一方その頃、瞬光たちは食堂で夕食を食べていた。
「──え? 瞬光ちゃん、点灯式……出てくれないんですか?」
「うん……ワタシ、ああいう場にはまだ慣れなくて……この前の叙勲式だって、すごく緊張したもの。ごめんね、福姐さん」
「うーん……盛り上がると思ったんですけどねぇ……」
ちょうどその時。
食堂の扉が開き、タクミが戻って来た。
「あ、おかえりタクミ。遅かったね?」
「ああ。ちょっとアリアと話してた。千夏は?」
「千夏なら、今羽と電話中だよ。それにしても、何話してたの?」
「……まあ、色々だな。アリアは『大丈夫』って言ってたけどよ……黄金の日のライブが成功するか、やっぱり不安なんだろうな」
恐らく千夏と羽も、内心同じ事を考えている。
なにせ初のオフラインライブなのだ。緊張しない方がおかしいというものだろう。
「リンと千夏ちゃんからさっき聞いたけど……『アイドル』って、大勢の人の前で歌ったりするのよね? なんというか……ワタシにアイドルは絶対向いてない、かも」
「あたしも、さすがに緊張しちゃうかもしれません……ま、まあ福福は、アイドルってよりロックバンドみたいなカッコいいやつが似合ってると思いますけどねっ!」
「二人ともアイドルのポテンシャルは全然あると思うけどな。でも確かに、『お前ならいける』の一言で緊張が解けるんだったら苦労はしない。だってそもそも──」
今、さらりと。
「「…………」」
爆弾を投下した当人は、のんきに話を続けている。
リンと儀玄はジト目でタクミを見る。
瞬光と福福は突然の一撃に顔を俯かせる。
厨房で潘が鍋を洗う音と、タクミの話し声のみが聞こえていた。
そしてようやく、タクミは周りが静かになっている事に気が付いた。
「──うん? 二人ともどうした?」
「「……」」
「タクミ。お前さんはもう少し……アレだ。加減というものを覚えろ」
「加減? ……ああいや、大丈夫っすよ。シューマイは皆の分が無くならないようにちゃんと取る数を調整したはずで──いてえ」
急に姉からのデコピンが飛んできた。
「……? 急に何すんだよ……」
「べっつに~? タチが悪いお馬鹿な弟に、軽くお仕置きしただけ」
「???」
姉弟子二人は密かに考えた。
後でこのニブチン弟弟子で『栄養補給(一応健全)』をしようと。
そんな事など露知らず、タクミは脱線した話を戻す。
「……まあ、要するに、黄金の日のライブで緊張を限りなく和らげるためには、確固たる自信ってやつが必要なんだと思う」
「確固たる自信……かあ。うーん……何か、ワタシにも出来る事あるかな……せっかくだし、力になりたいけど……」
「……あ、良い事思いついた! 瞬光も、妄想エンジェルのライブに行けばいいんだよ!」
「へ? ワタシが?」
「あっ! それナイスアイデアですね!」
リンの提案に、福福も賛成する。
「瞬光ちゃんはもう、新エリー都で名を馳せる超有名人ですからね! そんな瞬光ちゃんがライブを観に来る事は、きっと千夏ちゃん達の自身に繋がるはずですっ!」
「……確かに、一理あるな。六分街の『404 ERROR』でそのライブがあるけど、瞬姐さん行けそうか? こっそり行けば、大騒ぎになる事もない」
「ワタシが行っていいのかな……」
「行ってこい、瞬光。お前さん、ここ最近は公務に追われてばかりだったろ。釈淵も青溟剣の調査で黄金の日には帰ってこないらしい。ちょうどいい機会だろう」
「……まあ確かに、アイドルのライブがどんなものなのかは気になる……かも」
そう。単純に気になる。
それ以外に理由はない。はずだ。
「衛非地区の事は私たちに任せればいい。黄金の日くらい、ゆっくり羽を伸ばせ」
「……ありがとう、師匠。それじゃあ、そうさせてもらうわね」
瞬光の黄金の日の予定が決まった瞬間だった。
───────────────────────
