最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか? 作:やってられないんだぜい
後そんなクソ投稿者の作品なのにこんなに読んでくれてランキングにも載せてもらいとても嬉しいです。
「ここが【ヘスティア・ファミリア】ですか」
「あはは、【ロキ・ファミリア】とは大違いだろ」
「いえ、家の価値は大きさじゃなくて、そこに住む人達の暖かさで決まるんで」
「お、君良いこと言うね!」
ベルくんをベッドに寝かせ、俺とヘスティア様はソファーへと腰掛ける。『どうぞ』言われて出されたお茶をお互い一口飲み、本題に入る。話しやすいタイミングを作ってくれた事に感謝だ。
「それでは、本題の方に」
「うん、聞かせてもらえるかな?【ロキ・ファミリア】で名をあげた君が、わざわざ僕のファミリアなんかに
「はい、実は……」
俺はほぼありのままヘスティア様に伝えた。自分達が逃したミノタウロスがベルくんを危険な目に遭わせた事。昨日の『豊穣の女主人』で自分の仲間がその事でベルくんを馬鹿にした事。たまたまその場にいたベルくんがその話を聞いたショックで店を飛び出し、防具無しでダンジョンに出向いてしまった事。そんな彼を追いかけダンジョンに向かい、傷だらけの彼を治療したら緊張感が抜けたのか気絶してしまった事。彼のひたむきな姿に心惹かれ、彼と共にもう1度強くなろうと思った事。流石に気絶した理由は誤魔化したが重要な事は全部話した。
ヘスティア様は俺の話を遮らず、最後まで黙って聞いてくれた。時々相槌を打ったりしたリアクションも取ってくれて真剣に話を聞いてくれているのが見てとれた。
話が終わった俺は話し続けて渇いた喉を潤す。ヘスティア様も俺が飲んだ直後にお茶を一杯口にする。そして長らく閉ざしていた口を開けた。
「成程、取り敢えず状況は理解したよ。それじゃ先ずは……」
そう言ったヘスティア様はソファーから立ち上がり、俺を見下ろす。『よくもウチの可愛いベルくんを傷つけて危険な目に合わせたな』とか言われて1発殴られるのを覚悟した俺だったが、ヘスティア様は殴るでも、罵倒するでもなく、頭を下げ俺に謝罪を入れたのだった。
「ありがとう!ベルくんを助けてくれて」
「え?」
「君がいてくれて助かったよ。君が来なきゃベルくんはもしかしたらモンスターにやられてしまったかも知らないから」
「ちょ、ちょっと待って下さい!頭をあげてください!」
俺は頭を下げるヘスティア様の肩を掴み、姿勢を上げてもらう。彼女にそんな事する必要はどこにも無い。立場が逆だ。
「ヘスティア様が謝る必要はないですよ!寧ろ謝らなければいけないのは僕達の方です。そもそもミノタウロスを取り逃さなければあんな事にならなかったですし、豊穣の女主人ではベルくんを肴にして呑むだなんて最低な行為を」
「うん!今回の件で全面的に悪いのは君達だ」
俺の言葉にヘスティア様は笑顔で肯定した。俺はその反応に思わず顔が引き攣ってしまった。でもだからといって俺の事を罵倒する訳ではなかった。
「確かにミノタウロスを逃したのは君達なんだろうし、お店で僕のベルくんを悪く言ったのは許せない」
「……」
「でもそれは子供達のせいじゃない。モンスターが逃げたのだって不可抗力だろうし、酒場の席はロキも居たんだろう?ならそれは全て監督者であるロキの責任だ。君達、特にベルくんの為に怒ってくれた君を僕はなんて叱ればいいんだい?少なくとも僕は分からないな」
「でも……」
