「失礼ですが、皆様は……? 弊社のアーティストはただいま、重要な仕事のパートナーを待っているところでして……」
「待って。彼女たちは知り合いよ、棠花。少し話をするくらいの時間なら、あるでしょう?」
前に出ようとしたマネージャーをヴェスポは手で制す。
その後、アリア達に優しい笑顔を向けた。
「やっほ、ヴェスポさん!」
「三人とも、また会えて嬉しい」
「わ、私も……! あの、ヴェスポお姉ちゃん、渡したいものがあるんだけど……」
そう言うとアリアは緊張した様子で、ヴェスポにライブのチケットを一枚手渡した。
「あ、前に言ってたやつね。有難く受け取っておくわ」
「! ありがとう……!」
「ちゃ、ちゃんとライブを成功させたるから……期待しててな、ヴェスポ姉さん……!」
「ええ、楽しみにしてるわ。それで……そちらの二人は」
「!」
ヴェスポの視線がアリア達からリンとタクミへと向けられる。
一応同行者と説明すればいいのだろうか。
「この二人は、ボクたちの臨時マネージャーだよん。安心して、それなりに長い付き合いだから!」
「あら……マネージャーが二人も必要なの?」
「マネージャーなんて何人いてもいいからね~。特にボクたちみたいな駆け出しアイドルには!」
「ふふっ……まあ、貴方達が信頼を寄せている事は分かったわ。という事は、アリアの正体も知っているという事よね?」
「! ええ、まあ……」
「喜ばしい事だわ。三人の事、これからもよろしくね?」
「は、はい」
いきなり臨時マネージャーという事にされて戸惑ったが、ただの友人よりはマシかもしれない。
その時、後ろにいた棠花がヴェスポが受け取ったチケットを見る。
「……このライブの日程、黄金の日のようですが……」
「! そうみたいね」
「申し訳ございませんがヴェスポ。その日はすでにスケジュールが入っております。彼女たちのライブには、お伺いする事が出来ないかと」
「え?」
(スケジュール……多分点灯式でのライブの事だよな。いくらヴェスポさんでも、ブッチしてまで来る事はできねーか……)
彼女が来れないかもと知ったアリア達の表情に、影が差す。
棠花の言葉に対して、ヴェスポはやや不満気味のようだった。
「……確かに、『予備』としてイベントに出て、うちのグループが『見栄を張る』お手伝いをするのは、外せない大事なスケジュールよね? 棠花」
「! ヴェスポ……!」
「私が口出しする余裕もなく、スケジュールは出来上がってる。なのに今更、この程度のぼやきが上に伝わると思う?」
「……」
「安心して。予定は絶対に狂わないから」
アリア達は顔を見合わせる。
「……タクミくん。ちょっといい?」
「?」
その時、羽がタクミにこっそり耳打ちをした。
「…………」
タクミは羽の話を聞いて少し考えた後……先ほど彼女から預かったチケットの一枚を、棠花へと渡した。
「……? なぜ、私にも渡すのですか?」
「お二人が黄金の日に来られないんなら、仕方ないです。スケジュールが埋まっているなら、わざわざねじ込むような事はしません」
「ならばなぜ……」
「妄想エンジェルはこれからもライブをやっていきます。もし二人のスケジュールに余裕が出来たら、その時はそのチケットを持って来てください」
「……! そうそう、黄金の日以降も、ライブを観に来るチャンスはたくさんあるから! チケットを持って来てくれたら、そのライブは無料だよ!」
臨時マネージャーに先ほど就任したタクミとリンが、ヴェスポに提案する。
もちろん羽の思い付きである。
「ヴェ、ヴェスポお姉ちゃん! 黄金の日は来れないかもしれないけど……それでも、いつか近いうちに来てくれたら嬉しいな……!」
「アリア……」
「大事に取っといてね、お二人とも! 特等席を用意してるから!」
「次のライブまでにまた別の新曲、完成させとくから……待っててや、ヴェスポ姉さん!」
