ZZZ × 555   作:びぎなぁ

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チケット

 

 

 

 

 

「失礼ですが、皆様は……? 弊社のアーティストはただいま、重要な仕事のパートナーを待っているところでして……」

 

「待って。彼女たちは知り合いよ、棠花とうか。少し話をするくらいの時間なら、あるでしょう?」

 

 

前に出ようとしたマネージャーをヴェスポは手で制す。

 

その後、アリア達に優しい笑顔を向けた。

 

 

「やっほ、ヴェスポさん!」

 

「三人とも、また会えて嬉しい」

 

「わ、私も……! あの、ヴェスポお姉ちゃん、渡したいものがあるんだけど……」

 

 

そう言うとアリアは緊張した様子で、ヴェスポにライブのチケットを一枚手渡した。

 

 

「あ、前に言ってたやつね。有難く受け取っておくわ」

 

「! ありがとう……!」

 

「ちゃ、ちゃんとライブを成功させたるから……期待しててな、ヴェスポ姉さん……!」

 

「ええ、楽しみにしてるわ。それで……そちらの二人は」

 

「!」

 

 

ヴェスポの視線がアリア達からリンとタクミへと向けられる。

 

一応同行者と説明すればいいのだろうか。

 

 

「この二人は、ボクたちの臨時マネージャーだよん。安心して、それなりに長い付き合いだから!」

 

「あら……マネージャーが二人も必要なの?」

 

「マネージャーなんて何人いてもいいからね~。特にボクたちみたいな駆け出しアイドルには!」

 

「ふふっ……まあ、貴方達が信頼を寄せている事は分かったわ。という事は、アリアの正体も知っているという事よね?」

 

「! ええ、まあ……」

 

「喜ばしい事だわ。三人の事、これからもよろしくね?」

 

「は、はい」

 

 

いきなり臨時マネージャーという事にされて戸惑ったが、ただの友人よりはマシかもしれない。

 

その時、後ろにいた棠花がヴェスポが受け取ったチケットを見る。

 

 

「……このライブの日程、黄金の日のようですが……」

 

「! そうみたいね」

 

「申し訳ございませんがヴェスポ。その日はすでにスケジュールが入っております。彼女たちのライブには、お伺いする事が出来ないかと」

 

「え?」

 

(スケジュール……多分点灯式でのライブの事だよな。いくらヴェスポさんでも、ブッチしてまで来る事はできねーか……)

 

 

彼女が来れないかもと知ったアリア達の表情に、影が差す。

 

棠花の言葉に対して、ヴェスポはやや不満気味のようだった。

 

 

「……確かに、『予備』としてイベントに出て、うちのグループが『見栄を張る』お手伝いをするのは、外せない大事なスケジュールよね? 棠花」

 

「! ヴェスポ……!」

 

「私が口出しする余裕もなく、スケジュールは出来上がってる。なのに今更、この程度のぼやきが上に伝わると思う?」

 

「……」

 

「安心して。予定は絶対に狂わないから」

 

 

アリア達は顔を見合わせる。

 

 

「……タクミくん。ちょっといい?」

 

「?」

 

 

その時、羽がタクミにこっそり耳打ちをした。

 

 

「…………」

 

 

タクミは羽の話を聞いて少し考えた後……先ほど彼女から預かったチケットの一枚を、棠花へと渡した。

 

 

「……? なぜ、私にも渡すのですか?」

 

「お二人が黄金の日に来られないんなら、仕方ないです。スケジュールが埋まっているなら、わざわざねじ込むような事はしません」

 

「ならばなぜ……」

 

「妄想エンジェルはこれからもライブをやっていきます。もし二人のスケジュールに余裕が出来たら、その時はそのチケットを持って来てください」

 

「……! そうそう、黄金の日以降も、ライブを観に来るチャンスはたくさんあるから! チケットを持って来てくれたら、そのライブは無料だよ!」

 

 

臨時マネージャーに先ほど就任したタクミとリンが、ヴェスポに提案する。

 

もちろん羽の思い付きである。

 

 

 

「ヴェ、ヴェスポお姉ちゃん! 黄金の日は来れないかもしれないけど……それでも、いつか近いうちに来てくれたら嬉しいな……!」

 

「アリア……」

 

「大事に取っといてね、お二人とも! 特等席を用意してるから!」

 

「次のライブまでにまた別の新曲、完成させとくから……待っててや、ヴェスポ姉さん!」

 

