リンはアリアの言葉に驚きを隠せない。
一度だけファイズをちらりと見た後、またアリアを見た。
「さっき店長さんが、この姿でも可愛いって言ってくれた事……凄く嬉しかったです。でも……それでもやっぱり、怖いんです」
「アリア……」
「……今襲ってきたのあの子たちは、戦うために、傷つけるためだけに造られた兵器。アリアと、同じです」
「同じ? 何言うてんねん! アリアちゃんは別に、あの構造体とは違うやろ! 世界に一人しかおらへん、妄想エンジェルのアリアちゃんやんか!」
「千夏の言う通りだよ。確かに製造元は同じかもしれない……けど、それでも──」
「それでも、同じである事に変わりないんです」
アリアと彼女たちは『仲間』。
同じ目的で造られ、同じ戦場に駆り出され、同じ場所で眠りにつく。
人間やシリオンとは違い、そこに
「そんなアリアを、もしタクミくんが目にしたら……少しでも『恐い』って思われたら……そう思うだけで、息が詰まるような感じがして……」
「……」
ファイズはアリアの言葉を聞き、何も言わずに俯いていた。
「……大丈夫だよ、アリア。タクミはそんな事は絶対思わないから」
「せやでアリアちゃん! 身内の店長さんがこう言ってるんやから、なんも心配することなんかあらへんって!」
「……仮に、そう思われなくても……アリアがホログラムであの子を騙してたのは本当です。隠し事をしてるのを知ったら……きっと、幻滅するかも……」
「アリア」
「!」
話を聞いていたファイズが、アリアの方を向く。
そしてゆっくり、彼女の元へ歩み寄る。
「……その『タクミ』って奴なら、怖がったり、幻滅する事はねえよ。安心しろ」
「っ、安心って……そんな確証、どこにもないのに……」
「あるさ。今から、
「……?」
何を言っているのか分からないとでも言いたげなアリアを他所に、ファイズはバックルからファイズフォンを取り出す。
千夏はきょとんとしながら、リンは目を丸くしながら、ファイズを見ていた。
フォンの通話終了ボタンを押したと同時に、ファイズの体は赤い光に包まれた。
「……え?」
心の底からだった。
心の底から、まるで吸った息が吐きだされるように、自分でも驚くほど無意識に、声が出た。
アリアの目の前に現れた少年の姿。
ズボンを見て、服を見て、顔を見る。
それは彼女にとって、ひどく見覚えがあるものだった。
千夏も、その姿を見てあんぐりと口を開けた。
「……その服……シンザンくんと同じ? というかその顔、えっ、なっ、あ、あれっ!?!?」
「…………」
先ほどの戦闘の時よりも大きな声が出たアリア。
無理もないだろう。
先ほどまで話題に出ていたタクミ本人が、いきなり目の前に現れたのだ。
しかも以前見た時よりも、はるかに成長した姿で。
「た、た、た……」
「アリア、千夏。ごめん、今まで黙ってて。実はシンザンもファイズも、全部俺なんだ」
アリアも千夏も羽も、何の関係もない一般人。
本来ならファイズやパエトーンとは全くの無縁であるべきで、本当はこうしてホロウで共に行動する事さえグレーゾーンである身なのだ。
だからこそ、こちらの事情に理不尽に巻き込まれる可能性を万が一にでも考え、最後まで正体を隠し通すつもりだった。
だが、先ほどのアリアの言葉を聞いて、そうする事が本当に正しいのか……タクミはひたすらに考えた。
アリアはタクミを騙していたと言ったが、それはタクミも同じ。
自身の事情で、アリアに罪悪感に苛まれて欲しくはなかった。
葛藤の末、タクミは正体を明かす事に決めたのだった。
「許してくれとは言わない。けど俺の事で、自分を責める必要はない。それだけは言っておきたかった」
「あああ……た、たたた……」
「それに、その事情抜きにしたって、俺がアリアを恐ろしいなんて思う事は億が一にもない」
