最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか?   作:やってられないんだぜい

15 / 15
違法魔道具(マジック・アイテム)餌の祭り(ベイト・パーティ)

 

 いつもの様に深夜ダンジョンへ潜っていたヘルは順調にダンジョンを下降していく。今日のヘルは普段と違い、背中程の小さめのバックパックに持ち、中には例の物と大量の回復薬(ポーション)を入れて今回の探索に望んでいた。

 

 普段はベルと一緒の時に狩場にしてる7階層もスルーして更に下層を目指す。ヘルのアビリティは魔法を除けば今日の更新でやっと器用がDに達したレベル。ギルド推奨している10階層の安全マージンを僅かに下回っている。しかしそれでもヘルが難なく突破するのは一重に彼の技術力(スキル)と経験が普通のレベル1を大きく上回っているからだ。

 

 確かにアビリティの成長こそ著しく悪く、ベルにも既に追い抜かれたが、その技術力(スキル)は【ロキ・ファミリア】団長であるフィン曰く、『単純な武器捌きなら【ロキ・ファミリア】でも指折りの実力者』と太鼓判を押す能力の持ち主。しかも何年もほぼ休み無しで無茶を繰り返してきたヘルは経験値に置いても他のレベル1とは比べ物にならない。

 

 それだけに今までヘルは今までずっと苦しみ、その姿を見ていた同僚は彼に同情の目を向けた。同情はその者を侮辱する行為と分かっていても尚…。それほどまでに同僚から見たヘルは可哀想(・・・)な存在だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてヘルは今回の目的である10階層へと足を踏み入れた。

 

 10階層、この階層を機にモンスターの強さが1段階アップする。その大きな要因が大型級モンスター『オーク』が出現である。

 

 『オーク』。英雄譚ではお馴染みのモンスター。動きは鈍重だが、その極太の腕から繰り出される一撃は今までのモンスターの比ではなく、こちらの攻撃も持ち前の筋肉で受け止めてしまう。

 

 以前ここに来た時は、なんとか攻撃を受け流す事は出来ても、オークに傷一つ付けられず防戦一方になってしまった。結局はスタミナが切れた所を狙われてモロに攻撃を受け気絶。気付いた時にはホームのベッドの上だった。

 

 同行していたガレスがいなければあそこで死んでいただろう。その後、永遠にも感じる長い説教をフィンとリヴェリア(主にリヴェリア)にされたのを今でも覚えている。そして今、あの時苦渋を飲まされた相手と再び合間見える。

 

 バックパックから回復薬(ポーション)を1本取り出しホルスターにしまうと、邪魔にならない位置にパックパックを置き準備万端。

 

 「久しぶりだな。あの時の借り、今ここで返させてもらうぞ」

 『ブフォォ‼︎』

 「いきなりかよ……!」

 

 ヘルを認識するやいきなり殴りかかってくるオーク。それをバックステップで躱すが、元々自分がいた場所を目にしたヘルは冷や汗が頬を伝うのを感じる。

 

 「相変わらずの馬鹿力だなぁ……」

 

 オークが殴った地面、つまりヘルがいた地面にオークの腕が肘辺りまで深くめり込んでいたのだ。あの頃より耐久力が格段に上昇しているとはいえ、あの攻撃をまともに食らえばタダでは済むまい。

 

 オークは地面から腕を引き抜き、軽く回して腕についた土塊を払い落としヘルを睨みつける。一撃食らえば即終了のデスゲーム。しかしベルの目に恐怖は無い。あるのは好奇心。あの頃歯が立たなかった相手に、今の自分はどれだけ戦えるのか。生か死か。勝者か敗者か。白黒決着をつける。

 

 「うおぉぉッッ!!!」

 『ブフォォォォォ‼︎』

 

 ヘルが叫びながらオークに向かっていく。オークも雄叫びをあげながら先手必勝と自慢の右腕が飛んでくる。威勢よく飛び出したヘルだが、当然真正面からオークの攻撃を受け止めるなんて無謀な事はしない。ヘルは既に抜いてある愛刀『エスティーム』を刃にオークの右腕を滑らしたのだ。

 

 恐らく今のアビリティではまともにやっても精々皮膚にが少し斬れるくらいだろう。まともに腕を断とうとすれば筋肉に止められ、そのまま獲物を奪われ、攻撃の手段を失い昔と同じくジリ貧と化して今度こそ命を捨てる事になるだろう。

