迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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旅の始まりと旅の始まり

「そろそろ見張りを交代しましょう」

 

「その必要はない。言っただろ、別に俺は三日寝なくても問題はない」

 

 太陽もすっかり隠れてしまったところで、ツヴァイたちは野営をしていた。

 迷宮都市の外は強いモンスターが居ないとはいえ、警戒を怠ってはならない。二人であれば、交代で見張りを務めるのが普通かも知れないが、先にその必要はないとベルには断っている。

 

 一人で迷宮に潜っていたツヴァイには、何かが起こった時に頼れる相手はいない。

 

 常時はエネルギーの消費を少なくするために、特殊な呼吸法を活用している。

 小人族であることもあいまって、そもそもエネルギーの消費が普通の冒険者と比べて何倍も緩やかなのだ。

 

 休憩を挟めば、一週間寝なくてもパフォーマンスに問題はない。

 

「お前が強いのは知ってるが、少なくともこと『警戒』においては俺の方がずっと上手だ。この百年間、周囲への警戒を絶やした事はない」

 

「す、すごい……」

 

「凄くない。ただ、そうしないと生きていけなかったただけだ」

 

「それでも僕は凄いと思います。きっとそれは、臆病だからというだけで出来る事じゃないですから。それに、臆病は勇気の裏返しだって、フィアナも言ってました」

 

小人族の英雄(フィアナ)か。それは最初から勇気があったからこそ、口にできる台詞だろうに」

 

「フィアナも最初は、ただの臆病な小姓(ペイジ)だったらしいですよ」

 

「どうだかな。古い英雄である以上、様々な伝承がある。中には、本当のフィアナは女だって話もあるしな。兎に角、早く寝ろ。いざという時、お前の力は必ず必要になる」

 

 ベルは若い。

 少しの判断ミスが、大きな失敗に繋がる。そして睡眠不足は、その最たる『理由』の一つだ。

 

 だから上級冒険者は何処でも目を瞑れば眠れるように訓練をする。

 

「分かりました。でも、まだ眠れなくて……」

 

 確かに、今日は移動していただけで、何かと戦った訳ではない。

 

 既に、上級冒険者の域に達しているベルが、眠れないのも分かる。

 

「それは、恋慕を抱いている女が男にいう台詞だぞ。まさかお前、男色趣味か?」

 

「違いますよ!?」

 

「そうだろうな。お前があのエルフ――リューを見ている時の目は、何時だって邪だ」

 

「僕はリューさんをそんな目で見てません!!!」

 

「ほう。じゃあ深層に二人で落ちた時にも、何一つ意識しなかったと?」

 

「そ、それは……でも、あれはああいう状況だったから、その……とにかく、僕はリューさんを尊敬しています!!!」

 

 少しからかいすぎたのか、ベルは語気を荒くする。

 

「冗談だ、悪かったな。お前の視線には、尊敬を感じるよ。あのエルフだけじゃなくて、俺にすらそれを感じる。人を下に見る事はなく、常に他者を思いやる、それは間違いなく英雄の器だ」

 

「えへへ……」

 

 褒められなれていないのか、一変して嬉しそうに、それでいて少し照れ臭そうにベルは頬を掻いた。

 

 やって来た事の規模が凄過ぎて、逆に褒められる事が少ないのだろう。確かに、半年前に冒険者になった少年がもうLv5間近など、改めて意味が分からない。

 

「まぁ、少し邪な視線を感じていたのは事実だがな。俺も昔、女にはそういう目を向けてたから分かる。お前は、根っからの女好きだろ?察するに、冒険者になったのもきっと女の子との出会いを求めてとかだろう。ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~なんて」

 

「ぜ、全部見透かされてる!?」

 

「長く生きてるからな」

 

「長く生きてるだけじゃ説明が付かないほど、核心をついてきてる気がするんですが……」

 

「俺も昔は冒険者だったってことさ」

 

 ツヴァイもかつては、目の前の少年と同じ冒険者だった。

 

 英雄に憧れ、可愛い女の子に出会いを求めて、オラリオにやって来たのだ。

 

「どんな冒険をして来たか、聞いてもいいですか?」

 

「……退屈な話だぞ」

 

 冒険者だった自分を、ツヴァイは嫌っている。

 だがそれ以上に、ファミリアの皆と共に過ごした時間を大切に思っているのだ。

 

 それを一人の心に留めておくのは、勿体ない気持ちもある。

 

 ツヴァイは自分がどういう冒険者だったのか、そして仲間達とどういう冒険を送ってきたのか語り始めた。

●●

 

 ツヴァイ・ティミドは、小人族である。

 

 生まれながらの弱者、歴史的見てもその種族で名声を勝ち取ったのは、太古に存在したフィアナと呼ばれる騎士だけだ。

 今でこそ、フィン・ディムナが現れて、小人族の見方は少しずつ変わっている。

 

