「…………」
タクミが目を覚ますと、何やら薄暗い部屋のベッドの上にいた。病院というわけでもなければ、自分の部屋というわけでもなさそうだ。
「お」
部屋の扉が開かれ、明かりがつく。部屋の入り口に立っていたのはクレタだった。
「やっと目ぇ覚めたか。もう平気か?」
「ああ……つーかクレタがいるって事は、ここは──」
「おう。会社の休憩室だ。プロトタイプを運んだ後、お前をここに寝かせた」
話によれば、タクミが気絶した後すぐにクレタがプロトタイプを起動させ出陣。
ファイズの攻撃により弱っていた侵蝕体をプロトタイプの力でモニュメントへ突き刺して撃退したらしい。
その後、タクミをホロウから出してここへと運び込んだ。
本当は病院に連れていこうとしたが、怪我自体はしていなかったので仕方なく休憩室で寝かせることにしたのだそうだ。
「プロキシは命に別条はないって言ってたけどよ……一時間も目覚めないからどうなるかと思ったぞ」
「一時間……」
「あとな……こうしてお前と一緒に戦った後、ひとつ気付いたことがある」
「気付いたこと?」
「ズバリ、お前は一人で突っ走りすぎるっつーことだ」
「う゛っ」
クレタはビッとタクミを指さし、そう指摘する。
タクミ自身もそういう自覚があるのか、バツの悪そうな顔をする。
「エーテリアスが立ちはだかった時だって、一人で相手しようとしてたし、姉貴がピンチの時だって一人で行くつもりだっただろ? 挙句にゃプロキシが止めたにも関わらず無茶してたらしいしな」
「そ、それは……」
「……まぁでも、その無茶のおかげであのバケモンをぶっ倒せて、プロトタイプも無事連れて帰る事が出来た。その点についてはお前には感謝してるし、あたしから言う事は何もねぇ」
「……悪いな。心配かけて」
「気にすんな。でもああいう無茶はこれっきりにしろよな」
「……善処します」
「……」
「……も、もうしません」
「よし、それで良い」
クレタは満足そうに頷いた。
「そ……そういやクレタの方こそ大丈夫なのか?大分派手にぶっ飛ばされてた記憶があるんだけど」
「あたしか? 何も問題はねぇよ。けど、プロトタイプに乗って間近で怪物と戦ってたからか、姉貴達が侵蝕を受けてないか検査しろってうるさくてな……」
「……まぁ、それだけクレタの事を大切に思ってるんだろ」
聞いた話によればプロトタイプも戦いの途中に侵蝕されていたらしいので、彼女たちが心配する気持ちも分からなくは無い。
それを口に出せば『お前が言うな』と突っ込まれる事は自明の理なので言わないが。
「……」
「? どうした、クレタ」
「……タクミ。その、色々ありがとうな」
「……気にすんな。友達なら助け合いなんて当たり前だろ」
「……っ、そうだな……!」
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「──それじゃ、記憶素子はお前らに託したからな」
「じゃあね、クレタ。工事が順調に行く事を祈っているよ」
数日後、ビデオ屋にて。クレタはプロトタイプから取り出した外部記憶素子をアキラに渡し、去っていった。
この記憶素子は特殊な暗号化によりプロテクトされている。
これを解読すればあの時ホルスの身に何が起こったのかを知る事が出来るはず、との事だった。
「なんだか、初対面の頃から随分雰囲気が変わったね。今のクレタは……前よりもずっと、頼りになる社長に近づいた気がする」
「……でも、本当に予想外の連続だったな。シンプルな依頼かと思えば、白祇重工の過去を掘り起こす羽目になり……しまいには謎の怪物まで出てくる始末だ」
「タクミの方は大丈夫? どこか具合が悪かったりしない?」
「……姉ちゃん、その質問昨日もしただろ……なんかアンビー達にも同じこと聞かれたし」
「それだけ皆心配してるって事さ。怪我はしてないから前みたいに外出するなとは言わないけど、出掛ける時は十分気をつけるんだよ?」
「わーってるよ」
タクミはそう言うと階段をのぼり自分の部屋へと向かっていった。
「……そういえばリン、怪物がエネルギーを放出した時、急に目の違和感を覚えたと言ったね?」
「……一瞬だけだったけど、確かに目に違和感があったかも……」
「あの怪物の裏には、絶対に何かあるはずだ。僕達が追い続けている『あの件』の真相も、もしかしたらそこに……」
「……」
「……リン?」
「……タクミには、この事については何も言わないつもりだったけど……」
「!」
「……零号ホロウで先生の手掛かりを探すために……ファイズの力を借りなきゃいけなくなる時が、タクミを巻き込まなきゃいけなくなる時が来るのかな」
アキラとリンから見ても、ファイズの力は強大だ。ファイズの力がなければ達成できなかった依頼もある。
ファイズの力を借りれば、『あの件』に関する情報を得られるかもしれない。
しかし零号ホロウは今までタクミが入ってきたどのホロウよりも危険な場所だ。いくらファイズの力があるとはいえ、身の安全の保障はできない。
二人には、何の関係もないタクミを巻き込みたくないという気持ちがあった。
「……それは分からない。けどタクミの事だ、教えたら十中八九『協力する』なんて言い出す」
「あはは……違いないね」
「でもリンの言う通り、いつかはファイズの力が必要になるかもしれない……できれば、そんな事はしたくないけどね」
「お兄ちゃん……」
二人の会話は、誰にも聞こえる事はなかった。
次回からまた番外編を挟んだ後、3章に移ります!