最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか? 作:やってられないんだぜい
ダンジョンに来たものの、俺は肝心な事を見逃していた事に気付く。そう、ベルという名前は知っているが、肝心のベルくんがどういう見た目なのか知らないのだ。
「うーむ……」
俺は腕を組み分かってる情報をまとめてみる。兎というからには可愛い系の男の子だろう。これでオッサンはないだろう。オッサンを馬鹿にされて悲しんだり、オッサンを心配するアイズは気持ち悪い。しかも心配するって事は歳下だろう。
自分なりにベルくんの姿をイメージを思い浮かべるが、顔面が兎の二足歩行するキモいモンスターの様な面影が浮かんできたので辞める。
「うん、辞めよ。こんな事して分かるわけないし、フィンみたいな頭の良い奴ならいけるかも知らないが、俺みたいな勢いに身を任せる様なタイプには向いてねーわ」
ベートを単細胞と馬鹿にしたが、自分より圧倒的強者に歯向かう自分の方がよっぽど単細胞な馬鹿だしなと自虐する。なら単細胞は単細胞なりにガムシャラに行動しますか。
まぁ昼過ぎという1番の狩り時に5階層いるなら、普段からその上下辺りの階層を主戦場としているぐらいは想像つく。ならばそこまでの階層をしらみ潰しに探すまでだ。
「夜ならアレ有効活用出来るな」
俺の覚えてる魔法の中に、この状況で打って付けの魔法がある。大勢いる昼間では大した効果は発揮できず、夜で少人数しか迷宮にいない今なら大いに本領発揮出来る魔法が。
俺は片膝をつき、右手を地面に当て詠唱を開始する。
【駆け抜けろ、血を啜る亡霊よ。汝の乾き満たす贄の元へ我を導け──
俺が魔法を発動させると迷宮の地面や壁、天井に赤い波紋が走る。【
今回、もしベルくんが負傷して出血していなかった場合、【
「…………1階層に2人、3階層に4人か。ベルくんは1人だから5階層までにいる可能性は少ないか………いや、もしかしたら他の冒険者と出くわして行動を共にしてるだけかもしれないし、一応見て回るか」
俺は探知した場所目掛けて駆け出す。予想通り1階層にいる2人はベルくんではない様だ。2人はベルくんらしき人はみていない様で、2人の傷を治療してから3階層の4人組を目指す。
3階層から2階層に上がる階段で4人組と遭遇する。先程のペアと同様、4人の中の誰かがベルくんか尋ねるがハズレ。ならベルくんらしき人はいないか尋ねたところ、4人とも装備無しと聞くとそれぞれ顔を合わせる。この反応はビンゴだ。
「もしかして知ってるんですか⁈」
「え、ええ。防具無しの冒険者なら奥の方に走って行きましたよ」
「その子の特徴は⁈髪色は⁈身長は何セルチくらいですか⁈どんな顔していましたか⁈」
「落ち着いてくれ、別に隠す気ないんだから…」
リーダーらしき人物に宥められ、俺は落ち着く為に深呼吸する。ベルくんの手掛かりを見つけられた事がこんなに嬉しい事に自分でも驚く。それはきっと重ねているのだろう。強くなる事にまだ情熱を注いでいた頃、周りと比べてちっとも強くならないからと散々無茶をした過去の自分。そしてアイツとも。
俺はベルくんの特徴を聞くと彼等の傷を治療して再び走り出す。5階層まだ行き、再び【
「見つけた!でもこの反応は……クソッ!間に合ってくれッ!」
ベルくんと思しき反応は、先程までの彼等よりも強く反応している。つまり彼等より傷付いているという事を意味している。今までの経験上、命に別状はないだろうがここは迷宮だ。小さな傷が原因でより大きな傷を生む事は珍しくない。彼に万が一な事が起きる前に彼を助ける為に今まだ以上に走る。
「頼む、間に合ってくれ‼︎俺はもう2度と……ヘヴンの様な犠牲者を出したくないんだ‼︎」
6階層に辿り着き、暫くすると1人の白髪の少年がナイフ片手にウォーシャドウを斬りつけているのが見えた。先程の彼が教えてくれた特徴と一致する。損傷具合でいえば、手足に切り傷が多数見られる。服装も所々引き裂かれていた。だが見た感じ深手というわけではなさそうで安心する。
「うぉおおお‼︎」
「──‼︎」
少年はウォーシャドウの攻撃を掻い潜り懐へ、そして逆手に持ったナイフで腹から顔を切り裂いた。言葉にならない断末魔をあげウォーシャドウは灰と化した。
「はぁ…はぁ……次ッ!」
少年はウォーシャドウを倒した直後だと言うのに新たな敵を求め歩き出す。左右にふらつきながら歩く後ろ姿は、これ以上彼に無理させてはいけないと脳裏に通告してくる。
「君がベルくんかい?」
そんな彼に近づき、肩を叩いて声を掛ける。
「なんで僕の名前を……あれ、あなたは」
どうやら彼がベルくんで間違いない様だ。