 だが当時は、小人族は絶対的な弱者だった。

 

 生産性はなく、卑しく生きていくのが基本である。

 だからその不条理に抗うために、ツヴァイは冒険者になった。

 

「俺をファミリアに入れてくれ!必ず、フィアナみたいな立派な英雄になると約束してやる!!!」

 

 当時14歳、何の実績もない小人族をファミリアに受け入れてくれる物好きな神など、いる筈もなく――。

 

「おう、いいよ!!!」

 

 と思っていたのだが、あろうことか都市に到着して、初めに話し掛けた女神が二つ返事で了承してくれたのである。

 当時、神というものをしらなかったツヴァイは、懐が深いなぁと感銘を受けて、彼女のファミリアに入った。

 

 だが入って、ただ単に彼女が物好きな女神だった事を思い知ることになる。

 

 そのファミリアの団員たちは皆、変人ばかりだった。

 

 装備を纏わない盾役(タンク)のドワーフ。

 

 暴力的で、前線で体を張る治癒師(ヒーラー)の獣人。

 

 エルフが好き過ぎで、自らをエルフと自認する魔法使いの人間(ヒューマン)

 

 それだけではなく、キャラの濃い者達だけが其処には集められていた。

 

 その中でも、目を惹かれたのは彼女だ。

 

 煌めく赤い髪に、緑葉の瞳。正に生命を彷彿とさせる、力強い色の持ち主だった。

 

「私の名前は星火、家名は捨てたわ」

 

 狐人という、滅多にお目にかかれない種族であることもあるだろう。

 だがツヴァイの目には、彼女がとても輝いて映った。そう、一目惚れしてしまったのである。

 

 次の日から、ツヴァイはファミリアの一員となった。

 

 ただ、迷宮都市の色物を集めたファミリアなのに、団員たちの平均的なレベルは高かった。

 当時【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】以外は有象無象でしかなかったが、それに次ぐ立ち位置には居たのである。

 

 だから、最初はサポーターとしての役割しか任されなかったのだ。

 

 最初はそれで仕方ないと思っていたのだが――。

 

「退屈そうな顔だな、星火さん」

 

 本拠地(ホーム)にいるときだろうと、戦っているときだろうと、星火は何時も笑わなかった。

 

「私はね、皆に戦って欲しくないの。目の前で死なれるのは、もう御免なのよ」

 

「大丈夫だ。皆頭のネジは外れてしまってるけど、簡単に死ぬ奴らじゃない」

 

「そう言って、目の前で死ぬ人を多く見て来た」

 

 彼女が何を見て来たのか、ツヴァイは知らない。

 でも、美しい彼女には笑って欲しかった。

 

 可愛い女の子と美しい女の子は、笑うべきなのだ。

 

「大丈夫、少なくとも俺は死なない」

 

「じゃあ今、その荷物を置いて、前線で戦ってきて。モンスターの一匹でも倒せれば、その言葉を信じてあげなくもないわ」

 

 今、潜っているのは中層だ。Lv1のツヴァイには、荷が重すぎる。

 

「分かった!!!」

 

 でもそれで、彼女が笑顔になるのなら。

 

「小指が震えているわよ」

 

「これは、その……そう、武者震いだ!!!」

 

 自分にそう信じ込ませて、ツヴァイは荷物を置くと、モンスターの元に躍り出た。

 

「ちょっ!?」

 

 本当にやると思っていなかったのか、星火が驚きに目を見開く。

 

 ただもう後の祭りだ。

 

「おらぁ、かかって来いや!俺が全員、ぶっ殺してやる!!!」

 

「何や、カミサマにしては、随分大人しい子を連れて来たと思てたけど、イカレてるみたいで安心したわぁ」

 

「はっはっは!実に愉快だ!俺も人肌脱がねばな――なお、物理的に!!!」

 

「わぉ、これにはエルフの私も驚きだ」

 

 その日から、ツヴァイは前線で戦った。

 

 Lv1で頭がおかしいのではないかと、再三星火に言われたがそれでも諦めなかったのだ。

 

 毎回傷を負い、何度も死に掛けた。でも、死ななかった。

 

 何か才能が開花したわけではない。本当に毎回、不思議な力が働いているみたいにツヴァイは死ぬことがなかったのだ。

 

 そして遂に小人族ながら、一年と少しという期間でLv2に達する偉業を成し遂げた。

 

 だがそれよりも、ツヴァイは何物にも代えがたい宝物を受け取った。

 

「私の負けよ、ツヴァイ・ティミド」

 

 初めて見た彼女の笑顔は、夜空に散りばむ星々のどれと比べても、圧倒的に美しかった。

 




あと十五話位だと思います。暫しお付き合いください。
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