最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか?   作:やってられないんだぜい

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プロローグ1

 

 ヘスティアは目の前の男の言葉を理解するのに時間を要していた。

 

 オラリア最強の治療師(ヒーラー)にしてレベル1ながら異例の【道化の心臓】の二つ名を授かったヘル・クライスが、自身の唯一の団員であるベル・クラネルを抱えて自宅を訪ねてきた。それだけならまだいい、問題はベルをベッドに寝かせた後に発せられた言葉だ。

 

 「ヘスティア様ですね。僕を【ヘスティア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)させて下さい」

 

 屈託のない彼の笑顔に未だ夢ではないかと疑うヘスティアだった。

 

 

 

 

 

 

 〜数時間前〜

 

「「「「「「かんぱ〜い!!」」」」」」

 

 遠征から帰った【ロキ・ファミリア】はいつもの様に『豊穣の女主人』という酒場で遠征の打ち上げをしており、治療師(ヒーラー)として遠征に参加していた俺も当然参席していた。正直な所を言えば今回はイレギュラーが発生したということもあり、大勢の治療でとても疲れたから打ち上げをパスしてベッドで休んでいたかった。しかし、『だからこその打ち上げやろ!疲れた身体で酒を浴びる様に飲んだ後の睡眠はそりゃーもうグッスリやで!』と、どう考えても二日酔いする未来しか見えない事を言うロキにやって無理やり叩き起こされ、こうして大人しく酒を飲んでいるのだ。

 

 「ヘル、大丈夫?」

 

 声を掛けてくるアイズ。無表情だからか心配してくれてるのか、してないのか分かりにくい。もう少し愛嬌が加わればその容姿も相待って関わりやすいんだが、それは余り期待しないでいる。

 

 「あぁ、大丈夫だよアイズ。でも少し疲れてるからさ、俺なんかに合わせないで楽しめよ」

 「でも……」

 「ごめんね、今回の遠征でアタシ達ヘルに大分負担かけたよね。ほら、ティオネもお礼言いなよ。風呂場で言ってたじゃん」

 「ちょっ⁉︎ティオナっ‼︎」

 

 そう言って会話に入ってきたのはティオナとティオネのアマゾネス姉妹だった。ティオナに引っ張られてヘルの目の前に立たされたティオネは恥ずかしそうにしている。どうやら今回の遠征の件だろう。普段、軟弱者と馬鹿にしてる俺に大怪我を治療されるなんて、かなりの屈辱だろう。それでもティオナの台詞から、今回の件でお礼を言おうとしてるのだろう。嫌いな奴でも礼儀を忘れないのは彼女の良いところだ。しかし、俺みたいな奴に頭を下げるのに抵抗があると見える。しょうがない。男女の円満な秘訣は男が先に謝るとなんかの本で読んだ事があるし、ここは彼女のプライドを守る為、こちらから言ってあげますか。

 

 「ティオネ、無事で良かった」

 「〜ッ⁉︎ぶ、無事に決まってるじゃない!ひ弱なあんたと一緒にしてないで!」

 

 俺が笑顔でいうと顔を真っ赤にして声を荒げるティオネ。どうやら俺なんかに心配されたのがよほど腹が立ったのだろう。彼女は背を向け、元の席に戻ろうと脚を一歩踏みだしたところでピタッと止まり、振り返らずに小さな声で呟いた。

 

 「ありがと、助かったわ」

 

 そう言った彼女はそのまま席に戻り、まだは半分以上も入ってるジョッキを一気飲みする。

 

 「ティオネってば素直じゃ無いの〜!」

 

 彼女を追いかける様にティオナが戻っていく。どうやら一件落着した様だ。

 

 「わざわざお礼なんて律儀な奴」

 「……」

 

 俺はそう独り言の様に呟いた。そんな俺の独り言を隣で聞いていたアイズがちょんちょんと俺の腕をつつく。今度はなんだと思い顔だけ彼女に向けて『なに?』と目線で合図を送る。

 

 「その………ありがとう」

 「………なにが?」

 

 彼女がお礼を言ってきたが生憎、彼女にお礼を言われるような覚えは今回の遠征では無い。

 

 「だから……回復してくれて」

 「いや、治療してないだろ?しようとはしたけど『私は別に大丈夫。それより皆んなの傷を治してあげて』ってお前が言ったんじゃないか」

 「………⁉︎」

 

 アイズは数秒考え、『そうだった⁉︎』と目を丸くする。相変わらず抜けてるなと思い、ジョッキに注いである酒を飲み干し、お代わりを店員に要求する。なんだかんだ言って来る前は面倒くさがっていたのに、既に飲み干したジョッキを眺めそれなりに楽しんでるなと思う。