 

 自分の力だけでオークを倒すのは現状不可能に近い。ならどうすればいいか?答えは簡単だ。自分の力が足りないなら相手の力を利用すればいい(・・・・・・・・・・・・)

 

 『ブフォォ⁉︎』

 

 ヘルの剣速とオークの拳、2つの速度が合わさった事で斬れ味は増す。真っ二つとまではいかないものの、オークの腕は手首から肩口にかけて深く裂けていた。

 

 オークは自身の裂けた右腕に目をやり、自分の身体が傷付けられた事を理解すると荒れ狂い暴れ始めた。

 

 『ブフォォォォォォォォ‼︎』

 

 オークの咆哮がビリビリと身体を振動させる。だがヘルは怯まず再びオークに突っ込む。オークは傷付けられた右腕で再び殴りかかってくるが、先程よりも拳速が遅く、難なくスライディングによりオークの股下を抜け背後を取った。オークは目の前からヘルが消えた事に一瞬戸惑うが、直後襲う痛みに膝をつく。

 

 『ブフォォォォォ⁉︎』

 「やっぱり硬いな。完全に斬るのに6回も必要なのかよ」

 

 ヘルの狙ったのは人間で言うアキレス腱だ。人間の様にオークにもアキレス腱があるか分からないが、あれだけの体重を足元が傷付いた状態では満足に動けない。だがこんな部位でも何回も斬らなければいけない辺り、やはりまともにやり合っては勝てない相手だと再確認する。

 

 だが、相手の脚を奪った事でヘルの中に油断が産まれてしまった。

 

 『ブフォォォォ‼︎』

 「ッ…⁉︎」

 

 振り返る事も無く放たれた無事な左腕による後方への腕払い。ヘルの位置を確認せず直感で放たれたオークの攻撃はヘルの予想外の一撃と化す。既に避ける事叶わぬ攻撃に咄嗟に腕を交差させ防御の姿勢を取るが、衝撃は凄まじく後方へ7〜8m程吹っ飛ばされる。

 

 「がはっ……⁉︎」

 

 今ので内臓がやられたのか、吐血する。怪物祭の時もそうだが、つくづく自分の爪の甘さに吐き気が立つ。あの時もレフィーヤの声に耳を傾けていれば、まず彼女を安全な所へ避難させていれば、あんな事にならなかったし、彼女が負い目を感じる事もなかったのだ。

 

 ホルスターから回復薬(ポーション)を取り飲み干して傷付いた内臓を癒やす。傷の回復と同時に再び気を締め直す。

 

 ヘルが回復薬(ポーション)を飲む中、オークはジッとこちらを睨みつけていた。モンスターには大小や限度はあれど自己修復能力が備わっているが、追撃して来ないところを見ると完治には程遠いらしい。

 

 「悪いな……俺だけ回復なんて卑怯な真似して。でもスペックのハンデって事で許してくれよ……‼︎」

 

 正々堂々などと強者しか許されない戦法を取る余裕はない。ヘルは未だ動かないオークをこの機を逃さずに仕留めにかかる。

 

 正面から突っ込み、まずは次の一手の為にオークの攻撃を誘う。満足に動けないオークは回避する手段はない。反撃にと両腕でハンマーの如く振り下ろして来るが、こんな大振りで隙だらけの攻撃なんて容易に簡単に避けられる。拳が地面に叩きつけられ、衝撃で砂煙が立ち上がる。砂煙で視界が悪くなった隙に今度は両目を奪う。

 

 これで脚も目も奪った。後はヒットアンドアウェイで胸元と背中両方向から魔石を曝け出し砕く作業。勝利を確信したヘル。しかし先程の教訓を胸に、油断せず警戒心を怠らず迅速に作業を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ………リベンジ成功」

 『ブ……モォォォ』

 

 皮膚を削り姿を露わにした魔石を一突きし砕け散る。既に行動を停止していたオークは風化した岩の様に霧散する。

 

 かなりのスペック差も持ち前の技術力(スキル)でカバーし、以前苦渋を飲まされた敵にリベンジを果たしたヘル。それなりの達成感があったが、彼にとってこれはまだ序章に過ぎなかった。

 