「たっ、たた、たく……」
「……アリア?」
「システムエラー」
「アリア!?」
衝撃の出来事に、アリアがキャパオーバーを起こした。
タクミは倒れそうになったアリアを急いで受け止める。
「ちょ、アリア!? 大丈夫!?」
「あ、あかん、気絶しとる……! セルシー様の限定グッズが抽選で当たった時と同じ状況や……!」
「そうなの!?」
ひとまず、リン達はホロウを出て、澄輝坪へと戻る事にした。
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すっかり日も暮れ、静けさが訪れた夜の澄輝坪。
シーシィアにノックノックで依頼完了の報告をした後、改めて千夏とアリアに事情の説明をした。
あとリンがパエトーンである事もついでに説明した。
「……店長さんが、あの『パエトーン』で……」
「タクミくんがシンザンくんで、ファイズさんで……」
二人の表情を見るに、まだ飲み込めていないようだ。
「まあ要するに……私たちは一般人じゃないよって事だね」
「ま、待って……まだ理解が追いつかへん……なんやねん『体が縮んでしまっていた』って、どこの探偵漫画やねん……!」
それはタクミも大いにツッコみたい部分ではある。
「まあその、悪いやつと戦った時にな。色々あって、小さくなったんだ。その後は色々あって、元に戻った」
「その『色々』がごっつ気になるんやけど!」
しかし千夏もそこまで踏み込むべきではないと判断したのか、それ以上は何も言わなかった。
「前にノックノックで言ってた、『ライブに行けなくなった』っていうのは、もしかして……」
「……ああ、それが理由だ。巻き込まないためとはいえ、お前にずっと嘘をついてた……本当にごめん」
「……ううん。それはお互い様だよ。私だって貴方に知能構造体だって事を、ずっと黙ってたから」
「…………」
「ねえ、って事はさ。
「! まあ、そうだな。依頼も終わったし、黄金の日には行けるはずだ。……シンザンじゃなくて、俺がな」
「……!!」
アリアの瞳が揺れる。
喜びと不安が、同時に押し寄せる。
(……あの時も、ずっと傍で応援してくれてたんだ)
昨日の、ライブハウスでの出来事を思い出す。
バブルちゃんのお面を被った謎の少年が、自分と一緒に新曲の改良について真剣に考えてくれていた。
(……)
先ほどの『仲間』と会ったせいか、論理コアに、思考モジュールに揺らぎがある。
だがタクミといると、自然とそれが安定する気がした。
「……なあ、これうちら離れた方がええんちゃうか?」
「ちょーっとだけ距離とろう」
「?」
アリアの後ろにいる千夏とリンが離れる。
何故か距離を取った二人に疑問を抱いたタクミだが、今はアリアとの話に集中する。
アリアが、ホログラムを解除する。
「……タクミくん。アリアが、どんなアリアだったとしても……応援、してくれますか? 見限らないで……くれますか?」
「見限るわけねーだろ。俺はむしろ、応援させてほしい。モーソー族として、一人の友達として」
「……! はい……!」
「! あの笑顔、可愛い……!」
「せやろせやろ!? アリアちゃんの笑顔は、知能構造体の姿でも天下一品なんや!」
知能構造体の姿では、今日一度も笑顔を見せてこなかったアリア。
それが今、弱々しくも華々しい笑顔を見せた。
(…………)
ふと、アリアはライブハウスで『シンザン』としたやり取りを思い出す。
アレもすべて、シンザンではなくタクミと話をしていたわけで。
願いの妖精との会話履歴も、見せた記憶がある。
『ねえ店長さん……タクミくん、喜んでるかな』
『願いの妖精さん。最近気になる子がいるんだけど……その子に、ありがとうを伝えたくて』
「…………ふえ」
「……!? アリア!?」
今度はオーバーヒートを起こしかけたアリアだった。