とある日の朝。
起きたら、アキラとリンがどこかへ行っていた。
買い物でも行っているのだろうと、帰ってくるまでの間棚の整理をしていた。すると──
「あ、いたいた。おはようタクミくん」
「!」
店のドアが開けられる。声の主はレインだった。
「レインじゃねーか、おはよう。ビデオでも借りに来たのか?」
「ううん、今回は違う。今日は君にお礼を言いに来たんだ」
「……お礼? 俺なんかしたっけ」
「もう、忘れたの? バレエツインズで私を助けてくれたでしょ?」
「…………」
「……あれ? タクミ君? どうしたの?」
思考停止をするタクミ。確かにバレエツインズではレインと共に行動をしたが、ファイズの正体が自分だとは言っていなかったはずだ。
どこで知ったのか。
「……あの、さ。その話どっから──」
「僕がレインに話したんだよ。さっきね」
「あっ兄ちゃん」
いつの間にかアキラとリンが帰って来ていた。レインと一緒にいたのだろうか。
「えっと、何しに出かけてたんだ?」
「レインから例の外部記憶素子が解読出来たって連絡を受けたから受け取りに行ったんだよ。昨日言ってたじゃん、忘れちゃったの?」
「え?…………あっ」
完全に忘れていた。そもそも外部記憶素子の解読をレインにして貰おうというのが始まりだった。
それならパエトーンがアキラとリンだという事も、タクミがファイズである事も知ってて当然だった。
タクミはバツが悪そうに頭を搔く。
「あー、その……体は大丈夫なのか? もう平気か?」
「大丈夫だよ。今はヴィクトリア家政の人達に匿って貰ってるから」
レインはタクミに、感謝の気持ちを伝える。
「あの時は守ってくれてありがとう。ファイズが──君がいなかったら、私はホロウの中で命を落としてたはず」
「……別に、どうって事ねーよ。あれぐらい」
「……タクミ、もしかして照れてる?」
「照れてない」
「やっぱり照れてる〜!」
「照れてねぇっての!」
あの後レインはビデオを一本レンタルし、この場を後にした。
そしてしばらくしないうちに、新しい客がやってきた。
「よお。元気してたか?」
「久しぶりだね」
店にやって来たのはクレタとグレース。
「クレタもグレースさんもいらっしゃい。記憶素子の解読はもう出来てるよ」
「…………」
「……? どうしたクレタ」
何故かタクミの顔をじっと見つめるクレタ。
「……タクミお前、どこも怪我してねぇよな?」
「え?ああ、心配ねーよ。この通り無傷だ」
「なら良し……プロキシも、タクミがケガしないようちゃんと手綱握ってやれよ」
「た、手綱ってお前……つーかなんでいきなりその話なんだよ」
「……この記憶素子を解読するために、またとんでもない事に巻き込まれたって聞いてな。タクミが怪我してねぇか気がかりだったんだよ。大分危なっかしいからな、お前」
「うっ……」
無茶をしている自覚はあるので、タクミら言い返す事が出来なかった。
「ま、無事なら何よりだ。最近、この街もなんだかピリついて来たような気がすんだよな。あたしが四六時中、あのバケモンのことを考えてるからかもしんねぇけどさ」
化け物──ホロウの工事現場のモニュメントの中に封じ込められていた正体不明の侵蝕体。
「……ずっと、この記憶素子の中にあるもんが一刻も早く解読できたらって思ってた……けど、いざその段になってみると、緊張するもんだな」
「大丈夫さ、おチビちゃん。この中に入ってるどんなものと向き合うことになろうと、私たちが一緒だよ」
「ああ、グレースさんの言う通りだ」
「Fairy、後は任せていい?」
「かしこまりました。記憶素子内部のデータを解析中──マスター、断片的な音声データが検出されました。システムのタイムスタンプは、旧都陥落前日の夜です」
旧都陥落の前日──それはクレタの父親、ホルスが失踪した日だった。
「……音声データ?」
「Fairy、その音声……再生できる?」
「肯定。音声を読み込み中。しばらくお待ちください」
数秒後、音声の再生が始まった。
『言った……ずだ。何も知らないふりを……と。それが、俺た……のためだと……!』
『……俺は、父親だ。あんな娘の命を脅かすようなもん、放っとくわけには──』
聞こえてきたのはホルスと謎の男の声。しかし怪我をしているのか、ホルスの声は弱っていた。
『教えてくれ……モニュメントの中のアレは……一体なんなんだ……』
今にも力尽きそうなホルスの問いに、男はこう答えた──『サクリファイス』と。
先程アキラとリンがレインから聞いたという言葉。
タクミはその言葉の持つ意味は分からなかったが……もしかしたら後戻りの出来ないところまで来てしまったのではないかと、そう感じたのだった。
また番外編を挟んだ後、四章に突入します!