 一息ついたヘルは『飛影』で買った袋を取り出し開く。中には沢山の豆が入っていた。一つ一つの大きさは1c程で濁った色をしている。

 

 「取り敢えず6粒…」

 

 袋の中から6粒手に取ると残りをしまい、邪魔にならない様端っこに避ける。

 

 「さぁて……冒険といこうか」

 

 ヘルは手に取った豆を地面に思いっきり叩きつける。地面に叩きつけられた豆は割れ、中から薄紫色の煙が勢いよく辺りに広がった。甘い匂いのそれはたちまちフロア全体を覆い尽くす。

 

 ザッ………ザッ………

 

 するとどこからともなくインプやニードルラビット、そして先程倒したオークや怪物祭で暴れたシルバーバックが集まってきた。

 

 先程ヘルが地面に叩きつけたのは『餌の祭り(ベイト・パーティ)』。キラーアントやその為多数のモンスターから作られた魔道具(マジック・アイテム)。効果は辺りのモンスターを誘き寄せ、尚且つダンジョンがモンスターを産み落とす速度を格段に上昇させる。1粒で10分間の効果を持ち、複数割れば効果はその分伸びる。

 

 昔の闇派閥(イルヴィス)がよく使っていた代物。ダンジョン深くに誘い込み、大量の『餌の祭り(ベイト・パーティ)』でモンスターを誘き寄せ、己の命と引き換えに大勢の命を奪う。公には製造、売買の一切を禁止されている。その危険性、過去の用途等からバレれば死刑は免れない代物だが、未だに裏ルートでは流通している。

 

 しかし、ヘルが『餌の祭り(ベイト・パーティ)』の餌食にするのは自分自身。強制的に『怪物の宴(モンスターパーティ)』擬きを引き起こし、大量のモンスターを倒す事で効率よくアビリティの成長を促す。当然命の保証はない。その為この手段を用いる時は回復薬(ポーション)を大量に購入して臨む必要がある。

 

 アビリティが違うとはいえ、昔は5階層で行っていたヘル。段違いの難易度の挑戦にもう後戻り出来ない事を今更後悔しそうになる。当然助けは来ない。先程と違い恐怖が身体を飲み込もうとする。

 

 だが、そんな時思い浮かぶは昔の仲間達の顔。今の何倍も危険な戦場をまるで遊園地みたいに走り回るアイツらの姿。

 

 『テメェもぐずぐずしてねぇでさっさと来やがれ』

 

 ベートが激励をくれた気がした。怪物祭の時といい、何かあった時に思い浮かぶ姿がベートって男として色々と危ない気がする。しかし、なんだか勇気が出たのも事実だ。

 

 アイツらの隣で戦う、前に立ち護るなんて生半可な事で成せる事では無い。ただでさえ既に出遅れているんだ。この位の事でビビっていられない。

 

 「待ってろよお前ら………絶対に追いついてみせるからな!」

 『グウオォォォォォォォォォォォ‼︎‼︎』

 「うぉぉぉお‼︎‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間後、辺りに広がるは大量の魔石と大量の血の水溜まり。その中にただ1人立っているヘル

 

 「…………」

 

 途中何度もモンスターの攻撃で気絶し、壁の衝突や別のモンスターによる攻撃で再び意識を戻したヘル。今も既に意識は無く、気絶しながら死骸の中央でただ1人佇む。

 

 自身の血と返り血が混ざり合って全身血塗れになっているヘル。フィンから貰ったそれなりに高値がつく防具もボロボロで使い物にならない。あれ程大量に購入した回復薬(ポーション)も既に全部空。

 

 1時間という長い間、何度もボロボロになりながらもひたすらモンスターを殺し尽くしたヘル。やり切った、確かにヘルは自身に課した冒険を見事にやり切ったのだ。

 

 『ブフォォ…』

 

 しかし、餌の祭り(ベイト・パーティ)の効果が切れたからといって、新たなモンスターが現れないなんて事は無い。だが既に意識の無いヘルに反撃も逃走も不可能。絶対絶命。

 

  

 

 「──────‼︎」

 

 気絶している筈のヘルの耳に入ってきた聞き慣れた声。まるでその声にあたかも安心したかの様にゆっくりと前傾に倒れたのだった。

 

 

 





 犯罪者主人公

 悲報:いつもの飽き性+他のものに目がいく癖が出始めてる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。