迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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遺探者と呼ばれる者

 さて。

 

 冒険者、という職業を聞いて何を彷彿とするだろうか。

 

 未知の世界に踏み込み、富や名声を求める、勇敢で自由な存在。困難な状況や未知の脅威に直面しても、恐れる事無く前進するような者達だと、多くはいうだろう。

 

 ただもしそれらが冒険者の定義とするのであれば、この世に存在する冒険者の殆どは『冒険者』ではない。

 

 なぜなら、困難な状況や未知の脅威に直面すれば、大体の場合、死ぬからだ。

 

 実際、冒険者になれば、まず『冒険者は、冒険をしてはいけない』警鐘を鳴らされる筈だ。

 冒険して生き残れたものは、運が良かったものか、あるいは『英雄』と呼ばれる者達だけなのである。

 

 ただそれでも冒険をしてしまうのが、冒険者の性というものであろう。

 噂に聞く英傑たちに憧れ、夢を追って、皆、冒険者になったのだから。

 

 

 しかし当然、中には現実に打ちひしがれて、冒険する事を諦めてしまった者達も居る。

 

 理由としては、精神的な問題が大きい。特に、仲間の死に心を痛め――などは頻繁に聞く話だ。

 そういったものたちは非戦闘員としてファミリアで活動していくか、冒険者業を完全に引退して、迷宮都市を去っていくなど、多岐にわたっている。

 

 しかしながら、稀に冒険を諦めてしまったのに、冒険者で居続けるものがいるのだ。

 

 彼らは正しく『異端者』と呼ばれ、オラリオの英雄たちが紡ぐ物語とは登場する事はない。

 

 これはそうした異端者が紡ぐ、迷宮鎮魂譚(ダンジョン・レクイエム)である。

★★

 さて、さて。

 

 言わずもがな、冒険者の殆どは迷宮で命を落とす。

 

 その遺体は、殆どの場合、モンスターに食い荒らされてしまっていて、弔う事も出来ない。

 せめて、遺品だけでも回収しようと、あとで同じファミリアの団員や雇われの冒険者が来ることも多いが――殆どの場合、遺品の回収には失敗するのである。

 

 だが当然、迷宮に産み落とされる殆どのモンスターは理知を有していない。

 モンスターにとって、冒険者の装備の価値など、道端に落ちている石と同じである。しかし石ならば、気まぐれで放り投げたり、蹴飛ばしたりすることもあるだろう。

 

 そうやって、遺品が散らばってしまう事も多い。

 ただどこを探しても見付からないとだとしたら――それは『遺探者』が原因である。

 

 遺探者とは、冒険者の遺品を回収し、売り払うことで生活をする冒険者たちの事だ。

 

 

「く、くるな!?クソ、誰かたすけ――」

 

 モンスターの爪牙が、冒険者を血で染める。

 既に大きな怪我を負っていたことなど関係なく、肉を抉られて、凄惨な死を遂げた。

 

 虎型の怪物は、そのまま冒険者の遺体を食い荒らし始める。だが途中でお腹がいっぱいになったのか、その場を後にした。

 暫く経過すると、別種のモンスターがやって来て、残った肉と内臓を貪った。

 

 中には骨も残さず、綺麗に平らげるモンスターもいるが、この階層は比較的雑食なタイプが多いのか、中途半端に食われたまま、遺体は放置されている。

 無様な姿を晒すくらいなら、死した冒険者としては、全部綺麗に食べて貰った方が嬉しいだろう。

 

 周囲から魔物の気配がいなくなって、暫く。

 

「こりゃ、又派手にやられたな」

 

 彼――遺探者であるツヴァイ・ティミドは姿を現した。 

 

 肉塊と化している遺体を見て、眉を顰める。

 

 もはや見知った顔でも、誰だか分からない状態だが、そもそもある程度の情報を得て、ツヴァイはこの場所にやってきた。

 18階層のリヴィラの街を活動拠点としているツヴァイには、何時、誰が、下の層にいるか把握している。

 二日ほど前に、22層に行くと言っていた冒険者三人が戻っていないことを知って恐らく――と目星を付けて、ここまで来たのだ。

 

 案の定、奥で二つの遺体、そしてここで一つ見付けた。

 

 確か、一人はLv3の冒険者だった筈だ。中層で後れを取ることなど、通常であれば考えられないが――迷宮とはそういうものである。

 

「悪く思うなよ」

 

 倫理的に遺品を漁るのは咎められるだろうが、別に、ギルドが明確な規定を定めている訳ではない。

 むしろ、魔物に持って行かれて谷底に捨てられるくらいなら、何らかの形で再利用した方がマシだ。

 ただツヴァイはソロの遺探者なので、多くを回収する事は出来ない。既に、奥で二人分の遺品を回収していることもあって、高そうな代物だけを厳選していく。

 

 こうして悠長に漁っているだが、勿論、周囲の索敵はしている。

 いや、臆病な小指が教えてくれるといった方が正しいか。

 

 ツヴァイ・ティミド、その種族は小人族(パルゥム)である。

 

 Lv2、二つ名は【臆病者(ノン・ブレイブ)

 

 一族の英雄に最も近いフィン・ディムナが【勇者(ブレイバー)】の名を授かっているのに対して、ツヴァイが授かったその二つ名は真逆だ。

 だが、それでいい。

 ツヴァイは英雄になる気など毛頭ないのだから。

 

「良し、これくらいか」

 

 めぼしい遺品を回収し終わったツヴァイは、バックパックが閉まっていることを確認して、踵を返す。

 

「あ、そうだった――エクス・ファイア」

 

