最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか? 作:やってられないんだぜい
どんどん読む人は少なくなってるのにお気に入りが増えるのなんでだろ
アイズにモンスターを任せ、自分はレフィーヤの治療にあたった。あのモンスターをどうこうする力は俺には無い、悔しいがそれが現実。ならばこの場で自分が取るべき最善の行動はレフィーヤを絶対に死なせない事。
レフィーヤの傷は出血こそないが、強い衝撃により内臓にダメージがいってる。今の彼女は呼吸する事すら痛みを伴う状態だろう。だがこれくらいの傷ならすぐ治せる。レフィーヤは何か伝えようとしているが、万全になった彼女に聞けばいい。そう思い幾千、幾万と唱えてきた詠唱を唱えた。
【
もう少しで唱え終わる。そうすれば彼女を痛みから救うことが出来る。しかし、突如として強烈な痛みが腹部を襲う。それと同時に込み上げる吐き気。堪らず喉を逆流して来たものを吐き出した。少女の目の前で吐き出した事に対する羞恥心は、自分が吐瀉したそれを見て消え失せた。自分が嘔吐したのは血、大量の真っ赤な血だった。
「……」
それが吐血だと理解するのに5秒、痛みの走った腹部を見て自身の腹部から飛び出るモノはモンスターの蔓だと理解するのに更に10秒。ようやく自分はモンスターの攻撃によって腹部を貫かれた事を理解させられた。
理解した途端に体の力が抜ける。思考が定まらない。目も掠れて視界がボヤける。目の前にいるはずのレフィーヤすら視認不可能になっていた。
「──!!」
「──!!」
「──!!」
周りの音も上手く聞こえず、全てが雑音に聞こえる。最早立っているのか、それとも貫かれた蔓に支えられてるのかすら分からない。
(…こりゃ終わったな)
己の最期を悟る。思い返すは後悔の嵐。結局自分は何も成し遂げる事は出来なかった。ちっとも強くなる事も出来ず、約束を果たす事も出来ない。そしてこんな俺を受け入れてくれたヘスティア様とベルを早々に裏切る形となってしまった。
(短い様で長かった俺の人生もこれで終いか……大した人生じゃなかったな)
『所詮テメェは1人じゃなんもできない三下のザコだ‼︎』
『文句があるなら強くなってみせろ‼︎』
走馬灯の様に脳裏に映るはあの日の出来事。自分に炎を再点火させてくれたキッカケ。死に際に見るって事はやはりあの言葉が1番悔しかったって事だろう。結局自分は強者にはなれなかった。ベートに反論する事も出来なかった。
(……でも)
『命賭ける気もねぇならすっこんでろ‼︎』
(…あぁ、命賭けてやるよ!見てろベート、これが
「いやぁぁぁぁぁぁ!?」
モンスターが魔法に反応すると分かった直後、響き渡るレフィーヤの悲鳴、レフィーヤの元にいるのはオラリア最強の
「ヘルッ!?」
「〜ッ!?…どけよ、邪魔すんじゃねぇ!!糞花がっ!!」
「…!?」
土手っ腹を貫かれて力無く立ち尽くす
特に冷静さを失ったのはティオネだった。すぐにでも助けに行こうとする彼女だが、モンスターが邪魔で中々助けに行けない。本性を晒し、鬼気迫る様子の彼女でもモンスター達は怯まず襲いかかってくる。
(…ヘル‼︎)
アイズもヘルの元に今すぐ駆け付けたいが、その気持ちを必死に抑え、モンスターの処理にあたる。しかし獲物が無ければ例え魔法を用いても決定打が無くこのままではジリ貧だ。モンスターを駆除する事叶わず、また大切な人を失う事になる。
(……私が弱いせいで…)
自分の不甲斐なさを悔いていたアイズ。そんなアイズ耳に聞こえてくるはあの声。
【
聞きなれた声、聞きなれた文言。今まで幾度と【ロキ・ファミリア】の傷を癒やした治療の極致とその使い手。
