日に向けた曲を作るにあたり、ちなっちゃんも悩んだんでござろう。自身の個性を前面に出すべきか、大衆のために無難なものにするべきか」
「…………」
「けど『モーソー族』の拙者からしたら、これは折角のデビューの機会。溢れんばかりの『妄想エンジェル』らしさを聴く皆に届けて欲しいと、そう思っているでござる」
「…………」
「まあその、いちオタクのいち意見として受け止めて欲しいでござる。拙者はモーソー族として、その翼で羽ばたく姿が観たいだけでござるから」
アリアはシンザンの言葉を聞いて、少しの間考えにふける。
「……うん、シンザンくんの言う通りだよ。折角のデビューだもん、やっぱりちなつちゃんがいつも作りあげてくれる『夢見心地な妄想のスパイス』こそが、私たちが私たちである所以だもんね」
彼女もシンザンと同じく、千夏が個性を抑えたままにしておくのは少しもったいないと考えていた。
だが千夏のライブを無事に終わりまで演り切りたいと言う気持ちも理解はできたため、踏み切れずにいた。
「ありがとうシンザンくん! ちなつちゃんにもそう伝えておくね!」
「背中を押せたようなら何よりでござる」
「……それにしても」
「?」
「シンザンくんって、やっぱり変な子だよね」
「えっ。へ、変?」
急に変と言われて動揺するシンザン。
自分で振り返っても変ではないとは言い切れないだけに、冷や汗が流れる。
「変……とは」
「あっ、貶してるわけじゃないよ? ただ、他のモーソー族の人と比べると、ちょっと変わってるなって。自分で言うのも変だけど、私たちとこうやって話してても全然緊張してないし……」
「!」
それを言われてシンザンはハッとする。
確かに、ファンが推しているアイドルと実際に会ったら、緊張して多少はどもったりするのが普通だ。
コサンも初めて彼女たちに会った時は緊張しまくっていたと話していた。
タクミにとって彼女たちに会うのは二回目だが、シンザンとしてでは初めてだ。
推しているアイドルと初めてリアルで会って、なおかつ一対一で話しているのに終始落ち着いていると言うのは、かなり不自然だろう。
「お、お面を着けているから見えていないだけで、拙者はずっと緊張しているでござるよ」
「そうなの?」
「もちろんもちろん! だってあのアリアちゃんと話しているんでござるから、緊張しない方が不自然というもの! 緊張で汗が流れているほどですぞ!」
汗は汗でも、冷や汗の方だが。
とにかく、正体がバレないよう必死に隠し通すタクミだった。
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アリアは、リン達と話した千夏と羽と一緒に意見を出し合い、曲の軌道修正を試みる。
そうして改良した新曲を、再びお披露目した。
「皆、どやった!?」
「すごく良くなったよ! なんか、『希望』に満ちあふれてるって感じ!」
「ああ。音楽に明るいわけではないけど、僕も同じものを感じた」
アキラたちの言う通り、前のと比べかなり『らしく』なっていた。
彼女たちも、曲の出来には満足しているようだ。
「ほ、ほんまに? ちゃんと伝わったようで何よりやわ……おおきに。セシリア先生も、打ち合わせに付き合ってくれてありがとな!」
「あなたたちのマネージャーだもの、当然の務めよ」
「めでたく新曲の方向性も定まった事だし、次は当日のライブに目を向けないとね。ねえちなっちゃん、ライブの準備に必要なのって、五十万ディニーだっけ?」
「……せやけど、それがどうかしたん?」
「実はね、少し前にボクが買った宝くじがもうすぐ当選発表なんだけど……最高額がなんと、ちょうど五十万ディニーなんだ!」
「! 五十万……」
額を聞き、一瞬目を丸くする千夏だが……
「……でもそれ、当たったとて羽のお金やん。いくらなんでも、ライブ予算に個人の収入は充てられんで?」
「え? でも……」
「そうそう! 羽ちゃんが当てたお金なら、それは羽ちゃんの為に使わなきゃ!」
「……二人とも真面目だなあ」
どうやら羽はその五十万ディニーをライブ予算に使って欲しかったようだが、その案はあえなく却下された。
チケットが完売さえすれば五十万ディニーは稼げるはずだが、いかんせん時間がかかる。
「あ、でもさっき『願いの妖精』さんに聞いてみたら、ホロウでおすすめの仕事を教えてくれたの! 依頼料、なんと五十万ディニー!」
「! 願いの妖精……」