「それに、文句なら今度ロキに会った時にでも言わせてもらうよ!家族の躾位しっかりしろ!うちの子が怪我したらどうしてくれるんだ!仮にもオラリオ最強なんて言うなら皆んなが手本にしたくなる様なファミリア作りをしろ!ってね。だから今日の僕は君にお礼を言うんだ。僕の子を救ってくれてありがとうっ!てね」
ヘスティア様は笑顔でそう言い切った。まるで悪い事は怒り、良い事きちんと褒める母親の様に。
「あ、因みに
『寧ろもう取り消せないから後悔しても遅いよ!』とサムズアップをするヘスティア様。なんかこの人を見てると心が暖かくなるのを感じた。強くなるのを諦めて冷え切った身体が解凍された様に。俺はヘスティア様に頭を下げ、改めて宣言する。
「ヘスティア様。僕、【ロキ・ファミリア】所属ヘル・クライスを【ヘスティア・ファミリア】の一員に、家族にして下さい!」
「うん!僕の方からもよろしく頼むよ!ベルくんを支えとなり、手本となる様に成長して欲しい!」
「ヘスティア様………はいっ!よろしくお願いします!」
改宗は当然、
既に日も出ており、チラホラとすれ違う団員に挨拶を交わして目的の主神室の扉を開いた。開けた扉の先にはロキがいて、何やらペンを走らせていたが、自分の存在に気付いていない様子。いつもより声を張って彼女を呼んだ。
「ロキ様おはようございます!」
「なんやヘルやないか!朝帰りの不良少年……いや、もう少年やないな、不良青年がどないしたんや」
「俺の改宗を認めて下さい」
いつもの様にふざけていたロキだったが、俺の言葉を聞き目を鋭くする。まぁ、理由としては察しがついているが。そう思っていると彼女の方からその言葉が出た。
「まさか、あの色ボケ女神のとこやないやろうな?」
色ボケ女神とは美の女神フレイヤの事だ。彼女は事あるごとに俺をスカウトしにくる。どんな怪我や毒や呪いも治す俺を欲しがるファミリアは多いのだが、彼女は特別多く接触してくる。まぁそれは【ロキ・ファミリア】の団員に唾つけて無事で居られる数少ないファミリアだから何度も接触してきているのだろう。だからこそ毎度ちょっかいかけてくるフレイヤをロキは警戒していて、今回俺がとうとうフレイヤに堕ちたと思っているのだろう。だが、そうではない。
「違います、
「なんや、フレイヤのとこじゃなくてどチビのとこか……ってどチビのとこやとぉ‼︎」
【ロキ・ファミリア】中に彼女の叫びが響き渡った。
「なんでよりにもよってどチビのとこやねん!」
「なんでって言われても……たまたまというか、運命というか…」
「運命って……」
「あ、違いますよ!そういう意味じゃないですよ!」
言葉選びを間違えた俺は素早く訂正する。ロキは溜め息つくと、再び俺を鋭い目で見つめる。
「ヘル、それはもうお前ん中では固まってる話なんか?」
「ええ、決定してる話です」
「
「ええ、俺は【ロキ・ファミリア】を裏切り、【ヘスティア・ファミリア】に鞍替えします」
ロキは半ば脅す感じで俺に問いただして来るが、俺は動じずに返す。それに言われる前から理解している事だ。どんな理由だろうと、別のファミリアに行くって事は今の仲間を捨て、新しい仲間を求めると言う事。それは今の仲間への最大の裏切りに他ならない。天真爛漫で明るいティオナ、不器用で素直じゃないけど心優しいティオネ、口は悪いけどひたすら強さを求める姿は自分の理想でもあるベート、無表情で無口と何考えてるか分からないけど人一倍頑張ってるアイズ、その他のフィン達も含めた全員を裏切る行為、育ててもらった恩を仇で返す行為。それが改宗だ。
俺の覚悟感じ取ったのか、ロキは静かに頷く。
「1つだけ聞かせてくれ、理由はなんや?」
