最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか?   作:やってられないんだぜい

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 主人公 -ヘル・クライス-
 19歳
 レベル1
 冒険者6年目
 最強の治療師
 武器は杖と仕込み剣
 
 簡単な主人公スペックでした。


プロローグ2

 

 「黙れよ駄犬」

 「ぶっ殺す‼︎」

 

 団員同士の喧嘩に、先程まで盛り上がっていた『豊穣の女主人』に緊張が走る。下級冒険者達はヘルがベートに楯突く事にオロオロし出し、上級冒険者達はその状況を静かに見つめていた。

 

 「おいテメェ、レベル1の分際で俺に説教か?」

 「そのレベル1に毎回手当されてるのはどこのどいつだよ。事あるごとに治療しにきやがって、少しは傷付かない戦い方覚えたらどうだ下手くそ」

 

 怒りで釣り上がる口角から、今にもヘルの四肢を噛みちぎらんとばかりに露出させるベートの犬歯。俺は恐怖で冷や汗をかきながらもベートを睨み返す。所詮これはディベート対決。そう思い気迫だけは負けまいと高をくくっていた。だが次の瞬間、俺の視界からベートが消えたと同時に顔面に強い衝撃が走る。

 

 「ぅぐッ⁉︎」

 

 目の前に広がる飛び立った料理と、驚いているアイズが横向きに見える事で、ようやく自分がテーブルに叩き付けられたのだと理解した。テーブルに這いつくばる俺にベートは顔を近づける。

 

 「テメェ、二つ名貰った程度でいっぱしな冒険者になったつもりか?調子乗ってんじゃねーぞ‼︎所詮テメェは1人じゃなんもできない三下のザコだ!そんなザコが俺にとやかく言ってんじゃねぇ‼︎」

 「グッ……⁉︎」

 「ザコをザコ、ゴミをゴミと言って何が悪い‼︎怖いのが嫌なら最初っから冒険者になんじゃねぇ‼︎命賭ける気もねぇならすっこんでろ‼︎ゴミに冒険者になる資格なんかねえ‼︎」

 「これ、やめんかベート」

 「そうだ、【ロキ・ファミリア】の品位が堕ちる」

 

 ここにきてようやくベートを止めに入るガレスとリヴェリア。ベートより上のレベル6の2人なら咎める事も可能だろう。ベートも2人に言われたせいか若干テーブルに押し付ける腕の力が緩む。だがそんな彼等の仲裁を俺は突っぱねる。

 

 「……ッ‼︎さっきまで黙ってた奴は……引っ込んでろ」

 「なに⁉︎」

 「悪ノリしてた奴も無関心だった奴も引っ込んでろって言ってんだ。これは俺と……ベートの問題だ‼︎」

 「……ベートの言う通り少し調子に乗ってる様だな、頭を冷やせ」

 「俺は冷静だよ……少なくとも、今の話を聞いて悲しむ少女がいる事に気付くくらいはな」

 「なに?」

 「なぁベート、冒険者がどいつもお前みたいだと思ってんじゃねーよ。弱い奴、臆病な奴、自信が持てない奴、情け無い冒険者だって沢山いるんだよ。それでも皆なんかしらの想いを、覚悟を胸に冒険者やってんだ。そもそも冒険者は自由な職業だ、神が認めれば誰だってなれる。それを資格無いだって?神にでもなったつもりか単細胞」

 「………言いたい事はそれだけか?」

 

 顔を押さえ付ける力が緩みベートの顔を見た。しかし彼の心底どうでも良さそうな無表情を見て、何を言っても『冒険者は強者であるべき』という考えは変わらないだろうと思い知らされた。直後俺は再びテーブルに強く叩き付けられ。

 

 「グアッ⁉︎」

 

 叩き付けられたのた衝撃で頭が切れ、血が目を伝う。

 

 「弱い奴が言ったところで所詮負け犬の遠吠えにしか聞こえねーんだよ‼︎所詮この世は弱肉強食、弱者は全て奪われ、強者は全てを手に入れる‼︎強くなきゃ意味ねーんだよ‼︎悔しかったら、文句あんなら強くなってみせろ‼︎それが出来ねえなら一丁前にでかい口叩くんじゃねぇ‼︎」

 

 ベートは頭に血が昇ったのか、ヘルをテーブルに押し付けるだけでなく、余ったもう片方の腕でヘルを殴り付けようとした。レベル1がレベル5のまともな拳を食らう。それが示唆する意味する想像する事は容易い。ガレス達も止めに入ろうとするが間に合わないと思ったそのときだった。

 

 「やめて下さい」

 

