ヨシ!
料理ができるまでの間、猫又はタクミの部屋で映画でも見ることにした。
しかし猫又の頭の中には一つの懸念点で頭がいっぱいになり、その実映画どころではなかった。
(タクミの……手料理……)
タクミの料理が食べられるのが楽しみ、という気持ちは確かにある。しかし。
(他の子にも……振る舞った事あるのかな……)
仮にタクミがそうしていたとしても、それ自体は悪いことではない。そんなのはタクミの自由だとは理解している。理解はしているが───
(なんか、嫌だな……)
猫又は自分の胸の中に渦巻くこの気持ちが分からなかった。
「──又。猫又!」
(……って、何考えてんだろあたし……)
「猫又!」
「んにゃぁっ!?」
後ろからの声に思わず飛び跳ねる猫又。振り返るとそこにはいつの間にかタクミがいた。
「た、タクミ! 脅かさないでよ! 思わず飛び跳ねちゃったぞ!」
「脅かすってお前、別にそんなつもり無かったぞ。何回呼んでも反応無かったからさ」
「えっ」
どうやらタクミの声も聞こえない程に考え事をしてしまっていたらしい。
「……ご、ごめん。それで、あたしに何か用?」
「ああ、昼飯が出来たよって」
「え?嘘でしょ? 早くない?」
「早い……か? 割と時間かかったと思うけどな。一時間ぐらい」
「そ、そっか……もうそんな時間経ってたんだ」
「ほら、早く食おうぜ。飯が冷めちまう」
「う、うん」
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猫又はテーブルに置かれた料理を見て驚く。
「……これ、サバの塩焼き?」
「そう」
おかずの塩焼きの他にも、茶碗いっぱいに盛られたご飯。豆腐や海藻などが入った味噌汁。たくあんやキュウリの漬け物。
所謂『定食』というものだ。さらに、サバは猫又の大好物でもあった。
「……あたしのために、これを作ってくれたの?」
「……そんなんじゃねーよ。たまたまサバが食いたい気分だったんだ。そんな事よりさっさと食おうぜ、腹減っただろ?」
「……うん」
椅子に座り、『いただきます』と言う二人。サバの身を一口大に切った後、大根おろしを乗せて食べる。
「……! おいしい!」
「そうか? そりゃ何よりだ」
素っ気ない反応をするタクミだが、声色から嬉しそうな様子が伺える。
しかし、タクミは食べている途中で猫又の様子が少しおかしい事に気が付いた。
おいしそうに食べてはいる……が、何故か猫又の表情は暗いままだった。
「……ちょっと塩多すぎたか?」
「え、いや、そんな事はないぞ! とっても美味しいから、心配しないで!」
「でも何か渋い顔してたぞ。悩みでもあんのか?」
「……」
猫又はしばらく黙った後、口を開いた。
「タクミは……さ」
「うん」
「こういう手料理って他の子に振る舞った事ってあるの……? アキラやリンちゃん以外で」
我ながら馬鹿な事を聞いたな、と猫又は思った。しかし、それでも聞かずにはいられなかった。
その問いに対してタクミは──
「ねーよ」
「……ない?」
「ああ。家族以外じゃ猫又が初めてだ」
「本当に……?」
「本当だよ。飯作る前にも言ったけど、そもそも自分で作る機会がめったに無かったからよ……つーか、そんなん聞いてどうすんだよ」
「べ、別にどうもしないぞ! 聞いてみただけ」
「そうかよ」
猫又とタクミは特に何も喋らずに食事を進める。タクミは猫又の顔を見る。
「〜♪」
憂鬱な表情をしていた先程とは打って変わって、猫又は嬉しそうな表情で塩焼きを食べていた。
タクミは猫又の悩みが何なのかは分からなかったが、解消されたならそれで良いかと思うことにした。
「ただいま〜! ってアレ?なんか鯖の匂いしない?」
ちなみにアキラとリンが帰ってきたのは、夕方になってからの事だった。