「俺はヘル・クライス。【ロキファミリア】で
「【ロキファミリア】?もしかしてさっき…」
「話は後だ。まず君の身体を治療させてもらう」
俺はベルくんの話を遮り、彼の腕を取る。
【顕現せよ癒壊の女神、天邪鬼。今宵は宴、血の晩餐哉。啜れ、飲み干せ、血こそ汝の渇きを潤す至高の栄養哉。来たる祭事に備え、その渇きを潤い満たせ──
魔法を発動した瞬間、俺の背後に綺麗な女性が現れ、俺が持っている腕に口付けをする。すると傷がどんどん塞がり、5秒程で怪我一つない綺麗な肌へと戻った。
「これでよしっと。治ったよ……あちゃぁ」
この魔法は1つ、弱点とまで言わないが厄介な点がある。それは俺の後ろに顕現した女性のビジュアルだ。彼女はとてつもなく美人だ。間違いなく俺が人生で見た中でトップといえるだろう。そして彼女はスタイルも優れている。たわわに実ったソレは見る者を虜にする。何よりトドメなのは、彼女は服を着ていないのだ。美人でスタイル抜群の裸な女性が自分の腕に熱い口付け。もうお分かりいただけただろうか。
「…………」
そう、ベルくんはただいまショックにより気絶してしまったのだ。この魔法は女性適正の低い人に使うと洩れなく彼の様に気絶してしまうか、鼻血を出すかのどちらかになるのだ。
慣れてる奴は平気だが、気持ち悪いったらありゃしない。鼻の下を伸ばして彼女の裸体見たさに治療をせがんでくるのだ。当然そんな輩はお断りだ。重体患者の治療の為、俺の精神力消費を抑える意味でも多少の傷なら回復薬で済ます様フィンが取り計らってくれた。それでもベートの様に最前線で戦い続けている者は否が応でも傷付くし、フィンにも最前線の者達が万全じゃないのは遠征の失敗に繋がると言われているので、彼等には優先して魔法をかける事になっている。
因みにベートは治療する際、『俺はこんな女の裸なんざどうでもいい』と毎度言うが、チラチラと横目で見ているのはバレバレなのだ。
「……、仕方ねーな」
疲労もあり、暫くは目覚めないだろうと思った俺は、ベルくんをおんぶすると地上を目指し歩く。道中コボルトやゴブリンと遭遇したが、この程度のモンスターなら俺でも楽勝なのでサクッと殺して地上に戻った。
地上に戻るとギルドに行き、ベルくんのファミリアを聞いて彼の住処まで送る。既に朝日は昇りかけており眩しい。
「……うーん」
「ん?起きたか?」
「アイズさん……にへへ」
どうやらただの寝言の様だった。盗み聞きになるかも知らないが起こすよりマシだと思い、そのまま気持ちよく寝ててもらう。だが、この寝言が俺の運命を変えたのだった。
「アイズさん………僕、絶対強くなりますから………何年掛かっても…貴方を護れるくらい、誰にも文句言わせない男になりますから……」
「……愛する女の為に強い男になるかぁ」
俺はベルくんの寝言を聞いて何故か胸が痛くなった。きっと痛い所を突かれたからだろう。俺は1度諦めてしまったから。
「…ベルくん、俺には君が眩し過ぎるよ。冒険者になって6年、俺は殻を破る事が出来ず、元々持っていた能力を生かす形で治療師の道に進んでしまった。皆んなは俺をオラリア最強の治療師なんて読んでくれているが、そんな大層なもんじゃない。最弱の成れの果て、それが本当の俺だ」
「……」
寝てる筈のベルくんに俺は語っていた。心なしか、ベルくんも寝言を止め俺の話を聞いてくれている気がする。
「君は眩しいがとても儚い。ふとした事で傷付き、自暴自棄に走ってしまう。そんな事をしていたらいつか本当に己を壊してしまう。だから、俺に君が強くなるのを手伝わせてくれ。君がどんな傷付こうと完璧に治してあげる。君が無茶しようとそれを可能にしてあげる。
「……」
「だから代わりと言ってはなんだが、俺が昔に戻るのを手伝ってくれないか?君がいれば俺も昔に戻れるかもしれない。最強に憧れたあの頃の様に」
ベートに言われて改めて気付かされた。今のままじゃいけない。所詮今の俺じゃ後方で支えることはできても、壁となって護る事は出来ない。護る為には力がいる。そしてそれは、きっと今の環境じゃ手に入らない。
「強くなろう、2人で」
色々言っておいてなんだが、自分でも勝手だなと思う。要は彼を利用しようとしてるのだ。自分が強くなる為に、治療という対価を払う事で。今更遅いかもしれない。そしたら潔く諦めよう。諦めて彼を支え続けよう。だけどもう1度、もう一度だけでいいから。
「ベルくん‼︎…あれ?君は?」
「ヘスティア様ですね。僕を【ヘスティア・ファミリア】に
あの頃の様に夢を持って生きたいんだ。
プロローグ終了です。次回から本編入りますのでよろしくお願いします
新作日間ランキング40位に入ってたのとても嬉しかったです。また頑張ります