最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか?   作:やってられないんだぜい

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 毎度のゆっくり投稿、もう少しペース上げたいんだけど話練って言葉変えたりしてる内に毎回数日経ってる。




お金持ち

 

 「ななぁかぁいそぉ〜?」

 「は、はいっ⁉︎」

 

 ベルは担当アドバイザーであるエイナに現状の到達階層をウッキウキで報告をした。順調に到達階層が更新してる事が分かれば、優しい彼女ならきっと褒めてくれると思ったからだ。ヘルは7階層に到達しても何も言ってくれなかった。確かに目標はずっと先とはいえ褒められたっていいじゃないか。だからこそ心のオアシスを求めたのだ、いつも励ましてくれる優しい彼女に。

 

 しかし、その考えは甘かったと思い知る。

 

 「なんでこの前5階層で酷い目に遭ったのに7階層なんて行ってるのかな‼︎迂闊にも程があるよ‼︎」

 「す、すいませぇん…!」

 

 普段優しい彼女はどこへやら。大勢の前で怒られる羞恥心を感じる暇も無く、目の前の(オーガ)に吠えられ、元々小さな身体が更に小さく縮こまる。昔、祖父が『男は大きくあれ、決して女に弱みを見せるな。出なければ一生尻に敷かれるだろう!』』と豪語した事があったが、この事を言っていたのだろう。あの頃は意味も分からず堂々とした姿にカッコいいと思ったが、こんなに情けない事だったとは……。

 

 「君は本当に危機感が足らな過ぎる‼︎前も言ったよね‼︎『冒険者は冒険しちゃダメ』って‼︎もう忘れたの⁉︎」

 「忘れてませぇん…!すいませんでしたぁ…!」

 

 ひたすら謝るベル。なんせ自分が悪いのだから。こんなにエイナが怒るのは自分の身を案じるが故なのだから。『女の説教を受け止めてこそ、男というもの』と祖父も言っていた。

 

 「今日という今日は許さない‼︎君のその心構えを徹底的に矯正して如何にダンジョンが恐ろしいか叩き込んで──」

 「ちょっとボリューム下げてくれますか?」

 

 だが、特別説教コースを披露しようとしたエイナを遮る様にベルの前に割り込むヘル。

 

 

 

 

 ヘルはベルの定期報告が終わるのを待っていたのだが、人が集まるギルドで仲間が情けなく公開説教を食らう姿に、流石に黙って見過ごす事は出来ず、場を納める為に仲介に入ったのだ。

 

 「ここ、公共の場なんでもう少し静かにしてくれます?周りの迷惑ですし、公衆の面前で大声で説教されてるベルの身にもなって下さい」

 「ヘルさん……」

 「す、すいません。………ですが彼はこの前──」

 「ミノタウロスに襲われた事なら知ってますよ。だからなんですか?」

 

 それが当然かの様に言ったヘルにカチンときたエイナ。思わず声を荒げる。

 

 「なんですかって……危険だから注意したんでしょ!」

 「そんなのどの階層でも同じですよ。ダンジョンに住まうのは話の通じる人では無く怪物(モンスター)です。冒険者はそんなモンスターを殺して生計を立てる危険な職業です。安全な訳が無いでしょう。ギルド職員なのにそれをお忘れですか?」

 「ッ‼︎そんなの言われなくても分かっています!」

 「それにミノタウロスの事を引き合いに出しましたけど、ミノタウロスが現れたのは完全なイレギュラーです。そんな事持ち出されたら下級冒険者はいつまでもダンジョンに入れません」

 「ッ⁉︎……ですが少しでも危険な目に遭わない様に──」

 「7階層に行ったのは俺の判断です。ベルのステータスは知りませんが、動きを見る限り目安はクリアしてるでしょう。技術(スキル)はまだ粗い削りですが光るものはありますし充分戦えます。寧ろ俺の方がベルの足を引っ張っているのが現状です」

 

 ヘルの言葉はやはりキツかった。普段ならこんな人に当たる様なキツい口の利き方はしない。だが、それでも自分の成長を褒めてくれた事にベルはいつも以上に嬉しく思ってしまった。いつもより厳しい今のヘルに言われたからだろう。

 

 

 

 

 内心喜んでいるベルを他所に、エイナはヘルを煩わしく思っていた。自分はただベルのためを思っての行動をヘルに否定されているのだから。

 

 だがヘルは元【ロキ・ファミリア】。レベル1とはいえ数多くの遠征をこなし、自分と違い実体験から来る知識は自分以上にダンジョンの恐ろしさを理解している。そんな彼が太鼓判を押したら、自分みたいな1アドバイザーは強く言えない。

 