 ベートの降りかかった拳が掴まれ、こめかみに当たるまであと数センチというところで止まった。ベートを止めたのは今まで黙ってた俯いていたアイズだった。アイズは腕に力を入れ、ベートの腕を掴みながら睨む。ベートは邪魔な横槍が入った事に苛立ち、目で威圧仕返す。

 

 「アイズ、これはテメェには関係ねぇ話だ」

 「いいから、彼を離して下さい」

 

 同じレベル5、それもモンスターに鬼神の如く突撃する姿から、かつては【剣鬼】の二つ名を授かったアイズがその程度の圧で怯むわけもなく、それどころか対抗とばかりに次第にベートの腕を掴む力が強くなる。次第に締め付けられる痛みが堪らなくなったベートは、アイズの手を払い除け掴まれていた部位をさする。ベートが離したことでようやくベートの拘束から解かれたヘルは、叩き付けられて痛む顔を押さえながらゆっくり立ち上がる。そんなヘルにアイズは自分のハンカチを手渡す。

 

 「はい、これ」

 「あ、ありがと」

 「ううん、こちらこそ」

 「後で洗濯して返すから」

 

 アイズに差し出されたハンカチで顔面についてる汚れを拭き取る。顔についた汚れを拭き取りながらアイズを見る。勝手だが、彼女はこんな事があってもどうすればいいか分からずオロオロするか、先程みたいに黙ってるだろうと思っていただけに、彼女の意外な行動力に驚き思わず彼女を見つめていた。彼女もそれに気付いたのか、見つめ返してきて照れ臭くなったヘルは顔を背ける。

 

 お互い見つめ合う光景、しかもアイズの施しまで受けている事がベートの気に触れた。

 

 「なんて情けねぇ姿だよ、雌に護られるなんて………あの兎と一緒だな」

 「……」

 「アイズ、お前はどう思うよ?こんな口先だけで大した力もねぇ野郎をよ」

 「……ヘルにはいつも感謝しています」

 「けっ……なら質問を変えるぜ。隣で一緒に戦える強い俺、守らなきゃいけない弱っちぃコイツやあの兎、ツガイになるならどっちが良い?」

 

 突然のベートの告白とも取れる言葉に一同は目を丸くする。先程までいがみ合ってたヘルですら『え?』と気の抜けた言葉を漏らす。

 

 「あのー、ベートさん?どうしていきなりそんな話になるんですか?告白ならもっといい雰囲気でした方が…」

 「テメェは黙ってろ、俺はアイズに聞いてんだ」

 

 最早俺との口論に飽きたのか、俺の方を見もしなくなった。アイズは以前厳しい表情を崩さずベートを見つめている。なんか殺伐とした空気から一変告白タイムとなった、まぁ告白にしては空気最悪だが。

 

 最早俺とベートの問題ではなく、アイズとベートの問題となってしまった。色々気が削がれたし、これ以上自分があの場にいてもまた場の空気を悪くするだし、これ以上何かして彼の一世一代の告白を邪魔したら本気で殺されると思った俺は、席を移動して適当な席に座り直した。後ろで身を引く俺を茶化す声が聞こえたが無視だ。

 

 新しい席でアイズに貰ったハンカチで患部を抑えていると、隣にティオネとティオナが座った。ティオネは呆れ顔をしていて、ティオナは両手にジョッキを持っていた。

 

 「アンタ馬鹿ね、ベートに喧嘩挑むなんて。レベル1のあんたが勝てる訳無いじゃ無い」

 「ほら!気分転換も兼ねて飲み直そうよ〜」

 「…ありがと」

 

 ティオナに礼を言って差し出されたジョッキを貰い、そのまま一気に飲み干す。その姿にティオナは『おお〜、いい飲みっぷり。荒れてるねえ〜』と俺の飲みっぷりに拍手していた。なんか彼女の純粋な笑顔を見ていると心が落ち着く。『まぁね、気分悪くさせてごめんね』と彼女に謝る俺に、ティオネが質問してきた。

 

 「なんで今日に限ってあんな事したのよ。ベートの酒入ったときの下級冒険者への暴言なんて毎度の事でしょ。いつもはつまらなそうにそっぽ向いてたのに」

 「それは………」

 「まぁ理由は分かってるけどね」

 「え?」

 「それは…」

 「アイズの為でしょ!」

 

 ティオネの言葉に被せる様にティオナが答えた。先に答えを言われてティオネはティオナを睨みつけるが、彼女の天真爛漫な表情に毒素を抜かれたのか『はぁ〜』とため息を一つ入れて再び話し始めた。

 

 「アンタが言った『悲しむ少女』ってアイズの事でしょ。あの子、ダンジョンから帰ってきた時少し悩んでたから」

 

 ティオネの『悩んでいた』という部分に思わず反応してしまう。それを知ってるならと、落ち着いたはずの怒りがまた振り返す。

 

