激辛を制す者は
[タクミ、今時間は大丈夫かしら]
とある日の正午前。
昼飯に何を食べようかと悩んでいたタクミの元に一つのDMが届いた。
メッセージの送り主は──11号。
彼女とはラーメン屋で知り合って以降、ちょくちょく交流をしている。と言っても、ラーメン屋でのみではあるが。
最初と比べ大分仲良くなったが、教えて貰った彼女の『11号』という名前が本名かどうかは未だ分からずじまいである。
[今から飯食おうと思ってたとこだよ]
[それなら丁度良いわ。貴方に一緒に来て欲しい場所があるの]
[どこ?]
[ルミナスクエアにある火鍋店よ。詳細はそこで話すわ]
[それじゃあ、待っているわ]
火鍋店。DMで彼女は『丁度良い』と言っていたが、もしかして一緒に火鍋を食べたいのだろうか。
タクミもちょうどお腹を空かせていた所なので、準備を済ませてルミナスクエアへと向かった。
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「時間通り来たわね」
「腹減ってたからな」
ルミナスクエアの火鍋屋の前には、11号が既にタクミを待っていた。
彼女の姿はいつもラーメン屋で見る格好をしている。
遠目で見てもかなり目立つだろう。タクミの知り合い全員に言える事だが。
「今日来てもらったのは他でもないわ。これを見てくれるかしら」
そう言って11号が見せてきたのはエリー速報のページにある、とある広告。
どうやら今来ている火鍋店で『激激激激激激辛チャレンジ』を行っているらしい。
激激激激激激辛鍋のしゃぶしゃぶを十口食べる事が出来たら、代金が無料になるとの事らしい。
ただし、条件がある。
それは制限時間内に完食をする事。それが出来なければ、通常の代金を支払う事になる。
ちなみに、一番早い時間で完食する事が出来たら店に名前を残す事ができるらしい。
「……先に言っておくけど、『無料』という字に目が眩んだわけではないわ。ただ、ここの火鍋は食べた事がなかったから、良い機会だと思ったの」
「分かってるよ。そんじゃ、早く並ぼうぜ」
「ええ」
二人は短い列に並ぶ。この様子だと数十分くらいは待つ事になるかもしれない。
「……タクミ」
「ん?」
「自分でも、かなり貴方を強引に誘ってしまったと思っているけど……断ってくれても良かったのよ。貴方も他に食べたいものがあったんでしょう?」
「……特になかったんだよな。決めかねてた時に11号のDMが来たからさ、むしろ丁度良いタイミングだったっつーか。誘ってくれてありがとうって思ってるよ」
「……ありがとう」
「……あーでも、ひとつ聞いていいか?」
「?」
「どうして俺を誘おうと思ったんだ? 仕事仲間の人とかがいるんだろ?」
「彼らはあまり辛いのは好きではないの。それに──」
11号は照れくさそうに目線を逸らす。
「……貴方となら、より美味しく食べられると思ったの」
「……!」
そんな会話をしているうちに、列の順番がやって来た。
店へ入り、空いている席へと着く11号とタクミ。数分待った後、店員が注文の品を持ってやって来た。
そしてコンロに置かれた『激激激激激激辛鍋』。大量の唐辛子が使われているのもあってか、赤い。とにかく赤かった。
さながらビリーがいつも来ている上着のようだった。
「今更だけど、本当に大丈夫? この火鍋、私達がいつも食べてる黒鉢赤辛鳥白湯ラーメンの数十倍は辛いと聞いているわ」
「大丈夫だ。11号が想像してる以上には辛いの平気だからさ」
「それではお二人共、準備はよろしいですか? 制限時間は三十分です! それでは──スタート!」
「「いただきます」」
店員がストップウォッチで時間を測り始める。それと同時に、11号は具材を真っ赤な鍋に肉を入れる。
そして顔色を変えずに一枚、二枚と口に入れていく。
タクミも肉を鍋のスープにくぐらせ、息を吹きかけて冷ましながら食す。
……確かに、いつも食べている激辛ラーメンの数十倍は辛い。
舌を突き刺すような辛さが襲ってくるが、とても美味しい。それよりも、スープで舌をやけどしないよう気をつけなければいけない。
11号の方は、汗もかかずに十枚の肉をあっという間に平らげる。
それだけにはとどまらず、なんと鍋のスープをゴクゴクと飲み干してしまった。
「……す、すごい」
店員は思わず息を呑む。
五分足らずであっという間に完食した11号。言うまでもなく、新記録であった。
タクミの方も数秒遅れて完食。いつの間にか周りには人だかりができ、歓声が響いていた。
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11号と一緒に店を出る。
「──ホントに良かったのか? 名前書かなくて」
「私はその為に来たんじゃないもの。さっきも言ったけど、私はただ楽しみに来ただけだから」
「そっか。俺も、11号と一緒に食えたからかすげー美味しく感じたぜ。今日はありがとな」
「……お礼を言うのはこっちの方よ。私こそありがとう」
ちなみに、店に名前を書くのを拒否した11号の代わりに、彼女の次に完食時間が早かったタクミが名前を書き残すことになった。
そのせいかは分からないが──
「タクミ! 決闘を申し込みますわ!! どっちが先に激辛鍋を早く完食できるか勝負ですわよ!」
「!?」
数日後、ルーシーとの決闘に付き合う羽目になってしまうのだった。