最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか?   作:やってられないんだぜい

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 ※今回今まで未発表だったヘルの仕込み剣(杖)の名称を出しました

 


抜け落ちた牙

 

 一悶着あった怪物祭。結果的に民間人の怪我人を出さずに済んだ事で無事終了を告げた。

 

 翌日から町は再びいつもの日常へ戻った。早朝から沢山の冒険者がダンジョンへ訪れる。ヘル達もそれは同じだったのだが、どうもヘルの様子がいつもと違っていた。

 

 「………ふぅ、見ましたか、ヘルさんっ!今のコボルトの捌き方!」

 「……」

 

 ベルは複数のコボルトを上手く捌けた事に舞い上がり、お褒めの言葉を期待する。しかしヘルはただ静観するだけで何も答えない。昨日、ベルが昼間の事を自慢した時もヘルはこんな風に素っ気なかった。

 

 実は、ヘルがアイズ達と一緒に花型モンスターを退治していた頃、ベルもシルバーバックに襲われていたのだ。初めは恐怖に怯え逃げ回るだけだったベル。だがヘスティアによる鼓舞と、ここ最近の溜まった経験値をステータス更新した事による強化、更に新たな武器『(ヘスティア)のナイフ』を得て見事撃退する事に成功した。

 

 その後、『豊穣の女主人』で疲労により気を失ったヘスティアを寝かせていた所に、シルの財布を返しにヘルが訪れて再び合流した訳だ。因みに何故『豊穣の女主人』かというと、たまたまヘスティアを連れて走っていた時にシルと出会い、彼女に『休ませるならウチへどうぞ』と勧められたからである。

 

 ベルはヘスティアが目を覚ますのを待つ間、己の武勇伝をヘルに語った。今でも興奮冷めない様子だったベルは、話していくうちにどんどんと声量が大きくなり下で営業しているミアハに怒られたりもしたが、ヘルに褒めてもらおうと最後まで話す事は止めなかった。だが、最後まで話してもヘルの反応はとても素っ気ないものだった。

 

 『そうか…良かったな』

 

 表情変えずにたった一言そう言っただけだった。期待外れの返答にガッカリしたベル。だがそんな落ち込むベルを見ても無言で俯いき何か考え事をしていたヘル。その様子が今も続いている。

 

 「ヘルさん……どうでした?今の捌き」

 「あぁ、見てたよ」

 「そうですか!どうでした?僕シルバーバック倒してまた強くなったと思うんです!」

 「……」

 「ヘルさん?」

 「……そんなちょっと強くなったくらいではしゃぐな。お前の目標はそんなところじゃないだろ」

 「え?……はい」

 

 褒められるどころか説教をくらってしまい落ち込む。確かにヘルの言う通り目標は遥か先なのだが、それにしても厳しすぎないかと不満に思う。普段なら良かった点は素直に褒め、悪かった点は説教ではなく指摘という方法で教えてくれていた。やはり様子がいつもと違う事に気掛かりを覚える。昨日、自分がシルバーバックと戦っていた頃、ヘルにも何かあったのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルは心はいつにもなく荒れていた。

 

 (くそっ!なんでベルに当たってるんだよ!悪いのは全部俺じゃねーか!)

 

 ベルの予想は半分正解、半分不正解と言った所だ。確かに昨日の事が原因でヘルは荒れている。しかし、それはベルが戦っていた頃、つまり花型モンスターとの戦闘に関しての事ではなく、その帰り道の出来事が原因だった。

 

 

 

 

 

 

 「まさかレフィーヤが膝枕してくれていたとはな。そうとも知らずに柔らかいとか、毎日これで寝たいとか……今度からレフィーヤと顔合わせた時どんな顔すればいいんだよ」

 

 『黄昏の館』の帰り道。ティオネ達の軽蔑の眼差しの原因に驚きを隠せなかった。レフィーヤは比較的平気とはいえ、本来エルフは他者との接触を好まない種族。ましてや男の自分に膝枕なんて想像する方が困難というもの。年端も行かない後輩の女の子への発言としては些か不適切だった事に羞恥心を覚える。しかし、それと同じくらいご機嫌だった。

 

「……でも、気持ちよかったなぁ」

 

 あの言葉に嘘偽りはない。レフィーヤの膝枕は自分が今まで使ってきたどの枕よりも最高の寝心地であった。しかもそれが女子の、それも美少女エルフの膝枕なんて全男子が喜ぶ展開。それで浮かれないわけがない。

 

 そんないい思い出の余韻に浸り鼻の下を伸ばしていたヘル。だからこそ、己の危機に気付けなかった。

 

 「…おい」

 「ッ⁉︎誰だッ!…ッ⁉︎お前は……」

 

