最初に感じたのは、温かさだった。
猫の平熱は人よりも高い。タクミは顔全体でその体温を体感した。
冬場に猫を抱いたらさぞ暖かい事だろう。
次に感じたのは、モフモフさ。
猫の習慣である毛づくろいによって生み出される、至高のモフモフ。
可能ならばそのモフモフに囲まれて寝たいと、タクミは切に願う。
そして最後に感じたのが、痛さ。
頭部に小さな爪が突き刺さり、思わず悲鳴を上げてしまう。そしてその爪が引き抜かれた時に、タクミはもう一度悲鳴を上げた。痛い。
爪は痛いが、モフモフと温かさでお釣りが来る。
やはり猫は素晴らしい生き物だなと、六分街の青空を仰ぎながらタクミはそう思った。
「……タクミ、もしかして家から追い出された?」
「そ、そんな所で寝てたら風邪引いちゃいますよ……?」
「二人とも誤解だ」
───────────────────────
タクミはエレンとカリンに寝ていた理由を説明する。
「……猫が?」
「ああ、ラーメン屋に行こうとしたら急に俺の顔に飛びついてきたんだ。んで、そのままどっかに行っちまった」
「……それって……!」
「……ねぇ、タクミ。その猫ってさ、どういう見た目してたか覚えてる? 色とか模様とか」
「見た目? あー……確か灰色の猫だったな。見たのは一瞬だったから模様とかは分からん」
「!」
タクミの言葉を聞いて、エレンとカリンは顔を見合わせる。
「……エレンさん、もしかして……!」
「うん。もしかしたらここにいるかも」
「……? 何の話だ」
「実は……ご主人様が飼われている猫ちゃんが、行方不明になってしまったんです」
「そんでボスとリナ、あたしとカリンちゃんで手分けして探してたの」
飼い猫の名前は『ミュウちゃん』。
ミュウ、ミュウと鳴くことからそう名付けられたらしい。
捜索中、エレンとカリンがその飼い猫を発見するが、逃げられてしまう。
二人は飼い猫を追いかけているうちに、六分街に辿り着いたとの事だった。
「つまり、さっき会った灰色の猫がミュウちゃんかもしれないって事か」
「はい。六分街の方に逃げて行ったので、恐らくそうなんじゃないかなって……」
「……でも、六分街に灰色の猫って結構いるよね。そこからミュウちゃんを見つけるのは難しいんじゃない?」
「や、やっぱりそうですよね……鳴き声は特徴的だから、それを手がかりに……」
カリンがそう言いかけた時、近くでミュウ、ミュウという鳴き声が聞こえた。
「! 今のまさか……」
「路地裏から聞こえたね」
「い、行ってみましょう!」
そして六分街の路地裏。
音を立てないようこっそり覗き込むと、そこには灰色の猫、ミュウちゃんがいた。
「ま、間違いありません……! ミュウちゃんです……!」
ミュウちゃんは辺りを見回し、ミュウと一声鳴いたあとに──
「あ」
「ちょ、ちょっと……!?」
建物の狭い隙間へと入り込んでしまった。奥からミュウちゃんの鳴き声が聞こえてくる。
「ど、どうしましょう……? せっかくミュウちゃんを見つけたのに……」
「どうもできないし、待つしかないでしょ。とりあえずボスに連絡しとくね」
「…………」
「……タクミ様? どうかされましたか……?」
「……カリン、俺に任せろ」
「へ?」
タクミはミュウちゃんが逃げ込んだ隙間の近くに行き、コホンと咳払いをする。
そして────
「ニャア〜〜〜〜♪」
「「!?」」
なんと、猫の鳴き真似をし始めた。本物の猫と寸分違わないクオリティの鳴き声にエレンとカリンは驚愕する。
「ニャア……ニャア〜〜ン♪」
「……!?」
『エレン、エレン? どうしたのですか? そちらから猫の鳴き声が聞こえますが、もしや見つかったのですか?』
電話越しでライカンが勘違いしてしまうほど、その鳴き真似は猫そのものだった。
しかし、あくまで声のみ。ジェスチャーなどは行わずに、真顔で猫の鳴き真似をしている。
あまりにもシュール極まりない光景だった。しかし……
「ミュウ……?」
「ニャア……?」
「あ、ミュウちゃん出てきました!」
効果は抜群だった。ミュウちゃんは隙間から出てきた後、タクミの元に近寄る。
その隙にタクミがミュウちゃんを抱き上げるが、逃げる様子はない。ようやく捕獲に成功した。
「お、コイツ随分と人懐っこいんだな」
「や、やりましたね! ミュウちゃんを保護しましたよ!」
『──エレン? 聞こえていないのですか?』
「……あー、ボス。ミュウちゃんは捕まえたよ。六分街にいるから、リナと一緒に早く来てね」
エレンは通話を切って、仕事が無事に終わって疲れたのかため息をこぼす。
「ありがとうございました、タクミ様! ミュウちゃんが無事で、きっとご主人様もご安心なさるかと思います!」
「気にすんなよ。俺もミュウちゃんが無事で一安心だ」
「……にしても、タクミにあんな特技があったなんてね。他の動物も出来たりすんの?」
「犬の鳴き真似が出来る」
「マジ?」
ライカン達が来た時、なぜかタクミ達の周りには犬や猫がたくさん集まっていた。