 だがそれでもベルは駆け出しの冒険者。慎重な位が丁度いいに決まっている。

 

 「で、でもベルくんはまだ冒険になって半月なんですよ!」

 「期間なんて関係ありません。1年でレベル2に上がる奴も居れば、6年でレベル1のままな男もいる。要は能力があれば良いんです。そしてベルにはそれがある。ステータスや冒険者歴などの数字だけで判断しないで下さい」

 「だからって──」

 「それと1つだけ言わせて下さい。『冒険者は冒険してはいけない』って言葉ですが、あまり言わない方がいいですよ。心配するのはいいですけど、過剰な心配はその人の成長を妨げる。そんな考えじゃいつまでも上に上がれない。上に上がるには冒険するしかないんです。その気持ちを失った者から脱落していくんです」

 

 ヘルにハッキリ言われてしまった。『冒険者は冒険してはいけない』この言葉は今まで担当した冒険者全員に耳にタコが出来るまで聞かせた言葉。その理由は当然無茶をして死んで欲しくないから。【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】の英雄達の様に強くなりたいと思う者は多いし、とても良い事だと思う。もしレベルアップ出来たら自分の事の様に嬉しいだろう。しかし決して無茶をして欲しくない。死んで欲しくない。その思いがエイナは強かった。

 

 確かに上級冒険者になるには冒険しなければいけない。強くなりたいという冒険者達の思いは十分理解している。だがまだ駆け出しの、しかも歳下のベルがそんな簡単に命を天秤にかけて欲しくないのだ。まだ人生は長い。急がすゆっくり階段を登ってほしい、そう思う事の何が悪い。

 

 

 

 

 だがヘルもエイナの言葉を全否定したわけではなかった。確かに『冒険せずして何が冒険者だ』という思いはあるが、別にベートと違って他人に冒険を強要する気はない。今日ベルに厳しくあってしまったのも、嫉妬していたからだ。自分の1番欲しかったものを持っていたベルに醜くも。

 

 それにあの言葉はエイナに言ったというより、自分自身へ向けて言った言葉であった。2度と諦めない。2度とあんな事言わせない。俺はまだ牙を持っていると。

 

 

 

 

 

 

 「ヘルさん、もう大丈夫です…!」

 

 エイナの落ち込み具合に流石に止めに入るベル。エイナが可哀想だったのもあるが、何より周囲の目が痛かった。自分達を見ていた冒険者の顔付きが先程とは違う。皆ヘルを睨みつけていた。いつも自分達がお世話になっている彼女が言いたい放題言われているのだ。怒る気持ちも分かる。

 

 だがベルはこれ以上自分を助けてくれたヘルが反感を買ってしまうのをなんとしても避けたかった。今回の件、2人はなんも悪くないのだから。エイナは自分を心配してくれただけ、ヘルも自分なら出来ると評価してくれただけ。悪いのは全部ベル(自分)だ。自分がもっとしっかりしていれば、エイナが必要以上に心配する事も、ヘルが自分を庇って敵を作る事もないのだから。

 

 「ありがとうございました。エイナさんも僕の身を心配してくれてありがとうございます。でも大丈夫ですよ。僕のいくつかDまで上がったんです。だから推奨ステータスはクリアしてますから安心して下さい」

 「ッ⁉︎」

 

 ベルのまさかの発言にエイナ以上にヘルが反応したのは言うまでもない。確かにベルの身体能力が知り合ったこの数日間で飛躍的に伸びているのは気付いていたが、まさかそこまでとは流石に予想外だ。

 

 その後、エイナとベルがやり取りしてる間、ヘルはベルとのあまりの才能の差に愕然とし、悔しさで爪が食い込んで血が垂れるほど強く握り拳を作る。ヘルの今のアビリティは、魔力を除けば器用でFの380が最高値だった。これでも今までとは比較にならない速度で伸びているのだが、己を遥かに超すベルの成長スピード。それがまたヘルを焦らす。もっと、もっと、もっともっともっともっともっと努力しなければ。

 

 「────ん!ヘルさん!」

 「……ん?どうした?」

 「いや、僕明日のダンジョンちょっと休んでいいですか?」

 「別にいいけど……どうしてだ?」

 「エイナさんが7階層行くならもう少し防具揃えた方がいいんじゃないかって」

 

 そう言われてヘルは改めてベルの防具を見て『成程な』と納得した。ベルの防具は初めにギルドから支給された量産型だったからだ。今まで意識していなかったが、確かにこれではステータスは十分でも、装備が不十分と言えよう。武器と防具、両方揃ってこその装備だ。防御力の向上のみならず、自分に合った防具を装備する事で動きも違って攻撃面でもパワーアップする。ヘルは防具はいつもフィンに見繕ってもらっており意識した事が無かった為、気付く事が出来なかった。