 声を掛けられて漸く気付く、曲がり角の壁に寄りかかるその男の存在に。200Cを超える身長、刃物すら逆に押し返しそうな分厚い筋肉。神の恩恵関係なく、生まれ持っての強者と感じるその人物。

 

 「…オッタル、なんでお前が⁉︎」

 「…ふん」

 

 唯一人レベル7の領域に立っている男。オラリア最強の冒険者。『猛者(おうじゃ)オッタル』。

 

 「なんの用だオッタル。わざわざお前が俺の前に姿を現すなんて。お前達は俺のことが大っ嫌いなんじゃなかったか?」

 

 ヘルは昔からオッタル達の主神であるフレイヤに熱烈なラブコールを受けていた。それが彼女を慕う彼等にとって好ましくないのは言わずもがな。かといってその頃の自分は【フレイヤ・ファミリア】と双璧に位置する【ロキ・ファミリア】。彼等にとってそう簡単に手出し出来る相手ではない。何度か接触はあったものの、ほんの小手調べ程度。そんなジャブで彼等が満足出来る訳もなく、それどころか中途半端なストレス解消が返って多くの嫉妬心を招き今日に至るという訳だ。

 

 だからこそ、今の俺の前にオッタルが姿を現す、それが意味する事の危険性をヘルは瞬時理解した。

 

 (ヤバい、【ロキ・ファミリア】という後ろ盾がなくなった俺は言わば全身に宝石を身につけた少女が無警戒に裸でスキップしている様なもの)

 

 逃げる事も助けを呼ぶ事も出来ない。ましてや倒すなんて不可能。最早オッタルに運命を握られたといってもいい。しかし、壁に背を預けたままで、何かしようという素振りが今までも見られず、ただゆっくりと口を開いた。

 

 「ただの気まぐれだ」

 「なんだと?」

 

 それこそ意味不明だ。気まぐれで顔を合わす様な中ではない。ヘルとオッタルの関係は標的(ターゲット)狩人(ハンター)、それだけだ。

 

 「単なる偶然だ。主神の我儘を見届けるのも俺の役目」

 「フレイヤ──」

 「」ギリッ

 「──様の我儘?」

 

 呼び捨てで呼ぼうとした瞬間睨みを効かせる。いつもの事なのだが、普段が呼び捨てな分癖で様をつけ忘れてしまう。その度に彼等は意識を持ってかれそうな睨みを効かせて来る。何度目の『2度と会いたくない』だろうか。

 

 しかしフレイヤの我儘と言われ思考を巡らせる。フレイヤの事だからまた何か悪さをしたのだろう。フレイヤは興味を惹かれそうな相手にしかちょっかいを出さない。そして今日起こった出来事。心当たり満載だった。

 

 「……まさかあのモンスターは【ガネーシャ・ファミリア】の失態ではなく、フレイヤの差金って事か⁉︎」

 「口に気をつけろ【道化の心臓】」

 「黙れ!自分のせいで町中の人々に危険が及んだ事を知って黙ってられるか!」

 「……」

 「いいか、帰ったらあの我儘お嬢様によ〜く伝えとけ。俺にちょっかい出すのはいい、だが被害を受けるのは俺だけにしろ。関係ない人を巻き込むな。もしまた関係ない人を巻き込んだりしたらもう2度と口も聞かねぇってな!」

 

 自分の身の危険なんてどうでも良い。そんな事よりも自分が原因で誰かに被害が及ぶ方がずっと痛い。

 

 だが真実は異なる。

 

 「自惚れるな。今回の件に関して貴様は完全な部外者だ」

 「なに⁉︎」

 

 ヘルは信じられないとオッタルの言葉を疑うが、嘘をついてる様に見えなかった。確かに嘘をつくなら、あんな答えに近づけるヒントなんて言わないし、そもそも目の前に現れたりなんかしない。

 

 つまりあの花型モンスターとフレイヤは無関係という事。だとしたら彼女(フレイヤ)に酷い事を言ってしまったのかも知れない。悪い事をしてしまったと反省する。

 

 しかし、だとしたらフレイヤが今回行った事とは、そしてその標的は?気になるがさっき言った様に丁寧にオッタルが教えてくる訳がない。

 

 「貴様は変わった」

 「え?」

 「以前の貴様は強くなる事に貪欲だった。その努力が報われる事は一切無かったが、その貪欲さは我々【フレイヤ・ファミリア】も『異常』と一目置いていた。フレイヤ様への報告の為、監視役を担った者達は貴様の事を妬みながらもその姿勢を素直に評価していた」

 「オッタル……」

 「しかし、最近の貴様は違う」

 「ッ⁉︎」

 「以前の貪欲さは消え去り、ぬるま湯に浸かっている。以前の弱いなりにも高みを目指そうと研ぎ澄まされた牙が完全に抜け落ちている。改宗した様だが、環境を変えれば強くなると愚かな考えをしたものだ。己の力以外を頼った奴が強くなれる訳がない。貴様は既に死んだも同然だ」