「俺は………やっぱり強くなりたい」
「昨日のベートの言葉か?」
「確かにキッカケの一つにはなった。けど元々これは持っていた感情だよ。ただ諦めていただけ。どうせ俺には無理だってね。でも若いやつのひたむきな姿を見て、俺ももう1度頑張ろってね。だから心を入れ替える意味も含めて【ヘスティア・ファミリア】に俺は行く」
「そうか」
ロキはそういうと立ち上がり、俺を抱きしめた。
「今までありがとな、それとゴメンな。ウチらは今までヘルに頼り過ぎてた、けどそろそろ親離れしないとな」
「ん?どう言う事ロキ、何言ってんの?」
「今まで足引っ張って悪かったな。どチビはそりゃムカつく奴やけど良い奴や、心配あらへんやろ」
ロキの話が見えない。親離れとか、足引っ張るとか。寧ろいつまで経っても強くならなくて遠征では回復以外足手纏いすぎた俺の方がよっぽど足引っ張ったのに。
ロキは抱きしめるのを止めて俺の方を力強く掴む。普段は糸目の彼女も今は目がしっかり開いている。
「ヘル、お前はきっと強くなれる。ウチらよりももっとな。ウチが約束する。そんで、そうなったらウチらをまた助けてな」
「いや、頑張るけどその根拠はどこにあるんだよ。6年もレベル1の俺の何処に」
「大丈夫や、ヘルならなれる」
「………まぁいいか」
俺はヘスティアの時の様に姿勢を改め深々と頭を下げる。今までのお礼とこれからの無礼を含めて深々と。
「ロキ様、今までありがとうございました!」
「オウ!また遠征があったら誘ってもええか?」
「都合が合えばですけどね」
俺はそう言い残し、主神室を後にする。俺の部屋の防具と武器の杖と少量の本を持ち運び、長年使っていた部屋を掃除して館を後にする。
「ちょっと‼︎」
俺が門を出ようとしたその時、後ろから大声で呼び止められた。振り返るとティオナとティオネとアイズにレフィーヤもいた。俺を呼び止めたティオネがズカズカと俺との距離を縮めていきなり胸ぐらを掴む。
「あんた!さっきそこでロキに【ロキ・ファミリア】辞めるって聞いたけど本当なの⁉︎」
「あぁ、本当だよ」
「なんで⁉︎」
「なんでって、まぁ色々理由はあるけどさ。でもティオネ俺の事嫌いなんじゃないの?」
「〜〜ッ嫌いだけどファミリア全体を見たらあんたにはいてもらわなきゃ困るの!」
「遠征の時は助っ人に行くよ」
「そうじゃなくて…〜〜〜ッ‼︎」
ティオネは顔を赤くする。まぁ理解していた事だ。仲間想いの彼女だからこそ、他の人より裏切られた想いが強いのだろう。だが俺の意思は変わらない。
「俺は強くなりたい。でも多分ここじゃ強くなれない気がする。だから出ていく」
俺の一言に腹を立てたであろうティオネは俺を突き放した。レベル5に突き放され耐えられるはずもなく俺は力強く尻餅をついた。
「ふんっ!あんたみたいなひ弱な奴が強くなれる訳ないじゃない!勝手にしなさいよ!馬鹿な夢見て後悔しないでね!」
彼女は振り返ることもせず立ち去っていく。俺は尻をさすりながら立ち上がりアイズ達にも改めて別れを告げる。
「悪いな、俺このファミリア抜ける」
「さっきの後にその表情って事はもう引き返す事はないんだね」
ティオナは寂しそうな表情をした。
「まぁな。ティオネには悪い事したかもな」
「本当だよ。鈍感なとこも含めてサイテーだね。まぁティオネも悪いんだけど」
「え?」
呆れた顔で溜め息を吐くティオナだったが、当の俺は意味がさっぱりでアイズに助力を得ようとするが、彼女もポカンとしていて使えない。レフィーヤを見ても同じ様な表情なので分からずじまいだ。