 と、思い出して振り返ったツヴァイは、自分の用いる速攻魔法で、遺体に火を付ける。

 弔ってやるのが、せめてもの礼儀だった。

★★

 殆どの遺探者は、18階層のリヴィラの街を活動拠点し、19層以降で遺品の探索をしている。

 

 毎日死人が出る迷宮ではあるが、その広大な迷路を闇雲に探すのは、効率が悪いし、当然危険性も孕むからだ。

 

 1-17階層の情報は、広大な地上に集まるため、情報を精査しずらい。

 対して、19階層以降に行く為には必ず18階層を経由する必要があって、そもそも冒険者の数も限られている。

 

 ただ冒険者の母数が少ない以上、死人も少ない。

 そもそも中層以降を探索する冒険者たちは、そう安々と死ぬことはないのだ。確か統計では、上層で死ぬ冒険者の割合の方が高いはず。知らんけど。

 

 しかし死人が少ない代わりに、遺品の質は高い。

 上級冒険者にもなると、身に着けている武具の価値が半端ではない。更に、高品質なポーションや魔剣、稀に魔道具などを持っている事を有していることもあるため、まさに一獲千金のチャンスなのだ。

 ツヴァイみたいな半端な冒険者にとっては、普通にダンジョン探索をするよりもよっぽど夢がある。

 

「頼むよ」

 

「おいおいマジかよ。お前、さっきダンジョンに潜っていったばっかだろ」

 

「逃げ足には自信があるからな。ほら、さっさともってけ」

 

 遺品は基本的に、リヴィラの街にいる仲介人にお願いをして、マーケットに流して貰うのが基本だ。

 前は暫く保管し、遺品の持ち主だった冒険者の仲間が来た場合は、相応の値段で譲ることもあったが、『仲間の遺品を扱う権利はお前達にない』と激怒したエルフが『遺探者』を殺して奪う事件があったので、今では仲介人に委ねている。

 

「一応言っておくが、売れた額から三割の手数料を引いた分が、お前の取り分になるからな」

 

 ツヴァイ一人では売ることも出来ないし、そもそも地上に持って行くだけでも一苦労だ。

 それくらいの手数料は、当然である。

 

「高く売ってくれよ。じゃあな」

 

 今日の遺品は全部で数千万ヴァリスにはなるだろう。

 慎ましい生活をすれば、数年は働かなくても困らない額だが、リヴィラの街は物価が高い。

 それに、lv2であるツヴァイが一人で中層や、下層に潜るには、相応の準備が必要になるのだ。

 

 一応ファミリアに入っているツヴァイだが、それはステータスを得る為だけだ。

 ステータスの更新だけしてやるから、後は好き勝手やれ、という物好きな神も居る。

 

 だから帰る本拠地(ホーム)があるわけではない。

 

 遺探者として仕事が終わった後は、酒場で適当に時間を潰すのが日常だ。

 偶に、歓楽街に向かうために、地上にでることもある。

 

「そこの小人族(パルゥム)、ちょっと待ったぁ!!!!!」

 

 ツヴァイに気安く話しかけてくるのは、基本的に闇の住人だ。

 だから、その透き通った声の少女に話し掛けられて、思わず肩を震わせてしまった。

 

 向かってくるのは正靴の音。

 遺探者という仕事をしている以上、ツヴァイには多少の罪悪感がある。それを見透かされてしまった気分になったのだ。

 

「どうした、俺は悪い奴じゃなくて、ただの小人族だが」

 

「別に悪者と思って話し掛けた訳じゃないのだけれど、その台詞を聞いて、貴方がとっても悪い人に見えてきたわ!」

 

 きらめく赤の長髪を持つ、ヒューマンの少女だ。

 

 リヴィラの住人ではないだろう。

 

「ごめんなさい、急に話し掛けちゃって。でも、どうしても言いたい事があったの――貴方の瞳、とてもグッドね!!!」

 

 グッド、というのが何かは分からないが、親指を立てているところを見ると、褒めているのだろう。

 

「……もしかして、馬鹿にしてるのか?」

 

 彼女の真っすぐな瞳と違って、ツヴァイのそれは灰色だ。

 実際には金の色だが、そう見えてしまっても可笑しくはないほど、心はかつての灯を失い、朽ちてしまっている。

 

 それにそう思ったとしても、さび色の外套に身を包む、ツヴァイを呼び止めて褒める理由がない。

 ツヴァイは、フィン・ディムナのような美少年ではないのだ。

 

「気を悪くしたのなら、謝るわ。私、言いたい事は口にしちゃう性格なの。でもそういうところも美点だって、アストレア様は言ってくれたわ!」

 

「そ、そうか。用がないなら、行っていいか?」

 

「え、もういっちゃうの!?突然話し掛けて来た謎の美少女が、誰だか気にならない?気になるわよね。そう、私は彼の正義と名高い【アストレア・ファミリア】の――」

 

「はぁ、はぁ……やっと見付けました。全く、一人で勝手に居なくならないで下さい」

 

「ごめん、迷っちゃった!てへ」

 

「貴方は子供ですか!!!」

 

 彼女の保護者――ではなく、同じファミリアの団員だろうか。

 覆面をしていても隠し切れない美しい金の地毛のエルフだ。

 

 エルフに咎められている内に、ツヴァイは面倒臭そうな少女から、さっさと逃げ出す事にしたのだった。




原作で言及されていない設定に関して、多分な推測を孕みますが、そうした場合でも基本的にダンまちならこうあるべきだろうの世界観を保つつもりではいるので、どうか宜しくお願い致します。
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