 

 オッタルの言葉が深く突き刺さる。

 

 「既にフレイヤ様は貴様を見限ったのかもしれんな」

 

 そう言い残しオッタルは立ち去った。何も言い返せなかった。残されたヘルはオッタルの言葉が脳内で何度もループして離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くそっ‼︎」

 

 頭からオッタルの言葉が消えない。『牙が完全に抜け落ちている。死んだも同然だ』。オッタルの言葉を否定しようとガムシャラにキラーアントの群れに単身で突っ込む。愛刀『エスティーム』で襲いくるキラーアント達を次々斬り伏せる。だが数の暴力に物を言わせ今まで沢山の冒険者を死に追いやってきたキラーアント。単調な攻撃一辺倒のヘルを相手に、数を生かして四方から攻めて来る。

 

 ノーガード戦法を繰り返すヘル。気付けば既にあちこちから出血しており、衣類が皮膚に張り付いていた。それでもヘルはノーガード戦法を続ける。

 

 「ヘルさんっ‼︎」

 

 ベルが駆けつける。ヘルの背を攻撃しようとしたキラーアントを『(ヘスティア)のナイフ』により素早く対処。そのままヘルと背中合わせになり、キラーアントから注意を離さないまま自身のレッグホルスターから回復薬(ポーション)を手に取り差し出す。

 

 「ヘルさん、これ飲んで下さい」

 

 ベルのこの咄嗟の判断は普段のヘルなら賞賛しているだろう。仲間を敵の攻撃から守り、敵に注意しながら仲間に傷の手当てを促す。冷静でいて的確な判断だ。しかし、冷静でなかったヘルにとってはむしろ余計なお世話に感じていた。

 

 「いらん、こんなのかすり傷だ」

 「ヘルさんっ‼︎」

 

 ベルから回復薬(ポーション)を受け取らず再びキラーアントに突っ込む。ベルの親切心が、今は全て煩わしく感じる。

 

 ベルは明らかに普段と様子が違うヘルに戸惑う。戦闘にしてもそうだ。いつもならもっと洗練された無駄の無い動きを見せるが、今日は力任せの乱暴な戦い方。攻撃も大雑把で単調。いつも自分がヘルに指摘されている事だ。しかも自分がヘルを助けるという普段の逆転現象が起きている。

 

 

 

 

 「はぁ……はぁ……手こずらせやがって」

 

 なんとかキラーアントの群れを倒した2人。しかし出血してフラフラなヘル。誰がどう見ても1度治療を兼ねた休憩を挟むべきだが、ヘルはそんなのお構い無しに新たな敵を探す。流石に見かねたベルがヘルの腕を取る。

 

 「ヘルさん1度休憩しましょう!回復薬(ポーション)を飲んで傷も治さないと」

 「いらん、こんなの痛くも痒くもねぇ」

 「嘘です!傷だらけじゃないですか!」

 「でも!」

 「いらねぇって言ってんだろ!」

 「──ッ⁉︎」

 「……悪い、怒鳴っちまって。でも本当に大丈夫だから」

 

 そう言って再びベルの前を行くヘル。ベルはヘルの後を歩きながら、その後ろ姿に一抹の寂しさを覚えた。自分はヘルを頼りにしてるし尊敬している。しかし自分は相談される程信頼されいないのだなと。





 〜オッタルからヘルの言葉を伝えられたフレイヤの反応〜

 「オッタル。それってつまり、彼は嫉妬したって事かしら?」
 「はっ?」
 「だってそうでしょう!自分以外にちょっかい出すなって、それって自分だけに構って欲しいって事でしょ!あぁん、本当に可愛いんだから彼ってば!あの子もお猿さん相手に頑張ってたけど、やっぱり彼よねぇ!オッタル知ってる?あの日彼も戦ってたのよ!お腹に大きな穴を空けながらエルフの子を助ける為に頑張って魔法使う姿はカッコ良かったわ!でもあのエルフの子、彼に助けられてて少し羨ましかったわ……」
 「……」

 そこに普段の男女問わず惑わす美の女神の姿はなかった。あるのはただの恋する乙女。(ヘル)にガチ恋する女神はまるで初恋の様に少しの事で一喜一憂していた。
 
 「でもどうしましょう。ヘルの言う通りにしたいけど、それはあの子に関わらない事を意味するし、かと言ってヘルに嫌われたくないし、でもあの子も面白そうな子なのよねぇ」

 


 フレイヤは恋する乙女全開です。フレイヤとヘルの出会い等の話はまだ先になるかな
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