「それにしてもすごいなあ……まさか店長さんが、こんな凄腕のプロキシやったなんて」
「えへへ……面と向かって言われると、ちょっと照れるね。でも、今まで隠しててごめんね?」
「ううん、気にしないで! 誰にだってちょっとした隠し事はあるし……店長さんにも事情があったんでしょ?」
「うん、まあ……そうだね」
「…………」
リンはファイズの方を見る。
ファイズは何も答えなかった。答えなかったが……
(やばい……どうする……!? これじゃ正体が──いや落ち着け俺! 『シンザン』の時は声は変えてたし、いつも通りしてればバレないはずだ)
内心パニックになっていた。
しかし、ここは落ち着いて対応する。
「……プロキシ。ルートの設計は終わったか?」
他人の呼び方にも気を付ける。
物凄く久しぶりに、リンをプロキシ呼びした気がする。
「はいはいファイズさん、今からやるよ。Fairy、お願い」
そして物凄く久しぶりに、リンにファイズ呼びされた気がする。
『目的地までの最適ルートを計算中……』
「!! えっ……?」
リンのスマホからFairyの声が聞こえた瞬間、アリアの眼が大きく見開かれた。
「? どうした、アリア」
「あ……う、ううん。な……なんでもないよ」
Fairyが演算したルートを辿り、一行は広い場所へと出た。
リンはロープウェイ駅でシーシィアから預かったシグナル追跡装置を取り出す。
この装置があれば、例のAIの痕跡がある場所をへと向かえるらしい。
「よし、これだけ広ければ、装置を起動できるかな」
「……! 店長さん、あそこ!」
「!」
アリアが指を差す先。
暗がりから、エーテリアス達が飛び出した。
ファイズはリンの前に出て、戦闘態勢に入る。
「ねえちゃ……プロキシは装置を起動しろ! 俺はこいつらの相手をする!」
「分かった!」
「ふぁ、ファイズさん! ここはうちらがやるで!」
千夏とアリアが、ファイズの前に出た。
「ファイズさんは、店長さんを守ってて! 私たちがパパっと倒しちゃうから!」
「……分かった。無理はすんなよ」
「大丈夫だよ! ……けど」
「? けど?」
「……ううん、なんでもない。さ、いこっかちなつちゃん」
千夏はメガホン型の武器を、アリアはマイク型の武器を持ち、エーテリアス達の前へ出る。
「……店長さん、ファイズさん」
「?」
「今から私が見せる姿を見ても……怖がらないでいてくれる?」
「え? 何を言って……」
アリアは答えずに、エーテリアス達の元へ駆け出す。
『グォオオオオオ!!』
アリアを標的に定めたエーテリアス達は咆哮とともに、彼女へ襲い掛かった。
武器を構えた彼女の体が、わずかながらに光る。
次の瞬間だった。
「!!」
『人間』だったアリアはホログラムを解除し……瞬く間に別の姿へと変貌した。
「……アリアお前、その姿……!」
「…………」
ここに来てリンとファイズは、アリアが人間ではなく、『知能構造体』だという事を知るのだった。
二人の連携により、エーテリアス達を一掃した後。
アリアは武器を収め、こちらへと歩いてきた。
彼女は非常におどおどとした様子で、人間の姿の時の元気いっぱいな感じとは正反対だった。
まるで人に見られる事を極度に恐れているかのような、そんな表情をしていた。
「……見て、ください。これがアリアの、本当の姿です……」
頭部のピンク色のフレーム、額には黒いバイザー。
目も黒色に変わっており、その違いは一目瞭然だった。
リンとファイズは驚きの感情をあらわにした。
やがて、リンは口を開く。
「……アリア、それ」
「っ……」
「すっごくかわいいじゃん!! もっと早く見せてもよかったのに!」
「……やっぱり、そうですよ──え?」
アリアを見たリンの口から出たのは非難ではなく、心からの「かわいい」だった。
今度はアリアが驚いた。
「知能構造体の姿って、結構コロコロしてるんだねえ。カッコいいと可愛いが共存してる感じ!」
「ほら言うたやろ! アリアちゃんは知能構造体の姿でも可愛いんやって!」
先ほどから見守っていた千夏も、リンと同じ言葉をかける。
「か、可愛いなんて……アリアはただの無骨な知能構造体で……ホログラムで、皆を騙してただけなのに……」
「……? 無骨? どこが」
「えっ?」
「……あ、いや、その……」
無意識に、思った事が疑問として口に出たファイズ。
アリアの姿を見て、一ミリもそんな事を思わなかっただけに、声に出てしまっていた。
「アリアは無骨なんかじゃないよ。それと、皆を騙してるって言ったけど……誰にだって、ちょっとした隠し事くらいはあるってさっき言ったでしょ? アリアだって、私たちと同じだよ」
「…………」
「……ありがとう、ございます」
「さ、シグナルの発信源を探しに行こ!」
「……はい!」
アリアは頷くと、ホログラムを起動させ人間の姿へ戻った。
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追跡装置に示されている発信源への方角。