「ヘルッ!?大丈夫なのその傷!?」
「…」
ティオナの言葉に無言でニヤッと笑うヘル。しかし誰がどう見ても痩せ我慢だった。なんせ彼の腹には向こうの景色がハッキリ見えるほど大きな穴が空いているのだから。それでもヘルは残りわずかな力を振り絞る様に震えた腕をレフィーヤに向け詠唱の続きを行う。
【今宵は宴 血の晩餐哉】
だがその行為は自殺行為。ティオナが叫ぶ
「駄目ヘルッ!モンスターは魔法に反応するの!」
ただでさえ致命傷を受けているヘル。そこに再びモンスターによる攻撃を受ければその時点で死は免れない。しかしティオナの忠告を無視してヘルは詠唱を続ける。
【
「ヘルさんやめて下さい!私の傷なんかいいですからジッとしてて、それに魔法を使うとまたモンスターの攻撃が……!」
レフィーヤは必死にヘルに語りかけるがヘルが詠唱を辞めようとしない。途中、吐血しようが痛みで倒れそうになろうが再び立ち上がって詠唱を再開する。自分より遥かに深手のヘルが自分を治そうと矛盾した光景。それに魔法を使えばモンスター攻撃が来る…そう思っていた。しかし、
「……なんで?モンスターの攻撃が…こない?もしかして魔法に反応してるんじゃ……!?」
「アイズが機転効かせたお陰よ」
「ほんと、間に合ってよかったよ。全く、2人とも無茶するんだから」
「え?」
先程までモンスターの対処に追われていたティオネとティオナがいつの間にか来ており、2人でヘルを両脇から支える。彼女達がここにいるのも驚きだが、彼女達が言うアイズの機転を効かせた行動とはなんなのかとアイズの方を見る。すると彼女は敢えて魔法を発動する事で自分自身にモンスターを集中させていたのだ。ヘルが魔法を完成させるまでの時間稼ぎの為に。
「どうせあんたの事だから意地でもレフィーヤ治すまで辞めないんでしよ。ならさっさと魔法完成させてよね」
「ありがと、レフィーヤの為に無茶してくれて。でも死んだら許さないから。ロキに言って天国から連れ戻して説教してあげる」
「……」
2人の言葉に僅かに口角を上げるヘル。痛みで意識が飛びそうなヘルだったが、2人の言葉に力が湧いてくるのを感じた。
レフィーヤはティオナ達の行動を理解出来ずにいた。
「なんで、なんで2人とも止めないんですか…どう見たってヘルさんに比べたら私なんて軽傷なのに。どう見たって治療されるべきはヘルさんの方なのに」
「言って聞いてくれるなら止めもするんだけどね…ヘルって優しいから誰かが傷付いてるの見ると自分の傷なんか後回しに治しに行くから」
「ふんっ、ただバカなだけよ」
そう言った2人の表情はどこか嬉しそうだった。その表情を見てレフィーヤは悟った。自分が欲しいものはこれなのだと。そして自分に無いものを持っているのはヘルなのだと。
【来たる祭事に備え その渇きを潤い満たせ──
ヘルの魔法が発動し、レフィーヤの傷は数秒で癒え、痛みは消えていた。その直後、己の役目を全うした事でギリギリの所で耐えていた糸が切れヘルは気を失った。
「おっとと……ご苦労様、ヘル」
「ありがとヘル…カッコよかったよ」
気を失ったヘルに労いの言葉をかける2人。レフィーヤは立ち上がり、ヘルを抱える2人に深々と頭を下げて懇願する。
「ティオネさん、ティオナさん、お願いします。私に……時間を下さい!」
「………分かったわ、頼むわよ」
「お願いねーっ!」
ヘルを地面にそっと寝かせ、再び戦闘体制に入る2人。しかし、今回は先程までと違い攻撃の意思は無く、ひたすら防御に徹する。何故なら攻撃は後ろの手が焼けるけど優秀な後輩がなんとかしてくれるから。
「アイズ!」
ティオナがアイズを呼ぶ。モンスターを攻撃を【
「…………ん、ここは?」
