最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか?   作:やってられないんだぜい

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真実

 

 「ベル!右からコボルト!」

 「ハイッ!」

 

 俺の声に反応したベルはすぐさま左へとバックステップをとる。既に間近まで迫っていたコボルトの攻撃を回避する事に成功。距離を取って体勢を立て直したベルは小さく息を吐きコボルトに向かっていく。

 

 「やぁああッ!」

 

 自身の小柄な体格を活かし、コボルトの攻撃を躱して懐に潜り込むとナイフで胸元をひと突き。攻撃をくらいそうになった時は内心ヒヤヒヤしたがなんとか倒せた。コボルトは痙攣した様に身体を震わせ、やがて力尽きるかの様にベルに身体を預けて動かなくなる。

 

 「え!?ちょっと!」

 

 寄りかかられて焦りを見せる。このままでは身動きが取れない。そんな隙を逃さんとばかりにもう一頭のコボルトがベルの背中に狙いを定める。ベル本人はと言うと未だに絶命したコボルトの対処に追われて後方のもう一頭に気が付いていなかった。

 

 「グオオオッ!」

 「う、うわぁああ!?」

 

 雄叫びでようやくその存在に気付いたが間に合わない。コボルトの攻撃がモロに入ると思われたその瞬間、コボルトの頭から股にかけ一筋の光が走る。

 

 「ダンジョンでの鉄則その1、常に周りを意識すべし」

 

 コボルトが左右に分かれ霧散する向こう側にいるヘルが仕込み剣を振り抜いていた。間一髪のところで助かったベルは自分を助けたヘルに深々と頭を下げた。

 

 「ヘルさん!ありがとうございます!」

 「モンスターは1体じゃないんだから倒したらすぐに他のモンスターに対処出来る様にしなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一息ついた所で見晴らしのいい場所に出た俺達は、一度を身体を休め尚且つ腹を満たす為ここで休憩を挟む事にした。今日の昼食は今朝『豊穣の女主人』でベルを気にかけていた店員──シル・フローヴァから頂いたサンドイッチだ。もう見るからに美味しそうなサンドイッチは、見た目通りの美味しさをしており、殺風景な洞窟でモンスターをひたすら倒す俺達の心を癒してくれた。

 

 「でも驚きましたよ。目が覚めたらヘスティア様から新入りを紹介するって言われて。しかもあの【ロキ・ファミリア】のメンバーでオラリア最強の治療師(ヒーラー)だなんて」

 「俺なんか大した事ないよ。所詮万年レベル1の低級冒険者さ」

 「そんな事無いですよ!【ロキ・ファミリア】って言ったらあのアイズ・ヴァレンシュタインさんと一緒のファミリアじゃないですか!」

 「う、うん」

 

 ベルはやはりアイズに惚れているらしい。なんだろう、悪い事してない筈なのに妙な罪悪感が。別に俺とアイズはそんな関係じゃないし、うやむやで済ませたし、そもそも俺はアイズの事なんて好きじゃ……

 

 『一生そばにいてね』

 『待ってる』

 

 「うわぁあああああッ!!!」

 「え!?どうしたんですか!?」

 「い、いや、なんでもない。不要な感情を洗い流していただけだ」

 

 そうだ、俺はアイズとはただの元同僚だ。それ以上でもそれ以下でもない。恋人なんてことはだんじて………

 

 『お帰り、ご飯にする?お風呂にする?それとも…』

 

 「消えろ、俺の作り出した妄想、そんな事はあり得ない」ゴンッゴンッ

 

 ヘンテコリンな妄想は即座に抹消する。アイズはそんな可愛い新妻らしい事なんて絶対に言わない。断言できる。あれは絶対に売れ残るタイプの美人だ。

 

 「ええ!?なんで地面に頭なんか叩きつけているんですか!?血出てますよ!?」

 「大丈夫、こんくらいすぐ治る」

 「あぁそっか、自分の傷くらい魔法で治せますもんね」

 