「遠征はきてくれるんでしょ?」
「都合が空いていればだけどな」
「だーめ!絶対来てくれなきゃ嫌だよ?来てくれなきゃ誰が私達の怪我治すの」
「
「やだ!もう何度もされてあたしの身体はヘルのじゃなきゃ満足しないもん」
「おおい!誤解を生む様な言い方するな!お前にしたのは治療だけだから!断じてそれ以上のことはしてないぞ!っておいレフィーヤ!何顔赤くしてんだ!変な妄想するな!誤解だ!誤解だからな‼︎」
ティオナのタチの悪い言い方に俺もレフィーヤも顔を赤くする。ティオナは偶にこう言う事を言って俺を揶揄いその反応を見て笑っていた。でもそんな彼女の笑顔を見ていると悩みも吹っ飛ぶのも事実で、俺は何度も彼女の笑顔に救われていた。
「ティオナ、ありがとうな」
「うん、またね」
そう言ってスタスタと帰ろうとするティオナだったが突然歩みを止め、振り返るとまた爆弾を落としていった。
「またなんかあったら治してねー!お礼は身体で払うからー!」
「「「な⁉︎」」」
「特訓に付き合ってあげるからー!」
「……あの馬鹿、紛らわしい言い回ししやがって」
笑顔で手を振る彼女に悪態をつくが、自然と手が上がって左右に振っていた。
「レフィーヤも頑張れよ、才能あるんだから。皆んなに負けない様にな」
俺の言葉にレフィーヤは突然頭を下げる。俺は何事かと思い狼狽えているとポツポツと語り始めた。
「私、嬉しかったです。ヘルさんが言ったあの言葉」
「え?どれ?」
「あの日、ベートさんに言った言葉です」
「???」
「ほら、臆病な奴や自信のない人でも覚悟を持って冒険者してるって奴です」
「あぁ、あれか」
「あれ、勝手にですけど自分の事言ってくれたのかなって思って。私もモンスターが襲ってきたら怖いですし、アイズさん達と比べて実力も自信もないですけど。アイズさん達を助けられる様な冒険者になりたいって思ってて。……だからああ言ってもらったのがとても嬉しかったです」
「そうか頑張れよ」
「はい!あの、ヘルさんも頑張って下さい!」
レフィーヤはそう言い残し、タタタタッと走り去るが、少し行った先で転んでしまい蹲っていたので魔法をかけた治してあげた。まさか【ロキ・ファミリア】として最後の治療がこれになるとは思わなかった。
するとロキが歩いてくるのが見える。
「ヘル……」
「なに?」
今まで黙っていたアイズが話しかけてきた。相変わらずこの状況でも表示がいまいち分からない。
「なんで行っちゃうの?」
「アイズも聞いてただろ?俺も強くなりたいんだよ」
「なんで【ロキ・ファミリア】を出る必要があるの?」
「……俺はあの子と強くなるって決めたんだ」
「あの子?」
「ベルくん、お前がミノタウロスから助けた男の子だよ」
あの子の正体が分かると一瞬表情が変わるアイズ。でも俺にはそれがどんな感情による表情なのかは分からなかった。
「俺はベルくんと一緒に強くなる」
俺は好きな人の為にあんな無茶が出来るベルくんに惚れたのだ。一途なベルくんを支えながら、自分も彼に負けないくらい強くなろうと。そう思っているとアイズが俺の裾を摘んだ。随分と少女らしい引き留め方をするじゃないかと無表情少女に思っていると、ティオナの発言が可愛いレベルのサプライズな言葉が彼女の口から飛び出てきた。
「ヘルー、それじゃヘスティアのとこ行くで!道案内頼むー…」
「ヘルはこ……恋人より男を選ぶの?」
「「はぁぁぁぁぁああ⁉︎」」
丁度着いたロキの本日2度目の叫び声に俺の絶叫が加わり、後日【ロキ・ファミリア】に騒音苦情が多数寄せられたのはまた別のお話。