ピピピ、と体温計のアラームが鳴る。
「うん、風邪だね」
体温計の液晶を見たアキラは熱を測ったタクミにそう言った。
マスクをつけ、額に冷えピタをつけたタクミが鼻声でぼやく。
「……ここ最近ずっと引いてなかったんだけどなぁ……どこで貰っちまったんだ……?」
「まあどんなに免疫が強くても引く時は引くものさ。とりあえず、今日は家で安静にしてるんだよ」
「あーい……」
アキラは静かに扉を閉じて、部屋を出ていった。
タクミとしても、いつまでも具合が悪いのは嫌なので大人しく床に就こうと掛け布団を被る。
すると、スマホから着信音が鳴り響く。クレタからだった。
「……もしもし」
「もしも──ってタクミお前、どうしたんだ!?」
電話をかけてきたクレタは、タクミの第一声から何か様子がおかしいと気づいた。
「……今日風邪引いちまってよ。もし遊びに誘うつもりだったならすまねぇ。今日は家でじっとするつもりだからさ」
「そうか……風邪、引いちまったのか」
そう言うとクレタはしばらく黙り込み、その後こう言った。
「──よし、分かった」
「え、何が──ちょ、クレタ。クレタ?」
タクミの返事も待たず、クレタは通話を切ってしまった。
……まあ、今日は遊べないということを伝えられたなら良いかとタクミは再び床に就く。
窓から見える空は晴れ渡っている。こんな日に風邪を引いてしまうとはとことんついていないな、などと考えながら眠りに────つけない。
当然と言えば当然である。タクミは先程起床したばかりなのだから。
どうにかして眠ろうと瞼を閉じること数十分。突然、部屋の扉が開く。
「タクミ、お客さんだよ。君を看病したいって」
「よ、タクミ」
「……クレタ?」
お客さんとは、先程通話したばかりのクレタだった。風邪がうつるのを防ぐためか、マスクをしている。
タクミは咳き込みながら上体を起こす。
「あー、別に寝たままでも良いぞ。安静にしてろ」
「……なんでクレタが?」
「んだよ、来ちゃ悪いのか? ダチが風邪引いたんなら看病すんのが当たり前だろ?」
「……当たり、前か?」
……しかし、せっかく来てくれたのに看病を拒む事はしたくない。
「あ……そうだタクミ、お前腹減ってるか? せっかくだしお粥作ってやるよ」
「……作れんのか? お粥」
「馬鹿にすんなよな。確かに料理は滅多にしねぇけど、お粥の一つぐらい作れるっつーの。今からちょっとキッチン借りて、作ってくる」
そう言った後、クレタはさっさと下へ降りていった。
そして数十分経った後。
「ほらよ、出来たぜ」
「……おお」
クレタはトレーにお粥を乗せ、クレタが部屋に入ってきた。
出来たてのお粥が、もくもくと湯気を出している。
「……ありがとな。わざわざ作ってくれて」
「気にすんな」
「そんじゃ、いただきます」
スプーンでお粥をすくい、ふー、ふーと息をふきかけて冷ましてから口に入れた。
「……どうだ?」
「……美味い。めっちゃ美味い」
「……っ、そうか!」
お粥の温かさが風邪をひいた体に染みる。
元々腹は減ってはいなかったが、お粥を食べる手は止まらず、すぐに完食した。
「……ごちそうさま」
「お、早かったな! そんなに美味かったか?」
「ああ。自分でも驚くぐらいに箸が進んだ」
「そ、ソイツは良かった……へへ」
クレタは照れくさそうに頬をかいた。
「なあタクミ、他にして欲しい事あるか? 今日だけは特別だ。なんでも言ってくれ!」
「……それじゃあさ、話し相手になってくれねぇか?」
「話し相手?」
「ああ。中々眠れなくてさ。話してたらその内眠くなるかなって」
「そんな事か。良いぜ、いくらでもなってやるよ」
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「そんで姉貴の部屋にさ────ん?」
クレタがタクミと話している途中。タクミがもう眠ってしまっている事に気が付いた。
「……もう寝ちまってたのか」
このまま寝ればタクミの具合は良くなってくるはずだ。後はアキラとリンに任せればいい。
そう思ったクレタはそろそろお暇しようと椅子から立ち上がろうとする。
「……ん?」
するとタクミが息苦しそうにしている事に気づく。クレタは少し考えたあと──
「……もう少しここに居ても良いか」
再び椅子に座り直した。
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夕方。
タクミは眠りから目覚め、体を起こした。
「んー……」
眼を擦り、欠伸をする。今朝よりかはかなり具合が良くなっていた。
「……あれ?」
そしてタクミのすぐ側には、クレタが椅子に座りながら目を閉じ眠っていた。
「……クレタ、おいクレタ」
「…………んぁ?」
肩を揺すり、クレタを起こす。彼女は目を開けるや否や、体を思い切り伸ばし欠伸をした。
「あー、悪い。いつの間にか寝ちまってたみたいだ」
「……そうなんだな。クレタ、ちょっと聞きたいんだけど」
「……? なんだよ」
「──もしかして、寝てる間ずっと俺の手を握ってたのか?」
「…………」
クレタは自分の左手に目を落とす。
その手にはタクミの右手ががっちりと握られていた。
「〜〜〜〜〜!?!?」
『人って死ぬほど恥ずかしい時は本当に湯気が出るんだな』と、タクミは後にそう語った。