 

 「ならここでちょっと待ってろ」

 「……?」

 

 ベルに待機してるよう言ってヘルは何処か走り去る。数分後、ヘルは片手に何やら袋を握り戻ってきた。

 

 「お帰りなさい。それなんですか?」

 「これで好きな装備買っていいぞ。俺は防具なんか全然分からないからよく教えてもらえ」

 

 そう言ってポンッとベルに渡す。ベルは袋を開けるとそこには硬貨が入っていた。その額は今まで魔石を換金した額の合計以上にあった。

 

 「ヘルさん……これいくらです?」

 「え?50万ヴァリスだけど、もっと欲しかったか?」

 「じゃなくて!どうしてこんな大金……!」

 「どうしてって………俺が元々何処に所属して、どんな役割だったか忘れたか?」

 

 

 ベルはそう言われて思い出す。ヘルが元【ロキ・ファミリア】で、オラリア最強治療師(ヒーラー)だった事、よく遠征するファミリアから依頼され同行していた事を。

 

 「あまり金使う趣味無いから結構貯まってんだ。だから遠慮せずそれでいい装備買え。欲しかったらもっとやるから」

 「いいえ……!充分です、これで‼︎………因みにいくら位溜まってるんですか?」

 「数億程度」

 「」

 「それじゃな……エイナさん」

 「なんですか……?」

 「さっきは色々と失礼言いましたけど、ベルにはこれからもエイナさんの存在が必要だと思うので支えてあげて欲しいです」

 「………言われなくても。私はこの子の担当アドバイザーですから」

 

 あまりの額に放心して動かないベルをエイナに預け、自分はギルドを立ち去る。

 

 

 

 

 

 ヘルはホームに帰る前に、とあるところに寄り道した。大通りから逸れた裏路地。陽の光も届かぬ様な日陰。誰も立ち寄らない様な場所にポツンとあるマンホール、そここそヘルの目指す場所の入り口であった。ヘルはマンホールの蓋をずらし、中に入ると再び蓋を戻した。

 

 数Mの梯子を下り、薄暗い電球がポツポツと続く。と奥に扉が見えた。『魔道具店 ー飛影ー 』ヘルが昔よく訪れていた魔道具店だ。

 

 扉を開けると、中には大量の魔道具が両脇に疎らに置かれており、中央の机にローブを羽織るエルフの老婆がいた。老婆は扉の音でこちらに気付き、入ってきた人物を見てニヤリと笑った。

 

 「久しぶりじゃないかぁ、【道化の心臓】」

 「もうその名は捨てた様なもんだ。改宗(コンバージョン)したからな」

 「ケッケッケッ……そうなんかい、なんせ上の情報には疎くてねぇ。それにしても相変わらず酔狂な事をするもんだねぇ。あの【ロキ・ファミリア】を抜けるなんてぇ」

 「世間話に来た訳じゃねーよ。いつものやつ50個程売ってくれ」

 「そんなに買ってくれるのかい。嬉しいねぇ、これでまた美味しい酒が飲めるねぇ、ケッケッケッ……」

 「あんまここ来たくねーし、買い溜めだよ。幾らだ?」

 「5000万ヴァリスだねぇ」

 「はぁ!?1個100万ヴァリスって高すぎだろ‼︎昔の倍以上じゃねーか‼︎」

 「去年ヘマした奴がギルドに物を取られてねぇ。素材がバレてクエストを依頼し辛くなったんだよぉ……それで、買うのを止めるかい?」

 「チッ……買うよ」

 「毎度ありぃ、ケッケッケッ……」

 

 後日老婆の口座に振り込む事を約束し、例の物を購入したヘル。買い物を済ませばこんなところに用はない。商品を受け取り立ち去ろうとするヘルを、老婆は問いかける。

 

 「ケッケッケ……やっぱりあんたは狂ってるねぇ。最近ここに来なくなって少しはまともになったと思ったら、また違法薬に手を出すなんてぇ、よっぽど死にたいんだねぇ」

 

 薄暗い部屋で老婆が薄気味悪く笑う。彼女特有の笑い声が壁を反響する。小馬鹿に笑う老婆、ヘルは冷静に1つだけ訂正する。

 

 「違うなレヴィエラ。俺は2年間死んでた、そして最近生き返った。それだけだ」

 「なんだい、やっぱり狂ってるじゃないかぁ、ケッケッケッ……」

 

 それ以降ヘルは振り返らず『魔道具店 ー飛影ー 』を後にした。





 今更思う、ベルとヘルがややこし過ぎる
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