エーテリアスを殲滅させた後。
三人+一匹は、出口を目指しホロウの中を進んでいた。
ビリーがプロキシに尋ねる。
「店長!次はどの方向に行けばいいんだ?」
「このまま進んじゃって!」
「了解!このまま進むぜ──待てよ、このまま進むだと!?けどよ、この先は壁だぜ!?」
ビリーの言う通り、プロキシの言った方向には壁があり、進める状態ではなかった。
「──ん?待てよ……ファイズなら壁をぶち壊せんじゃね!?」
「あのなビリー」
「貴方ならきっと出来るわ」
「あのなアンビー」
「みんな心配しないで。リンの言う通りにすれば大丈夫だから」
イアスから先程とは違う声がした。アキラの声だ。
「この声は……おお!もう一人の『パエトーン』だ!」
「お兄ちゃん、やっとログインしたんだね」
「ごめんね、さっきまでずっとホロウの出口の安定性を検証していたんだ」
アキラは続ける。
「三人とも、聞こえるかい?とにかく、リンがさっき言った進路は間違えてないよ。知っての通り、ホロウの中は秩序の無い混沌。つまり──」
「──生への道が死に見えたり、死への道が地獄に繋がってたりする……」
「……アンビー、貴重な情報をシェアしてくれてありがとな……」
「あと、ホロウを出てからの脱出経路も手配してある。僕たちを信じて──リン、もう感覚同期を解除しても大丈夫だよ」
「それじゃ切るよ、またね」
「え?ちょっ、店ちょ──」
リンは感覚同期を解除した。
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「──静かになった……」
「なんで肝心な時に憑依を解くんだよ!」
「そりゃもう出口が近ぇからだろ……ホラ、さっさと行くぞ」
ファイズはイアスを手に取り、準備をする。
「ちょ、待てって心の準備が──ぶつかるぶつかるぶつかるぅぅう!!」
三人とボンプはホロウを脱出した。
「エーテルの圧迫感が消えた……」
「やっと、出てこれたんだな……俺達!よっしゃ!」
ふとファイズの方に目をやると、既に変身解除をし、元の姿に戻っていた。
「いやータクミ、マジで助かったぜ!店長とお前が居なけりゃ、来年のスターライトナイトが見れなくなっちまうとこだった!」
「お礼なら俺じゃなくて兄ちゃんと姉ちゃんに言えよな、俺はただの手伝いだし」
アタッシュケースにベルトをしまいながらタクミはそう言った。
すると近くで車が止まる音が聞こえた。邪兎屋の社用車だ。車の窓からニコが顔を出した。
「時間も場所も、全部『パエトーン』の予想通りね!ほら、三人とも乗って!」
「ニコの親分!」
一同は車でRandom Playへと戻った。
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「──来たわね!ナイスタイミング!」
「ただいま、姉ちゃん」
Random Playの駐車場。車から降りると、リンが裏口から出てきた。
「おかえり、タクミ。それにしてもニコ、戻ってくるの早過ぎない?また信号無視したの?」
「そんなことないわよ。普通の青信号とR値255の青を通過しただけだから!──あ、それから来る途中に確認したけど、尾行はされてなかったわよ!」
「なあタクミ、R値255の青ってなんだ?」
「赤」
裏口から、アキラも出てきた。
「……ニコ、従業員たちを助けてあげたんだから、そろそろツケを払って貰えると嬉しいんだけど」
「待って!まだ終わってないでしょ?あたしの依頼は『人とモノ、どちらもホロウから出すこと』。ほら、半分しか終わってないじゃん!」
そう。先程は『人』をホロウから出しただけ。『モノ』──つまり金庫の方はまだホロウの中にある。
「大丈夫だよ、ニコ。ちゃーんと覚えてるから。」
「もう、『パエトーン』は頼りになるって信じてたわ!」
「ちょっ痛い、ニコ、痛いから!」
嬉しそうにリンの肩をバシバシ叩くニコ。それを横目にアンビーがエーテリアスについて説明をする。
「……撤退前に目撃した状況だと、対象の金庫は危険度の高いエーテリアスの活動範囲内にある」
アンビー曰く、そのエーテリアスは『デュラハン』と呼ばれる上級エーテリアスらしい。
「赤牙組の親玉も運が悪いな……強烈なエーテル物質に侵蝕されて高危険度のエーテリアスになっちまった」
ビリーとアンビーで金庫を奪おうとしたが、その尋常ならざる強さを前に、撤退を余儀なくされたらしい。
「……そういやニコ、その目的の金庫には一体何が入ってんだ?」
依頼の詳細は聞かされたが、金庫の中身までは知らされていない。タクミはニコに尋ねた。
「ふふん。早速答え合わせをしましょ──これを見て!」
ニコは牙の形をしたペンダントを取り出した。
それを見てリンはすぐに分かったようだ。
「これ……一見ただの精巧なペンダントだけど、実際はメモリディスクだね」
「ええ。これは小型のメモリディスク──『シルバーヘッド』の所有物よ。十四分街から抜け出す前に、あたしがビルの中で拾ったの!」
どうやらこのペンダントは、シルバーヘッドが肌身離さす持っていた物らしい。余程重要なものに違いないとニコは踏んだわけだ。
「きっとメモリディスクの中身は、金庫の暗唱番号と関係があるに違いないわ!」
「……でも、少し破損してるみたい」
アンビーの言う通り、メモリディスクは少し焦げてしまっている。
「ねね、パエトーン、なんか方法はないの?あんたたちの店にある、あの複雑なコンピューターは使えない?」
「H.D.Dのスペックは、ほぼホロウデータの処理に割いているんだ。けど、内部のデータを取り出すだけでいいのなら……」
アキラは少し考えた後、
「……うん。インターノットの演算パワーを借りて復元してみよう」
「よし!じゃあ約束ね!こっちは何とかしてホロウにある金庫の位置を確認するから、手掛かりがあったらまた連絡するわ!」
ニコは車に乗り、エンジンをかける。アンビーとビリーも車に乗った。
「あたしから金庫の回収作業連絡が来るまでは、他の仕事をしててもいいわよ!──あ、メモリディスクからデータを抽出するのも忘れずにね!」
「じゃあまたな、店長、タクミ!」
「では、また」
車は走り去っていった。
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その日の夜。タクミは自分の部屋で一人考え事をしていた。
ふと、ベルトを収納しているアタッシュケースに目をやる。
そこには大きく、『SMART BRAIN』というロゴが印刷されていた。
(スマートブレインの情報……一向に掴めねーな…… これについて調べればベルトの謎も分かると思ったんだけどな)
ベルトの謎を解明すべく、まずはこの『SMART BRAIN』という企業について調べた。
『SMART BRAIN』なるものがベルトに関係する会社だと言うことはなんとなく分かっていた。しかし、それについてインターノットで調べても1ミリの情報も手に入れることが出来なかった。
ますますファイズのベルトと、あの時そのベルトを渡した男の謎が深まっていく。
ベルトはいつ誰が作り、どこで男はそれを手に入れたのか。
男にそれを聞くのが一番手っ取り早い。…が、その男の行方も未だ掴めていない。
あの時名前ぐらいは聞くべきだったと地味に、いやかなり後悔している。
(……ま、今考えても仕方ないか)
ひとまずベルトの事を頭の片隅に追いやり、タクミは眠りにつくのだった。