「目覚めましたか?」
目を覚ますとレフィーヤが俺の顔を覗き込んでいた。かなり近いなと思ったが、それ以上に気になる事が2つ。
「レフィーヤ、お前怪我大丈夫なのか?」
「誰が私の怪我を治したと思ってるんですか?オラリア1の
「そ…そっか」
人差し指を立ててドヤ顔で答えるレフィーヤにちょっと照れて顔を背ける。こんな事を言われたのは初めてで照れ臭い。なんか前よりも心の距離感も近く感じるのは気の所為だろうか。
「俺達が無事って事はあのモンスターはやっつけたって事だよな?」
「はい、ヘルさんに治して貰った後、アイズさん達に時間稼いで貰って私が魔法で」
「そうか、よくやったな」
「いえ、私なんかまだまだです。私が攻撃を避けられていればヘルさんがあんな目に遭わずに済みましたし、倒したと言っても私が詠唱してる間みんなに守られっぱなしですし」
「それでもアイズ達が倒せなかったモンスターを倒したんだろ?ならアイズや俺達を守ってくれたって事だ。やっぱりレフィーヤは凄い奴だよ」
「……ありがとうございます」
褒められた事が恥ずかしいのか顔を赤くするレフィーヤ。まだ経験が浅い分臆病な所がある彼女だが、才能は随一。しかもその才能に驕る事も無く、日々の鍛錬を欠かさない姿は尊敬に値する。彼女にリヴェリアを超える魔導士になって欲しいと個人的に思っている。
しかし、ヘルはとても気になっている事があった。
「なぁレフィーヤ、ここは『黄昏の館』か?ギルドでも、俺の今の家とも違うし」
「はい、そうですね。ここは【ロキ・ファミリア】の
「そうか、ならこのぬいぐるみとかで可愛らしく装飾されてる部屋は?」
「わ、私の部屋です」
「………なんで俺、レフィーヤのベッドで寝てるの?」
「それは私が言ったんです。今日ヘルさんに色々と迷惑かけたので、私が看病しますって…アイズさん達に」
ティオネにしろ、レフィーヤにしろ、【ロキ・ファミリア】の女子達は律儀な奴が多い気がする。遠征から帰って来ると治療のお礼と言ってチョコとかくれたりするし。逆に男からはそういうのは一切無し。唯一ラウルと食事を奢ってくれる位だ。
「そうか……わざわざありがとうな」
「いえ!…こちらこそ、ありがとうございました。あんな大怪我してたのに。どう考えても無茶し過ぎです。もう少し自分の身体を大事にして下さい」
「まぁ…善処するよ。ところでレフィーヤっていい枕使ってるんだな」
「え?」
「いや、さっきから思ってたんだけどこの枕柔らかさも高さもすげー合うんだよな。それになんかいい匂いするし……あ、匂いはセクハラになっちまうか。悪い」
「い、いえ……」
何故か顔を真っ赤にするレフィーヤ。というかなんか彼女の顔の位置がおかしい気がする。普通は横じゃないだろうか?それに俺の頭の方から覗き込んでいるのも気になる。
「なぁレフぃ──」
「ヘル起きたー?…………何してるの?」
「………どう言う事?」
「……レフィーヤ?」
部屋に入ってきたのはティオナ、ティオネ、アイズの3人。しかし3人ともドアを開けたところで立ち止まっており、なんか様子がおかしい。
「どうしたんだ?3人とも」
「それはこっちの台詞よ。なにそれ」
「なにって……なにが?」
「貴方の頭の下に敷いてるそれは何かって聞いてるの!」
「なにって、枕だろ?最高だぜ、柔らかさも高さも完璧。毎日これで寝たい位だよ」
そう言うとアイズは変わらないが、ティオネとティオナがゴミを見る目を俺に向けて静かにドアの奥に姿を消していって。
俺が枕の正体を知るのは、彼女達が去って行ってから数分後の話だった。
「レフィーヤ、なんであんな事したの?」
「だってリヴェリア様がお礼をしたいならこれだって言うから///」