パールマン
市政選挙も近付いてきたとある日の事。ニコが車に乗ってビデオ屋にやって来た。
どうやらニコの車は渋滞にあっていたらしく、裏口の駐車場に着くなり、『ようやく解放された』と言わんばかりに背伸びをしていた。
「はぁ……一度郊外に馴染むと、都市の道路は狭苦しいったらありゃしないわ!」
「お疲れ様ニコ。一応聞くけど、制限速度をオーバーしたりはしてないよね?」
「……」
「……ニコ?」
「だ、大丈夫よ! ナンバープレートは外してるし、罰金を払う羽目にはならないはずだから」
「お前それもっとヤバいじゃねぇか」
「平気よ! 後は着けられてなかったし! それより早く本題に入るわよ!」
ニコはここに来る前にアキラ達に連絡をした。
なんでも郊外で保護されていたパールマンが目を醒ましたのだそうだ。
それを聞きつけた邪兎屋の面々は郊外に出向き、パールマンから色々と情報を引き出していた。
そしてパールマンから引き出した重要な情報。それは──
「ヴィジョンの件の裏で糸を引いていたのは治安官のブリンガー長官……か」
彼はヤヌス区の次期総監として市政選挙に立候補している。
テレビで見た時は『ヴィジョンの闇を暴いた英雄』という大層な肩書きまであった。
「この話が本当かどうかを確かめる為に、あんた達にも郊外に来て欲しいのよ」
「パールマンをここには連れてこなかったのか?」
「市政選挙が控えてる今の時期に、パールマンを連れて都市を出入りするのはあんまり良い考えとは言えないわね。ブリンガーが黒幕ってのが本当なら尚更よ」
現在新エリー都では、その市政選挙の為か大勢の治安官が厳重警備を施している。
当然、新エリー都と郊外を繋ぐ幹線道路にもだ。
ニコは治安官の目を掻い潜るため、ホロウの道を使って郊外に行こうと考えた。
「──ってな訳だから、あんた達プロキシの助けか必要なの!」
「……分かった。それじゃあ郊外に行くよ。タクミは私と一緒に、お兄ちゃんは家のH.D.Dで遠隔支援をお願い!」
「ああ、分かった」
「よし、そうと決まれば早速出発よ! リン、タクミ、早く乗りなさい!」
「え? うちの車で行くの?」
「だ、だって次捕まったら免許の申請出来なくなっちゃうかもだし……」
「ニコお前、今まで免許持ってなかったのか……?」
「な、何よ! アンタだってバイクの免許持ってないでしょ!?」
「持ってるわバカにすんな!」
───────────────────────
そして郊外、ブレイズウッド。
町に着いたリンは、早速パールマンから色々と聞き出す事にした。
パールマン曰く、ヴィジョンの長期的な事業計画は地下鉄改修プロジェクトを含めすべてサラが仕切っていたらしい。
そして彼女の後ろ盾となっていたのがブリンガー長官。計画のプロセスにパールマンは一切関わっていないと言う。
ヴィジョンの計画の過激さがエスカレートしていると感じ取ったパールマンは、サラから送られてきた計画書やメールをバックアップの名目で印刷する事にした。
「──そしてその印刷した書類を他の工事のものと一緒に混ぜておいたのだ。それを探せば、サラとブリンガーがグルである証拠が見つかるはずだ!」
「……そういえば、スキャンダルの後の地下鉄改修の工事を引き受けたのは白祇重工だったっけ?」
「おお、白祇と知り合いなのか? それなら話が早い!」
それならば社長のクレタに連絡をし、引き継ぎ書類を調べさせれば、パールマンの言う証拠が見つかるはずだ。
ニコ達はひとまずパールマンの証言を信じる事にした。
話が一段落着いた所で、タクミは喉が渇いている事に気づく。
「……ん? タクミ、どこ行くんだ?」
「自販機。ずっと喉渇いてたからな、なんか買おうと思ってな」
「あ、じゃあ私の分も買ってきてくれない? 私も郊外までの運転で喉渇いちゃって。なんか炭酸あったら買ってきて!」
「はいよ」
「早く帰って来なさいよね! もうすぐ超・有名人がここに来るんだから!」
「超有名人? ニコ、それって誰の事?」
「ふふん、実はね──」
───────────────────────
ブレイズウッドの道路の脇にある自動販売機。タクミはその投入口にディニーを入れる。
そして『コーラ』のボタンを押したその時、遠くから見覚えのあるトレーラーが走ってくるのが見えた。
前に郊外で見たアイアンタスク。運転席にはその持ち主であるパイパーが乗っていた。
パイパーがタクミを見るなり手を振ってきたので、こちらも手を振り返す。
それと同時に、誰かが助手席に乗っているのが見える。
凛とした顔立ちと、黒い髪。そして頭の上にある長い耳。恐らく狐のシリオンなのだろう。
タクミは彼女の顔にどこか見覚えがある気がした。
(……あの人テレビで見た事あるような──)
「タクミ♪」
「ぅぅわ!!」
ひんやりとした感覚が右頬を襲い、思わず悲鳴を上げてしまうタクミ。
振り返るとそこには……やはり猫又がいた。彼女の右手には先程タクミが買ったコーラの缶がある。
「ま、マジでやめろよ猫又……心臓に悪い」
「にゃはは、ごめんごめん! 毎回リアクションが面白いからつい脅かしたくなっちゃうぞ」
「あのな……まあいいや、お前も飲み物欲しいのか?」
「うん? 買ってくれるの?」
「ああ。どうせそのつもりで来たんだろ?」
「ふふん、あたしの事分かってるじゃん!」
呆れ混じりにタクミは自販機のボタンを押す。するとその時、バイクのエンジン音がどこからか聞こえてきた。
こちらに向かって走ってくる複数のバイク。やがてそのバイクはタクミ達の周りに集まるように停車した。
乗っていたのは謎の武装集団。タクミと猫又は警戒心をあらわにする。
「……」
「何? あんた達……」
「……小僧。そのファイズのベルトを渡してもらおうか」
「!」
リーダーと思しき男はタクミが持っているアタッシュケースを指差しそう言った。