「うん……あ、シンザンくんはまだ知らなかったっけ。『願いの妖精』さんはね、私のお友達なの。私が迷った時、背中を押してくれる頼もしいお友達なの!」
「……その願いの妖精さんが、ホロウに行けと?」
アリアから以前ちらっと単語だけは聞いたその言葉。
ホロウでの依頼を紹介する『友達』とは、少々怪しく聞こえてしまう。
そもそもホロウとは一般人が気軽に行ってはいけない危険な場所だ。
「あ、ホロウの事なら心配しないで! ここだけの話……お金を稼ぐために、ちょくちょくホロウに行ってるんだよね。腕っぷしなら自信はあるから、心配しないで!」
「…………」
「……アリアちゃんが、その依頼のためにホロウに行くんか? それやと、アリアちゃんが個人で稼いだ依頼料って事になるやん」
「それなら、こうしようよ! 私が依頼でいない間、羽ちゃんとちなっちゃんがライブの準備を進めるの! それなら皆で協力したって事になるし、それで得た収益も『妄想エンジェル』のものになるよね!」
「た、確かに……?」
「ぴったし五十万ディニーの依頼、ねえ。それってどこのホロウ?」
「確か……ラマニアンホロウって言ってたよ。明日の夕方、澄輝坪に集合だって! ちょっと遠いから、明日の午前に出れば間に合うかな?」
そうして三人が依頼について話し合っている様子を見ていると。
「シンザンくん」
「! セシリアさん?」
「ちょっと……良いかしら?」
何やら物憂げな顔をしたセシリアに、こちらに来るよう呼ばれた。
アリア達から少し離れた場所で、セシリアは声のボリュームを抑え話す。
「ごめんなさいね、急に呼んでしまって。少し……お願いしたい事があるんだけど」
「お願い……ですか?」
「ええ。今さっき、アリアが言っていた『願いの妖精』についてなんだけど……」
シンザンはセシリアから『願いの妖精』についての話を聞く。
彼女曰く、前にアリアから聞いた話によれば、『願いの妖精』と言うのは実在する人物ではなく、タブレットに搭載されているAIなのだそうだ。
アリアは何か問題にぶつかったり決断を迫られた際は、決まってそのAIに相談をしていた。
「あの子、とても純粋だから……そう言うのを妄信しすぎてしまうのも、ちょっと心配なの」
「セシリアさんは何か聞きましたか?」
「私からは……あまり。ライブが近いのもあって、あれこれ聞くのもどうかと思ったの。だから、シンザンくんから、そのAIの事を聞いて欲しいの」
「AI……か」
治安局が追っている違法AIとは関連性があるのだろうか。
どちらにしろ、もしその『願いの妖精』がアリアに悪影響を与えるものなら、対策を考えなければならない。
「……それなら、俺……じゃねえや拙者からそれとなくアリアちゃんに話を聞いてみるでござる」
「ありがとう。あの子、貴方に大分心を許してるみたいだから……きっと話してくれると思うわ」
「セシリア先生! ちょっとええ?」
「今行くわ。……それじゃあ、お願いするわね」
そう言いながらウィンクをし、千夏たちの元へ戻るセシリア。
(……この人、どっかで見たような……)
そんな彼女に、どことなく既視感を覚えたタクミだった。
そして話し合いの末、アリアと千夏がホロウ依頼、羽はセシリアと一緒にライブの準備等をする事になった。
「そういえばアリアちゃんはさ、タクミくんとは今も連絡取ってるの?」
「!!」
シンザンの肩がビクリと震える。
「うん。タクミくんはライブに行けなくて悲しい気持ちになってるだろうから……時々ライブ準備の光景を写真に撮って、ノックノックで送る事にしてるの。……ねえシンザンくん。タクミくん……喜んでるかな?」
「……心配いりませんぞアリアちゃん。彼はちゃんと喜んでおりますとも」
シンザンは顔を逸らし、そう答える。
理由が理由とは言え、人に本当の事を言えていないままのこの状況。
正直、罪悪感に押し潰されそうになる。
「あ、そういえばタクミくんと会った時の話なんだけど……ちなっちゃんもアリアちゃんも酷いんだよ? 二人とも、タクミくんの事女の子だって勘違いしてたんだ〜」
「え、そうなの?」
「し、仕方ないやろ! あんなん誰がどう見たって女の子やったやろ! そうにしか見えへんかったで!」
「あはは……私も、初めて見た時はアイドルやれそうなくらい可愛い女の子って思ってたな……」
「…………」
(……マズい、タクミの心が崩壊しかけている……)
せめて後で心のケアをしてあげようと考えたアキラだった。
本作がめでたく二周年を迎えました
これからもよろしくお願いします!