 「……ならなんであの話聞いて笑ってたんだよ。悩んでたの知ってたなら、アイズが嫌な気持ちになる前に止める事だってできただろ」

 「詳しく知らなかったのよ。まさかさっきの話に出てくる子が悩みの種だったなんてね」

 「よく気付いたよねヘルは。私もヘルの言葉がなきゃ気付かなかったよ」

 「別に、大した事じゃ無いよ。たまたま横に座っててアイズが俯いてるから心配して声掛けたら手が震えてるのが見えた」

 「それで感情的になってベートに突っかかったと」

 「……うるさい」

 

 照れ隠しで彼女達から顔を逸らすとこちらを向いてるアイズとたまたま目が合った。アイズは酒が入ってないはずなのに頬が赤くなっており、その姿が妙に可愛らしく見えてしまい、彼女からも顔を逸らすとまたティオネ達の元に戻ってきた。しかも今度はニヤニヤと何やら女子特有の嫌な笑みを浮かべている。ティオナが即座に回り込み、もうサイドに回って2人でヘルを挟む。

 

 「2人ってさ、妙に仲良いよね」

 「そうか?」

 「さっきまで2人隣で飲んでたし」

 「それは俺が聞きたい」

 「もしかして2人って」

 「それは無い」

 「「ほんと〜?」」

 「本当だ」

 

 恋愛脳の2人に挟まれながらの質問攻めを適当なあしらう。本当にアイズとはそんな関係では無い。そもそも、最強の強さを求める為自らが傷付く事をなんとも思わない彼女と、誰にも傷付いて欲しくない自分は正反対の位置にいるのだ。そんな関係になるわけが無い。

 

 「ベルさん⁉︎」

 

 ベート達の会話なんて我関せずといった様子で飲んでいると、誰かが走り去っていくのを店員が店前まで追いかけてる様子が見てとれた。ここの主人は元冒険者、それも相当な実力者だったそうで食い逃げ犯を必ず見つけ出しそれ相応の罰を与えるという事で有名だ。馬鹿な事をするなと思っていると、アイズまで店前まで出て店員と同じく食い逃げ犯の同行を見つめていた。

 

 「どうしたんだ?アイズ」

 「ヘル…」

 

気になって彼女の隣に立つ。一旦俺の方を向くが、また食い逃げ犯が走り去ったであろう方を見つめていた。

 

 「知り合いだったのか?」

 「……分からない」

 「分からない?どういう事だ?」

 「知り合いって言っていいのか分からない。ダンジョンで助けただけだから」

 「ッ⁉︎じゃあ……」

 

 その一言で食い逃げ犯の正体がアイズが助けた新米冒険者だと察した。アイズは心配そうにいつまでもそいつの行方を見つめている。きっとどうすればいいか分からないのだろう。しょうがない、助け舟を出してやろう。それに勘だが食い逃げした理由も気になる。

 

 「店員さん、さっきの食い逃げ犯。ベルくんって言いましたっけ?彼が踏み倒した料金幾らですか?」

 「え、500ヴァリスですけど」

 「なら700ヴァリス支払うので彼の事許してあげて下さい。きっと自分達の会話を聞いて居づらくなったんだと思うので」

 「でも200ヴァリス多いです!」

 「それは今日店を騒がせた慰謝料って事で」

 

 俺は有無を言わさず彼女に700ヴァリス渡すとアイズに先程の礼を言う。

 

 「アイズ、さっきは助けてくれてありがとう。お陰で死なずに済んだよ」

 「私こそ…」

 「それと彼のことは俺に任せて。同じレベル1同士相談に乗れると思うから」

 「あ……」

 

 彼女に一方的に伝えて彼の後を追う。だが、気になった事が頭を過ぎり、足が止まる。振り返りまだ居るアイズに先程の件を聞こうとする。

 

 「アイズ、さっきのベートの……」

 「……?」

 「いや、なんでも無い。ロキには伝えておいて」

 「…分かった」

 

 結局聞くのは辞めた。なんか意識してる様で恥ずかしかったからだ。

 

 「くそッ」

 

 俺もベートと一緒で、酔って変な思考回路してたのかもしれない。今は彼、ベルくんを探す事に集中しよう。ただの食い逃げ犯ならいい、700ヴァリスくらい大した出費では無い。問題なのは先程のベートの発言で自暴自棄になった場合だ。弱い自分が情けないと思い、普段なら絶対しない無茶な事をしてしまう。例えば防具も回復アイテム無しで迷宮に行くとか。そんな無謀な事すれば命がいくつあっても足らない。

 

 最悪の場合を想定して俺はダンジョンへ駆け出した。

 

 

 

 

 

 「ヘル……」

 

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