「…………」

 

 

ヴェスポは三人の顔を見た後、スケジュールが書かれた手帳を取り出し、しばらく眺める。

 

 

「……黄金の日、ライブは行けないと思う。けど、前日のリハなら観に行けるはずよ。場所は、六分街の『404』で合ってるよね?」

 

「っ! ほんと!?」

 

「ヴェスポ……その日はあなた自身のリハーサルも……」

 

「たった半日なら、大した事ないよ」

 

「……はあ……分かりました。黄金の日の前日の午後、ですね」

 

「ヴェスポ姉さんも棠花さんも、ほんまおおきに……!」

 

「気にしないで。貴方達のパフォーマンス、楽しみにしてるね」

 

 

そう言った後、ヴェスポは棠花と共に主催者のもとへと行った。

 

 

 

張り詰めた空気が和らぎ、アリアが安堵のため息を吐く。

 

 

「よかったあ……リハだけでも、観に来てくれるみたいで……!」

 

「やけど、リハにヴェスポ姉さんが来るって……本番よりリハの方が緊張しそうやわ……」

 

「むしろ、良い機会だと思うなあ。あ(・)の(・)ヴェスポに、リハを観て貰えるんだから! 千夏たちにとって、大きな自信になるんじゃない?」

 

「確かに、店長さんの言う通りだよね……あわよくば、アドバイスとか貰っちゃったりして!」

 

 

 

それにライブ当日には大物有名人(本人は否定)も来る予定だ。

 

期待されるだけの実力が、三人にはしっかり備わっている。

 

 

 

どうかライブが三人揃って迎えられるようにと、タクミは切に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スターループを後にした一行は、次にルミナスクエアへと向かった。

 

次にチケットを渡すのは、イェン姉なる人物。

 

 

羽曰く、妄想エンジェル結成当初、マネージャーだった人らしい。

 

喫茶店の屋上で、三人は彼女と再会した。

 

 

「イェン姉!」

 

「! 三人とも、久しぶりね……!」

 

 

まるで久しぶりに娘に会ったかのような目で、イェン姉は三人を迎え入れた。

 

 

「聞いたわよ。妄想エンジェルがオフラインでライブなんて……こんなに嬉しい事はないわ! 本当に成長したわね……」

 

「いやあ、それ程でもあるかな~? そんなイェン姉に、はいプレゼント!」

 

 

イェン姉に黄金の日のライブのチケットを渡す羽。

 

受け取った彼女は、それはもう大事そうにチケットを両手に持った。

 

 

「素敵なチケット……黄金の日のライブ、絶対に来るわね」

 

「イェン姉、最高のパフォーマンスにするからね!」

 

「ええ、期待してるわ、アリア。……そう言えば聞きたかったんだけど、貴方は『歌姫セルシー』には会った事はある?」

 

(……!)

 

 

歌姫セルシー。

 

唐突に出てきたその名前に、タクミは胸騒ぎを覚える。

 

 

セシリアとした約束。

 

それが脳裏によぎった。

 

 

「……あるには、あったけど……セルシー様にとっては、あんまりいい思い出じゃないかも……」

 

「あら、そうなの? ……でもきっと、それは思い過ごしだと思うわ」

 

「思い過ごし……? どういう事?」

 

「事務所が無くなった後で、セルシーさんが貴方を訪ねてきた事があるの。どこでアリアの事を聞いたのかは分からないけど……」

 

「せ、セルシー様が!?」

 

「ええ。現役の頃とは、だいぶ姿が変わっていてて驚いたわ。髪を下ろしてて、毛先を緩く結ぶようなヘアスタイルになってて……耳元のヒレも、前より長くなってたかしら」

 

(……あれ? これまずくね)

 

 

彼女が羅列したその特徴。

 

……アリアにも、同じ顔が浮かんでいたようだった。

 

 

「あ、そうそう……連絡先も残してってくれたのよ。けど名前は『セルシー』じゃなくて──」

 

(……っ!! やば──)

 

 

タクミは止めようとしたが……体が動かなかった。

 

 

 

約束してしまったのに。本来ならば、止めるべきだったのかもしれない。

 

だが、心のどこかで、アリアとしっかり話し合って欲しいと思う自分がいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『セシリア』って、名前だったわね」

 

「……!」

 

 

彼女にとって恐れていた事が、起こってしまった。

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