「うんうん! とっても似合ってるぞ〜!」
「ンナ……」
タクミの部屋。
他のボンプと区別を付けるため、タクミボンプは『555』と書かれたオレンジ色のスカーフを巻くことにした。
「今日は時間を潰せるビデオテープを数本持ってきたわ。一緒に見ましょう」
「グレースさん、ここに上がってこなきゃいいがな……」
ビリーはふとそんなことを呟く。そんな彼に猫又が質問をする。
「ねぇビリー。そのグレースって人はどんな人なの?」
「あー……なんつーかな、悪い人じゃねえんだが……一言で言えば、ヤバい人だな」
「違いないンナ」
タクミボンプも全面的に同意をする。
「……そんなに?」
「前に邪兎屋の仕事でグレースさんと会ったことがあるんだ。あの人、機械に並々ならぬ愛情を持っててな。俺に対する目つきが……色々ヤバかったんだ」
ビリーはまるでセクハラされた女性のように身を縮こませる。
タクミも自身のバイクやファイズに変身した時に、彼女のそういう一面を見ている。
はっきり言って変態である。
「……グレースさんの方は姉ちゃんが相手するらしいンナ。俺達は映画でも──」
その時、一階の方からガチャリ、とドアが開く音がした。
『あ、グレースさん! いらっしゃい!』
「!!」
「き、来た……!」
ビデオを再生しようとした最中、グレースがついにご来店。部屋に謎の緊張感が走る。
下からリンとグレースの会話が聞こえる。
『こんにちは。前に言ってたビデオはあるかな?』
『うん、取り置きしてあるよ! ちょっと待っててね』
「…………」
念の為、ベッドの毛布の中にトテトテと避難するタクミボンプ。
『……』
『……グレースさん、しきりに天井を見上げてどうしたの? 何か付いてる?』
『いや……二階の方から、ボンプの愛らしい足音が聞こえた気がしてね』
『!?』
「!?!?」
耳ざといとか、そういうレベルではない。
足音は極力消しておいたはずだ。なぜ彼女には分かるのだろうか。
リンは冷や汗をかきながら苦笑する。
『あはは……た、多分二階でタクミとイアスが遊んでるんじゃないかな……?』
『なんだって!? 混ざってもいいかい!?』
『いやいや、ダメに決まってるでしょ? グレースさんにイアス会わせたらろくな事ないじゃん!』
『そ、そんな事ないよ……!』
そして会話が終わり、グレースはビデオを持って店を出て行った。
なんとか危機を乗り越え、胸を撫で下ろすタクミボンプ。
邪兎屋の面々も映画を見た後に帰り、短くも長い一日が終わろうとしていた。
店じまい後、タクミボンプは一階へと降りる。
「兄ちゃん、グレースさんはもう帰ったンナ……?」
「ああ、帰ったよ。お疲れ様」
「そっか……一安心ンナ。そういえば、俺がボンプになった原因って分かったンナか?」
「色々調べたけど、全然見つからなかった。一応引き続き原因の調査をしておくから、何かあったら呼んでくれ」
そう言ってアキラは部屋へ戻って行った。
(俺も部屋に戻って寝るか……寝て起きたら元に戻ってるかもしれない)
そう考えたタクミボンプは階段をのぼり自分の部屋に向かう。
その時だった。
「ごめんプロキシ! 忘れ物を────え?」
「!?」
急に扉がバン!と開かれ、グレースが再びご来店。
タクミボンプと鉢合わせてしまった。
「……ン、ンナ」
「き……君、どこから来たんだい……? ここの子じゃないよね……?」
案の定ハァハァと息を荒くしながら、グレースはタクミボンプにジリジリと近寄る。
アキラもリンも、この場にはいない。店じまいしたからと言って、完全に油断していた。
「ねぇ……ちょっと君の事、色々と見させて貰って良いかな……? 大丈夫だよ、痛くしないから……」
タクミボンプを壁に追い詰めていくグレース。
いつもはなんて事ない彼女の身長も、ボンプになった今は五十割増ほど怖く見える。
「……ン」
「ん?」
「ンナァァァァアアア!!」
「あ! ちょっと!」
グレースの股下をくぐり抜け、タクミボンプは店を飛び出した。
夕暮れの中、人目もはばからず街中を全力で走るが──中々思うように足が動かない。
「待ってよぉーーーー!!」
「────っ!!」
後ろから数倍の速さでグレースが追いかけてくる。ボンプの走力では、彼女を撒くことが出来ない。
「つーかーまーえーたー!!」
「ンナァ!!?」
そして必死の逃走むなしく、ついにグレースに捕まってしまった。
思い切り抱きつかれ、頬擦りをされる。
グレース程のスタイル抜群の美女に抱きつかれたら、世間一般的には喜ぶものだろう。
しかしボンプになったタクミにとってそんなものはなく、まるで殺人鬼に捕まった時のような恐怖の感情で埋め尽くされていた
「ンナーッ!! ンナァァァ!!」
「怖がらなくて良いんだよ? お姉さんがじっくり調べてあげるからね……?」
「ンナナァ!! ンナーーーーーーッ!!」
「ああああああああああ!!」
タクミは叫びと共に飛び起きる。
部屋に鳴り響くスマホのアラーム。タクミはアラームを止め、時間を確認する。
現在朝八時。タクミは汗でぐっしょりのまま、鏡の前に行く。
そこにボンプの姿はなく、いつも通りのパジャマ姿の自分がいるだけだった。
「…………夢、か」
なんという悪夢だろう。夢でここまで本気で焦った事は未だかつてなかった。
「……」
気を取り直して、下へ降りる。台所では、既に起きていたアキラが朝食の準備をしていた。
リンも既に起床しており、テーブルに座っていた。
「あ、おはよタクミ」
「おはよう……」
「さっき上から悲鳴が聞こえたけど……悪い夢でも見たのかい?」
「ハハ……かもしんない」
「災難だったね……ほら、朝ごはんできたよ。顔を洗っておいで」
「ンナ」
「「……ンナ?」」
「ンナんでもない!! なんでもないから!!」
次回から五章ンナ