とある日の午後。
タクミは買い出しに出かけたアキラとリンに店番を頼まれていた。
18号を抱っこしながら、タクミはもうじき始まるであろう市政選挙の事をふと思い出す。
しかし、タクミはそれに対してあまり興味を持てないでいた。
まだ選挙権を持ってないとは言え、政治に対する関心が薄いのはあまり褒められた事では無いだろう。
それはタクミも重々承知しているが、興味のない事に対してはとことん無関心なのが彼だ。
この間アキラとリンに連れていかれた『治安パトロール月間』イベントの安全講習会も、内容はほとんど覚えていない。
襲いかかる眠気と死闘を繰り広げた事なら覚えている。
というか、今現在もそうだ。
「ふぁ、ぁ……」
本日何回目かのあくびが出る。 客が来なさ過ぎるというのもあってか、まだ夕刻なのに眠たくて仕方がなかった。
しかし店番を任された以上、いつ来るかも分からない客に対し寝姿を晒す訳にもいかない。
そんな訳でタクミは兄と姉に早く帰ってこいと念を送りつつ、湧き出る睡眠欲に現在抗っている。
「ごめんください」
「!」
誰かが店のドアを開け、入店して来た。接客をしようと寝ぼけ眼をこすり、客の方を見る。
そして、タクミの動きが凍りつく。
「あ、タクミくん。こんばんは」
「……!?」
黒い髪のポニーテール、赤いメッシュ、そして何より目につくのは──彼女が着ている青いベスト。
入店して来た女性は、なんと治安官だった。
その女性は笑顔でタクミに挨拶をする。
(な、んで……治安局の人がここに……?)
「あ、あの……どうしたんですか?」
「え、あ……その、いっ……いらっしゃいませ」
慌ててはいけない。なるべく平静を装うようにする。
それにしても何の用だろうか。
まさかアキラ達がプロキシだと言うことがバレたのか。
それともタクミがファイズである事がバレたのか。
というかそもそもなぜこちらの名前を知っているのか。
何にしてもここで取り乱してはいけない。
「と……当店に、どのようなご用件でしょうか」
「『真実はいつも無数』というタイトルのビデオを借りたくて。店長さんはいらっしゃいますか?」
「……あっなるほど」
何を慌てる事があったのか。この治安官はただビデオを借りに来ただけだったのだ。
なぜ治安局の制服を着ているのかは分からないが。
「あーその……兄と姉は今外出中です。よろしければこちらで──」
「ただいま〜!……って、朱鳶さん?」
「あ、リンちゃん。それにアキラくんも」
ちょうど良いタイミングでアキラとリンが帰ってきた。
朱鳶と呼ばれたその女性は二人に挨拶をする。
「こんにちは、朱鳶さん。いや、今はこんばんはの時間かな」
「え?もしかして知り合い?」
「あれ?タクミ覚えてない? 安全講習会の時にいた治安局の人だよ」
「……あ」
そういえば、安全講習会の場でアキラとリンが彼女と話していたのを見た気がする。
眠気を抑え込むのに精一杯で記憶になかった。
「……まさか忘れてた?」
「い、いや……忘れてないよ。思い出せなかっただけ」
「……それを忘れてたって言うんじゃないか?」
「まあ、無理もないですよ。私だって二人から名前を聞いただけで、こうして直接話した事は無かったんですから」
(あ……だから俺の名前知ってたのか)
アキラとリンの知り合いなら一安心だが、どういう経緯で知り合ったのだろうか。
プロキシ事業を生業の一つとしている以上、治安局の人間と交流を持つ事は避けていたはずなのだが。
「それで朱鳶さん、お店に何の用だい?」
「あ、そうそう。このビデオを借りたくて──」
朱鳶はレンタル料金を支払うと店を出ていった。なんでもパトロールの帰りにビデオ屋に立ち寄ったらしい。制服姿だったのはこのためだった。
「タクミ、店番お疲れ様」
「ああ……つーかマジでビビった……急に治安官が店に来るもんだから……」
「まあ、気持ちも分からなくは無いけどね」
「……つーか二人とも、いつの間に治安官と仲良くなってたんだな。治安局の人間とは交流しないと思ってたのに」
「まあそれは……なりゆきで、ね」
「ああ。詳しくは夕飯の時にでも話そう」
どうやらタクミの知らない間に色々とあったらしい。
治安官と交流が出来たことが原因で、ファイズであることがバレないよう祈るタクミだった。
この話とはあんまり関係ないけど、ゼンゼロ世界って車とかバイクとかの免許は何歳ぐらいから取れるのか……