それと設計したルートを参照し、先へと進む一行。
気づけば、無人の廃坑エリアまで来ていた。
エーテリアス達を倒しながら進むにつれ、徐々にシグナルが強くなっていく。
「目的地はもうすぐだね。アリアも千夏も、体調は大丈夫?」
「うちは平気やで。……アリアちゃんは?」
「……私も、大丈夫」
そう口にするアリアだが、その瞳は隠しきれないほどに、不安で揺れていた。
そうして少しもしないうちに、リン達は広い空間へと出た。
しかし。
「……なんや、何もあらへんな」
「プロキシ。ここが発信源のあるエリアなんだよな?」
「うん、間違いないよ。もしかしたら、待ち伏せしてるのかも。あのAIの事だし、可能性は十分ある」
ファイズは周りを見渡しながら、辺りに何か手がかりがないかを探す。
埋まっている瓦礫の中に何かないかと、どかそうとした……その時。
「!! ファイズさんっ!」
アリアが叫んだ。
その声を聞いたファイズは、反射的に身をかがめる。
直後、ファイズの頭上を
「!!」
とっさに振り返ると、そこにいたのは──
「あ、あれって……」
「っ……!!」
先ほど見た、知能構造体の姿のアリア。
色合いこそ少し違うが、そのほとんどが、彼女と同じ姿。
二体の『兵器』が、そこに立っていた。
「こいつら、一体どこから……!」
『戦闘プログラムを起動。ターゲットを直ちに排除』
「っ!!」
アリアに似た兵器は腕から先ほど見た紫色の刃を伸ばし、二体同時に、真っ先にファイズへと襲ってきた。
「……! いま、うちらの方見向きもせずに、ファイズさんとこに……!」
千夏たちも、兵器たちの視界に入っていたはずだ。
なぜファイズだけを狙うのか。
それを考える余裕はなかった。
一切の慈悲もなく、冷たい刃がファイズを襲う。
ぎりぎりで攻撃を防ぎ、かわしながら反撃に出ようと考えたが……アリアに非常に似たその姿を前に、攻撃に踏み出せずにいた。
頭部、胸部、脚部を的確に狙われる。
防御するだけでも精いっぱいだった。
相手を『殺す』ためだけに創られたプログラムは、冷徹にファイズを追い詰めていく。
「アリアちゃん! うちらも……!」
「うん……!」
もちろん、アリアもファイズを助けるため加勢しようとした。
だが。
「……っ!」
「! アリア……?」
足が動かない。
兵器二体は攻撃を止める気配もなく、ファイズはそれをなんとか捌いている状況。
まさに混戦状態。
その中に、自身が突っ込めばどうなる?
混戦の中、何かの拍子に
あの『兵器』と同じように、殺してしまうかもしれない。
普段共闘している千夏や羽と違い、ファイズと共闘したのは今日が初めてだ。
いつものような連携が出来るとは思えない。
その事実が、余計に彼女の足をすくませていた。
助けたい。
だが、どう助ける?
「ファイズさん!!」
考えた末に、アリアは叫ぶ事にした。
今の自分にはこれしかできないと、判断した。
「っ……なんだ、アリア!」
「そいつらを、
「壊す、だと? でも──」
「早くっ! 貴方が傷ついちゃう!!」
「……っ!」
アリアの切実な叫びを聞いたファイズは、瞬時に兵器の攻撃の隙を見極める。
そして。
「はあっ!!」
片方の攻撃を右腕で防ぎつつ、もう片方の攻撃の直前に身をかがめ、兵器の腹部を肘打ちでひるませ……渾身のストレートで壁へと吹っ飛ばす。
一対一となったチャンスを見逃さず、残った片方にも迷わず連撃を仕掛けた。
『……!』
膝蹴りの直後にファイズポインターを取り出し、直後に追撃で横蹴りをかまし、先ほどパンチで吹き飛ばした片方へ兵器と『同じ方向』へ吹っ飛ばす。
すかさずポインターにミッションメモリーを装填。
[Ready]
素早く脚部にセットし、ENTERキーを押した。
[Exceed Charge]
壁に叩きつけられた二体の兵器。
フォトンブラッドがチャージされるや否や、ファイズは大きく飛び上がる。
ポインターから射出された赤色のマーカーが、立ち上がろうとしていた兵器を、二体同時に封じ込めた。
「やぁぁああああっ!!」
雄叫びと共に、ファイズは『クリムゾンスマッシュ』をお見舞いした。
二体の兵器は『Φ』の文字を浮かべ、火花を上げた後に跡形もなく爆散。
無事に、撃破に成功したのだった。
「ファイズさん! だ、大丈夫ですか!? 怪我は……!」
その後すぐに、アリア達が駆け寄って来た。
アリアは余程動揺していたのか、再びホログラムが解けてしまっていた。
「……良かった、怪我は……ないみたいですね」
ファイズに怪我がない事を確認すると、アリアは安堵の表情を浮かべるが……すぐに俯いてしまう。
どう声をかけたものかとリン達が考えていると、アリアはゆっくりと顔を上げた。
「……店長さん。えっと……店長さんとタクミくんって……姉弟、なんでしたよね?」
「? う、うん。そうだけど……どうして急に?」
「……店長さんにお願いが、あるんです」
「アリアの、正体を……タクミくんには、言わないで欲しいんです」
「……え?」
最初に声を上げたのは、ファイズだった。