 ベルは心配していたが、俺が治療師(ヒーラー)だと思い出すと胸を撫で下ろす。しかし、そんな信用されても困る。俺の魔法はそんな万能ではない。

 

 「いや、俺の魔法は誰かを治す事に特化した魔法だ。自分の傷は治せない」

 「え?そうなんですか?……なら頭の傷大変じゃないですか!?」

 「いや、これくらいの傷大した事ないよ、ベル」

 

 今更だが俺はベルくんを呼び方をベルくん改めベルと呼ぶ様になった。せっかく同じファミリアなのだから呼び捨てで呼んで欲しいとのこと。ならヘスティア様はどうなのかと尋ねたが、神様はまた別なのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 腹も満たし、また探索を再開する。モンスターを倒し、また倒しと経験値を稼いでいく。そんな中、仲を深めようと雑談を持ちかける。

 

 「そうだベル、なんか聞きたいことないか?俺の答えられる範囲ならなんでも答えるぞ」

 「うーん、そうですねぇ」

 

 俺の咄嗟の問いに少ししてベルが答えた。

 

 「そうだ、アイズさんの趣味教えて下さい!」

 「え?」ドキッ

 

 アイズと言う単語に無駄に反応してしまう。それもこれも今朝のせいだ。この現象が治るのは少し時間を有するだろう。

 

 「アイズの趣味か………戦う事だろうな」

 「好きな料理は」

 「じゃが丸くんだな」

 「そうなんですね!それじゃ今特定の相手は?好きな人とかいるんでしょうか?」

 

 間髪入れずの質問ラッシュにアイズ関係なしに押されてしまう。本当にベルはアイズの事が好きなんだな。

 

 「あ、うーん……特定の相手はいないと思うぞ、アイツが誰かと親しげに歩いてるの見た事ないし。好きな相手は……どうだろうなぁ」

 「そうなんですね!」

 

 俺は必死に誤魔化す。悪いベル、凄いナルシストみたいな感じだが、アイズの好きな人は俺らしい。でも安心してくれ、そもそも恋愛初心者だからきっと友愛と情愛の違いも分からないんだ。すぐにこの勘違いに気付くと思う。だから頑張って強くなってアイズと結ばれてくれ。それが俺のためにもなる。

 

 その後もベルによるアイズ教えてタイムは続き、その度に罪悪感は強まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ヘル達がダンジョンで戦ってる中、ヘスティアとロキは珍しく昼食を共にしていた。場所は【ロキ・ファミリア】の本拠地【黄昏の館】。だが2人が理由も無く飯を共にするわけもなかった。要件というのはズバリ、ヘルの事についてだった。

 

 「ロキ、彼のステイタスの事で色々聞きたいことがあるんだけど、取り敢えず1ついいかな?」

 「……なんや?」

 「あのスキルについてさ」

 

 "あのスキル"それこそヘルが今までまともに成長出来なかった所以だった。

 

 

 【仲間想い(ワンフォアオール)

  ・自身の獲得経験値譲渡(対象同ファミリア)

  ・戦闘時全ステータス小補正付与(対象同ファミリア)

  ・成長微補正(対象同ファミリア)

  ・自動回復付与(対象同ファミリア)

  ・回復魔法極補正

 

 

 ヘルの唯一のスキル、最大の長所にして最大のデメリット。味方の全ステータスバフ、自動回復バフ、成長バフ、尚且つ自身の回復魔法を向上させる。これだけでもサポート、治療師(ヒーラー)としてとんでもないスキルだ。しかし、問題なのはそれじゃない。

 

 「獲得経験値の譲渡、これはどう言う事だいロキ」

 「そのままの意味や。ヘルは仲間を想うが故に、自分の成長を犠牲にしてまでみんなに強くなって欲しかったんやろうな」

 「因みにこの事を彼には?」

 「伝えられる訳ないやろ、ウチの眷属何人おると思ってんねん。こんなんウチじゃ一生強くなれません言うてるもんやんか」

 

 スキルは心を移す鏡。ベルの憧憬一途(リアリス・フレーゼ)がそうだった様に。つまりここまで徹底した他人優先な思想って事は……

 

