ルミナスクエアのグラビティシアターにて。
入り口から出てきたタクミの顔は──げんなりとしていた。
「……」
何故なのか。それは先程見た映画の内容があまりにもあんまりだったからだ。
新エリー都で大ヒットしたという映画の続編。その前作はタクミも見たし、とても面白かった。
故に今作はどうなるのか楽しみにしていた。
しかし内容は……前作で活躍したキャラはぞんざいな扱いを受け、最終的に主人公は死んでしまうというまさかの結末。
どうやら展開に不満だったのはタクミだけでは無かったようで、エンドロールの後の客席はまさにお通夜のような雰囲気であった。
「……コーヒーでも飲むかぁ……」
今度アンビーに感想でも聞いてみよう。そう考えながらタクミは、気分を晴らそうとルミナスクエアの喫茶店に立ち寄ろうとする。
その時だった。
「おい……!!」
「むぐぅっ!?」
伸びた手に掴まれ、タクミは強制的に路地裏へと引きずり込まれた。
「なっ……何──」
「喋るな……死にたくなけりゃ持ってるディニー全部出しやがれ、いいな?」
「……!」
タクミを引きずり込んだ男の右手にはナイフが握られている。
もしかしなくとも、この男はカツアゲだった。
なんという不運だろうか。近頃そういう事が起こらなかったがために、油断していた。
ここは人気が少ない。治安官に助けを求めようと大声でも出せば、男は逆上しナイフを振り回す事だろう。
そうなれば負傷してしまうリスクは避けられない。
ここは大人しく言う事に従おうとポケットの財布に手を伸ばす。
……しかし、ここで予想外のことが起こる。
「うぉおっ!?」
「!?」
硬貨を取り出そうとし、手が滑る。その拍子に、硬貨を全て排水溝の中に落としてしまった。
「……」
「……おい。何してんだ」
自分に貧乏神が憑いているのなら、持てる全ての力を使ってソイツを滅ぼそうと決めたタクミだった。
しかし幾ら恨んだ所で状況は良くならない。むしろ却って悪くなったような気がする。
「……どいつも、こいつも……よォ……!!!」
突然のアクシデントにより、男の怒りは頂点に達していた。額に青筋を浮かべ、ナイフを握る手に一層力がこもる。
「俺をなめやがってェェエエエエエッ!!!」
「っ!!」
結局逆上した男は、ナイフを振りかざしこちらへ向かって来た。
タクミはナイフをかわすが、左手で掴まれ、地面へと押さえつけられてしまう。
「死ねェ!!」
「ぐっ……!!」
男は倒れたタクミにナイフを振り下ろす。突き刺さる直前でタクミはナイフを止める……が、想像以上に男の力が強く、このままでは押し負けてしまう。
「こ……この……!!」
「もう何をやっても上手くいかねぇんだ……どうせなら──」
「犯した罪を償う時であるな」
「!? ぐぉおああっ!!」
男の背後に緑髪のツインテールの少女の姿が見えたと思ったら、直後に目にも止まらぬ早業で男に攻撃を加える。
そして男はピクリとも動かなくなった。突然の事態に理解が追いつかないタクミ。
「タクミよ。怪我は無いか?」
「あ、はい。おかげさまで」
「よし」
ツインテールの少女が手を差し伸べる。見たところ治安官のようだ。
それよりも、なぜこの少女はタクミの名前を知っているのか。
男に手錠をかける少女の顔を見る……どこかで見た記憶があるような気がする。
「……」
「ん? 如何したか? 我の顔に何か──ああ。そういえばこうして顔を合わせて話をするのは初めてであったな。我は青衣と申す者なり」
「あ、いや……それもあるんすけど、なんで俺の名前を──」
「青衣先輩!」
遠くで聞いた事のある声が聞こえた。声の主は朱鳶だった。
ここでタクミは思い出す。青衣と呼ばれる少女が安全講習会の時に朱鳶と一緒にいた治安官だったという事に。
「……タクミくん? それに、その男は……」
「今しがた、タクミがこの男に襲われているのを発見し、取り押さえた所だ」
「……!分かりました、すぐに連行しましょう。こちら朱鳶班──」
───────────────────────
この後ルミナ分署で事情聴取やら調書の作成やらで、解放されたのは夕方になってからの事だった。
こちらはただコーヒーを飲みたかっただけだ。それがこのような事態になってしまうとは……
「──今日は重ね重ねありがとう、朱鳶さん、青衣。感謝してもしきれない。ほら、タクミもお礼」
「あ……ありがとう、ございました」
朱鳶と青衣に頭を下げるアキラとタクミ。
「か、顔を上げてください二人とも。タクミくんが無事で本当に何よりです」
「朱鳶の言う通りだ。これが治安官の務め故、気にする事はない。して、タクミよ」
「?」
「ほれ」
青衣は大きめの水筒を取り出し、何かをコップに注ぐ。そしてそれを、タクミに渡した。
「……? なんすか、コレ」
「これは白湯というものだ。心を落ち着かせるのにはうってつけであるぞ。先程暴漢に襲われたのだ。心身共に疲れ果てたであろう?」
「あ……じゃあ、いただきます」
確かになんだか身体が疲れているような気がする。タクミはコップを受け取り、白湯を飲む。
程よい温かさで、疲労が取れていく感覚がした。
「どうだ?」
「……おいしいです。ありがとうございました」
「それは重畳」
青衣は満足そうに頷いた。
「それではアキラ、タクミ。また会おうぞ」
「二人とも、帰りは気をつけてくださいね」
そうして、朱鳶と青衣は治安局のビルへと帰って行った。
「それじゃあ、僕達も帰ろうか」
「ああ……うん」
治安官二人に名前を覚えられる事に奇妙な感覚を抱きながら、タクミは帰路に着いた。
次回から3章突入です!