そして翌日。
千夏、アリアと一緒に六分街へ帰って来たリンとタクミ。
『404』で待っている羽の元へ戻る。
「羽、戻ったで!」
「あ、おかえりみんな~。首尾は上々だったみたいだね! ……うん?」
羽はリンの隣にいるタクミを見る。
一応ゆうべ電話でタクミの事は聞いていたが、こうして素顔を見るのは初めてだった。
「……ほうほう」
「? 羽、どうしたんだ」
「ううん、なんでも~? ……なるほど、それがキミの真の姿ってやつだね?」
「…………」
「本当に高校生の年齢? にしては随分顔がカワイイね?」
「ぐ ふ う ッ ! !」
「タクミーーーーーッ!!」
吐血するタクミ。
天使の名を冠したアイドルグループの人間のくせに、やっている事は悪魔の所業である。
「羽! いくら事実やからって、ストレートに言いすぎやろ!」
「そうだよ! 確かに事実だけど、タクミくんが気にしてるかもしれないでしょ?」
傷をえぐる千夏とアリア。
もう『妄想デビル』に改名した方がいい。
「ごめんごめん。それじゃ、話戻すけど……振り込まれた依頼料のおかげで、宣伝は問題なく行えるよ。後チケットの事だけど……昨日、無事に一枚ハケたんだ!」
「もしかして、コサン先輩か? 」
「『シンザン』さんやなくなっても、先輩呼びはそのままなんや……」
「そりゃな」
『シンザン』はもうやらないが、『モーソー族』をやめるわけではない。
前に見せてもらったコサンのオタ芸は、他のモーソー族を置き去りにするほどのえげつないキレだった。
ここに来る前、テンション爆上げ状態のコサンからノックノックで『チケットをプレゼントしてもらった』と報告が来ていた。
「それじゃ、二枚目は誰に渡すかだけど……アリアちゃん、ここはヴェスポさんに渡しとく?」
「!」
「ヴェスポって……もしかして、TOPSの芸能部門の……」
「そだよん。アリアちゃんの憧れのセンパイでもあるんだ」
タクミもアストラからその名は聞いていた。
だが、彼女は現時点での点灯式のゲストの最有力候補。
仮にチケットを渡せても、妄想エンジェルのライブには来られない可能性が高い。
……だが、それを口にするのも野暮だろう。
「ヴェスポお姉ちゃんなら……確かスターループの流光ホールにいるって言ってたね。今から行けば会えるかも?」
「スターループって……アストラさん御用達の、あの……」
「まあ、大スターの殿堂、みたいなとこだよねえ。ボクたちみたいな弱小アイドルは、門前払いされるかも?」
スターループ。
リンとアキラは行った事があるが、タクミはない。
そもそも気軽に行ける場所ではないのだが。
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しかし気軽に行けてしまうのが、我らが人脈つよつよの店長である。
社用車に乗り込み、お出かけ感覚で五人はスターループまでやって来た。
アリア達がスターループのゲートをくぐり、続けてリンとタクミが入る。
「ヴェスポお姉ちゃん……いるかな?」
「うう……来るの二度目やけど、やっぱ慣れへんな……」
「店長さんたちが来て良かったよ~。ボクたちだけじゃ心細かったから! ……あ、そうそう」
羽はこちらへ来たかと思うと、黄金の日のライブのチケットを、こっそりタクミのズボンのポケットに入れた。
「……よろしくねんっ」
そう言ってウィンクした後、アリアと千夏の元へ戻った。
(……やれるだけやるか)
「やれるでしょ、タクミなら大丈夫だって」
心を読まれている。
そしてエレベーターに乗り、流光ホールへ。
お目当ての人物は、すぐに見つかった。
「あ! ヴェスポお姉ちゃん!」
「? ……あら、アリアじゃない!」
振り向いた彼女は、アリアに気さくな笑顔を見せる。
彼女こそ、TOPS所属の知能構造体歌手……ヴェスポだった。