 「ロキ、あの子の過去に何があったんだい?」

 「……詳しい事は分からん。そのスキルを発現したのは最初っからやしな。探りを入れてもいつもはぐらかされたわ。ただ一度だけ酒の席で漏らした事がある」

 「なんて?」

 「俺は、親友を殺した。そう言ってたわ」

 「!?」

 「まぁ実際に手はかけてへんやろ。大方自分のせいでその親友が命を落としたってところやろ」

 

 ロキは小さく『思い詰め過ぎっちゅうねん』とグチを漏らした。先程彼女も言っていたが、相談には乗ろうとしたのだろう。たとえそれによってこのスキルが消える事になろうとも。それがなんとなく嬉しかった。しかし、だとしても1つ解せないことがある。

 

 「でもなんでこのスキルは消えてないんだい?強くなろうと決意した彼ならこのスキルは消えると思うんだけど」

 「それはあれや、スキルに反映される程覚悟が決まってないんやろ。結局は自分が誰かを守る程強くなる覚悟が足らんのや。でも死んで欲しくない想いは強いから、死なない為の様々なバフとしてスキルに反映された。回復魔法に極補正なんて馬鹿げた補正があるのがその証拠や」

 

 流石は何年も彼を見てきたロキだ。よく理解してる。確かにここにきた時も改宗(コンバージョン)希望のわりに遠慮気味だった。あれはきっとまだまだ弱いベルくんを守れる自信が無い心の現れだろう。

 

 「どチビ、驚くべきはスキルだけやあらへんで」

 「分かってるさ」

 

 

 ヘル・クライス Lv.1

 

 力 :H 121

 耐久:H 152

 器用:G 237

 敏捷:I 83

 魔力:SS1012

 

 

 本来999のSまでの筈が限界突破している。彼はずっと前から治療師(ヒーラー)として遠征に参加し続けている。その度に大量に魔法を使い続けた結果、限界を越えたのだろう。

 

 「まさかSを超える事ができるとはね」

 「……はぁ〜」

 

 衝撃の新事実の僕は目をキラキラさせた。しかし、そんな僕にロキはため息を吐いた。なんだか馬鹿にされた様でイラッとくる。

 

 「なんだいロキ、僕なんか君を失望させる事したかな?」

 「そりゃーそうやろ」

 「なんだとぉ!」

 「考えてみぃ、ヘルにはあのスキルがついてんやで。本来得られる経験値が何分の一になってると思うとる、人数分割られるとしたら大体100分の1や。上がりやすいレベル1とはいえ異常やで。言いたくないがアイズたんですら足元にも及ばないレベルやわ」

 

 そう言われて初めて気付く、彼の異常な成長速度。しかも眷属が大量の【ロキ・ファミリア】から、ヘルくん含めて2人だけの【ヘスティア・ファミリア】に移った事で得られる経験値は今までの比じゃない。

 

 「気を付きぇ、どチビ」

 

 僕は静かに頷く。ロキの言わんとする事は分かっていた。1番に危惧する事態。そしてそれはベルくんにも言える事。

 

 「恐らくヘルは近いうちにレベル2になる。レベル3やて時間の問題や。そんな有望株を必ず奪おうとする輩は出てくる。しかも既に治療師(ヒーラー)として名が知れ渡ってるヘルや。引く手数多やろうな」

 「そうだよね…………あぁあ!どうしよう!」

 

 もしそうなったとして今のところ2人を守ってあげられるビジョンは今のところ想像出来ない。先の話だが、このままでは2人とも失う事になってしまう。

 

 「一応釘は刺しといたるけど、それでもちょっかいかけてくる奴がいたらウチに相談せぇ。なんとかしたる」 

 「ロキ…ありがとう」

 「フンッ!ヘルの為や!どチビの為やないで!」

 「なら尚更だよ!」

 

 僕は決めた2人を守るために僕は僕にしか出来ない事をやる。その為に僕は……

 

 

 

 

 

 

 「あぁ〜、良いわ2人とも。待っててね、必ず私のものにするから」





 
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