「…………」
ヴェスポは三人の顔を見た後、スケジュールが書かれた手帳を取り出し、しばらく眺める。
「……黄金の日、ライブは行けないと思う。けど、前日のリハなら観に行けるはずよ。場所は、六分街の『404』で合ってるよね?」
「っ! ほんと!?」
「ヴェスポ……その日はあなた自身のリハーサルも……」
「たった半日なら、大した事ないよ」
「……はあ……分かりました。黄金の日の前日の午後、ですね」
「ヴェスポ姉さんも棠花さんも、ほんまおおきに……!」
「気にしないで。貴方達のパフォーマンス、楽しみにしてるね」
そう言った後、ヴェスポは棠花と共に主催者のもとへと行った。
張り詰めた空気が和らぎ、アリアが安堵のため息を吐く。
「よかったあ……リハだけでも、観に来てくれるみたいで……!」
「やけど、リハにヴェスポ姉さんが来るって……本番よりリハの方が緊張しそうやわ……」
「むしろ、良い機会だと思うなあ。
「確かに、店長さんの言う通りだよね……あわよくば、アドバイスとか貰っちゃったりして!」
それにライブ当日には大物有名人(本人は否定)も来る予定だ。
期待されるだけの実力が、三人にはしっかり備わっている。
どうかライブが三人揃って迎えられるようにと、タクミは切に願った。
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スターループを後にした一行は、次にルミナスクエアへと向かった。
次にチケットを渡すのは、イェン姉なる人物。
羽曰く、妄想エンジェル結成当初、マネージャーだった人らしい。
喫茶店の屋上で、三人は彼女と再会した。
「イェン姉!」
「! 三人とも、久しぶりね……!」
まるで久しぶりに娘に会ったかのような目で、イェン姉は三人を迎え入れた。
「聞いたわよ。妄想エンジェルがオフラインでライブなんて……こんなに嬉しい事はないわ! 本当に成長したわね……」
「いやあ、それ程でもあるかな~? そんなイェン姉に、はいプレゼント!」
イェン姉に黄金の日のライブのチケットを渡す羽。
受け取った彼女は、それはもう大事そうにチケットを両手に持った。
「素敵なチケット……黄金の日のライブ、絶対に来るわね」
「イェン姉、最高のパフォーマンスにするからね!」
「ええ、期待してるわ、アリア。……そう言えば聞きたかったんだけど、貴方は『歌姫セルシー』には会った事はある?」
(……!)
歌姫セルシー。
唐突に出てきたその名前に、タクミは胸騒ぎを覚える。
セシリアとした約束。
それが脳裏によぎった。
「……あるには、あったけど……セルシー様にとっては、あんまりいい思い出じゃないかも……」
「あら、そうなの? ……でもきっと、それは思い過ごしだと思うわ」
「思い過ごし……? どういう事?」
「事務所が無くなった後で、セルシーさんが貴方を訪ねてきた事があるの。どこでアリアの事を聞いたのかは分からないけど……」
「せ、セルシー様が!?」
「ええ。現役の頃とは、だいぶ姿が変わっていてて驚いたわ。髪を下ろしてて、毛先を緩く結ぶようなヘアスタイルになってて……耳元のヒレも、前より長くなってたかしら」
(……あれ? これまずくね)
彼女が羅列したその特徴。
……アリアにも、同じ顔が浮かんでいたようだった。
「あ、そうそう……連絡先も残してってくれたのよ。けど名前は『セルシー』じゃなくて──」
(……っ!! やば──)
タクミは止めようとしたが……体が動かなかった。
約束してしまったのに。本来ならば、止めるべきだったのかもしれない。
だが、心のどこかで、アリアとしっかり話し合って欲しいと思う自分がいたのだ。
「『セシリア』って、名前だったわね」
「……!」
彼女にとって恐れていた事が、起こってしまった。