迷宮鎮魂譚-ダンジョンで冒険者の遺品を回収して生き抗う小人族は英雄になれるのだろうか-   作:ゴリラズダンジョン

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遠回りこそ最短の道?

「私ね、人を生き返らせることができるの」

 

「……まじかよ」

 

 ある日、突然そうツヴァイはカミングアウトされたのだ。

 

「聞いた事がある。ある戦場で千の屍に命を宿し、勝利に導いた『天使』が存在するって」

 

「それが私よ。でも、蘇生の権能は決して天使が用いるものじゃない。むしろ、悪魔の所業よ。だってそうでしょ?死が終わりじゃないなら、戦士は永遠に戦い続けなきゃならない。それは凄く残酷なの。でも私は目の前で人が死ねば、きっとこの力を又使う。だから、皆には生きていて欲しかった」

 

 冒険者という職業は、死と隣り合わせだ。

 その彼女が死を忌避している理由を、ツヴァイは知った。

 

「でも、貴方のおかげで、少し楽な気持ちになったわ」

 

「俺は死なないからな!」

 

「そうね、貴方を見ていると、思い悩んでいる自分が馬鹿らしく感じてきちゃう」

 

 ファミリアで最も弱い自分が死なない事をアピールする事で、彼女の死に対する憂いを物色しようとした。

 

 だがツヴァイの意図とは少し異なって、どうやらただ呆れられてしまっているらしい。ただそれで憂いが晴れたのであれば、結果オーライだ。

 

「決めたわ。私にとって大切な人が目の前で死ねば、迷わずに蘇生する。大切な人だけなら、あとで文句も言って来ないでしょう」

 

「それがいい。星火さんはもっと自由に生きるべきだ」

 

「そうね。だからもし貴方が命を落としたら、真っ先に蘇生して、直ぐに戦わせてあげるから」

 

「お手柔らかに頼むよ。……待て、それって――」

 

「いや、その別に貴方が一番大切ってわけじゃなくて……そう、貴方なら生き返らせたとしても、その命を無駄にしない気がするの。そ、そういうことだから!!!」

 

 真意は分からないが、少なからず彼女にとってもツヴァイ・ティミドの存在は大きくなっていたのだ。

 

●●

「今思えば、本当に馬鹿な事をしたと思うよ。相手の気持ちを考慮する事も無く、ただ笑顔になって欲しいという理想を押し付けた」

 

「でも話を聞いている限りだと、正解だったと僕は思います」

 

「確かに今の話しだけ聞いてれば、俺は課せられた力の代償という呪縛から女の子を開放した英雄だ。――そのおかげで、悲劇が起きた」

 

「悲劇、ですか?」

 

「ああ。……その話は、又今度だ。そろそろ寝ろ」

 

 随分と話し込んでしまった。

 

 明日以降に支障が出てしまっては、元も子もない。

 

「そうですね。それじゃあお先に失礼します」

 

 そういって、簡易のテントでベルは眠りに付いたのだった。

 

 

 次の日からは同じことの繰り返しで、四日もあれば国境沿いに到達した。飛竜を近くの村に預けて、事前に貰っていた『通行書』で国境の警備を突破する。

 

「ここからは徒歩での移動になる。件の屋敷がある場所は、ここから二日の場所だ。つまり、既に相手の懐に入っているといっても過言じゃない。気を引き締めろよ」

 

「はい、分かりました。……あの、こっちで本当に道はあってるんですか?」

 

 ツヴァイたちが進むのは目的の屋敷に続く街道ではなく、鬱蒼とした森である。

 

「こっちの方が数時間は早く辿り着ける」

 

 実際にこの場所に来た事はない。

 だが地図と、さっき寄った村で聞いた情報では、この道が最短だ。

 緑をかき分けて、暫く。

 

「やっと、開けた場所に出たな」

 

「って、開け過ぎじゃないですか!?」

 

 目の前に広がるのは断崖絶壁だ。

 

 底は深く、目視する事も出来ない。

 

「やっぱり道、間違ってたんじゃ……」

 

「いや、こっちであってる」

 

「まさか――」

 

「ああ、そのまさかだ。向こう岸まで跳ぶ」

 

 向こう岸までは、二十メートル程か。

 地面はこっちの方が高いし、上級冒険者であれば助走で十分に跳べる距離ではある。

 

「ほら、何やってる。さっさと跳べ」

 

「あの、ほら命綱とかは……」

 

「お前はベル・クラネルだろう?」

 

「僕を森に慣れてる狩人か何かだと勘違いしてませんか!?」

 

 そこまで嫌なら仕方がない。別の手を――と。

 

 その前に、深呼吸をしたベルは、助走を付けて跳躍した。

 

「うわぁあああ!?」

 

 腕で空気をかき分けながら向こう岸に到達し、器用に前転して受け身をとる。

 流石は上級冒険者といったところか、全く危なげはない。

 

 さて。

 

「ほいっと」

 

 ベルがホッと胸を撫で下ろす一方、ツヴァイは彼の傍にある木に糸を射出した。

 

 ツヴァイが左手首に付けている魔道具は、粘着性と伸縮性に優れた糸を射出し、移動手段として用いることができるのだ。

 スパイダ〇マンと同じ要領である。

 

 木を基点に糸を結び付けたツヴァイは、そのまま自分の体を悠々と引き寄せて対岸に着地する。

 

「ぼ、僕の苦労が……」

 

「この魔道具は意外と扱いに苦労するぞ。ヒューマンの体重となると、尚更だ。まぁ俺が先に跳んで、バックパックに入れているロープを木に括りつければ、お前が危険を冒す必要もなかったがな」

 

「じゃあ、最初から言ってください!!!!!」

 

「跳んだのはお前だろ。断るのも又、勇気だ」

 

「それっぽい事言ってるけど、全然釈然としない……」

 

「いやいやこれが案外、真理だぞ。できないことをできると見栄を張って、英雄になれなかった強者がどれだけいるか。他者の言葉に耳を傾けるのは大事だが、時には自分を信じるべきだ――というのは言い訳で、実際はお前の慌てる顔を見たかった俺の自己満足だったりする」

 

「納得しそうになった僕の馬鹿!!!」

 

「まぁ実際、お前なら跳べると思ったからこそ、手を貸さなかっただけだ。いわば、信頼と言ってもいい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ちょろい奴だ。

 

 後で又、悪戯してやろう。

 

「だがベル・クラネル、お前は俺を信頼するなよ」

 

「どうしてですか?」

 

「どうしてかって、そりゃあ期待ってのは期待を裏切らない奴にするものだからだ。俺はそうじゃない」

 

 今まで悉く、期待を裏切ったからこそ、自分はここで生きているのだ。

 

 ツヴァイの言葉にベルは何も言わずに、しかし首を縦横、どちらに振る事もなかった。

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