 

 酒を待ってる間、アイズを見てるとなにやらオロオロしていた。モンスター相手にあんなド派手に立ち回る剣姫が、普段は天然のポンコツなんてファンクラブの奴等は信じないだろうなと思う。そんな彼女にふと今思った疑問を投げ掛けた。

 

 「なぁアイズ」

 「なに?」

 「なんでティオネ達の横じゃなくて俺の横にいるんだ?」

 「それは……」

 

 俺の問いにアイズが答えようとしたとき、酒場に1人……いや、一匹の狼の鳴き声が響き渡る。

 

 「そうだアイズ!聞かせてやれよ、あの話をよ!」

 

 突如ベートが立ち上がり、皆んなの視線が彼に集中する。

 

 「ミノタウロスの話だよ!帰る途中何匹か逃して上層に逃げた奴ら!その最後の一匹倒した時にいたトマト野郎のよ!」

 

 ベートの話に何人かの連中が反応する。それに良い気になったのかベートは話を続ける。

 

 「そんでよ、俺とアイズが追ってた最後の一匹が1人の冒険者を追い詰めてたんだよ!見るからに駆け出しのヒョロっちぃ冒険者(ガキ)が!」

 「ほぉ」

 「そんな事が…」

 

 何人かがベートの話に食いつくが俺は興味なし。てかぶっちゃけ不愉快だった。

 

 ヘルが嫌う事の一つ、それは高レベルの冒険者が低レベルの冒険者を馬鹿にして、それを肴にして酒を飲む姿である。【ロキ・ファミリア】の連中は比較的そういう事をしない連中の集まりなのだが、偶にこういう事がある。と言っても万年レベル1の自分がレベル5のベートにとやかく言えないので黙って酒と料理を楽しむ。

 

 「壁際までベソ掻きながら後退してってよ。震え上がってやんの!」

 「それで?どうしたんやその冒険者」

 「アイズがミノタウロス細切れにして無事だったよ。いや、あれは無事じゃねーな‼︎」

 

 アイズに同意を求めたいのかベートはアイズに『なぁ!』と尋ねる。しかしアイズは顔を伏せたまめ反応を見せない。その様子にヘルは違和感を持つ

 

 アイズの代わりにロキが『どういう意味や?』とベートに聞くと『よくぞ聞いてくれた』と言わんばかりに声を張り上げる。

 

 「なんとそいつよ、アイズが斬ったミノタウロスの体液モロに被って全身真っ赤のトマトになっちまったんだよ‼︎」

 「まじかよ!」

 「俺も見たかったなぁ」

 

 腹いてぇと腹を抱えて爆笑するベートは更に続ける。周りも酒が大分回ってるのか、悪ノリしてベートを盛り上がる。

 

 「しかもそいつ、助けてくれたアイズにビビって脱兎の如く叫んで走り去っちまいやがってよ‼︎」

 

 助けた相手に怖がられたアイズを想像してツボったのか、ロキやティオネ等その話を聞いていた連中が声を殺して笑い出す。

 

 「冒険者を怖がらせてしまうアイズたん‼︎」

 「ご、ごめんなさいアイズっ。流石にそれは……‼︎」

 

 俺は先程から顔を伏せたままのアイズに視線をやる。彼女がこの話を快く思わないのはその態度で察するのは容易だった。それにしてもベートも馬鹿な男だ。アイズの気を引きたいのか知らないが、いつも空回りしてアイズが傷付く様な事ばっかりする。やることなす事全て裏目に出る、典型的な恋愛ベタだ。

 

 「アイズ、大丈夫か………ッ⁉︎」

 

 彼女の手を見て俺は自然と身体が動いていた。 

 

 

 

 

 話がウケた事で調子に乗ったベートは止まらない。ベートは冒険者を罵り始める。

 

 「しっかし……まぁ胸糞悪い話だぜ!冒険者の、男の癖に泣き出しやがってよ」

 「良い加減その薄汚え口閉じろよベート」

 「………あぁ?」

 

 ベートの口がとうとう止まった。ヘルの一言によって。ベートはヘルを睨みつける。それは威嚇を意味していた。レベル1ごときのお前がレベル5の俺様になんで口の聞き方してんだと。しかし、アイズのあんな姿を見たヘルには最早ブレーキが吹っ飛んでいた。

 

 「おい、何様だテメェ?治療師ごときが俺に指図か?」

 「聞こえなかったのかよ駄犬。それともとうとう人間の言葉理解できなくなるまで野生に帰ったか?ダンジョン潜りすぎて本能でも刺激されたか?」

 「………ぶっ殺す‼︎」

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