最強治療師が零細ファミリアにコンバージョンするのは間違っているだろうか? 作:やってられないんだぜい
二重生活を送り始めてから3日が経った。朝から夕方まではベルとペアでダンジョンに、夜中はソロでダンジョンに籠るという生活。睡眠は夕方ダンジョンから帰ると同時に済ませ、食事は夜中起きてからダンジョンに向かう間に済ませている。我ながら大分無茶な生活を送ってるなと思うが、不思議と体調に変化はない。昔から散々無茶していたお陰か、俺の身体はある程度の生活リズムなら順応するらしい。眠気もしっかり取れてるし、モンスターを前にして集中力が落ちたとも思えない。俺は変わらず元気だ。
変わった事といえばヘスティア様が消えた事だろう。二重生活を送ると決めた翌朝に、『神の宴』に行くと言ってから帰って来ない。文の一通も届かず、流石に少し心配する。勿論ヘスティア様を心配しているのは俺だけではない。
「それじゃ行きましょうか」
気丈に振る舞ってはいるが、明らかにいつもより元気がない。それ程までにベルにとってヘスティア様の存在は大きいのだろう。例えアイズという想い人がいようが関係ない。俺と違って初めての神がヘスティア様だったのだから当然と言えば当然だろう。
だが落ち込んでてもダンジョンだと切り替えられる様で、いつも通りの戦いが出来ている。だからそんなベルを無理矢理休ませるのは野暮だと思い、いつも通り今日もダンジョンへ向かう。
そんな俺達を呼び止める声がした。
「おーいっ、待つニャそこの白髪頭ー!」
振り返ると『豊穣の女主人』の制服を着たキャットピープルの少女、アーニャ・フローメルだった。白髪頭という言葉から察するにベルに用があるのだろう。だがベルの隣にいる俺に気付いたアーニャは不思議そうに俺を見つめる。確かに食い逃げの件で謝りに行った際に彼女はいなかった。他の者から聞いていなければ俺とベルが一緒にいる事を疑問に思っても不思議ではない。
「ニャ?どうして『道化の心臓』が白髪頭と一緒にいるニャ?【ロキ・ファミリア】をクビになったのかニャ?」
「クビじゃないですよ、実は……」
「まぁそんな事どうでもいいニャ。白髪頭、ちょっと面倒ニャこと頼みたいニャ。コレをシルのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」
「……へ?」
聞いといてどうでもいいと失礼な事を言う彼女にイラっとしつつも、ベルの手を取り渡された届け物なる品を見る。それはどこにでもあるがま口財布だった。直接渡されたベルは意味がわからないのか素っ頓狂な声を上げる。……もしかして
「アーニャ、それでは説明不足です。お二人とも困っています」
と、助け舟を出してくれたのは同じく『豊穣の女主人』で働くエルフのリュー・リオンだった。彼女は俺を見ると軽く会釈する為、俺も返した。彼女とはある一件で顔を合わせて以来度々親交があるのだ。
「リューはアホニャー。店番サボって祭り見に行ったのに財布忘れてるから届けて欲しいニャんて言わなくても分かることニャ」
「と言うわけです。言葉足らずで申し訳ありません。後シルはサボっていません。ちゃんとミア母さんに休暇を貰っていました」
大体予想した通りの事が起こっていた。きっと今頃あの店員さんはポケットに入っていない財布に慌てている事だろう。それにコレは好都合だ。神様が帰ってこなくて落ち込んでるベルの気分転換にもなるし、ここは有難く引き受けよう。
「あのー、怪物祭ってなんですか?」
まさかの怪物祭を知らないベル。確かにここにきて日が浅いベルには馴染みの無い言葉だったかも知れない。アーニャが嬉々としてベルに説明する中、リューさんが俺に例の質問をしてきた。
「ヘル、シルから聞きましたが改宗したのは本当ですか?」
「本当ですよ。今の俺は『道化の心臓』じゃなくてただのヘルです」
「………貴方が決めた事ですし、何も言いません。ですがあまり無茶はしないで欲しい。もう少し自分を労る事を覚えるべきだ」
「…まぁ自分が他人より無茶してる自覚はありますが……それ、リューさんが言いますか?」
「…あまり昔の事を掘り返さないで下さい//」
彼女は決まってコレだ。優しい彼女はよく俺の相談に乗ってくれたり無茶な俺を心配してくれるのだが、彼女の昔の無茶に比べたら俺の無茶なんて精々他ファミリアにピンポンダッシュする程度の事だ。
世間話が済んだ頃、丁度向こうも説明が終わったようだ。ベルは怪物祭の話を聞いて笑顔になっていた。そんなベルを見た俺はベルに近づく。
「ベル」
「あ、すいません。ダンジョンに行く前にシルさんにこれを…」
「怪物祭観に行くか?」
「え?」
「今日は折角の祭りなんだ。日頃頑張ってる自分にたまにはご褒美を与えてもいいんじゃないか?」
「…ッ!はいッ!!」
俺の言葉にベルが満面の笑みを浮かべる。今日ぐらいは鍛えるのを休んでもバチは当たらないだろう。
「リュー聞いたニャ?『道化の心臓』ご褒美って言葉知ってたかニャ?」
「アーニャそれは余計な事です」
リューさんのいう通りだアーニャ。俺だってそれくらい知ってるし。たまに外食してるから。
「とりあえずはシルさんを探して財布を届ける。そしたら2人で回って怪物祭を楽しもう。金なら俺が持つよ」
「はいッ!ありがとうございます!」
俺達は怪物祭を楽しむことに決めた。しかし、2人ともダンジョンよりも恐ろしい目に逢う事をこの時はだ知る由もなかった。
今回文章短くてすいません