最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか? 作:やってられないんだぜい
「それじゃーステータス更新しよっか!まずはベルくんからねー」
【ロキ・ファミリア】の様な大所帯ではステータス更新は先着制で何日も更新できない日があったのに対し、少人数ファミリアであれば毎日でも更新することができる。これも少人数制の一つの良さだろう。
「なら少し俺は外しますね。ベル、俺は外にいるから終わったら呼んでくれ」
「別にいても良いですよ?何も減る様なもんじゃないですし」
「同じファミリアでもステータスは詮索しないもんだよ。魔法に関しては情報共有しておきたいけど、各項目の数値やスキルなんかは無闇矢鱈にひけらかすもんじゃない」
外に出た俺は自然と星空を見る。曇りなき空に浮かぶ星々が夜風が心地良さを割り増ししている。
今日のベルを見て気付いたことがある。それは、昨日と比べ確実にレベルアップしている事だ。昨日から中々良い動きをしていると思っていた。しかし今日のベルはまるで別人の様な身のこなしだった。確かに戦闘経験の少なさや性格面から甘さが目立ち危なっかしいところは俺がフォローしていたが、単純な能力でいえば俺よりも遥かに上だろう。しかも聞いた話ではまだ冒険者になって半月だと言う。自分が思っていたのよりベルは遥かに有望株だった。
「あんな啖呵切って
目の前で見せつけられる才能の違いに思わず弱音を吐く。だがそれじゃ昔と変わらない、そんな自分が嫌でここに来たんだ。ベルが俺の数倍速く成長するなら、俺はベルの数倍努力する。そうすれば置いていかれない。今までと同じ様に……いや、今まで以上に行えば良いんだ。
「よし、ステイタス更新したらダンジョンに行こう」
「お待たせしました!次いいですよー!」
ステータスを更新したベルが元気にこちらに駆け寄ってくる。その様子から余程ステータスの伸びが良かったことが伺えた。
「ありがとう。…その様子だと余程伸びたんだな」
「えへへ、おかげさまです」
「俺のおかげじゃない、それがベルの才能だよ。それじゃ俺も行ってくる。終わったら呼びにくるから」
「はい!」
「ヘスティア様、俺のステータス更新お願いします」
「それじゃそこに上着脱いでうつむせに寝てね!早く早く!」
既に準備万端なヘスティアに急かされ俺はベッドにうつむせになる。ステータスを更新する際、身体を弄られる様でくすぐったいのだが、ヘスティア様の手元が狂わない様に我慢だ。
「………はい、終わったよ。これが君のステータスだ」
俺はヘスティア様から貰ったステータスの写しを貰う。まぁどうせ大した成長はしていないだろう、期待はしていない。でも少しは成長してくれないとガチで凹むだろう。そう思い用紙に目を通したのだが………どうやら少し身体を動かした事で手元が狂ってしまった様だ。そうでなければこんなステータスは考えられない。
ヘル・クライス Lv.1
力 :H 121 → H 152
耐久:H 152 → H 167
器用:G 237 → G 254
敏捷:I 83 → H 121
魔力:SS 1012 → SS 1020
熟練度上昇トータル100超なんてあり得ない。しかも今回はベルのサポートメインに立ち回ったから、今までと比べたら大した事はしていない。一日中ぶっ倒しで戦って各ステータス1アップが精々なんて事もあった。
「ヘスティア様、すいませんが写しが狂ってたみたいなので、正しい写しを見せて下さい。それとも1つも上がってなくて写し必要はなかったですか?あはは…」
板に付いた自虐ボケをした俺だったが、ヘスティア様は一切表情を崩す事なく言い切った。
「狂ってなんかないよ。これが今の君だ」
「……まっさかぁ〜俺なんかがこんな成長できる訳ないじゃないですか」
未だにこの用紙を信じられない俺だったが、肩を掴んできた彼女の表情が、この夢の様な数値を真実だと物語っていた。だが信じられない俺の気持ちを察してくれたのだろう。彼女は優しく語りかけてくれた。
「君が強くなりたい、誰かを護れる様になりたいって強く思えたからこそ成長出来たんだ。人は想いが強ければ強い程強くなれるからね」
「でも以前から強くなりたいって思っていましたよ」
「もしかしたら【ロキ・ファミリア】という環境が君に悪影響を及ぼしていたんじゃないかな。おっと、勘違いしないでおくれよ。何も悪口を言ってるんじゃない。相性の問題さ」
俺の表情を見て慌てて訂正するヘスティア。あまり意識した事はなかったが、彼女からそう見えたって事はそうなんだろう。ちょっと照れくさい。
「強者の巣窟である【ロキ・ファミリア】にいた君は誰かを護りたいって想いが欠落していたんじゃないかな。でもベルくんと出会ってその想いが再燃した。心を強く持ったからこそこうやって成長したんだよ!自信を持って!」
「………」
「いいかい?大切なのは『自分が』だよ。強い意志を持ち、自分で行動するんだ。誰かが助かればいいなんて他人任せじゃなく、『自分が』助けるんだって想うんだ」
なんとも無茶苦茶な理論だと思った。確かに自分より強者しかいなかった【ロキ・ファミリア】では仲間を護りたいって想いは薄かったかもしれない。自分は護られる立場だったから。だとしてもそれだけでこうも変わるなんてあり得ない。きっと何か隠している。そして、もしそうだとしたら真実を知っているのは彼女だけではない、ロキも必ず知っている。だが……
