朝日が照らす六分街を、一人の少女が走る。
オレンジ色の瞳、そして銀髪のショートボブ。そんな彼女は何故か寝間着状態だった。
まだ早朝だからか、通りには人一人いない。
彼女が向かっている先は──ビデオ屋、『Random Play』。
ビデオ屋に着くや否や、バン!とドアを開ける。
まだ開店していない時間帯だが、そんな事構うものかと言わんばかりに少女は店の奥の階段を駆け上がっていく。
そして二階に上がったあと、とある部屋のドアを勢い良く開ける。
そこはとある少年の部屋だった。
まだ寝ている彼にズカズカと近寄り彼女は──
「おい!! 起きろ!!」
……そのクールな風貌に似つかわしくない大声で、少年に呼びかけた。
「……ん」
その大声により、少年はゆっくりと起き上がる。寝ぼけ眼を擦った後、辺りを見回す。そして。
「……どうして私はタクミの部屋に」
「おはよう、早速だが鏡見ろ!」
「……どうして私が私の目の前に」
少女は少年をベッドから引きずり出し、部屋にある鏡の前に連れていく。
そして鏡に写っている己の姿を目の当たりにした少年は、絶句した。
「……タクミに、なってる……?」
少年は目を見開いたまま、隣の少女に目をやる。
「貴方はもしかして──」
「ああ、俺だ。見た目はアンビーだけどな」
「……夢?」
「残念だが夢じゃねぇ。俺達は──入れ替わってる」
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「……嘘。タクミとアンビーが?」
「どうやらそうみたい」
事態を飲み込んだ後、二人はアキラとリンに状況を説明した。
「邪兎屋の三人もさっき呼んだ。もうすぐ来るはずだ」
「……なんかアンビーが男らしい口調をしてるの、凄い新鮮かも」
そんな話をしていると店のドアが勢い良く開かれ、ニコ、ビリー、猫又の三人が入ってきた。
「ちょっとアンビー、タクミと入れ替わったってホント!?」
「おう、来たな三人とも」
「────」
「……え?」
腕を組みながらそう言うタクミ(外見アンビー)に面食らい、三人は思わず思考停止してしまう。
「……ニコ、大丈夫?」
「ひゃっ!? ちょ……!!」
表情をあまり変えず、淡々とした声で顔を近づけてニコを心配するアンビー(外見タクミ)に、彼女は思わずどぎまぎとしてしまう。
「……マジで入れ替わってるのか? 映画のロールプレイとかじゃなくて?」
「さっきも兄ちゃん達に説明したけど本当だぞ。今朝、目覚めたらアンビーになってたんだ」
「今朝急いで出掛けてったのはそのせいだったんだ……」
会話を聞いていたアンビーは、ふとある事を思いつく。
「タクミ、ちょっと良いかしら」
「? 何を──」
アンビーはタクミの肩をがっちりと掴み、自身の頭を後ろに引く。そしてアンビーは思い切りヘッドバットをかまそうと──
「おいおいおい待てアンビー!! 何しようとしてんだお前!」
──しようとした所でタクミに止められる。
「……コメディ映画では元の状態に戻る時、お互いの頭がぶつかる事で解決させてたわ」
「させてたわじゃねーよ、現実じゃ普通に脳震盪起こすのがオチだろうが!」
「……なんか二人の会話聞いてると脳がこんがらがっちゃうぞ……」
「ああ。こんな表情豊かに喋るアンビー初めて見たぜ……」
「……二人は今朝入れ替わったのよね? 昨日、なんでそうなったのか、思い当たる節はある?」
アンビーとタクミはうーん、と唸る。
「……昨日は何も。ホロウだって入ってなかったし、ずっと家で過ごしてたぞ」
「……私はあるわ」
「本当かい?」
「昨日依頼でホロウに入った時に、初めて見る種類のエーテリアスに遭遇したの」
そのエーテリアスと接近戦をした際に、一瞬だけ頭部のコアが眩しく光ったらしい。
エーテリアスはすぐに倒し、体にも異常は無かった。しかし……
「──確証を持って言えるわけじゃないけど……この現状を鑑みる限り、原因があのエーテリアスである可能性は高いわ」
「でもそのエーテリアスは倒したんだろ? なんで入れ替わったまま戻らないんだ?」
「……そのエーテリアスと出くわしたホロウに行けば、理由が分かるかもしれないな」
ひとまずはそのホロウへ向かい、二人が入れ替わった原因を模索することにする。
「よし、そうと決まれば早速行動開始よ! いつまでもこのままじゃ邪兎屋の仕事にも支障が出るわ!」
「よろしくお願いするわ、プロキシ先生」
「その顔でプロキシ先生って言われるの、調子狂うなぁ……」
「……あ、そういえばタクミ」
「ん?」
「いつまでもその格好だと、何も出来ないわ。帰って普段着に着替えてきてくれる?」
「ああ、分かっ──いや無理だろ」
早速関門にぶち当たるタクミだった。