「分かりました。これからも僕がベルくんを護れる様今まだ以上に精進します」
「畏まりすぎだよ、もっと砕けた感じでいいからね。でもその意気だよヘルくん!」
「はい」
教えてくれないって事はそれなりの理由があるのだろう。意味もなく隠す必要はない。それこそ自らの眷属の事なら尚更だ。なら自分は聞かない。謎や不信感は残るが、少なくとも成長出来るのならばそれ以上の幸福はない。
「僕は本当にこれで良かったんだろうか」
ヘスティアは空を見上げながら1人呟く。悩みの種はヘルくんの事だ。ヘスティアは迷っていた。彼に例のスキルの事を喋るべきか隠し通すか。結果的に隠す事を選んだのだが、果たしてそれが本当に彼の為になったのだろうか。
もしスキルを自覚した場合、彼はあのスキルを乗り越えて新たな想いを強く持つことが出来れば彼はとんでもない進化を遂げるだろう。
しかしスキルに絶望して屈した場合、彼は一生強くなれなくなるかもしれない。
そんな究極の選択に成りかねない事を前を向き始めたばかりの彼に突きつけるのはあまりにも酷な事だ。しかし、いつかは打ち明けなければならない日は必ずくる。その日まで彼に自身と勇気が身に付いていれば嬉しい。
ギィー
教会の扉を開ける音がし振り返るとヘルくんがこっそり出かけようとしていた。だが残念、タイミングが悪かったね。
「どうしたの〜?こんな夜中に出かけるなんて」
「ヘスティア様!?なんで!」
「星を眺めてたんだよ。それよりなんでは君の方だよ。こんな夜中にどこ行くのさ……ってその格好を見て聞くのは野暮な事か」
「あはは……」
しっかり防具と武器を持った姿は、目的地がダンジョンだと語っていた。こそこそしていたのは恐らく僕が止めると思ったからだろう。睡眠を削って戦うなんて愚策にも程がある。ダンジョン内で眠気に襲われた時1人でどう対処するつもりなのだろう。
「あまり無茶して欲しくないんだけどなぁ僕」
「ヘスティア様……俺、今日のステータス更新で感動しました。今までほとんど上がらなかったアビリティが信じられない程上がってて、あんなの初めての経験でした。あまり表には出しませんでしたが内心スゲー嬉しかったです」
ヘルくんの言葉はとても重いものだった。ベルくんがスキル発現して急激に成長したのを喜ぶのとは訳が違う。ベルの半月間が彼にとっては数年果てやっと到達出来た場所なんだ。そんな彼がたった1回の更新で熟練度上昇トータル100オーバー。それがどれ程嬉しいかは彼にしか分からないだろう。それでも自分の眷属が嬉しい事は僕にとっても嬉しい。
「僕も嬉しいよ。ロキから君が悩んでいたのは聞いたからね」
「でもベルはそれ以上に成長している。それは今日のダンジョンでベルの成長を見れば予測つきます。多分だけど、既に俺よりステータスが上だって事も」
「………」
「ベルの成長は嬉しいですよ、応援してますから。でもやっぱり先輩として、同じ冒険者として負けたくない、置いていかれたくないんです。だから俺はベルの何倍も努力します。例え今回の様な奇跡が続いたとしても」
ヘルの目には力強さが宿っていた。しかし悲しい事だ、このままでは彼とベルの差は広がる一方だ。あのスキルがある限り、2人の差は永遠に縮まる事はない。
僕は1番の眷属はベルくんだ。例えヘルくんだろうと、新たな眷属が増えようと変わらない。かと言ってベルくんの幸せだけを願う様な神様にはなりたくない。全ての眷属が幸せな未来を歩んでほしい、それが僕の願いだ。その為に僕は努力しよう。君の心が変われるように。
「分かった。そこまで言うならダンジョンに行ってもいいよ」
「ヘスティア様!!」
「ただし条件がある。必ず早朝までに帰ってくる事。出かける時は僕に一言声をかける事。声をかけた際、君の体調が悪そうなら僕は反対するから素直に受け入れる事。ベルくんに体調を心配されたらその日は休む事。この約束が守れるなら行ってよし!」
「はい!ありがとうございますヘスティア様!それじゃ行ってきます!」
「ちょい待ったぁ!!」
「おっとっと…なんですかヘスティア様」
「言い忘れていた事があったよ。オホンッ……君はもう少し自分を信じた方がいい。『自分は誰よりも強くなれる。誰よりも強くなってみんなを自分が助けるんだ』って。自分を信じなければ強くはなれないよ。それともう1つ、明確な相手を定めるんだ。みんなではなく、
「自分を信じる、明確な相手……」
僕の言葉にヘルくんは目を閉じた。思い描いているのだろう。誰を助けたいか。悔しいけど、ベルくんにはヴァレン某という明確な存在が彼の成長を飛躍させている。あやふやな存在ではなく、確かな存在は想いを強くする。そうやって考えが変わればいずれあのスキルは恐らく消滅するか、もしくは経験値譲渡なんて馬鹿げた効果だけ消滅するだろう。そうすればベルくんの成長バフは
「………分かりました」
「うん、いい顔だね」
「ありがとうございます。それじゃ行ってきます」
「約束は破っちゃダメだよ!」
ヘルくんは僕に手を振りながらダンジョンの方へ夜の街を駆けて行った。僕は暫く彼の背中を見つめる。彼の背中が完全に闇に消えた後、グッスリ眠っているベルくんの胸元に転がり込んだ